(12)王の誘い
ソフィが復活してからすぐに、伸広は設置してある転移陣を使わずにリンドワーグ王国の王城へと転移した。
転移陣を使わなかったのは、アイリスに移動してきたことをばれたくなかったためだ。
ソフィと一緒に転移してきた伸広は、そのまま真っすぐにカルロスのところに向か――わずに、まずはフールのところに行った。
直接カルロスのところに行かなかったのは、さすがにアポもなしに突撃するのは失礼だと配慮したためだ。
それに加えて、伸広がいきなり国王の面会をとれるほどの人物だと周囲に悟られないようにするためでもある。
そこには、折角アリシアとカルロスが自分の存在を公にしていないのに、わざわざそれをぶち壊すような真似をしないという意味もある。
人に見つかりにくい場所に転移した伸広とソフィは、その足でフールがいると思しき部屋に向かう。
伸広はフールが普段いる場所は知らなかったのだが、ソフィがいたお陰ですぐに見つけることができた。
「……いつもはしっかりしているように見えるのですが、変なところで抜けているのですね。私がいなかったらどうするおつもりでしたか?」
「魔法を使って」
そうごく簡単に答えた伸広に、ソフィは曖昧な表情のまま頷いた。
そんなソフィに、フールがカラカラと笑いながら言った。
「誤解がないように言っておくがの、ソフィ嬢。人やモノ探しの魔法はごく初歩的なものとはいえ、この場で着易く使えるのはこの方だけだからの」
「この方……?」
「なんだ。ソフィ嬢は、知らなんだか。いや、それも当然か。いずれにしても、ノブヒロ殿はそれだけの力をお持ちだということだ」
強引に話を締めるように言ったフールに、ソフィは先ほどと同じような顔で頷いた。
王族二人が伸広の詳細な情報を隠している以上、曖昧なままな状態になってしまうのは仕方ないことである。
「――それは良しとして、ノブヒロ殿は何故この老骨に会いに来たのでしょうか?」
「ああ、そうだった。それは――――」
フールが話を振ってくれたお陰で、伸広はわざわざ城に来ることになった理由を話し始めた。
「――――というわけで、どう判断するかは王に任せるとして、話だけはしておいたほうがいいと思って来たんだ」
「……ふむ、なるほど。確かにそのほうが良いようだの。――少しだけお待ちいただけるかの? 王との面会を取り付ける」
伸広の話を聞いたフールは、即断即決をして何やら書き始めた。
伸広の座っている位置からは見えなかったが、恐らくカルロスとの面会を取り付けるための書類だと思われた。
現に最後に署名らしきものを書いたフールは、部屋の外にいた側仕えらしき人物にその書類を渡していた。
「今日はもう他に面会の予定もなかったはずだからの。すぐに答えが来るはずです」
「お手数をおかけいたします」
「何の何の。こういう手間でしたらいつでもいらしてください」
申し訳なさそうに言った伸広に、フールはカカと笑いながら右手を軽く振るのであった。
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フールの言葉通りに、書類を持った使者を送ってから三十分ほどでカルロスと面会することができた。
「――――あなたの方から会いに来られることがあると思っていなかったのですが、何かございましたか?」
対面するなりいきなりそう言ってきたカルロスに、伸広の後ろからついてきていたソフィが驚いた表情になっていた。
ソフィも含めた大多数の伸広の認識は、あくまでもいきなりアリシアの前に現れた婚約者(予定)の魔法使いでしかない。
その|人物≪伸広≫に対して国のトップである王が敬意を持って話しかければ、驚くのも当然だろう。
少なくともソフィは、カルロスがそのような態度で接しているところを見るのは、他国の王と話しているときくらいしかない。
そのソフィの驚きを右肩越しに感じとりつつ、伸広は先ほどフールに話した内容をそのままカルロスにも話した。
「――――というわけで、少し注意したほうが良いと思ったので、余計なお世話かと思いつつも来させていただきました」
「……なるほど。それは確かに少々問題ですな。よく知らせてくださいました。こういう情報は早いほど対処もしやすいですから」
「特にアリシアの場合は――ですか」
「そういうことですね」
伸広の茶々入れに、カルロスもニヤリと笑いながら頷いた。
見た目は大人しい姫君といった印象を受けるアリシアだが、行動力が他の姫と比べて突き抜けていることは既に神域逃亡事件で経験済みだ。
「それにしても、アリシアの侍女たちが……いや、むしろ全体的に広がっていると見たほうが良いか」
「それについては何とも……それに、そうなっていたとしても特に問題はないですよね?」
「ふむ。そうですね。あなたはそういうお方でしたか」
自分から離れた場所で何を言われようと気にすることはないと告げる伸広に、カルロスも同意するように頷き――かけて首を振った。
「いや、しかし王家の決定を簡単に覆すような話をされるのは問題か……」
「流石に、私はそんなことまで口を出すつもりはありません」
きっぱりとそう返した伸広に、今度こそカルロスも頷き返した。
伸広の言葉は、王家の問題は王家で解決するべきというもっともな意見だったのだから当然だろう。
もし伸広がアリシアと結婚でもした場合、二人が国(王家)の政治に口を出すことはないと既に約束している。
それは逆に言えば、国(王家)側が二人の行動に対して口出ししてくることもないということでもある。
全く国の政治に興味を持っていない伸広なのでその条件は願ったりなのだが、聞く者が聞けば頭を抱える取り決めだろう。
それはともかく、その取り決めが今回のような場合に引っかかってくるかどうかが問題になる。
もっとも、侍女たちに対して意見することが政治になるかどうかは微妙なところなのだが。
いずれにしても周囲からアリシアのことを突き放したと思われたとしても、伸広は今回の件でこれ以上の口出しをするつもりはない。
アリシアがいなくなって困るのはカルロス側であって、伸広ではないからだ。
今もわざわざ伸広が動いているのは、こんなことで親子の縁が切れてしまってはあまりにも不憫すぎるからという理由からだ。
カルロスもそのことを十分に理解しているからこそ、伸広の言葉にただ頷き返しただけで済ませたのである。
「それもそうでしょう。まずは現状どの程度までその噂が広まっているかを調べるところからか……」
伸広や同行しているソフィやフールに聞かせるわけでもなく独り言のように呟いたカルロスは、しばらくしてから再度伸広を見てきた。
「侍女たちの対処はこちらでどうにかするとして、ノブヒロ殿はこれからどうされますか?」
「どうと言われても……王に話をした時点で終わりと思っておりますが?」
「ああ、いえ。申し訳ありません。そう言うわけではなく、折角ですから爺を連れて場内なり城下町なりを見ていかれては?」
ただ拠点に帰るのではなく案内付きで今の王都を見て回ってはどうかと誘うカルロスに、伸広は考えるような表情になった。
カルロスが、今この場でこんなことを言い出したのには勿論わけがある。
ここまでついてきたソフィはあまり理解できていないだろうが、伸広が世界で考えても指折りの魔法の使い手であるとカルロスは認識している。
そのため、ごく何気ない会話から魔法の進歩のために参考になるような話を聞き出せないかと期待しているのだ。
そして、カルロスのその思惑を理解したうえで、伸広はその誘いに乗ることにした。
伸広としても現在の魔法の在り方について気になっていることがあったし、何よりも今の魔法の使い手から話を聞いて研究に役立つことがあるのではないかと考えたのであった。
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