第102話 ひとつの終わり
古代遺跡。
砂漠の中心部に位置し、気流の関係からかあまり風が吹き込むことのなかったらしい街並は当時の姿のまま、とまではいかないものの2000年近くが経過しているとは思えないほど原形を保っている。
特に遺跡の中央に位置している城は魔法によってある程度は保護されていたのか、一部を除いてその姿を留めていた。
宝物庫を探索するために城の中に戻った伊織達は全員揃ったまま上層階から見て回ることにした。
栄華を誇ったと手記に書かれていたとおり、城に残されていた装飾品は金や銀、宝石類をあしらった豪奢なものが多く、さすがに銀などは硫化して変色しているし、金や宝石も塵を被って色がくすんだりはしているが充分にその価値を量ることができる。
そんな装飾品が城のあちこちに飾られたままとなっており、燭台として使われていただろう魔法具の残骸の土台にもそういった貴金属や宝石がふんだんに使われていた。
伊織はいつの間に取り出したのか、手押し台車に載せたプラスティック製の折り畳みコンテナにそれらの装飾品を躊躇なく放り込んでいく。というか、ジーヴェトに投げ渡すと彼が喜々としてコンテナに入れていった。
「なんか、すっげぇ罪悪感」
「正当な持ち主が誰も居ないってことを考えなきゃ普通に窃盗だしね」
「でもこの遺跡から出ていった人達の末裔が生き残ってたんだったら、その人達が持ち主ってことになるんじゃないの?」
法律的な事はともかく倫理的には高校生コンビの言うとおりである。
そのあたり、ジーヴェトはもちろんリゼロッドもあまり気にしていないようだ。ある意味現代日本人ならではの感覚なのかもしれない。
サリアとラウラもただ付いてきていた時とは違って目を輝かせながら伊織の指示に従って次々に価値のありそうな物品の回収に奔走している。
完全に遺跡荒らしの泥棒一味だ。
「上の階はこんなもんで良いだろ。いよいよ地下だな。だいたい宝物庫なんてものは地下の奥深くにあるって相場が決まっているからな」
上層階を一通り見終わり、伊織が根拠のない主張をしつつ地下に続く階段を進む。
「あれ? 伊織さんが爆破したグローバニエの宝物庫って塔にあったって言ってなかったっけ?」
「多分適当に言ってるだけだからツッコンでも意味無いわよ」
そんなことを言い合う英太と香澄もだんだん宝探しのテンションが上がってくる。
城内に蜘蛛人間や危険な生物の姿が見えないので緊張が解けてきたのも理由のひとつだろう。もちろん警戒は怠っていないのだが。
城の地下は分岐などがなく一本道で、50mほどの通路の先に大きな扉がひとつあるだけだった。
どうやら地下牢などは無いらしい、いかにもな構造だ。
扉には装飾が施されており、その装飾にも金や銀、宝石などが使われている。
「ここまでベタな前振りで中身がショボかったら城を丸ごと爆破してしまおう」
「どこまで楽しみにしてんすか!」
「八つ当たりでC4とか使わないでよ!」
どこまで本気かわからない伊織の言葉に、一応釘を刺しておく。
「扉自体は魔法で保護されてるわね。しかも生きてる。けど、簡単に開けられるようになってるわ。多分、都市を離れた誰かが戻ってきたときに回収できるようにじゃないかしら」
「ということは、こっちには末裔であるサリアとラウラが居るからまったく問題ないってことだな。よし、開けよう!」
自分達にとって都合の良いような解釈をして伊織が早速扉の鍵を解除する。
リゼロッドの言ったとおり、扉に刻まれた魔法陣に伊織が魔力を流すとそれだけでロックが解除される小さな音が鳴り、扉が開く。
「さて、ご対面といきますか」
まさにウッキウキといった様子で取っ手を握る伊織。
探索中に疲れて伊織の背中で寝てしまっていたルアもそのテンションの高さに目が覚めたらしく伊織の肩越しにジッと見つめている。
キィィィ……
魔法で保護されていただけあって変形などしておらずに扉は開いたものの、さすがに動きは悪い。
ジーヴェトにも手伝わせて扉を左右に開いた。
地下通路と同じく、灯りは死んでいるので真っ暗ではあったが、伊織達がタクティカルライトで照らすとすぐに全貌が明らかになる。
「ヒュ~!!」
「うっわぁ!」
「すっげぇ!」
伊織が口笛を吹いて感嘆を表現し、ルアとジーヴェトが歓喜の声を上げた。
すぐに英太やリゼロッドも中に入り、目に入ってきた光景に絶句する。
数台のタクティカルライトで浮かび上がった室内には無数の木箱に麻袋のような物、煌びやかな装飾品、貴金属のインゴットが、沢山ある棚に所狭しと置かれていた。
伊織が確認すると木箱の蓋は固定されておらず、中にはこれまた無数の金貨や銀貨。麻袋の中は宝石の原石が詰め込まれている。
宝物庫はちょっとした図書館並の広さがあり、1/5ほどは持ち出されたのかポッカリと何も無い場所がある。おそらく手記に書かれていた王弟に渡されたという宝物が保管されていた場所なのだろう。
それがあったにせよ、残された宝物だけでもとんでもない量だ。
「こ、これって、マジですごくね?」
「え、ええ、全部本物の貴金属や宝石だったとしたら日本円でいくら分くらいあるのかな?」
「お、おい、旦那ぁ、こ、ここ、これ全部、回収、だよな? で、でで、でもって、俺にも分けてくれるって、ほ、本当に期待して良いんだよ、な? な?」
動揺しまくっている面々と、あまりの光景に腰を抜かしているサリアとラウラ。
リゼロッドはというと、何を妄想しているのか非常に残念な具合に顔が弛んでしまっている。
「どうやら金貨と銀貨もほぼ純金純銀のようだし、インゴットも本物。宝石類はダイヤモンドにルビー、サファイヤ、エメラルド、地球でも高価なもんばっかりだな。原石の質も高いし、大きさもちょっと値段が想像できないくらいなのが多いと。
こんだけあったらマジで国がいくつか買えそうだな。人数で山分けしても一族郎党一生遊んで暮らせるだろう。
上手く換金できたら空母を含めた艦隊を丸ごと揃えられるかもしれん。いやでも乗組員がなぁ……」
伊織がまたとんでもないことを呟くが、あまりの衝撃で放心状態のメンバーは誰もツッコンでくれなかった。
ちなみに横須賀を拠点とする米軍第7艦隊の編成は旗艦、原子力空母、巡洋艦2隻、ミサイル駆逐艦7隻、攻撃機や輸送機、ヘリを含めた艦載機がおおよそ70機ほどらしい。単純な価格だけで一兆円を優に超える。運用費用にいたってはその数倍でも足りないだろう。
ついでに言うと、第7艦隊は他にも佐世保基地やグァム基地に強襲揚陸艦や潜水艦などが分散所属されている。
「まぁいいか。とにかく全部出しちまおうや。
大型コンテナは無理っぽいから、スペース確保してから小型のコンテナを出して詰め込むぞ。分配は後からでも良いだろ」
ツッコミが入らなかったのでちょっとむくれながら肩を竦めつつ伊織がメンバ一人ひとりの頭を引っぱたいて正気に戻す。
ルアは伊織を慰めるように頭をヨシヨシしていた。
英太とジーヴェトが指示に従って入口近くの宝物や棚を奥に押し込みスペースを空けると、伊織がそこにギリギリの大きさで宝玉を並べる。
そうして開いた異空間倉庫から出してきたのはバッテリー駆動のリーチフォークと呼ばれるタイプのフォークリフトだ。
リーチフォークというのは立って操作するタイプの小型フォークリフトで、主に屋内倉庫などで使用されている。
持ち上げるための爪を引っ込めることができるので小回りが利き、小さなスペースでも運用できるのが特徴だ。
伊織が持ちだしたのはコマツ社製FR-25S。小型ながら2.5tの荷物を運ぶことのできる車両である。
それと、幅2m、高さ1.5m、奥行き1.2mの金属製のコンテナも一緒に出した。
伊織の采配に従ってコンテナに財宝を詰め込んでいく遺跡泥棒一味の面々。
何しろ金貨銀貨の詰まった木箱ひとつですら結構な重量があるのでかなりな重労働である。が、人間というのはどの世界でも目の前の財宝のためならば苦労は厭わないらしい。
地下ということもあり、気温はそれほど高くないとはいえボディーアーマーを身につけたまま身体を動かせばそりゃあ暑いに決まっている。
皆、滝のように汗をかきながらも不満そうな表情ひとつ見せることなく足取りも軽やかに次々に木箱や麻袋を運んでいく。
10数分でコンテナは一杯になり、伊織が中身が分かるようにタグを取り付けてから異空間倉庫に運び、新しいコンテナをまた取り出してくる。
あまりに膨大な財宝の量のためにまったく先の見えない作業なのだが、面々の動きは鈍るどころかますます勢いづいていくのであった。
「いや~、大漁大漁! 有意義な遺跡探索だったなぁ!」
ご機嫌でブッシュマスターのハンドルを握る伊織に、英太と香澄は苦笑いを浮かべる。
「ここまで明るく遺跡荒らしを楽しむって、ある意味凄いよなぁ」
「まぁ、気持ちは分からなくはないけどね。っていうか、回収したお宝どうするつもりなのよ」
「バーラやオルストで見つけた発掘品はリゼへの報酬として渡すことになってるからな。今回のも装飾品や美術品なんかは俺達が持ってても色々問題があるから主に貴金属のインゴットと宝石の原石を割り当てさせてもらうさ。それなら元の世界に戻ってからも換金しやすい」
結局城の地下にあった宝物庫から回収した財宝の量は前述の小型コンテナ30個分にも及んだ。
そのうちの半分弱が金貨や銀貨などの貨幣と貴金属のインゴットで占められており、残りの3割近くが宝石の原石や荒くカットしただけの
その他の装飾品や美術品も貴金属や宝石が大量に使われているのだが、さすがにそのまま地球に持ち込むわけにはいかない。考古学会が出所を巡って大騒ぎしかねないからだ。
とはいえ、貴金属だけで重量は数十tはありそうなので金額にしたらとんでもないことになる。
さらに伊織達は都市内にある他の大きそうな建物を軒並み探索して、そこからも大量の財宝を発見し、回収している。
冗談抜きでいくつもの国が買えそうなほどの財宝を手にしたというわけだ。
伊織がご機嫌なのも無理のないことなのである。
結果として、当初の予想を大幅に延長して10日ほど都市遺跡に滞在した。
残されていた大量のお宝に、メンバー全員テンションが上がりまくって、文字通り根こそぎ回収してきたのだった。
「けど、均等に分配しても尋常じゃない量の財宝よ。ジュバ族で保管しても大丈夫なのかしら」
「ああ、俺達もさすがにここまでのものだとは想像していなかったから、今になって不安に思えてきたよ」
「各氏族の長達に分配するにしても量が多すぎますし、交易の時に換金するとどうしても王国には知られてしまいます」
大量の財宝は必ずしも良いことばかりとは言えない。特に天然の要害のおかげで固有の戦力を持っていないジュバ族にとって、これだけの財宝を持っていることが知られれば王国も周辺国も黙ってはいないだろう。ルジャディだけで対処するのは不可能だ。
「半分以上は王家に献上した方が良いだろうな。理由は素直に管理しきれないって言えばいい。ジュバ族が持っている分はかなり過小に報告しておいて、献上の見返りとしてガラス製品の通行税や人頭税の減免を申し出れば不審がられないだろう。
財宝の出所と入手の経緯は事実をそのまま伝えれば諦めるだろうよ」
伊織がそう提案すると、サリアは『長達にそう伝える』と頷いた。
実際にそれしか方法は無いのだから仕方がない。
どうやらタラリカ王国では伊織が遠慮無しにやらかしたらしいので、入手方法や財宝の大部分を伊織達が持っていったと言えばそれ以上追及されることはないだろう。
王家にとっても濡れ手に粟で大量の財宝が手に入り、見返りの要求がこれまでと同じジュバ族から税が取れないということだけなのだから悪い話ではないはずだ。
ガラス製品は入ってくるのだから、ジュバ族の保護や支援などを考えても大幅な利益を得られる点からしても、多少ジュバ族が財宝を確保しているからといって根こそぎ奪おうとまでは考えないと思われる。
「保管って考えると、俺もどうしようって感じなんだがなぁ。さすがに帝国に帰るのは嫌だし、かといって大陸西部諸国だと俺の顔を知ってる奴も多いだろうから他の国に移り住むしかないんだが、知らない土地でとんでもない財産持ってるのも恐すぎるんだよなぁ」
「だったらこのまま私の助手としてオルストにでも来れば良いわよ。イオリ達のおかげで王家ともパイプができたし、オルゲミアにでも家を買って財宝もそこで保管すれば魔法で保護もできるわ」
「……考えさせてくれ」
ジーヴェトとリゼロッドの方もそんな会話を交わす。
ジーヴェトとしては渡りに船な話のはずなのだが、リゼロッドの人使いの荒さを知っているだけに即答はできないようだ。
「俺達、地球に帰ったら普通の高校生なんすけど? こんな財宝もらってもどうしていいのかわかんねぇ」
「サラリーマンの生涯年収何人分になるのかしらね。そもそも普通に換金できそうにないけど」
「帰ったら俺が買い取ってやるよ。さすがに一度に全部は無理だし、これだけの貴金属を一気に市場に流したら相場がエライことになる。1億もあれば当面は生活できるだろ?」
「当面って、伊織さんは俺達がどんな生活してると思ってるんすか?!」
「親に説明できないから使えないわよ!」
「パパ、私もアイスいっぱい買える?」
「ん~、ルアは将来のために貯金しておこうな。必要なものは俺が買ってやるから心配すんな。アイスは、時々なら良いぞ」
やはり山ほどのお宝というのは気分が浮き立つもので、そんなふうに会話をしながら砂漠を疾走し、行きよりも早くラスタルジアに到着したのだった。
その後は緊急の氏族長会議が招集され、サリアの口から砂漠中心部の遺跡と、古代文明が滅んだ理由、生き残っていた蜘蛛のような人間達やドラゴンのことなどが説明された。当然、王が残した手記と、遺跡から回収した財宝のこともだ。
あまりにスケールが大きすぎたためにしばし理解が追いつかず会議は長引いたが、自分達がやはり古代文明の末裔であることや東に向かった同族がいることなど、語り継がれてきた伝承を裏付ける内容も多く、それほど違和感なく受け入れられたようだ。
財宝に関しては伊織の提案通り、大部分を王国、というより王家に献上し、残りをジュバ族、新たに加わった技術者も含めた全員に均等に割り振って各氏族長が管理するということで落ち着いた。
さすがに伊織が異空間倉庫から財宝を取り出すと大騒ぎになっていたが。
そうして分配も無事終え、伊織達がラスタルジアを離れることを告げると、ジュバ族上げての送別会が開かれることになった。
ジュバ族にとってはオアシスの開発や諸問題の解決、新たな産業の創出など、あり得ないほどの恩恵をもたらせた恩人である。
感謝を込めて精一杯の心づくしで送り出したいということなのだろう。
そうして夜通しのお祭りのような賑やかさが終わりを迎えようとした頃、香澄は長の邸宅の裏手を流れるアラビス川の川辺にやってきていた。
時刻は後半刻ほどで東の空が白んでくる頃合いであり、砂漠の気温は息が白くなるくらいに下がっているのだが、送別会の余韻のせいかそれほど寒くは感じない。
この日ばかりは周囲はいくつもの篝火が焚かれていて充分に辺りを見渡すことができるほどの明るさがある。
「カスミ、来てくれてありがとう。もしかしたら来てくれないかと思っていた」
香澄が到着すると、彼女を待っていたサリアがそう言って笑みを見せる。
(こうして見ると、サリアって結構イケメンなのよね。どうして今までお嫁さんもらってなかったのかしら)
篝火の灯りに照らされたサリアは浅黒い肌と精悍な顔つき、彫りが深く野性的な目と人好きする笑みという、ある意味モテる要素をてんこ盛りした容姿をしている。加えてジュバ族随一の氏族の長、その子息でもあるのだ。女性比率の高いジュバ族であれば尚更引く手数多だろう。
そんな事を考えながらも香澄はサリアのところまで歩み寄って答える。
「最後だしね。大切な話って言われれば無視はできないわよ。ただし、私一人だからといって変なことは考えないでね」
言いながら腰に下げたホルスターを右手で撫でて見せるとサリアは苦笑いをしながら首を振った。
「俺じゃカスミには勝てないのは充分理解しているよ。それにそんなつもりは無いから安心してくれ」
サリアの言葉は本心だろう。
香澄にしてもこれまでの付き合いからサリアの為人は分かっているので本気で警戒しているわけではない。ただ一応念のための牽制だ。
「このままだと明日にはカスミ達は居なくなってしまうからね。後悔はしたくないし、どうしても最後に気持ちを伝えたかったんだ。
改めて申し込むよ。カスミ、どうかラスタルジアに残って俺と共に生きて欲しい。カスミが望むなら俺はカスミ以外に妻を迎えることはしないし、生涯君だけを愛すると誓う。俺に出来る事ならなんだってする。
だから、お願いだ。俺の求婚を受け入れてくれないか」
これまでのことあるごとに香澄に求婚していたサリアだったが、その時よりも真剣な表情で、祈るように力を込めた言葉だった。
だからだろう、香澄も嫌な顔を見せず、真剣に答えることにした。
「ごめんなさい。サリアの想いは嬉しいけど、私はその気持ちに応えることはできないわ。だから、ごめんなさい」
短く、勘違いのしようのない香澄の言葉。
その言葉に、サリアはひとつ大きく息を吐くと肩を落とすでもなく笑みを見せた。
「そう、か。わかったよ。これ以上言葉を重ねても嫌われるだけだろうからね。残念だけど諦める」
少しばかり淋しそうなその表情に、香澄の胸に罪悪感のような感情が湧き上がるがそれを口にすることはなかった。
「最初はカスミはイオリの事を気にしているのかと思っていたんだよ。彼が相手では俺に勝ち目は無いだろうし、彼ほど多くのものをカスミに与える事なんてできそうにない。それに……」
「いや、それは無いから!」
言葉の途中で否定する香澄。
「伊織さんは確かに凄い人だし尊敬も感謝もしてるけど、男性としてなんて見てないわよ。というか、あの人を彼氏にしたら間違いなく胃に穴が開くから!」
酷い言い様である。
「そ、そうか。まぁ、しばらく見ていたらそうじゃないことは分かったんだ。……やっぱりカスミは……」
サリアが何を言おうとしているのかを察し、香澄はそっぽを向いて遮る。
「割り込めないな、と思ってしまったよ。最初からそんな隙間はなかった。そういうことだね」
「……そ、そりゃぁ長い付き合いだしね。
それにね、アイツはわけが分からずにこっちの世界に連れて来られて、力なんて何も無くて、それでも誰よりも私を守ろうとしてくれたのよ。どんなに辛い思いをしても、どんなに絶望的な状況でも諦めずに、私を守ってくれた。
私も守られてるだけじゃ嫌だから、二人で必死になって強くなろうとしたわよ。だから、私の隣に立つのは、立ってて欲しいのはアイツだけ」
篝火に照らされた香澄の顔が紅く見えるのは炎の色か、それとも別の理由なのかは見ただけでは分からない。
「それを彼に伝えないのか? 彼の気持ちは傍から見るとあからさますぎるくらいだろう」
「う、うるさいわね。私だって憧れってのがあるのよ」
香澄の返答に、サリアは一瞬キョトンとした顔を見せると大声で笑い出した。
「わかったよ。もう言わない。
カスミ、どうか元気で。イオリが側にいるならなんの心配もいらないだろうが、無事に故郷に帰ることができるのを祈っている」
「むしろ心配なことだらけだけど、ありがとう。サリアもこれから色々と大変だろうけど頑張ってね」
最後に香澄はサリアと握手を交わすと踵を返した。
その後ろ姿を見送り、香澄の姿が見えなくなるとサリアはその場にしゃがみ込んで空を見上げる。
「まいったな。覚悟はしていたはずなんだがなぁ」
独りごちる。と、すぐ近くで石を踏む音が微かに耳に入ってきた。
振り返るとラウラが少し離れた場所に立っているのが見える。
「……恥ずかしいところを見られたか。というか、こういう時は気を利かせてもっと離れているべきだと思うんだけどな」
「長の家族の護衛が離れるわけにはいきません。それに誰にも言ませんし」
ラウラの言葉に肩を竦め、再び空を見上げる。
そんなサリアの様子を気遣わしげにラウラが見ていた。
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