第110話 皇帝陛下御一行の視察行脚
バラララララ……
帝国北部を流れる川沿いにある砦。
北部領土防衛の要となっている軍事施設は突如として天から響いてきた音に騒然となっていた。
最初に微かな音に気付いたのは当然ながら砦の城壁の上から周囲を監視していた当番兵だった。
この時は音の出所がわからず砦から見える地平を見回すばかりであったが、やがて小さく砦に近づいてくる飛翔体に気づくとすぐに砦を預かる部隊長に報告に走った。
それを受けた部隊長はすぐさま自身の目でも砦に向かって飛んできている何物かを確認すると、全兵に動員と警戒態勢をとった。
砦に常駐している兵士の数はおよそ3000人。
南に10日の位置にあるコアの街にはさらに6000人ほどの部隊がいるので、万が一北部の国が侵攻してきた場合は砦に籠城しつつ時間を稼いで応援部隊が到着するのを待つことになっている。
そのために辺境地域に展開している部隊は帝国軍の中でも精鋭といえる者達であり、充分な訓練を積んでいる実戦部隊だ。
部隊長の下知に兵士達は即座に反応し、城壁の上には弓兵が並び、砦内の練兵場にはいつでも出撃できるよう騎士と歩兵が完全武装で待機する。
最初に飛翔体を発見してからここまで10分程度しか掛かっていないことを考えると普段から相当鍛えられているのがわかる。
そんな兵士達が見ている中、奇妙な音を響かせる飛翔体はどんどん砦に近づいてくる。
空からやってくるモノがその異様な姿をはっきりと認識できるほどになり、兵士達がどよめくと同時にどこか先程まで張り詰めていた緊張感が弛む気配がする。
もちろん兵士達は今砦に近づいてこようとしている飛翔体を見るのは初めてであり、驚いてはいる。
だが、その正体、というか、誰がそれを動かしているのか、兵士達の脳裏に浮かんでいるのはつい先日までこの砦に滞在していた異国の者達、つまりは伊織達の顔である。
ここにいる兵士達は伊織が得体の知れない荷車でやってきて、あっという間に橋を架け、あり得ない量の食料をあり得ない速度で運んでいたのを見ているのだ。
そうして今、これまた得体の知れない巨大な代物で空を飛んできたところで驚きはしても意外とは思わない。というか、伊織達以外にこの砦にこんな代物でやってくる相手に心当たりが無い。
とはいえ、内心でそんな予想をしていながらも警戒態勢は解かないあたり、シュラウズの司令官としての能力を端的に表しているといえるだろう。
そして兵士達の予想を裏切ることなく砦の練兵場の真上まで飛んできたモノが、爆音を響かせながらゆっくりと降下する。
左右にふたつの大きなプロペラを持つずんぐりとしたフォルムの航空機、これまでにも何度か登場しているV-22オスプレイだ。
砂塵を巻きあげながら練兵場の中央に着陸したオスプレイのプロペラが停止し、機体側部の扉が開くのを兵士達が固唾を呑んで見守る。
いくらこれまで何度か伊織達の持っているトンデモ装備を見ているとはいえ、さすがに空を飛ぶ、それも翼の両端まで25mにも及ぶ巨大なモノを目の前にすれば言葉を出すことも難しいだろう。
そして、扉から出てきた人物の姿を見て、その驚きはさらに増すことになった。
「へ、陛下?!」
オスプレイの扉からシュラウズと4人の甲冑姿の騎士が降り、それに続いて左右を騎士に守られながらひとりの男が姿を見せた。
それを見てシュラウズの留守中に兵士の指揮を預かっている部隊長が思わず悲鳴に近い声を上げて慌てて地に膝をつける。
それを見て他の兵士達もすぐさま構えていた槍を下ろして同じように膝をついた。
「昔テレビで見たような気がするよな、この光景」
「ひかえおろう! って? まぁ気持ちはわかるけど」
オスプレイの中から見ていた高校生コンビがそんな感想を小声で漏らすが、もちろん聞いている者はいない。
「驚かせてすまぬ。
不測の事態に見事な動きだった。そなた達が普段どれほど真剣に国境を守っているかそれだけでも充分にわかる。グリテスカ帝国皇帝として誇りに思う」
ブランゲルトの言葉に兵士達は顔を伏せながらも感動に身を震わせる。
兵士達の中でブランゲルトを間近で見たことがあるのは部隊長だけである。他の兵士はブランゲルトが戴冠の折りに遠目で目にした程度でしかない。
だがそれでも彼等の君主であり、奉じる皇帝にこれほど近い距離で直々に賞賛されるとなれば誇らしい気持ちになろうというものである。
そしてそう感じさせるだけのカリスマというべきものがブランゲルトにはある。
「陛下は北部を守る砦の視察に来られた。普段の貴官等の働きと国境を騒がせていた難民達の様子を確認したいとのことである。これ以後は通常の職務を全うするように!」
シュラウズがそう声を張り上げると、兵士達は一斉に立ち上がって敬礼するとそれぞれの持ち場へと戻っていった。
「うむ。見事なものだな。塀の上にいる弓兵の動きもだ。さすがシュラウズだ」
塀の上にいた弓兵達は、ブランゲルトがオスプレイから降りてもその場から動くことはしなかった。
膝を付いたところで皇帝よりも高い位置にいては意味が無いし、慌てて地上に降りれば持ち場を離れることになる。
だから彼等は皇帝が現れたと知った直後、構えていた弓を降ろして矢を矢筒に戻しつつ回れ右して練兵場ではなく砦の外に身体を向けて内側を守る態勢を取ったのだ。
もちろんその動きが全てブランゲルトから見えていたわけではないが、見える範囲だけでもその統率された動きが普段の訓練の賜であることは充分に察することができる。これはひとえに司令官であるシュラウズの功績といえるだろう。
その後、ブランゲルトは周囲を10名ほどの騎士に守られながら砦の中を案内されることになった。
その次は伊織の車両に乗って設置した機動支援橋や難民達のいる開拓地を視察する予定となっている。
ブランゲルトがこの国境地帯に視察に来ることになった理由、それは伊織とブランゲルトが対面した日の夜。歓迎の宴の席での会話に端を発する。
帝都の皇宮、そのさらに奥が皇帝ブランゲルトが居住する区画だ。
思いがけず伊織と意気投合したブランゲルトはこの場所で歓迎の宴を催したいと言いだした。
招かれたのはブランゲルトとシュラウズ、伊織達だけであり、護衛の騎士の姿は無い。
帝国、というか、大陸南部でのこういった祝宴の形式は西洋文化的なものとは異なり、絨毯の敷かれた床に車座になって座り酒を酌み交わすといったものだ。
料理や酒の給仕は係の女性がおこなうという、イメージとしては昔のインドを彷彿とする形式のようだった。
様々な種類の料理が沢山並べられ、伊織が供出した酒類も大量にある。
話に聞いていたように温暖な帝国は食料に関してはかなり豊かであるらしく、豆類や根菜だけでなく、穀物や葉野菜、木の実や果実、肉類、魚介類がふんだんに使われている。
もっとも、そのことが逆に圧政を支えていたとも言え、食料が豊かで庶民が飢えることがなかったからこそ暴発することなく、それ故に王侯貴族が長い間好き勝手できたわけである。
「どうぞ」
「うぇ?! あ、はい、どうも」
女性のたおやかな手で木のコップに飲み物が注がれ、英太が挙動不信感満載でそれを受ける。
「へ~、ほ~、ふぅ~ん」
ジト目で英太を見ながら面白くなさそうに相棒の少女が串焼きを豪快に齧り取る。
こういった席で女性が給仕をするのはもてなしとしてはごく一般的であろう。とはいえ現代日本ではそういったお店に行かなければ受けられないものでもある。
街中で見かけたように温暖な帝国では女性がかなり薄着であり、酒席ともなればさらにそれが顕著となる。
つまり、歓迎の宴で給仕に勤しむ十数人女性は皆リゾートビーチですら見かけないくらい布地が少ないビキニのようなほぼ下着姿でマイクロミニのスカートのような布を巻き付けているだけ。
よく日に焼けた褐色の肌を惜しげもなくさらした若い娘ばかりなのだ。
健全な青少年が目のやり場に困ってドギマギするのは無理もないと言える。
そして同時に、ある意味潔癖な傾向がある少女から見ればそれは面白くないに決まっているわけだ。
現代の地球でおなじような状況となればほぼ風俗かハニーとラップの類だろうが、厄介なことにこの帝国ではごく一般的な接待であり、ブランゲルトの側に含むところがあるわけではない。
単に価値観の違いでしかないので文句を言うわけにもいかない。
すぐ近くでぷるんぷるん揺れるいろいろな部分に目を奪われつつ必死になって目を逸らし、でもやっぱり視線がそっちに引き寄せられ、向けられる冷たい眼光に我に返るということを繰り返しているというわけだ。
天国と地獄を同時に味わうという、滅多にできない体験をできたことはきっと幸せなのだろう。うん。
「うむ、この酒は美味いな! 酒精は強いがコクがあって香りもいい。イオリの国は素晴らしい文化を持っているようだな」
「ブランゲルトの口に合ったのなら良かったよ。まぁその酒はうちのリゼも好きな奴だからな。手持ちはまだあるから何本か売ってやるよ」
「これだけでなく他にもあるのなら全部買い取らせてもらいたい」
いつの間にか互いを呼び捨てにしている二人。
傍らにいるシュラウズも諦めたように黙って酒杯に口をつける。
「聞けば聞くほど興味深い。この国もそれだけの豊かさを手にしたいものだが、俺の時代ではむりだろう。せいぜい種を蒔くことにするしかないな」
すでに伊織達がこの世界とは別の世界から来たことは話してある。というよりもこれまで見せてきた物品を考えればそれがこの大陸のどこにもない系統のものであることは明らかなので隠す意味が無い。
ブランゲルトの言葉には感心と、伊織から聞く異世界の姿に憧憬に似た感情が見えていた。
「これだけの規模の国をまとめるのは苦労が多いだろうな」
「ああ、本音を言えば今すぐにでも投げ出したいと思っているぞ。俺は元々皇帝になんぞなりたくなかった。だがあのままだと遠からず帝国は滅ぶしかなかったのが目に見えていた。だから立たない訳にはいかなかった。
正直ここまで上手くいくとは思っていなかったが、それはすなわちそれだけ帝国が腐っていたという証でもある」
ブランゲルトは言いながら酒杯を空ける。
喉を焼く強いウイスキーの香りに心を落ち着かせて続ける。
「権勢を振るっていた皇族や高位貴族を排すことはなんとかできたが、まだまだ国内は不安定だ。なにより人材がまったく足りん。
帝国は広すぎるからな。目は行き届かないし、いまだに馬鹿をする奴も多い」
「帝国の広大な領土を統治するには陛下の目となる者と手足となる者が必要だが、そのように信頼できる者はまだ少ないのでな。どうしても帝都から離れた領地までは陛下の威光が行き届かぬのだ。
帝国の民のほとんどの者は陛下の姿を見たことすらない。どれほど陛下が優れた政策を行おうとしても地方の領主がそのすべてを実行するとは限らぬ。
故に、表向きは陛下に従っていても自領では政策の大半が骨抜きにされてしまっておるのだ。
陛下も調査官を派遣して実態の把握に努めてはおられるのだが、肝心の信頼できる調査官を選出するのにも苦労している」
シュラウズがそう補足する。
帝国は大陸南部を支配する随一の大国だが、それだけにその版図は広大だ。
大貴族達が軒並み失脚して処断されたためにその面積の半分ほどは直轄地になっているが、残りはまだ地方領主が統治する封建制となっている。
帝都から近くても数日、遠い領地であれば一月近く掛かる距離の領地を詳細まで把握するのはかなり難しい。
ブランゲルトも地方領主を体制を整え直した直轄地に転封するなどしているが、元々腐敗しきっていた帝国内で能力、人格ともに信頼できる官吏は少なく、育成するにしてもまだまだ時間が掛かるのだ。
一方で、帝国内の庶民の生活に格差が生まれれば様々な問題が起きることになるのだが、現実に地方領主の庶民と直轄地の庶民では明確な差ができており、行き来する商人達からそういった情報も流れ始めているようだ。
そういった事情を聞いていた伊織はというと、何かを思いついたようにニヤリと笑みを見せる。
「だったら地方領主が好き勝手できないように監視させるのが一番だろ」
シュラウズが、いったい何を言っているのだという表情で伊織を見返す。
「だから監視させられる人材が……」
「んなもん、一時的に人を送ったっていなくなればすぐに元に戻るだろ。だから監視するのならそこに住んでいる奴にやらせるのが一番だ。そして、領主が買収できない相手が良い」
伊織の言葉が理解できないようでシュラウズは眉を寄せて考え込む。が、ブランゲルトの方は思い当たることがあるらしい。
「なるほど、民衆に監視させるということか」
「そういうことだ。だが人を送って政策を吹聴するだけじゃ弱いぞ。それだと少し噂になって消えるかデマが増えるだけだからな。一番確実なのはブランゲルトが直接各地の民衆の前で演説をすることだ。人間ってのは直接見た相手により信頼感を持つ生き物だからな」
「帝国の領土は広大だぞ? できるか?」
ブランゲルトの期待するような顔に、伊織はいつもの笑みで応じる。
「皇帝陛下ともなれば毎日いろいろと忙しいだろうが、朝から出かけて日帰りすればなんとかなるだろ? 俺達が帝国内のどこでも連れて行ってやるよ」
そんな会話が交わされた3日後。
シュラウズを送り届けるのに併せてブランゲルトが北部砦の慰労と、難民の状況を確認するために同行することになったのだ。
当然のことだが、帝都の官吏やブランゲルトの身辺を警護する近衛騎士達は大反対した。当たり前である。
絶対君主である皇帝が、どこから来たのかもわからない異国の者が操る得体の知れない乗り物で帝都から離れることに賛成などできるわけがない。
彼等とて地方領主の問題はわかっており、放置できないのも理解している。
しかしだからといって皇帝が長期間帝都を留守にすることはできないし、万が一害されることでもあれば帝国は大混乱に陥るのは間違いない。
いまだ帝国は安定しているとは言えず、ブランゲルトにはまだ後継者もいない。皇帝の身の安全は最優先なのだ。
だが結局ブランゲルトが意思を押し通した。
彼にとって伊織の提案は、帝国の最優先課題を一気に片付けることのできる千載一遇のチャンスであり、これは伊織達の協力でしか為し得ない。
帝都を留守にするのは3日に一度、日帰りもしくは最長でも翌日には戻ること、護衛の騎士を10名帯同することなどをブランゲルトが約束し、官吏達も渋々引き下がらざるを得なかったというわけだ。
近衛騎士の中でも最精鋭を選出し、最悪の事態も想定した準備を整える。
その手始めとしては北部砦は丁度良いと言えた。
北部辺境はシュラウズの手腕によって情勢は安定しているし、ブランゲルトに対して反抗的な領主や軍指揮官もいない。
なにより直轄地であるため細かな情報をすぐに手に入れられるし帝都までの街道や街がしっかりと整備されている。
そんな事情で最初にやってきた砦の内部を見て回った後、案内中に伊織が準備したエノクとコブラに分散して難民達が渡った橋に向かう。
ちなみにだが、リゼロッドとルア、ジーヴェトは皇宮でお留守番だ。
今回はブランゲルトの送迎と護衛がメインであり、彼女たちに出来る事がない。それに、実質的に人質という側面もある。
最高権力者が異国の旅人と行動を共にするのだ。たとえ意味が無く無駄であったとしても仲間の数人が帝都に留まるのであれば少しは近衛騎士や官吏が安心できるということだ。
伊織達が設置した鋼鉄製の橋を見てはしゃぐブランゲルトと唖然とする護衛騎士。
続いて見たのはロール状の有刺鉄線が幾重にも張り巡らされた難民達の開拓地だ。
戦場で陣地構築にも使われる有刺鉄線は複雑に絡まり合うように開拓地をぐるりと囲んでおり、無理に通ろうとすれば体中が傷だらけになってしまう。
強度も充分にあるのでこちらの世界の道具ではそうそう切ることもできない。それがかなりの面積を囲んでおりその先端は河にまで続いているため、実質的に難民達が気付かれないうちに帝国の他の場所にいくことはできないようになっていた。
開拓地の方はいくつものテントが張られ、所々に難民達が作ったらしい小屋のようなものも点在している。
開拓は重労働だ。
木を切り、根を掘り起こしながら森を切り開く。
そして土を掘り耕して農地を作っていく。
そこまでしても実際に作物を実らせるのには数ヶ月から数年は掛かる。
それでも分担しながら家を造り、農地を広げていけば徐々に環境は整ってくる。
ましてや最低限の食料や道具が帝国から支給されるのであれば安心して開拓に従事することができるというものだ。
開拓して農地から税を納めることができるようになれば晴れて帝国民として受け入れられることが北部司令官の名で約束されているし、もし怪我や病気に見舞われても砦で治療を受けることが認められている。
だから重労働を強いられている割には難民達の顔に悲壮感は無く、むしろ希望に満ちて懸命に斧や鍬を振るっていた。
その様子を離れた場所からブランゲルトは眺め、満足そうに頷いた。
さすがに難民達の前に姿を現すことはしない。エノクの車内から双眼鏡で覗き見ただけだ。
「よくぞここまでしてくれたな。あの様子なら物資の供給さえ滞らなければ問題ないだろう」
「あの『ユーシテッセン』ですか、あれは凄いですな。たとえ他国の兵士が攻めて来てもあれがあればそう簡単に超えることができなさそうです」
砦まで戻る車内でブランゲルトとシュラウズ、近衛騎士が口々に感想を言い合う。
騎士の方はやはり職務上有刺鉄線に興味を引かれたらしい。
だんだん伊織の非常識さに慣れていっているのを自覚しているのかいないのか。
「本当にあっという間に戻ってこられるのだな」
砦の視察を終えて帝都が一望できるところまで戻って来るとブランゲルトが実に楽しそうに呟いた。
最初の視察となった北部砦の訪問は大成功と言って良いだろう。
辺境で職務にあたる兵士達の士気は大いに上がり、皇帝自らが息の掛かりそうな距離で激励の言葉を掛けた。
ブランゲルトのカリスマ性も相まって、砦の兵士達の皇帝に対する忠誠心を存分に高めることに成功した。
さらに、途上にあるコアの街にも立ち寄り、代官に接見して現状報告を受け、砦と同様に兵士や衛兵を労い、民衆を前に演説も行った。
元々直轄地であり、司令官であるシュラウズが目を光らせている場所ではあるが、やはり皇帝が直接その地を訪れたということは官吏や兵士、民衆の意識を変えるのに充分だったようだ。
オスプレイが皇宮の中庭に着陸すると、すぐに近衛騎士や官吏達がブランゲルトの無事を確認しようと詰めかけてくる。
そしてブランゲルトが姿を見せると安堵の溜息を漏らした。
そうして皇帝が建物の中に入っていくと、今度は同行していた騎士達が同僚達に取り囲まれることになる。
「やっぱり皇帝陛下なんだって感じがするよな、こういうのを見ると」
「伊織さんと一緒に居るとそうは思えないわよね。けど伊織さんの目的って何なのかしら」
英太と香澄は顔を見合わせて首を捻る。
伊織が皇帝であるブランゲルトと意気投合した。これはいい。
傍若、いや暴虐無人なオッサンと大帝国の最高権力者が意気投合、嫌な予感しかしないが、二人はそこには目を瞑る。
だが、確かに気に入った相手には気前の良い伊織だが、それにしても見返りも提示せずにここまで肩入れする理由がわからない。
これまで伊織が援助してきた相手はそれなりの事情を抱えていた人が多かったし、伊織の方にもそれなりの目論見があった。
だが今回に関しては、確かに難しい舵取りが必要な悩みを抱えているとはいえ、一国の君主であり最高権力者だ。しかも明らかに有能な人物である。
求められる前に協力を申し出ているのが不思議な気がしている二人であった。
「まぁ、それはいずれわかるんじゃないか? 次の場所、とか」
「皇帝陛下が言ってた領地ね。たしか、タカリス伯爵領……」
「「伊織さんが楽しそうに聞いてたんだよねぇ」」
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