第135話 ロヴァンテル神聖国脱出!
「Hit!」
香澄がモニターを見ながら思わず声を上げる。
そこに映し出されているのはハイドラ70ロケット弾の爆発によって上がる煙と逃げ惑う数台の魔導車と騎士達の姿。
香澄はさらに2発のミサイルを騎士達に向けて発射する。
狙いは魔導車だ。
この大陸において魔導車の存在は十分な脅威だろう。
騎馬しか存在しない場所に自動車が乱入してくるようなもので、その速度や機動力で縦横無尽に走り回られれば逃げ惑うことしかできない。
そしれその魔導車でもロヴァンテル神聖国のものはさらに高性能で、戦いに使うことを想定してかなり頑丈な作りになっている。
とはいえそれはあくまでこの世界での基準でしかない。
現代地球の戦車ほどの防御力など望むべくもなく、車体表面に薄く金属板を貼っただけで、香澄達の乗るAMV35歩兵戦闘車と比べたら紙装甲もいいところだ。
そんな魔導車にハイドラ70ロケット弾が命中する。
爆発炎上する魔導車。
まき散らす破片や魔導車の欠片によって周囲の騎士達も被害を、というか、至近に居た者はあっさりと戦闘不能に、ある程度離れていても少なくない傷を負って大混乱に陥っていた。
反乱軍の砦の後背を突くために回り込んでいたロヴァンテルの騎士達は1000騎ほど。
そのうちの1割ほどが装甲付きの魔導車、残りはバイクや3輪バギーのような形状の魔導車に乗っている。
……騎士の意味を再定義する必要がありそうだ。
対する反乱軍はというと、自動車タイプの魔導車が多く見積もっても20台ほど、バイクのような形状のものは50台といったところ。
魔導車の数だけ比べても差がありすぎて対抗するのは無理だろう。
さらに香澄が攻撃した場所に居た騎士達はあくまで別働隊に過ぎず、本隊は砦の正面側から迫っている。その数は1万近い。
香澄達の援護がなければ逃げることすらままならないだろうことは容易に想像できる。
とはいえ香澄達も実質的に使える車両は一台だけなので数だけ見れば不利なことは確かなのだが、今回別の手段で攻撃を仕掛けている。
ジェネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ社製の無人攻撃機、MQ-9リーパー。
通常の航空機とは異なり、機体後部にプロペラを配置した攻撃型ドローンだ。
機体に取り付けられた各種センサーと地上誘導ステーションからの操縦で遠隔操作され、6つのハードポイントに合計1400kgものミサイルや爆弾を装備することができる。
香澄は地上誘導ステーションとしてAMV35に同期させて砲手席で操縦できるようにしていたのだ。
「そろそろロヴァンテルの本隊も砦に突入しそうだし、こっちも行くよ。ってかもうすぐ見えるから」
「カスミ、とりあえず正面の連中に一発ぶち込んで!」
「ちょ、ちょっと待ってって!」
香澄がMQ-9リーパーを操縦している間にもAMV35を加速させていた英太とリゼロッドの指示に、慌ててリーパーを自動旋回モードにしてから操作機器を切り替えて通常の砲塔に戻す。
そして進行方向をモニターに映すと、確かに騎士団の本隊と思われる魔導車の集団と、こちらに向かってくる200台ほどの魔導バイクが見えた。
ドンッ!
35mm機関砲が火を噴いた直後、進行方向に居た魔導車(魔導バイク含む)10数台がまとめて粉砕される。
それからさらに3発連続で轟音が響くと数十台の魔導車が同じ運命を辿った。
当然騎士達は大パニック。
慌てて本隊方向に逃げ帰ろうとしてそこら中で衝突事故を起こしていた。
そこに英太がAMV35を突っ込ませ、大きく車体を上下させながら次々に魔導車を踏んづけていく。
やはり騎士達はロヴァンテルでも精鋭という扱いなのか、魔導車は随所に鉄板や鉄製のフレームが使われていて頑丈そうではあるが、それでも26tもの重量があるAMV35に踏み潰されれば通り過ぎた後は無残な残骸ばかりだ。
もちろん相手もやられてばかりではない。
35mm機関砲でパニックになったもののさほど時間をかけることなく態勢を立て直すと怒濤の勢いで今度はAMV35に向けて火球を撃ち込んでくる。
が、魔法による火球は車体の塗装を焦がすばかりで実質的なダメージは無い。というか、質量が小さすぎて乗っている方としては当たっているかすらわからないほどである。
なので英太は構わず前進を続け、香澄が今度は砲塔左側の7.62mm機関銃を騎士に向けて撫でるように連射。
魔導車も身につけた甲冑も何一つ役に立たずに銃弾の洗礼を受けて次々に倒れていく。
さすがに相手が悪いと思ったのか、一台の魔導車の屋根から上空に花火あるいは信号弾のようなものが打ち出され、周囲の騎士達が水が引くようにAMV35から離れていく。
「諦めた? っとぉ!?」
英太がAMV35を急旋回させる。
その直後、車体のすぐ右側の地面が爆発したかのように大きく抉られ、土煙が上がる。
「な、なに?!」
「攻撃? どこから?」
思いがけない反撃に、香澄とリゼロッドも驚くが、この程度でパニックになるほど柔な訓練はしていない。
すぐさまセンサーをチェックして周囲の索敵をする香澄。
「見つけた! 大きいわね。見た目は戦車みたい」
モニターを拡大すると、映っていたのは一際大きく、全体を鉄板で囲んだずんぐりとした魔導車の姿があった。
車体上部には大砲の筒が据えられており、車輪が装甲によって隠されている。不格好ではあるがまさに戦車といえる形をしている。
その大砲が再び英太達に向けられ火を噴く。
おそらく爆裂系の魔法によって金属製の砲弾を撃ち出す魔法兵器なのだろう。重量のある物質そのものをぶつけるのだから物理的な破壊力は火球の比では無い。
数百m離れた距離から撃ち出された砲弾は放物線を描いて飛んできてAMV35の後方20mほどの場所に着弾する。
近世の大砲と同じく命中精度はそれほど高くないようで、英太は着弾点を見切ってその場に止まりやり過ごす。
「攻城兵器なのかな? 精度は低いし、万が一当たっても大丈夫だとは思うけど」
「装甲車を壊されるのも嫌だし距離を取りましょう。数も少ないみたいだからリーパーで黙らせるわ」
砲弾は直径20cmほどの金属塊。爆発するわけでも無くただ撃ち出すだけの砲弾なら直撃さえなければ被害を受けない。着弾と同時に爆発という砲弾を作るのはかなり高度な技術が要求されるのでそこまでのものは作れなかったのだろう。それでもこの世界の水準からすれば相当な脅威だろうが。
香澄は操作を砲塔からMQ-9リーパーに切り替える。
自動操縦で上空を旋回していたリーパーはあっという間に砦の反対側から戦車型魔導車を捉え、間髪入れず攻撃を開始する。
内側のハードポイントに固定されたポッドから発射されたのはAGM-114ヘルファイア。
対戦車を想定したミサイルは戦車型魔導車の装甲をいとも簡単にぶち抜いて巨大な火柱を上げて爆発する。
同様の魔導車は計3台。
その全てに死神の放つ地獄の業火が襲いかかり周囲を巻き込んで盛大な炎を上げた。
騎士達は何が起こっているのか全く理解できないだろうし、もしリーパーに気づいていたとしても1000mもの上空を飛ぶ死神に対抗する術も無い。大砲で真上に撃ってもせいぜい高度300mもいけば良いところだろう。
ついでとばかりに香澄がハイドラ70ロケット弾を次々に発射し、砦正面側に展開していた騎士達に着弾する。
こうなるともはや作戦行動どころではなく、整然とした隊列など見る影も無い。
そこを英太がさらに追い打ちをかける。
大砲を備えた戦車型魔導車が破壊されたので躊躇すること無く騎士達の群れのど真ん中をAMV35で突っ込んで縦横に走り回らせる。
端から見れば鬼畜の所業の阿鼻叫喚地獄。この過激さは不良中年の薫陶行き届いた愛弟子達の容赦なさだ。
ほどなくあちこちから絶叫のような撤退の声があがり、騎士達は混乱しながら逃げ始めていく。
もちろんそこら中で魔導車同士の事故が起こり、立ち往生した魔導車を乗り捨てて走って逃げていく者も多数いるようだ。
「終わった、かな?」
「ちょっと待ってね……うん、隠れてる部隊も居ないみたい。向こう側の別働隊も撤退を始めてるし、態勢を立て直してまたすぐに来るってこともなさそうね」
英太のつぶやきに、香澄がリーパーで周囲の状況を確認した。
「生き残って置き去りにされてる連中もいるっぽいけど、そっちは砦の人達に任せればいいんじゃない?」
「「賛成!」」
リゼロッドの言葉に頷き、英太がAMV35を転回させようとしたとき、砦の方からバイクタイプの魔導車が一台走ってくるのが見えた。
そこら中に乗り捨てられた魔導車やうめき声を上げながらもだえている半死人の騎士が転がっているのでまっすぐにとは行かないが、逃がすものかといわんばかりの必死さで向かってくる。
一瞬玉砕覚悟の特攻かと思ったが、後部席に乗っている男が白い旗を大きく振っているので敵意はないようだ。
「こっちの世界でも白旗ってあるんだ」
「地球っぽいけど、世界や人種が違っても人間の考えることってそんなに変わらないってことかも」
変なところに感心する高校生コンビ。
「多分、攻撃されてた反乱軍だろうけど、どうする? 話だけでも聞いてみる?」
「相変わらず伊織さんとは連絡つかないし、いい加減私達もどう動くか困ってるからそれも良いかも」
「リゼさんと香澄が良いなら俺も構わないよ。どうせ俺にそういう判断は無理だし」
ちょっとふてくされ気味に応じる英太。これまでの扱いが容易に察せられる。
結局その場に車両を止めて待っていると、50mほど離れた位置に魔導車が止まり、二人の男が両手を挙げながら近づいてくる。
香澄が上部ハッチを開けてミニミ軽機関銃を構えながら声をかけた。
「そこで止まって! 私達に何の用かしら」
「敵対するつもりは無い! まずは騎士団の攻撃からの救援、礼を言わせてもらいたい!」
「…………」
香澄が黙っていると男達は一瞬目配せをしてから言葉を続ける。
「我々はロヴァンテル神聖国の他国侵攻を阻止するために活動している者だ。貴公等の噂は聞き及んでいる。交渉の場を設けさせてもらえないだろうか」
「なんの交渉かしら?」
「まずは情報交換、それから助力を願いたい。無論、こちらの話を聞いた上で貴公等の目的と反するならば断られたとしても危害を加えないことは約束する。可能な限り交換条件にも応じよう」
「武装は解除しないわ。交渉に出向くのは3人。それでも良いのなら交渉に応じてもいい」
香澄の言葉に男達は顔を見合わせてから頷いた。
男達の魔導車に先導され、砦の中にAMV35を進める。
広場のような開けた場所の中央に車両を止め、英太、香澄、リゼロッドの3人が外に出た。
ちなみにエンジンは掛けっぱなしで、リーパーも低高度で砦の上空を自動旋回させている。車両の中に仲間が居ると思わせるためだ。
あれだけの攻撃力を騎士達に見せつけていたのだから十分な牽制になるだろう。
交渉を持ちかけてきた男のひとりが砦内の兵士らしき者達に指示を出して騎士団の魔導車や生存者の回収を指示する。
放棄された魔導車の数は数百台以上あるので、破損状況が軽微なら思いがけない恩恵を受けることになる。
別のひとりの案内で建物に入る。
もちろん英太は太刀と脇差しを腰に差したまま、香澄はミニミ軽機関銃を肩に掛け腰には
当然全員が防刃防弾のプロテクターで身を包んでいる。
反乱軍はそんな彼女たちを警戒すること無く奥まった部屋に通し、座るように促した。
部屋には壮年の男がひとり待っており、敵意は無いと示すように両手を広げて笑みを見せていた。
部屋の中央にテーブルと椅子があり、香澄とリゼロッドが席に着く。英太は太刀に手を掛けた状態で入り口の脇に立った。
あからさまに警戒していると示した態度だが、それも当然と思っているのか男に動揺の様子は無い。
「ずいぶんと無防備なのね」
「1万もの騎士達を造作も無く蹴散らすような相手に対抗しようとは思わない。貴公等がその気になれば我々など簡単に殲滅させられるだろうからな」
リゼロッドがからかうように言うと、男はあっさりと言ってのけて肩をすくめてみせた。
その態度に香澄達はわずかに警戒を緩める。
「まずは名乗らせてもらおう。私は他国への侵攻と魔導師優遇の政策を改めさせるための組織「オーブル」のリーダーを務めているベン・ハーグだ。こちらは参謀のカセル」
「……ベン・ハー」
「ぶっ! ちょ、英太!」
とある古典映画を思い出して吹き出す香澄。
やはりオッサンがいなくても緊張感は長続きしないらしい。
リゼロッドが代表して自分と若者二人を紹介して交渉が始まる。
「改めて、我々への救援に感謝する。あのままだったなら我々は騎士団に完全に包囲されて死ぬか捕らえられるしかなかっただろう」
「私達もこの国からは敵対者と見なされているみたいだからこれまでにも散々攻撃されてきたからね。利害の一致ってところよ」
リゼロッドの言葉に胸をなで下ろすベンとカセル。
このあり得ないほどの力を持つ異国人達がロヴァンテルに手を貸す可能性が低いとわかっただけでも大きな収穫だ。
「それで? 私達に何をさせたいのかしら」
「我々はこれまで民衆に他国への侵攻が不当であること、逆にこれまでの豊かな生活が脅かされることになると説得してきた。さらに少しでもロヴァンテルの戦力を削るために軍事拠点への襲撃などもしてきたのだ。だが……」
「率直に言って上手くいっていない。ロヴァンテルは強大な国力を持っているし、民衆も他国への侵攻が正統なものであると信じ切ってしまっている」
香澄達もそれは把握していた。
最初に人形兵に襲撃を受けたのも、入国したばかりの伊織達を排除するためとは思えなかったし、それならば人形兵の目的は別の勢力であった可能性が高いと伊織が語っていたからだ。
今回もドローンによる偵察で大規模な集団がロヴァンテル北部に集まっているのを知り、陽動のために手を貸したというのが実情なのである。
自尊心が高く俯瞰的な視点を持たない民衆ほどやっかいなものは無い。
聞きたい情報だけを真に受けて他の言葉には耳を貸そうとはしないものなのだ。
現代地球で何かと騒動を起こす大国の一般市民を見ればよくわかる。様々な情報が行き交う現代地球ですらそうなのだ。
「このままではこの国が他国へ侵攻するのを止められない。だからロヴァンテルと同等の魔法技術を持ち国力も高いナセラ輝光聖国を頼ることになったのだが、ロヴァンテルの権力者がそれを見過ごすはずがない」
「つまり、貴方たちがナセラ輝光聖国に移動するのを支援してほしいってこと?」
「そうだ。他の拠点に分散している者達を呼び寄せてからになるが」
ベンがそう言うと、リゼロッドは少し考えてから質問を返す。
「ナセラに伝手はあるのかしら? 何千人も亡命者を受け入れるって簡単なことじゃないと思うけど」
「それは問題ない。元々我々はナセラに支援を受けて活動していた。あの国もロヴァンテルが他国に侵攻するのに反対してきたし対象にはナセラ輝光聖国もふくまれているのだからな。オーブル内にもナセラ出身の者がいる」
つまり彼らはナセラ輝光聖国の駒として動いていたということだろう。
確かにこの国の不満分子だけを集めても組織だった抵抗はできなかっただろうし、利害が一致している以上はそれしか道はなかったのかもしれない。
「けど、貴方たちがナセラに来てしまったらもう利用価値がないんじゃない? これ以上支援するとも思えないわね」
それも考えていたのか、ベンが苦い顔で口ごもる。
しかしそれに首を振ったのはカセルだった。
「実は我々を呼び寄せたいと考えたのはナセラの聖王陛下なのだ。ロヴァンテルの現体制が崩壊した後にナセラの人間が統治するとなれば混乱と反発は避けられない。ロヴァンテルの人間で優秀な者達に政権の座についてもらうためにも保護したいという御考えだ」
傀儡として、という可能性が高いが彼らに選択の余地はほとんどないのだろう。
「聖王陛下に領土拡大の野心はない。それどころか魔導師を優遇して権勢を拡大すれば古代王国滅亡の二の舞になると考えておられる。だからロヴァンテルの侵攻を止めさせるために今の神聖王や中枢の人間達は排除しなければならないとしても、それ以後の干渉をするつもりはないのだ」
誤解を招きたくないとカセルが言い募る。
ただ、現状でナセラ輝光聖国の思惑を考えても仕方がないのも事実だ。
「そう、ね。もう一つ聞きたいのだけど、私達もナセラに入国できるのかしら」
「リゼさん?」
「イオリのことだから心配するだけ無駄よ。それにあれだけの騎士団を相手にしたんだからそろそろこの国も本腰入れて私達を攻めてくるでしょう。いくら持っている兵器が強力でも単独では限界があるわ」
咎めるように声を上げた香澄にリゼロッドが理由を説明する。
確かに底が見えない伊織が窮地に陥るなど想像できないが、香澄達は自分の限界を招致しているし、現代兵器は決して無敵ではない。打ち手を間違えれば逃げることすらできなくなる可能性だってある。
「仕方ない、か。それならいっそのことそちらのメンバーが集まるのも支援するわ。ロヴァンテルの軍事拠点の場所がわかるならそこを攻撃して目をそらすくらいならできるから」
「それは助かるが、対価として我々に支払えるものはあまりないぞ」
「別にお金が欲しいわけじゃないわよ。それよりナセラの政府と交渉の席を設けてくれないかしら。あとはナセラやロヴァンテルが持っている古代魔法や古代王国に関する資料を見せてもらいたいけど、そっちは直接交渉するから」
その言葉にベンとカセルが顔を見合わせるが、結局承諾するのだった。
バラララララ…………
「見えたわよ。ずいぶん立派な施設みたいね」
「ロヴァンテル南部最大の駐屯地だっけ? 3万人くらいの戦力らしいな」
前後に分かれたコクピットで会話する高校生コンビ。
搭乗しているのは局地戦用地上支援戦闘ヘリAH-1バイパーである。
伊織によって割り当てられたはいいが最近出番のなかった航空兵器で、今の装備は増槽タンク2基とヘルファイアミサイルが4基装填されたポッドが2基、ハイドラ70ロケット弾ポッド2基をハードポイントに装着している。
「それじゃあいくわよ!」
ガンナー席で香澄が言うと、まずハイドラ70ロケット弾が38発次々に発射される。
それら全てが狙い過たず軍事拠点に着弾し、そこら中で爆煙と炎が上がる。
次いでヘルファイアが、今度は堅牢な建物や壁に向けて撃ち込まれ、こちらも盛大に爆発した。
わずか数十秒でバイパーに搭載されたミサイルを撃ち尽くす大盤振る舞いである。
もちろん施設は大混乱。
駐屯している3万名の兵士達は大半が無傷だろうが、それでも多数の魔導車や大砲を装備した戦車型魔導車が破壊され、その損害は軽いものではないだろう。
「こんなところかな?」
「いいんじゃない? しばらくは警戒して身動きとれなくなるだろうし」
二人が南部までわざわざ爆撃に来たのはロヴァンテルの注意を分散させるためだ。
各地の拠点に分散しているオーブルの構成員を呼び寄せるには当然ロヴァンテルの軍の目を掻い潜る必要がある。
夜間に異動したり森林地帯を通ったりと、かなり時間や場所の制約を受けてしまい、迅速にというわけにはいかないのだ。
それでもできるだけ早く集結する必要があるし、所在のばれている北部の砦にいつロヴァンテルがまた兵を送り込んでくるかわからない。
そんなわけで、移動するオーブルのメンバーから目を逸らさせるために、香澄達は戦闘ヘリで各地の軍事拠点を急襲して目を引きつけているわけだ。
幸い、先日の戦闘で騎士団が放棄した魔導車は300台近く、大半が軽微あるいは少しの修理で再利用できるものばかりで、それを鹵獲することでオーブルの構成員全員を移動させる目処がついた。各地の拠点への指示や移動にも使用されているはずだ。
香澄達が攻撃した軍事拠点はすでに十数カ所に及び、少なくない損害を与えているはずなのだが、それでもまだ他国への侵攻計画に変更はないという話だ。
視認できないほどの上空&遠距離からの攻撃に反撃できずにいるロヴァンテルの兵士達は大変だろうが。
そうして数日間、陽動のための攻撃を繰り返した香澄達と、移動準備を整えたオーブルのメンバー。
リーダーであるベンの指揮で砦を出発する。
大量の魔導車のおかげで必要な資料や物資、人員を全て運べており、わずか3日後には国境を越えて北部の隣国へ入り、さらに2日後にはナセラ輝光聖国へと入ることができたのだった。
国境を越える時に多少の戦闘はあったものの、それらはAMV35とMQ-9リーパーで処理したのでベン達は悠々と入国を果たしたのだった。
ナセラ輝光聖国の南部、国境から一番近い街に到着した一行は、この周辺を統治する領主、貴族ではなく統治官というらしいが、その役所を訪れて経緯を説明する。
ナセラでは中央集権が進んでいて地方を統治するのは中央から派遣された統治官と、法の執行をする法務官、両者が職務を適切に行っているかをチェックする監査官の三権によるそうだ。
これができるのも魔法道具によって通信が行われていることと、魔導車が存在し移動が容易であることが理由だ。
どうやらカセルによって事前に話が通っていたらしく、いくつかの質疑と人員、積み荷のチェックを経て聖王の居る聖都までの通過が許可された。
といってもオーブルのメンバー全員ではなく、ベンやカセルを中心とした幹部の半数が聖都へ向かい、残りのメンバーはこの街の郊外に用意された施設に滞在してロヴァンテルが動くのを待つことになっているそうだ。
もちろん英太達3人もベン達に同行する。
というかそもそもが聖都で交渉するのが目的で移動を支援していたのだから。
カセルの話だと聖都までは魔導車で5日ほどかかる距離であり、途中にはいくつもの河川もあるということだ。
なのでさっさと事を済ませたい英太達は面倒な地上移動ではなく、ヘリを使って空路で行くことにした。
ベン達が居るので使うのはお馴染みCH-47チヌーク。乗るのは20名ほどなので聖都までは1日もあれば充分に到着できるというわけだ。
ベン達は初めての航空機に驚いたり興奮したりしていたが、やはり進んだ魔法技術で魔導車などを知っているために大陸の他の国とは反応が違うようだった。
大河の畔に築かれた巨大な聖都を囲む城壁、その門の少し手前にチヌークを着陸させ、ここでもカセルが門兵に事情を説明に行く。
するとその場で待つように指示され、しばらくするとバスのような形状の魔導車が聖都の中から現れる。それに乗って行くらしい。
「すごいわね」
「ホント、日本の地方都市とヨーロッパの古都が混ざってるみたいだな」
香澄と英太が感嘆の声を漏らす。
リゼロッドも驚いているようで、車内から外を興味深げに見ている。
それだけ聖都の中は現代の地球と比較してもおかしくないほど近代的に見えた。
建物は高く、通りには多くの魔導車が行き交っている。
河から引かれているだろう水路が都市の中を縦横に通っていて船のようなものも見えた。
ロヴァンテルの街もそれなりに発展していたがそれと比べても数段技術が進んでいるように感じられた。
やがて正面に一際大きな建物が見えてくる。
魔導車の速度を考えても聖都は広く、その中央に建っているのがモスクのような形をした聖王の居城だ。
城の周囲は水路によって堀が作られ、門と跳ね橋によって隔てられている。
だが英太達の乗る魔導車が近づくと止められることもなく跳ね橋が降りてきた。そしてそのまま中に入っていく。
「ようこそ聖都へ。お待ちしておりました」
魔導車を降りると、恭しく一人の女性が頭を下げて出迎えた。
これも事前に伝えてあったのかと思ってカセルのほうを窺うと、どういうわけか彼も驚いたような顔をしている。
「政務官殿に話をしてあったのですが」
「はい、ですが聖王陛下が直接お会いするとのことですので」
どうやらカセルが話を通していたのは政務官という役職の人物だったようだが、出迎えたのは聖王直属の女官のようで、カセルの顔にありありと戸惑いが浮かんでいる。
しかし聖王の指示とあれば拒否することはできない。
大人しく女官の案内についていくことになった。
長い廊下を進み、奥まった場所にある重厚な扉が開かれる。
まずカセルが、次いでベン、リゼロッド、香澄、英太の順に部屋に入る。
が、そこで繰り広げられていた光景に、一同あっけにとられた。
まず聞こえたのが悲鳴にも似た女性の声だ。
「あっ! ルア様、それはダメです! あぁ~!」
「むふぅ! ルアの勝ち」
背の高い女性と小さな子供の後ろ姿。
そしてその向こうには100インチはありそうな大きな画面の右側に「LOSE」左に「WIN」の文字。
そして部屋の奥にはニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべた無精ひげの男がひとり。
「……なにやってんすか?」
頭痛をこらえるように額に手を当てる女性陣と呆れた声で問いかける英太。
そこで見たのは格闘ゲームに興じる40代くらいの綺麗な女性とルア、伊織の姿だった。
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