(15)両者の攻略状況
今後も以前の予定通りに行動すると伸広に話した翌々日。
灯たちは、グロスターダンジョンの第十一層にいた。
ダンジョン攻略の再開が伸広との通信から二日後になったのは、消耗品の準備などに一日使ったからだ。
それに加えて、そもそも灯たちはタイムアタックしているわけではないので、最初からのんびりやるつもりだからという理由もある。
そんなこんなで二日後ということになったのだが、前にダンジョンに潜った時と同じように適度な緊張感の中で攻略を進め始めた。
前の攻略から帰ってきてから色々あったわけだが、その影響は今のところないように見える。
最初のうちはお互いの様子を探るような動きも見られたのだが、ダンジョンに潜ってから数十分もしないうちにそれは解けている。
そして、第十一層に入ってから一時間もしないうちに、以前と変わりなく攻略を進めることができていた。
「――――灯の中級魔法の一部と私たちの魔闘術が解禁になったわけだが……実に順調だな」
魔物との戦いに一区切りがついて周囲を見回したあとに忍がそう呟くと、警戒のために弓を番えていた詩織がそれを下ろしながら頷いた。
「そうね。でも、油断は禁物よ?」
「勿論、わかっている」
たった今戦った
「第十一層からフィールド系になったからかはわからないけれど、物理押しができない相手が増えているようね」
「そうだな。そう考えると、このタイミングで解禁されたのも当然といえるのか?」
「第十層と同じように縛られていたらここまでこれなかったでしょうね」
忍に続いて詩織がそう言うと、灯も同意するように頷いた。
「そうでしょうね。この辺りの見極めはさすがよね」
「まあ、師匠だからな」
聞きようによっては投げやり気味に言っているように聞こえる忍の感想だが、実際にはそうではない。
長い付き合いになる灯や詩織はそのことをよくわかっているので、ここで変に釘を刺すようなことはしない。
ちなみに忍が言っていた魔闘術というのは、一言でいえば魔力を使った戦闘方法である。
一般的には自身の身体や武器に魔力をまとわせて戦う戦闘方法のことを指すのだが、魔力操作が基礎になっている。
伸広の弟子になった灯たちは初期のころに散々魔力操作だけをやらされたわけだが、その修行が活きているということになる。
もっとも魔力操作は魔闘術だけではなく他のことにも応用ができるのだが、灯たちはすでにそれらの技術も幾つか使えるようになっていたりする。(ただし、現在は伸広の指示により封印中)
「きわめて順調なわけだけれど、どうする?」
「どうするって……まあ、言いたいことはわかる。――とりあえずここらで休憩するか?」
「そうね。賛成~」
忍の提案に詩織が真っ先に賛同して、それに続いて灯が同意したことでここらで休憩することに決まった。
結局、この日の攻略はダンジョン内での野宿はなしで、町に戻ることにした。
ちなみにグロスターダンジョンは表層から第十層まで転移陣は置かれていないが、次の転移陣は第十五層にある。
どの間隔で転移陣が置かれているかはダンジョンによってバラバラで、中にはランダムで出現するなんていうダンジョンもあったりする。
幸いにして、グロスターダンジョンは固定式になっているので、攻略の計画が立てやすくなっているのも特徴だ。
ダンジョン内で寝泊まりしたうえで攻略を続ければ次の第十五層まで行くこともできるだろうと言われている灯たちだが、ダンジョンを焦って攻略するのは禁物だと何度も釘を刺されている。
勿論、その教えだけを理由に引き返すことを決めたわけではない。
あえて一つの層にとどまった状態でどのくらいの稼ぎになるのか、そういったことを調べておくことも今後冒険者として活動していくうえで重要な情報の一つとなる。
ダンジョン内での行動一つ一つが意味のあるように常に考えて攻略を進めること、というのも伸広の教えの一つなのであった。
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灯たちが第十一層の攻略を終わらせて町に戻ったちょうどその頃。
渦中にあるシンジョウグループのメンバーは、第十層の攻略を終えて転移陣から表層に戻っていた。
忍と町であってからこれだけの時間で第十層の攻略を終えたのだから、一般常識で考えてもかなりのスピード攻略といえる。
異世界転移をしたものは能力が高くなるといわれている通説を、このことからもしっかり証明しているといえるだろう。
ちなみに、伸広から指示されている制限を無くせば、灯たちもやろうと思えば同じことができる。
志保たちとは違ってスピード攻略をする意味がないと考えているので、今のところはそれを証明する機会はないだろうが。
転移陣から新庄たちが出てくるのを見て、そこで護衛付きの監視業務についていたギルド職員が話しかけた。
「おや。宣言通りにここから戻ってきましたか。順調でしたか?」
「ああ。おかげさまでな。ギルドが出してくれた地図があって助かった」
「いえいえ、お礼を言われるようなことではありませんよ。それが私どもの役目ですから」
軽く頭を下げながら言ってきた新庄に、ギルド職員はいつものように返す。
職員の言葉通りに、ダンジョンを攻略する冒険者に地図を提供するのはギルドの役目のひとつだ。
灯たちのように冒険者の中には未知の状態で挑みたいという者もいるのですべてのグループに渡しているというわけではないが、大抵はその地図を使って攻略を進めることになる。
グロスターダンジョンは常時変異型のダンジョンではないのでいきなり大きく構造が変わるということはないが、それでも時と共に一部が変異したりすることもあるので、地図を渡した冒険者から情報を得ることで常にアップデートはされている。
ギルドが渡している地図に変化があったときには、ギルドの掲示板やダンジョンで監視業務にあたっている職員から知らされることになっている。
「それにしても、これだけの期間で第十層を攻略ですか。さすがのBランクといったところでしょうか」
「……なんだ、俺たちが初めてじゃないのか?」
「AランクやSランクの方々が気まぐれで来てスピード攻略する場合もありますからね。残念ながらトップというわけではありませんよ。勿論、貴方たちも相当早いですが」
ハハハと笑って返してきたギルド職員は、自分が言った言葉に新庄やもう一人の男メンバーである鎌田がわずかに顔をしかめたことに気付かなかった。
もう一つのグループよりも上だと認識させるつもりでこのダンジョンに来ている新庄たちにとっては、満足ができる答えではなかったのだ。
そして、自分たちの様子に気付かないままギルド職員に見送られるまま、新庄たちはダンジョンから外に出る。
「――そうか。一番ではなかったか」
「まあ、いいじゃない。別に最速を目指していたわけでないんだから」
新庄の呟きに志保が反応して答えた。
「それはそうだが……面白くはないな」
「今回はまず小手調べで、本番はこれから……だろう?」
「それもそうだな」
鎌田のフォロー(?)に、新庄は納得顔で頷き返した。
新庄たちにとっては、第十層までの攻略はあくまでも小手調べでしかない。
彼らにとっての本番はその先にある第二十層までの攻略であり、さらに続いている未攻略といわれている階層の攻略だ。
それをして初めて周りから認められると本気で信じている彼らは、過去にSランクの冒険者もこのダンジョンに潜っていたという重要な情報をあまり深くは考えずにスルーしてしまうのであった。
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