(5)冒険者活動
思わぬところで伸広の不老とアリシアの秘密に触れた灯たちだったが、そのあとは特に何事もなくこれまで通りの日常を過ごし……てはいなかった。
女子組四人が話をしている間に復活した伸広が、弟子三人に対して唐突なとある宣言をしたのだ。
『これからは実践と実技を鍛えるので、冒険者登録するように』と。
それを聞いた灯たちは、特に疑問に思うことなく素直に頷いた。
これまでは弟子としてタダで色々と貴重な話を学ぶことができていたが、これからはしっかりとその分のお返しをすることができるようになる。
それだけでも、三人にとってはありがたい宣言だったのである。
伸広の宣言から一か月、灯たちは拠点からほど近い位置にあるカシマ町にある冒険者ギルドにいた。
灯たちが冒険者登録を終えてからは、既に半月ほどが経っている。
最初の冒険者登録では、定番である先輩冒険者に絡まれるというイベントが起こるわけでもなくすんなりと登録ができていた。
この世界での冒険者は、人々の生活を脅かす魔物たちを倒す存在として重要視されている。
その冒険者になるための最初の段階でいきなり躓くようなことがないように、先輩冒険者による新人冒険者への『絡み』はギルドから特に注視されているのだ。
特に暴力的な『絡み』にまで発展すると、ギルドから厳しい罰則が与えられることもある。
そうした背景もあったお陰なのか、女性三人の新人登録という状況だったにも関わらず、灯たちはすんなり冒険者としての第一歩を踏み出したというわけだ。
そして、登録してから一週間ほどで研修期間といわれているFランクを卒業して、Eランクへの昇格も果たしている。
ちなみにランク昇格は、依頼の成功回数やそれまで行った依頼の内容によって決められる。
この辺りは、よくある異世界転移・転生ものと変わらない――という説明だったのだが、残念ながら三人組はそこまで詳しくはなかったのできちんと伸広が説明する羽目になっていた。
登録してから最初の一週間は、まさしく冒険者ギルドのシステムに慣れるための期間として活動していた。
それからさらに一週間は、魔物との実戦を行いつつ精力的に依頼をこなしていった。
ちなみにバーチャルではない魔物との実戦は、既に伸広に見守られながらこなしていたので、三人だけになっていても特に戸惑うことなく戦うことができていた。
最初のうちは『生きているものを殺す』ということに抵抗を感じていた三人だったが、今ではきちんとそれぞれ自分なりの折り合いをつけて行動している。
灯たちが冒険者登録をしてから半月がたったこの日、三人は冒険者カウンターで討伐依頼証明となる魔物の部位と依頼票を受付カウンター(受付嬢)に提出した。
この時三人の受付を担当していた受付嬢は、少し驚いてから真剣な表情に戻って討伐部位の確認を行った。
そして、それらの部位が間違いなく依頼にある魔物の物であることを確認した受付嬢は、笑顔になって三人に言った。
「――――間違いなく依頼にある魔物のものであると確認できました。おめでとうございます。これであなた方のチームは、Dランク昇格の条件を得ました」
受付嬢がそう宣言をすると、周りで様子をうかがっていた他の冒険者たちが一瞬騒めいた。
灯たちがこの町に姿を見せてから半月しか経っていない。
たったそれだけの期間でDランクへの昇格条件を得るというのは、普通ではない速度である。
ただし国やその他の組織から既に実績が認められている場合は推薦によるランクのスキップが認められているので、最速のランクアップというわけではない。
それでも黙ってみていればただの美人三人組にしか見えない灯たちが、これだけの速さでランクアップするというのは、冒険者たちにとってはそれなりのインパクトがある。
他の冒険者が聞き耳を立てながらこちらの様子をうかがっていることに気付きながら、受付嬢はさらに続けて言った。
「Dランクへの昇格は特に試験をすることもなくできますが、すぐに行いますか?」
昇格するかを確認してきた受付嬢に、代表して詩織が頷きながら答えた。
「はい。お願いします」
「畏まりました。それでは、これまで使っていたカードを出していただいてもよろしいでしょうか? このまま手続きを行います」
その言葉に従って灯たちがギルドカードを差し出すと、受付嬢がカウンターの奥の部屋に行った。
そして数分後に受付嬢が姿を見せた時には、その手に三枚の橙色のカードが握られていた。
「――こちらが新しいカードになります。これで皆様は橙色ランクであると認められました。改めて、おめでとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
カードを受け取った三人が揃って頭を下げると、受付嬢は笑顔を見せながらこんなことを聞いてきた。
「そういえば以前お話しされていましたが、これからしばらくはお休みされるのですか?」
「ええ。そうなります。とりあえずの目標がDランクでしたから」
灯がそう答えると、受付嬢は少し残念そうな表情になって頷いた。
たった一週間でDランクに上がれる逸材は、冒険者ギルドにとっても有用な存在である。
どこの地域に行っても同じように活動できるのが冒険者ギルドの強みではあるのだが、やはり自分がいる地域に居続けてほしいと考えるのは当然のことだろう。
さらにいえば、カシマ町の近くには有用な資源がとれるダンジョンが存在している。
そのダンジョンから使える資源をとってきてほしいというのが、カシマ町にある冒険者ギルドの本音だ。
とはいえ、普段の冒険者ギルドには冒険者の行動を制限する権限は存在していない。
そのため冒険者たちの行動を無理強いできないというジレンマも存在していたりする。
そんな冒険者ギルドの要望は知っているのだが、灯たちにも休まなければならない事情がある。
その事情が何かといえば――、
「とりあえずの目標を達成したので、師匠のところに戻らなければなりませんから」
詩織がにっこりと微笑みながらそう言うと、受付嬢は小さく首を傾げた。
「師匠……ですか。やはりいらっしゃったのですね」
「まあ、そうだね。あまり表に出たがらない人なので、詳しくは言えないのだが」
「そこまで詳しく聞くつもりはありませんよ。ただ、初めて聞く話だったので不思議だっただけです」
「そうか。どちらにしても、これで終わりということはないだろうから、待っていてくれると嬉しいかな」
受付嬢の言葉に頷きつつ忍がそう答えた。
忍が戻ってくることをほのめかすと、受付嬢も少し安心した表情になっていた。
勿論、あちこちに移動することが普通の冒険者の言葉だけで安心できるものではないのだが、何も言われないよりははるかにましである。
それに半月という短い付き合いではあるが、彼女たちがこんなことで嘘をついたりするような人物ではないことは分かっている。
受付嬢としては、その言葉が聞けただけでも満足だった。
そんなこんなで半月ほどカシマの町で過ごしていた灯たちは、再び神域にある拠点へと戻ることになるのであった。
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