第144話 ロヴァンテル王国
ロヴァンテル神聖国。
大陸東部でナセラ輝光聖国と覇を競うほど国力に秀で、その魔法技術を用いた軍の規模と精強さではナセラをも凌いでいる。
国民は自らの国と歴史を誇り、自分達こそがかつて世界を支配していたと伝えられる古代魔法王国の後継者であると考えていた。
いよいよ君主である神聖王が周辺国の平定に乗り出すと宣言したときも、かつての栄華を取り戻すための第一歩であると祝杯をあげたほどだ。
しかし、今の王都はほんの数日前まで大勢の人で賑わっていたとは思えないほど静かで陰鬱な空気に包まれ、住民達は明日の自分達がどうなるか不安に満ちた顔で足早に通りを行き交うばかりだ。
幅をきかせて傍若無人に振る舞っていた魔導師の姿はほとんど見えず、居てもコソコソと身を隠すように生活しているようだった。
王都の中は一部を除いて景観に大きな変化は無い。だが王都の大門とロヴァンテルの賢者の塔と呼ばれていた魔法研究所、魔導師部隊の施設、そして王城の一部は見る影もなく破壊され尽くしていた。
そんな戦いの爪痕が生々しく残る王城で、神聖王たるピジェンと宰相アゼ・ガリルは9人の人物と向かい合っていた。
というよりは、囲まれていると言った方が正確だろう。
王城の一角にある会議室。
普段は王を中心として主要閣僚が集まって会議をするために使用されている部屋だが、この日は扉に近い下座にピジェンとアゼが座り、対面にナセラ輝光聖国の聖王セリスと同国の筆頭魔術師であるルバ、セリスを挟んだ反対側に宰相の男が座っている。
ピジェン達の左側にいるのはタルパティルの王オル・リスと外務大臣、ケシャの王と文官風の男、そして右側にはピジェン達が軍を率いて離れている間に王都を占拠した反乱軍“オーブル”のリーダー、ベン・ハーグと副官だ。
本来の主であるピジェンが下座に置かれ、それを囲む者達がピジェンとアゼに向ける視線は冷ややかなものだ。
そのことが相当屈辱なのか、ピジェンは怒りのこもった目をセリスに向けたままひたすら睨みつけ、アゼは落ち着き無く視線をさまよわせている。
何故ロヴァンテル王都にナセラや周辺国の王がいるのか。
それは伊織達の攻撃によってロヴァンテルの主要兵器のほとんどが失われ、それと同時にタルパティルとケシャの連合軍が逆侵攻を仕掛けてきた。そしてそれに呼応するように蜂起した反乱軍が魔術師と兵士の大部分が居なくなった王都を攻めて陥落させたからだ。
熟練の魔導師や大半の兵士が侵攻計画に従って王都を離れており、反乱軍の襲撃になすすべ無く王城や兵士の拠点、主要貴族の邸宅などが占拠された。
攻めてきたのが反乱軍だけだったのなら、もしかしたら救援が到着するまで持ちこたえられたかも知れないが、ナセラから義勇兵の名目で加わった援軍が魔導兵器まで供給しているのだからどうしようもない。
一方、王都失陥の報告を受けたピジェンとアゼだったが、こちらもすぐに王都に引き返すというわけにはいかなかった。
なにしろロヴァンテルの南の国境を越えてタルパティルとケシャの連合軍が迫ってきているのだ。
何もせずに引き返せば連合軍はまったく抵抗を受けること無く王都までたどり着いてしまい、ピジェン達は連合軍と反乱軍に両面から挟撃されることになる。
どちらにしても勝ち目は無かった。
結局、ピジェンはアゼの進言を受け、まず連合軍に対して講和の使者を送り、反乱軍には戦闘の中止を申し入れると共に要求を受け入れる用意があると伝えたのだった。
その結果、連合軍は講和の交渉を終えるまでは本隊の進軍を一時停止することに同意し、時間的な余裕ができたピジェンとアゼは王都に戻った。
そこで彼等を待っていたのは前述の王都の光景と、王城ではナセラ輝光聖国の聖王やタルパティル、ケシャ両国の首脳だったというわけだ。
「お久しぶりですね、ビジェン・カ・ローヴァディス陛下」
セリスが穏やかな口調でそう切り出した。
北の国境を接する隣国とはいえ、直接対面するのはピジェンが王に即位した際に表敬訪問した時以来で、その当時セリスはまだ王女という立場だった。
それから10年以上経っているが、その頃よりも年齢を重ねているはずなのだが美しさはいささかも衰えておらず、むしろ自信と気品に満ちあふれて魅力が増しているようにすら見える。
だが、それすらも今のピジェンには苛立ちを感じさせるものとしか思えない。
「それでは役者も揃ったことですし、そろそろ交渉を始めましょうか」
セリスに続いてオル・リスやケシャ国王、反乱軍のベン・ハーグが形式だけの簡単な挨拶を交わすと、セリスが話を進めようとする。
「ふん、まだ揃ってはいないだろう。我が軍に散々攻撃してきた異国人が居ないではないか。勘違いしているようだが、我等は貴様等におくれを取ったのでは無い。異常な魔法具を駆使する異国人に多大な被害を受けたからこそ仕方なく交渉のテーブルに着いたのだ」
盛大な負け惜しみを偉そうに言ってのけるピジェン。
その姿にセリスを初めとした各国首脳は苦笑いを浮かべるものの否定はしない。
「この度のことに異国からの稀人の力が大きかったのは否定しない。だが、我等とてロヴァンテルの暴挙に易々と屈するなどと侮られては困る」
ケシャ王が強い意思を込めた視線をピジェンに向ける。
とはいえ、伊織達のことを
それが無ければたとえナセラ輝光聖国の助力を得たとしても甚大な被害は免れなかっただろう。
「かの者達には我等の思惑も交渉の行方も興味はないのだろうよ。最高の賢者たるルバ殿の言葉を借りれば暴虐なる力を持つ魔神らしいからな。矮小な力しか持たぬ我々やロヴァンテルの王ごとき、その気になればどうとでもできるということだ」
「っ!」
オル・リスの言いように一瞬激高しかけたピジェンだったが、ここまで追い詰められた事実に反論できず唇を噛むことしかできない。
「ふん、まあ良いだろう。それで? 貴様等が王都を占拠し、神聖王たる余に逆らった者共か」
旗色の悪いピジェンが矛先を変える。
睨みつけられた反乱軍のベン・ハーグはわずかに怯んだものの、すでに覚悟を固めていたのか負けじと睨み返す。
「陛下、今はまず各国と反乱軍の要求を聞きましょう」
これ以上は自国に不利になると判断したアゼの言葉に渋々頷くピジェン。
「それではまず我々の要求をお伝えしましょう」
セリスがケシャ王とオル・リス王に向かって小さく頷くと、まずケシャ王の隣にいた文官が手元の文書を読み上げる。
「我が国の要求は、ロヴァンテルが今後全ての国に対して、軍事的・経済的な圧力を掛けないことを公式に宣言すると共に、これまで執ってきた他国への対応の謝罪。
今回の侵攻は未遂で終わったとはいえ、これまでの度重なる国境を越えての略奪や人的被害に対する賠償を求める」
続いたのはタルパティルの外務大臣だ。
「我々もロヴァンテルによる度重なる内政干渉と破壊工作に対する謝罪と賠償を要求する。それから、各国から拉致した人員の返還もだ」
「言いがかりだ!」
「確かな確証があってのことだ。今更見苦しい言い逃れは止めてもらいたい」
感情的に叫ぶピジェンとは反対に、宰相のアゼは内心の動揺を隠すのに苦労していた。
連合国側の要求が想定していたよりもかなり強硬だ。
元々今回の侵攻は、実際にはロヴァンテル国内から軍は一歩も出ていない状態であり、ケシャに被害をもたらせたわけでは無い。
だから本来なら侵攻計画の撤回と防衛のための費用賠償を落とし所にして交渉を行おうと考えていたのが、彼等は過去のことを持ち出して徹底的にロヴァンテルを追い詰めるつもりのようだった。
「次は、ロヴァンテルの行く末を案じて蜂起された組織“オーブル”のリーダー、ベン・ハーグ殿ですね」
セリスがそう促すと、ベンはひとつ大きな息を吐く。
「我々の要求は恒久的な外征の放棄と魔導師優遇政策の撤廃、魔法適性の無い者に対する差別の禁止、辺境農村部への支援、貴族への厳格な法適用だ。そのことを王家の名で公文書として公表し、法整備が整うまで王都の解放はしない」
「……!」
ロヴァンテルの根幹に関わる政策の転換を求めるベンに、ピジェンは怒鳴りつけたい衝動に駆られるが、それをアゼが必死に止める。
アゼとしては反乱軍のその要求は予想出来たことであり、半分ほどはアゼがずっと以前からピジェンに進言してきた内容でもある。
だが、それも次のナセラ輝光聖国の聖王セリスの言葉を聞いて抑えきれなくなるが。
「最後は私からですね」
そう言ってセリスが穏やかに微笑みながら口にしたのは、その外見とは裏腹に辛辣なものだった。
「ナセラ輝光聖国の要求は、
ひとつ、ケシャ、タルパティル両国の要求および義勇軍“オーブル”の求める政策の全てを即時実行すること。
ひとつ、ロヴァンテルが保有する古代魔法王国からロザリア王国の時代の魔法資料および関連する研究資料を全てナセラ輝光聖国に引き渡すこと。
ひとつ、今後、既存の魔法以外の研究の禁止。
ひとつ、これまでにロヴァンテルが我がナセラに対して行ってきた敵対行為の賠償。
ひとつ、ピジェン陛下の退位と魔導師部隊の廃止。
ひとつ、国号および王家の称号から神聖の名を冠することの禁止。
以上です」
「な?!」
「ば、馬鹿な! そんな要求が呑めるわけが無いだろう!」
アゼは絶句し、ピジェンは椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がり、セリスに向かって怒鳴り声を上げる。
だがそれでもセリスは艶然とした笑みを浮かべたままだ。
「当然の要求だと思いますけど? ロヴァンテルの筆頭魔術師ジグル・ペンデが大規模魔法陣を使ってナセラやその周辺国を滅ぼそうとしていたのは知っているのですよ。イオリ殿が阻止してくださいましたが、そのような危険な魔法を研究し、実践しようとする国に魔法研究をさせるわけにはいきません。それに、そのような暴挙を行う者を重用していたピジェン陛下にも責任を取っていただかなければ。まして他国を侵略や滅亡させようとする国家に神聖の文字を使うなど皮肉にもなりませんからね」
当たり前のことを言っているような口調で言う女王に、ピジェンもアゼも絶句する。
セリスの要求はロヴァンテルに2流国家に成り下がれと言っているに等しい。
古代魔法の資料を奪われ、魔法研究ができなくなれば様々な事柄を魔法に依存している現状を維持するのすら難しくなる。
それだけでなく、これまで属国となっていた周辺国も、もはやロヴァンテルに従おうとは思わないだろう。いや、弱体化したロヴァンテルに侵攻してくることさえ考えられる。
「……確かに我等はケシャに対し侵攻する計画があった。それは認めよう。だがナセラが滅びるような魔法は存在せぬし、そもそもそれほどの大規模魔法を発動させるなど不可能だ!」
ピジェンは胸中に広がる嫌な予想を押し殺して強気にそう抗弁する。だが、それをナセラ最高の賢者とよばれるルバが鼻で笑う。
「よくぞ言ったものよ。筆頭魔術師がしている研究を王が知らぬはずがあるまい。なにしろ大規模魔法は希少で高価な素材を大量に使う。もしそれすらもあずかり知らぬというのなら、むしろ引退した方が良かろう」
「だが、魔法陣を作動させるのは無理に決まっておる。大規模魔法には膨大な魔力が必要なのは知っておろう。とても一人の魔導師で賄えるものではないし複数の魔導師が行うには魔力を完全に同期させなければならん。それをジグルが実行したなど飛躍しすぎというものだ」
「普通であればそうじゃろうな。それを解決するために、味方の兵士を生きたまま魔力に変換するなど人の考えることではない」
吐き捨てるようにルバが言った台詞に、ピジェンの顔色が変わる。
「ま、まさか」
思わず口走ってしまった言葉は肯定、少なくともその手法の存在をピジェンが知っていることを示すものだった。
「し、知らん! もし知っていたとしてもそのような魔法の行使を命じたことは無い!」
「見苦しいですね、ピジェン王。直接命じていなくても、そのような研究を許可し、実践しかねない者に権限を与えていたのは貴公でありましょう」
「知らんと言っているだろう! そもそもどこにそんな証拠があると言うのだ!」
必死に否定するピジェン。
こればかりは認めるわけにはいかないのだろう。
逆説的に言えば、誰かを犠牲にすればひとつの国家を簡単に滅ぼすことができる魔法が存在し、それを使おうとしていたということなのだ。
そんな国を周辺国が許すわけが無い。
その方法を知ろうとするか、存在ごと抹消しようとするかのどちらかだ。
古代王国が滅びる原因となった大規模魔法や非人道的な魔法実験に批判的な立場を取るナセラとすれば、絶対に許すことができないはずだ。
「それでは証拠をお見せすることにしましょう」
ピジェンの反応は予想していたのだろう。
セリスはそう言うと、壁際に待機していた騎士に向かって頷き、それを受けた騎士達はその背後にあった布を掛けたパネルのようなものをルバの後ろに運んでくる。
足に車輪がついているようで、滑るようにして移動させ、全員が見ることのできる位置まで来ると布を外す。
「イオリ殿、聞こえるかな?」
どこから取り出したのか、ルバがマイクに向かってそう言うと、露わになったパネルの表面が明るくなり、王都の外と思われる景色が映し出された。
『はい、こちら現場で~す』
『また伊織さんが悪乗りしてるし』
王城の部屋とは打って変わって脳天気な声が聞こえてきて、画面の中央に伊織と英太、香澄の3人の姿が映る。
「な?! こ、これは?」
「ロヴァンテルにも遠くの者とやりとりするための魔法道具があるだろう。それと似たようなものじゃな。もっとも考えられないほど性能は違うが」
驚くピジェンにルバがどこか自嘲気味に笑みを見せる。
だが驚いていたのは他の首脳達も同じで、以前に見せられていたベン達反乱軍とナセラの者以外は言葉も無かったようだ。
『やっぱり素直じゃ無かったか』
「ロヴァンテル王としては認めるわけにはいかないでしょうからね」
『んじゃ、実行犯に直接語ってもらおうかね』
『相変わらず悪趣味よね』
『まぁでも自業自得じゃね? 関係ない人間まで巻き込んで殺そうとしてたんだから』
そんな会話を交わしつつ伊織達が移動していく光景が映る。
3人が映っているのを見ると、おそらく撮影や音響はジーヴェトとリゼロッドが駆り出されているのだろう。
やがて画面の向こうに見えてきたのは、昭和のお笑い番組に出てくるような安っぽいセットと縦2m、横幅5mほどの透明な水槽のような物。
その上には両手両足を縛られた状態で水槽の上に吊り下げられている数人の男の姿がある。しかもどういうわけか、全員が白いブリーフ一枚という情けない格好である。
吊り下げられているといっても縛られた手足では無く、腰と肩にハーネスが回されているので身体への負担はそれほどでも無さそうだが。
「あ、あれはジグルか?!」
「ほ、他の者も全て研究所の魔導師です!」
吊されていたのは間違いなくロヴァンテルの筆頭魔術師とその部下達だ。
そうなればこれから何が行われるかは想像がつく。……いや、セットを見ると分からなくなってくるが。
『んじゃ、このあいだ話してくれたことを改めて王様に向かって語ってくれるかな?』
『は? な?! へ、陛下ぁ?!』
セットの前には王城の部屋と同じようなモニターが置かれていて、どうやら部屋の中の光景が映し出されているらしい。
ジグルや他の魔導師達はそれを見て顔を真っ青にしている。
『あれあれ? 自分達が言ってたんだろ? 王様の命令で大規模魔法の研究をして、人間を魔力に変換する研究も了承を得ているって』
『そ、それは……』
実際のところ、この尋問自体にそれほどの意味は無い。
現代地球と異なり、この世界では状況証拠も十分な説得力を持っているし、事実上追い詰められて逃げ場の無いピジェン王は各国の要求を呑まざるを得ないのだ。
だがそれを敢えてするのは完全にピジェンや魔導師達の心を折るためだ。
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて追求する伊織からジグルが目を逸らして口をつぐむ。
先の言葉通り、砦で伊織が姿を現し、為す術無く叩きのめされた彼等は全てを白状させられていた。
それが終わった後は眠らされ、王都近くに急遽作られたプレハブの中で監禁されていて、ようやく外に出られたかと思えば今の状況である。
もちろん監禁されている間に魔法を使って逃げようとしたのだが、どういうわけか全員が一切魔法を使えなくなっており、抵抗する術を持たなかったのだ。
『う~ん、素直に話してくれないなら仕方ないなぁ。うん、仕方がない』
ニヤリと口元を歪めた伊織がヒップポケットからリモコンのような物を取り出す。
そしてボタンのひとつを押すと、ジグル達がゆっくりと下にさがっていく。
その先にあるのは水槽だ。
『な、何をする気だ?』
日本人なら湯気が立ち上る水槽に、強制的に人が入れられるのを見ればすぐ分かるだろうが、あいにくここは異世界。
戸惑うばかりのジグル達がそれを理解したのは足先が水槽の中に入ったときだった。
『熱っ! な、ぎゃぁぁ!』
『熱い! 止めてくれ!』
悲鳴を上げて足をできるだけ縮ませた魔導師達だったが、それもすぐに尻まで湯に浸かってさらなる悲鳴を上げる。
すると伊織はもう一度ボタンを押して、再度彼等を吊り上げた。
『大げさだなぁ。全身浸かったって死にはしないぞ』
『うわぁ、可哀想~』
『熱湯風呂って、昭和かよ』
お湯の温度は約60度。
すぐに火傷を負うほどでは無いがそれでも充分に熱い。
『さ~て、素直になるまで続けるぞ。ポチッとな!』
『ま、待て!』
『止めてくれ!』
『ぎゃぁぁ、熱っ、熱い!』
今度は腹まで湯に浸かり、躍り食いのドジョウのように暴れ回るジグル達。
再度上げられたときには息も絶え絶えという状態だった。しかも純白のブリーフは濡れて半ば透けており、画面越しのセリスは嫌なものでも見たかのように顔を顰める。
『んじゃもう一回』
『待ってくれ! 言う! だ、大規模魔法の研究は陛下の命令だ! 生け贄から魔力を取り出すのはクルーシュセ時代の資料を基に研究した。それも陛下に報告して許可を得ている。辺境の民衆や貧民を実験に使うのも陛下の指示だった!』
「っ!!」
エリートとして扱われていた魔導師達は拷問に対する訓練など受けていないから、元々苦痛に対する耐性など無い。
孤立無援、助けが来る見込みの無い状況では目の前の苦痛から逃げることしか考えられなかったようだ。
『って、ことだ。現場からは以上で~す!』
ふざけた態度で伊織がそう言うと、画面がぷつりと消えて黒い画面だけが取り残された。 王城の部屋の面々は微妙な空気だけが蔓延しており、これにはセリスもルバも苦笑するしか無い。
だがそれでも一定の効果はあったようで、ピジェンもアゼも全てを諦めたような顔で俯いている。
「それでは、交渉を続けましょうか」
セリスがそうし切り直すと、首脳達は小さく頷いた。
3日後。
ロヴァンテル全土に布告が発せられ、全ての街や村が騒然となった。
布告の内容は、
・現国王である、ビジェン・カ・ローヴァディスが先の侵攻計画失敗の責任を取って退位し、王太子が新たな国王に即位する。
・これまでの政策と外交が不当であったことを公式に認め、周辺国に対し謝罪の意を申し入れる。
・拡張政策の原因となった古代魔法の研究を廃棄し、今後は軍事目的での魔法研究を行わない。
・魔導師優遇政策を取りやめ、魔法研究に充てていた予算を辺境地域支援に回す。
・貴族法を改正し、平民と同様に刑法を適用する。
・国号を改め、ロヴァンテル王国とする。
このようなものであった。
さらに、王都の行政府では大幅な人事の刷新が行われ、多数の地方出身者が主要官僚として官吏の指導にあたることになったらしい。
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