第116話 オッサン、オトシマエをつける
帝国の王宮で行われる定例会議。
10日ごとに行われるそれは、皇帝であるブランゲルトをはじめ、内務、外務、政務、軍務の各大臣と侯爵以上の地位にある貴族が出席し、議題ごとに担当部署の責任者や武官が呼ばれることになっている。
帝国の政策や方針が話し合われ、皇帝の裁可をうける重要な会議であり、余程の事情がない限り欠席するような者はいない。
この日も出席予定者は全てこの場に顔を揃えており、皇帝と主要閣僚の座る円卓やそのすぐ後ろの貴族席の傍には補佐官や議案の担当者などが控えていた。
そしてその顔ぶれの中に、先日の襲撃事件があった港湾都市の領主であり、近く侯爵への陞爵が予定されているレブラン伯爵の姿もある。
会議の議題は多岐にわたる。
帝国の内政、外交に関する懸案全てが報告され話し合われるのだから当然のことだ。
朝から始まった会議は昼食を挟み、午後になっても続けられる。
話がまとまり、ブランゲルトが裁可した内容はその都度事務官によってすぐさま関連部署へ通達され、実行される。なので会議中もひっきりなしに事務官が書類を持って出入りすることになる。
会議の度に繰り返されているいつもの光景なのだが、この日ばかりは参加している重鎮の様子は落ち着きを欠き、特にレブラン伯爵に至っては今にも倒れそうなほど顔色が悪い。
「さて、取り急ぎ処理しなければならぬ案件は終わったようだな」
ブランゲルトの言葉に、周囲の空気が一気に張り詰めたものになった。
参加している閣僚や貴族達にとってはここからが本番といった認識であろう。
「イオリ達は今頃マレバスの王都であろうな」
「何度聞いても、実際にこの目で見てもいまだに信じられません。一月は優に掛かる距離をわずか数刻で移動するなど」
会議室の窓から見える空に目を向けながら呟いたブランゲルトに応えるように軍務を司る男が言う。
その言葉に他の者達も小さく頷いて同調を示していた。
「まずは切っ掛けとなったキーリャでの襲撃事件の詳細と、帝国内の不穏分子の報告を聞こう」
ブランゲルトの言葉にレブラン伯爵の肩がビクリと震える。
内務の事務官が円卓の前まで歩み出て報告を始めた。
とはいえ既に事件から半月以上が経過しており、事件の詳細はこの場にいる者達も把握している。
重要なのはその先の内容、すなわち各地に潜伏していた不穏分子に関する事だ。
「イオリ殿から提供された情報を基に、軍務卿の協力で各地の調査を行いましたところ、マレバス王国をはじめとして他国の工作員と思われる者を1000余名、違法行為を行っていた旧貴族の残党およそ8000名を摘発、拘束しております。取り調べはまだ途中ではありますが、不正を手引きした者の中に現在も各領で要職に就いている者も含まれるようです」
内容の詳細が書かれた書類が配られ、目を通している貴族の中には顔を青ざめさせている者も少なくない。
ブランゲルトもそのあまりに膨大な数を見て溜息を吐いていた。
「余が即位してから今だ1年ほど。まだまだ安定した統治には時間が掛かりそうだな。報告に名が上がっている地の領主を咎めることはしない。所領の加増や転封をした者も多い故、責めるのは酷というものだろう。
これまでのやり方を性急に変えてきたのだ。不満を持つ者は多いし全てを把握することなどできるはずもない。
だが今後は不穏分子を増やさぬよう、各自で対策を行え。
次にイオリの仲間が狙われた事件についてだが、これもレブラン伯の責任は問わぬ」
ブランゲルトの言葉にレブラン伯爵がハッと顔を上げる。
「陛下、しかしそれは……」
「これはイオリからの要請でもある。そもそもイオリ達の油断が招いたことだとな。イオリ、エータ、カスミのいずれかひとりでも同行していればその場で撃退して終わったはずだということだ。その言葉自体が空恐ろしいと思えるがな。
その後の対応でもレブラン伯は適切な対応を迅速に行っていたのだから、伯爵に非はないと言えるだろう。故に処罰はせぬし、予定も変わらぬ」
つまり所領の加増も陞爵も予定通り行うという意味だ。
レブラン伯爵は大きく安堵の息を吐き深く頭を下げた。
ブランゲルトの言葉を聞くまで気が気でなかったのだろう。実際に落ち度があったかどうかにかかわらず、自らが治める街で要人が襲撃されたのだから責任を問われても不思議ではない、というか、普通は処罰されてしかるべきなのだ。
「次は軍務の方から報告させて頂きます。
ですが、先に各位に申し上げておく。この報告は信頼できる武官及び近衛騎士団長であるジーン殿が実際に目にしたことであり、一筋の誇張も虚偽も含まれておらぬ事は軍務大臣の名誉にかけて断言させていただく」
わざわざそう言い添えなければならないほどその内容が信じがたいということなのだ。
事実、その後に武官の口から語られたのは俄には信じられない。いや、信じたくないとすら思える内容であった。
グリテスカ帝国の北東部。
その国境からさらに北に数kmほどの場所でいくつもの炊煙が上がっている。
帝国との国境が近いこともあり、周辺には村や街はなく、川縁に森が点在しているだけの場所である。
マレバス王国の精鋭を中心とした遠征軍、約2万3千は川に近い平原を宿営地として整備していた。
2万を超える軍とはいえ人里からは距離があり、しかも一応はマレバス王国の版図であるため帝国としても手を出しにくい。
事実これまで帝国はこの場所にマレバス王国の兵が集結していることに気付いていなかったのだ。
その王国軍を2kmほど離れた森の中で、パトリアAMVから監視しているのが帝国の近衛騎士団長であるジーンと帝国軍の武官達である。
「むぅ、マレバスがここまで陣容を整えているとは。このまま攻め込まれれば負けはしないまでも東部は占領されてしまっていたかもしれん」
「陛下が即位されてから国内に手を取られていましたからその間隙をつかれました。マレバスに送りこんでいた間者からは何も報告は受けておりませんから、気付かれて処分されたか取り込まれたか」
ジーンの呟きに武官が神妙な態度で応じる。
近衛騎士であるジーンはともかく、軍の武官である彼からすれば国境の警備と監視態勢がザルだったと責められてもおかしくはないのだ。
だが実際に多くの貴族が粛清の対象となったことで広大な帝国のあちこちで空隙ができている。圧倒的に人手が足りていない。
「ですが、本当にあれだけの軍をイオリ殿達だけで対処できるのでしょうか」
別の武官が疑問を口にする。
伊織が様々な道具を駆使してブランゲルトに力を貸しているのは見ていて、信じられない道具を持っていることは知っていても、さすがに2万以上の軍勢に少人数で対抗できるとは思えなかったのだ。
「まぁ普通は信じられないだろうよ。ってか、俺は今でも信じたくねぇ。けど、すぐにわかるさ。連中がどんな相手に手を出そうとしたのか」
すぐ近くで話を聞いていたジーヴェトが疲れた顔で首を振る。
「なんでも良いけど、そろそろ時間よ。外に出て直接見るか、車内の画面で確認すれば?」
運転席のリゼロッドの言葉に、武官達が複雑そうな視線を交わしあう。
「この動く絵も我等には理解出来ん。が、ともかく見届けさせてもらおう」
ジーンはそう言って、ルアが操るドローンからの映像が映し出されているモニターに目をやった。
そこにはマレバス軍を上空から見下ろす鮮明な映像が映されており、炊煙の上がり方などから今の状況がリアルタイムで見ることができているのがわかる。
その直後、パトリアAMVの車内に伊織からの通信が響いた。
『攻撃を開始する。
どこかのんびりとした口調で物騒な台詞が飛び込んできた直後、パトリアの後方から凄まじい速度で何かが上空を通過し、そして、マレバス軍の宿営地、そのど真ん中に着弾する。
ドンッ、ドンッ、ドンッ……
鈍く、そして鋭い轟音が響き、開け放たれたルーフから飛び込んできた音がビリビリと皮膚を震わせる。
さらに同じ飛翔物が今度はマレバス軍の周囲に着弾し、離れた場所からでも大混乱に陥っているのが見て取れた。
慌てて逃げようとしている部隊の鼻先に落ちる飛翔物。
爆音の度に吹き上がる炎と爆煙。
だがそれすらも序章に過ぎない。
続いてパトリアの上空を追い抜いたのは左右に伸びた大きな直線翼を持った航空機、A-10サンダーボルトⅡと戦闘ヘリAH-1Zヴァイパーだ。
どちらの機体にもハードポイントにハイドラ70ロケット弾ポッドが複数装着されており空対地攻撃仕様になっている。
先程発射されたのもA-10からのハイドラ70ロケット弾だ。対人対資材用高爆発威力弾頭M151で着弾周囲50mの範囲に猛威を振るう。
わけがわからぬまま攻撃を受け、大混乱で逃げ惑うマレバス軍にさらに両機からハイドラの弾頭が降り注ぐ。
周囲を囲むように撃ち込まれるロケット弾に、軍は中心に向かって誘導されるが、それはどう考えても不幸な結末にしかならない。
今度はその中心にA-10から500ポンド爆弾が投下され、一際大きな爆発が起きた。
周囲は数百mに渡って吹き飛び、人間など跡形もなく飛び散っている。
マレバス軍はもはや軍隊としての統制などなく、ただただパニックになって逃げ惑うか呆然と立ち尽くすしかなかった。
今度はそこに30mmガトリング砲が撃ち込まれ、運良くそれを逃れ離脱しようとする者達にヴァイパーが上空から立ちはだかる。
2万を超えていたはずの軍勢が、まるで磨り潰されるかのように何もできずに蹂躙されていくのを、ジーンや武官達が呆然と見ていた。
ルーフから双眼鏡で戦場となった平野を見ていた武官も同様だが、ドローンが映し出す拡大された映像のインパクトはそれ以上だ。
「な、なんだ、これは……俺は、いま、何を見ているんだ……」
「か、神の怒りだ……」
信じられないものを目の当たりにして思考が完全に停止しているジーンと武官達。
ジーヴェトはそんな彼等に同情の目を向ける。
これまでに何度も見てきたとはいえ、その度に心臓を鷲掴みされているかのような恐怖を感じるのだ。今の彼等の心境は察してあまりある。
やがて散り散りになったマレバス兵たちの一部が森の中に逃げ込むのに成功したことを合図にA-10が攻撃を停止し、上空を旋回し始めた。
そしてヴァイパーも宿営地から南側に移動してホバリングをしながらマレバス兵の逃げる方向を誘導していく。
帝国との国境には浅い川が流れており、両岸が広い河川敷になっている。
マレバス兵もA-10が旋回している状況で川を突っ切って帝国領に入るより、森の中を隠れながら本国へと帰還していくだろう。
見たところマレバス軍は半数以上が倒れ、生き残った者も完全に戦意は喪失しているだろう。
それに物資は宿営地に集められていたはずであり、その場所は今や見るも無残な赤黒い剥き出しの大地が残されているばかり。
間違いなく態勢を立て直して帝国への侵攻などと考えられるような状況ではない。
しかも、最初の攻撃が開始されてからまだ十数分しか経っていないのだ。
それは戦闘とも呼べない、ただの殲滅。
まるで大災害に見舞われた無力な生き物の姿だった。
武官からの報告が終わっても会議室は
事前に報告が真実であると念押しされていても、語られた内容は信じられない、信じたくないものだった。
たった3人の異国人が2万を超える軍勢を蹂躙し、壊滅させた。それも一刻の半分にも満たない時間で、何一つ損害も受けずに。
まず一同の脳裏に浮かんだのは“あり得ない”という言葉。だが先に聞いていた真実という言葉がそれを否定する。
帝国内で破壊工作を画策していた敵国の主力が壊滅したという事実に喜ぶよりも、それを為し得る者が自分達のすぐ近くにいることの恐怖。
もしその力が帝国に向けられていたら。
実際には宿営地に集まっているときに奇襲したからこそここまでの戦果があったのであって、動き始めた軍をこれほど簡単に撃退することは難しい。それはドゲルゼイ王国と戦ったときにも証明されているのだが、そんなことを知らない帝国の重鎮はただ伊織達の力が恐ろしいと感じていた。
「……陛下がイオリ殿と友誼を結ばれたこと、英断でしたな」
先に聞いていたからか、他の者達より動揺が少ない軍務大臣がしみじみと呟く。
彼とて最初に報告を聞いたときは他の者と同様、いやそれ以上に衝撃を受けたし、改めて今聞いても恐怖で身体が震えるほどだ。
だがその言葉に、ほんのわずかだが場の空気が弛む。
ブランゲルトも苦笑気味に口元を歪めると戯けるように肩を竦めた。
「イオリと最初に会ったとき、敵にしたくないと本能が叫んでいたからな。さすがにここまでとは思ってもみなかったが。それに彼等は話が通じない者達ではないし道理も弁えている。わざわざ敵対する意味などなかろう」
ブランゲルトの言葉にようやく伊織達が帝国と敵対しているわけではないということを思い出したのか、小さな笑い声がもれる。
「しかし、それならばこの状況は好機とも言えるのではないでしょうか。ことあるごとに帝国に難癖をつけ、領土奪還を目論むマレバスの兵力は半減しております。滅ぼすことはできずとも国土を削り取ることくらいは。それにイオリ殿の協力が得られるならば……」
外務大臣の言葉をブランゲルトが片手をあげて途中で制する。
「いや、イオリから機に乗じて欲をかかないように釘を刺されている。それに今は国内をまとめるのに手一杯だ。人手も足りていない状況でこれ以上版図を広げても破綻するだろう。それに、せっかく通商を結んだ国からも疑念を持たれかねない」
後半の理由も納得のいくものだが、何より前半の言葉で前言を引っ込める重鎮。
伊織の力を知った今ではその怒りを買う行動がどんな結果をもたらすのかなど考えたくもない。
「とにかく、今回の件で課題も浮き彫りになった。軍務、内務、外務の大臣は早急に情報収集体制の再構築を図れ。協力態勢と情報共有もだ」
「はっ!」
「承知しました」
「早急に取りかかります」
その後、ブランゲルトがいくつかの命令を下し、会議は終了した。
爆風と衝撃波によって内側に吹き飛んだ扉が会議室内にいた数人を巻き込んで大きな音を立てる。
マレバス王国の王宮に後部にジーヴェトを乗せたままオフロードバイクで突っ込んだ伊織は追いすがる警備兵をものともせずに城内を走り抜け、迷うことなく国王フォーゲルブの居るフロアまで辿り着くとその場にバイクを立てかける。
そして腰からMK3手榴弾を取り出すとピンを抜いて会議室の扉まで転がす。
このMK3手榴弾は攻撃手榴弾と呼ばれる種類で、一般的にイメージする爆発の衝撃で周囲に破片を撒き散らして殺傷する物とは異なり、火薬の爆発による爆風と衝撃波で敵を制圧、無力化するタイプのものだ。
加害範囲は狭いが破片をばらまかないために友軍を巻き込む危険が少なく、破片手榴弾では防がれてしまう物陰に隠れた敵や水中でもダメージを与えることができる。そしてその特性から建物の一部を破壊したりする発破作業にも使用されるのだ。
つまり、破片手榴弾ではドアは壊れないがMK3手榴弾ならドアが吹っ飛ぶのである。
「な、ななな、何事だ?!」
突然の事態に悲鳴が飛び交う中、どもりながらも誰何する声が響く。
腐っても国王、不測の事態に混乱しながらも気丈に立ち上がるフォーゲルブ。
そこに姿を現したのが伊織とジーヴェトだ。
「よぉ、忙しいところ悪いが邪魔するよ」
口調は暢気なものだが、その目は笑っていない。
すぐ後ろに居るジーヴェトに至っては不機嫌そうな表情そのままである。
「き、貴様は何者だ!」
フォーゲルブに続いて声をあげた宰相ムスヴェリスに伊織は呆れたようにこれ見よがしな溜息を吐いてみせる。
「おいおい、自分がここに俺達を呼び寄せようと色々画策してたんだろう? だから来てやったんだから喜んだらどうだ?」
その言葉に目を見開いて驚きの表情を見せる一同。
「き、貴様が帝国に力を貸しているという異国人か?!」
ざわつく会議室。
と言っても数人はまだドアに直撃されたダメージから立ち直っていないらしく床に転がって呻いている。
その直後、バタバタと足音を響かせて警備兵や騎士が室内になだれ込んできた。
騎士達はフォーゲルブ達と伊織の間に割り込んでその背で国王を庇う。
それなりの広さがある会議室とはいっても大きなテーブルもあるし会議に出席している重鎮達も居る。
なので同士討ちや巻き込みを避けるために入ってこられたのは十数名の兵だけだ。おそらく残りは廊下で待機しているのだろう。
だがそれでも周囲を騎士達に守られたことで余裕を取り戻したフォーゲルブが改めて伊織に向かって口を開いた。
「貴公の噂は耳にしている。どういう理由で帝国に味方しているのかは知らぬが、我等にとってそれは困るのでな。故に我が国に招きたいと考えたのだ。今後余に臣従するのならば先程までの無礼は許してやってもよい。それに帝国よりも報酬ははず……」
ダダダダッ、ダダダッ!
言葉を無視して伊織は腰のホルスターから大ぶりな拳銃を取り出し、騎士達の足に向けて連射する。
「ぎゃぁぁ!!」
「ぐわぁぁぁっ!?」
甲冑をものともせずに太腿や膝を撃ち抜かれた騎士達が悲鳴を上げてのたうち回る。
伊織が持っているのはOA-93。オリンピックアームズ社が製造する機関拳銃と呼ばれる銃で、チャージングハンドルやストックを無くして携行性を重視したもので最大で40発の5.56mmNATO弾を装着することが出来る。ただ、拳銃としてはあまりに強力であり普通は片手で扱えるものではない。
「な?! ななな……」
頼みの綱である騎士達があっさりと倒され、それも近づくことすらせずに無力化されたことに愕然とするフォーゲルブ。
「誰が、何を、許してやるって? ああ、そうそう、帝国との国境近くで駄弁ってた連中は片付けたから、聞いてるよな?」
「ば、馬鹿な、そんなことが」
「別に信じたくなきゃ信じなきゃ良いんじゃね? 結果が変わる訳じゃないし、俺達がアンタ達の言うことに従う理由もないからな。
……で? 俺の仲間に手を出そうって言いだしたのは誰だ?」
つまらなそうに言った伊織の言葉に、周囲の視線が宰相であるムスヴェリスに集まる。
「そ、それは……」
「ジーさん、だってよ」
「あいよ。旦那ぁ、俺がやって良いんだよな?」
ジーヴェトが言いながら腰から長剣をスラリと抜き、ムスヴェリスにゆっくりと歩み寄る。
「ま、待て! 決して貴公の仲間に危害を加えようとしたわけではない! し、信じてくれ!」
先程の銃撃の衝撃があってか、ジーヴェトが宰相に近づいても誰ひとりとして動くことができない。
そんな様子を鼻で笑い、ジーヴェトが怒りを込めた笑みをムスヴェリスに向けた。
「んなこたぁどうだっていいんだよ。テメェのせいでこっちはエライ目に遭ったんだ。キッチリと落とし前つけなきゃおさまらねぇぜ」
「ま、待っ、ひゅげ!」
必死に手を広げて許しを請おうとしたムスヴェリスは、最後まで言葉を続ける事ができず身体をふたつに分けて床に崩れ落ちた。
「ひ、ひぃっ!?」
眼前で繰り広げられた惨劇にフォーゲルブの口から短い悲鳴が上がる。
だが伊織はそれ以上追撃することなく踵を返した。
「は?!」
ここまでの騒動を起こしておきながらあっさりと部屋を出ていこうとする伊織に、フォーゲルブが間の抜けた声をあげる。
が、扉の無くなった入口を通り抜けた直後、伊織が足を止めたことで再びフォーゲルブや重鎮達の顔が引き攣る。
「あ、そうそう、あと半刻くらいでこの城無くなるから、逃げた方がいいぞ? 非戦闘員を巻き込むのはできれば避けたいからな。って言っても信じられないだろうから、ポチッとな」
言いながら伊織が懐からどこかで見たような赤いボタンがついた小箱を取り出し、押す。
ズドンッ!!
「ひぃっ!」
「っく!」
大音量ながら鈍い音が外から響き、地面が揺れる。
「せ、尖塔が!」
誰かが窓から音の方向を見たらしい。そこから見えた光景に悲鳴を上げていた。
「ってことだからさっさと非難した方がいいぞぉ。んじゃ、もう余計なことするんじゃねぇぞ」
そう言い残して今度こそ伊織とジーヴェトは立ち去り、残された者達はしばし呆然とした後、叫び声を上げながら城から逃げ出したのだった。
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