第100話 古代遺跡の深淵
祝! 100話!!
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英太達が伊織とドラゴンが戦っていた広場に戻ったとき、すでに戦闘は終了していた。
そこにあったのはいくつもの倒壊した建物と破損して周囲を水浸しにした噴水、それから血まみれで横たわる2体のドラゴン。
伊織はといえば、直射日光の当たらない建物の影にしゃがみ込んでタバコを吹かしている。
足元には缶コーヒー。
まるで昭和のヤンキー兄ちゃんである。
すぐ側にM82やバカでかいリボルバー拳銃が転がっていなければ、だが。
「伊織さん!」
CV90が伊織の側に停車すると同時に砲手席の上部ハッチを開けて香澄が上体を出す。
「戻ってきたか。ご苦労さん。CVは良いチョイスだな」
車両の選択も悪くないが、なにより伊織に声を掛けながらも周囲に素早く目をやって警戒するのを忘れていない様子の香澄に口元を綻ばせる。
オッサンの薫陶行き届いて満足げですらあるが、現役女子高生に対して求める内容を大幅に間違っていると思わないでもない。
「結局伊織さん一人でドラゴン2匹倒しちゃったんっすか。っつか、伊織さん実は魔王とかじゃない?」
英太も大太刀片手に降りてきて呆れたようにドラゴンの死骸を見やる。
「ていうか、多分この世界で何百年か経ったら神話になってそうよね。邪神か悪戯好きな愉快神とかで」
「若者がどんどん口が悪くなってくる。責任者出てこい!」
心配した分軽口が辛辣になる英太と香澄をジト目で睨みながら愚痴る伊織。
いいかげんウンコ座りは止めたほうがいいだろう。
「パパ、大丈夫? ケガ、してない?」
周囲にドラゴンも蜘蛛人間も残っていないことを確認してから英太がパトリアの扉を開けると、ルアが飛び出してきて伊織にしがみつく。
伊織の実力をある程度知っている英太や香澄はともかく、ルアにとって今や唯一の家族であり、拠り所でもある伊織が見上げるほど巨大なドラゴンと戦ったのだ。泣きたいほど不安だったのだろう。
伊織はすぐにタバコを携帯灰皿で消すと、ルアを抱き上げて安心させるように頭を撫でる。
「大丈夫だぞ。パパは強いからな、掠り傷一つしてない。それに魔法で縛られ操られた合成生物なんざいくらでかくても大して脅威でもないからな」
いつも通りの柔らかい笑みで優しく言うと、ルアはようやく安心して頬を伊織の無精髭に擦りつけて「くすぐったい」と笑った。
その後、伊織はリゼロッドを呼んでドラゴンの身体を調べ始める。
「まったく、よくやるわよ。少なくとも6種類の動物を合成してるわね。他にも筋力を増強させたり皮膚の強度を高めたり、魔力を吸収させたり……
神にでもなったつもりだったのかしらね」
調べが進むにつれリゼロッドの顔に嫌悪感が強くなる。
伊織が予測したとおり、ドラゴンは魔法を組み合わせた外科的処置によって創られた合成生物であり、さらに地脈からエネルギーを得られるようにしたり生物としてあり得ない耐久性を持たせたりする処置まで施されていた。
こんなものはもはや生き物とは言えないだろう。内容を聞くにつれ、英太達だけでなくサリアやラウラまでもが遠いご先祖の所業に愕然としている。
「行くところまで行っちゃってる感じっすね」
「滅びて当然、というか、滅んでて良かったわよこんな文明」
「なんつーか、俺もこれまで散々権力者の嫌な部分は見てきたが、これはヤベェな。オマエらがよく使う言葉にあった、そう、ドン引きって奴だ」
「もうジュバ族は古代文明の末裔だということを誇ることはできなさそうだ。この事を父上やシラウ兄になんて伝えればいいんだよ……」
一通り調べ終えてからパトリアの車内で今後の行動を話し合うべく乗り込むと、誰もが疲れたように溜息を吐きつつ口々に溢した。
リゼロッドは難しい顔をして黙り込んだままだ。
遺跡研究者としては色々と思うところがあるのだろう。
光神教の保持していた古代文明の資料もかなりアレな物があったが、この遺跡に遺されていたモノはそれを遥かに上回る。
研究者として細部まで調べたいという欲求と、人として当然の感性によって生じる嫌悪感が心の中で葛藤しているのだ。
「……まぁ、とにかくドラゴン達は駆除、っていうのは言葉が悪いが、探して解放してやろう。このままこの遺跡の中で飼われたままってのは憐れだからな。かといって他の場所に連れて行くわけにもいかないし」
伊織の言葉に異論を差し挟む者は居ない。
人工的に生み出されたドラゴンがこの遺跡を離れて生きていけるわけもないし、永遠にも等しい牢獄で、この先もおそらくはこの先も誰も訪れることのない侵入者から意味もなく遺跡を守るだけの家畜。
解放など傲慢な考えと言えなくもないだろうが、それでもドラゴン達が解き放たれるには死ぬしかない。蜘蛛人間達とは異なりドラゴン達は望んでここにいるわけではないのだ。
いくつかの確認と銃器の交換、CV90に搭載されている機関砲の弾頭を榴弾から徹甲榴弾に変更するなど、各自と車両の武装を整えてから出発する。
CV90に搭乗するのは英太と香澄、それからサリアの3人。他の者は伊織が運転するパトリアだ。
必然的に戦闘は英太と香澄が担当することになる。
伊織達は当初の予定から変更して、一気に遺跡中央部を目指すのではなくぐるりと円を描くように移動することにした。
これはこの都市の区画が同心円状に配置されており、一定間隔でドラゴンが居たような広場が設置されているらしいことがわかったからだ。
当然そこにはまたドラゴンが居る可能性が高く、それらを倒すために広場を回ることにしたのだ。
伊織が戦った広場から時計回りに移動した最初の広場にはドラゴンの姿はなかった。
ただ、最初から居なかったというわけではなかったようで、広場の片隅にドラゴンの骨の残骸らしき物が朽ちかけ、脆くなって散らばっていた。
おそらくはドラゴンに施された魔法術式が完全には機能せずに死んだのだろう。
遺体の処理がされていないところを見ると遺跡の住人達が理性や知性を失うまでは生きていたのかもしれないが。
CVとパトリアは止まることなくそのまま広場を通り抜けて次の場所に。
そこにはドラゴンが居た。
鋼鉄の無限軌道で進む装軌式車両は走るだけでかなりうるさい。
おかげで広場に着いたときにはドラゴンはすっかり戦闘態勢を整えて待ち構えているという事態になる。
通りからCV90が広場に入ると同時にドラゴンは大きく咆吼しながら威嚇する。
だがそんなことには構わず、CV90は70口径40mm機関砲の砲口をドラゴンに向け、そのまま発射する。
12.7mm弾の直撃にさえ耐えたドラゴンも装甲車すら貫く40mm機関砲では抗うことなどできようもなく、正面から胸に大穴を開けて一撃で屠られることとなった。
「すっご!」
「そりゃそうよね。問答無用でぶっ放されたドラゴンには気の毒だけど」
あれほどの巨体で英太達を追い回していたドラゴンがあっさりと倒れたことに現代兵器のとんでもなさを改めて感じる英太と香澄。
一方パトリアの車内でもモニターでその様子を見ていたリゼロッドとジーヴェトが空笑いを浮かべていることしかできない。
「もう笑うしかないわね。イオリ達の世界ってどんだけ恐ろしい怪物が生息してるんだか」
「俺からしたら古代文明も旦那の世界も恐すぎてどっちもどっちって感じだよ。心底知らないでいたかったぜ。もう遅いけどな」
ちなみにルアは運転している伊織の膝の上、ラウラは驚きすぎてシートの片隅で彫像と化している。
こんな感じで広場を回りドラゴンを倒していく。
そうして元の広場に戻った来た頃にはすでに2時間が経過していた。
結局ドラゴンが居たのは前部で7箇所。
広場自体は20箇所ほどあったのだが、他の場所はドラゴンの骨が散らばっていたり、あるいは何も無かったりと、すでにそこに居たはずのドラゴンは失われていたようだった。
「これで全部ですかね?」
『どうだろうな、けどまぁ、これでドラゴン退治は終わりにしておこう。また出くわしたらその時に考えりゃいいさ』
通信機を通した会話で再び進路を遺跡中心部に移す。
すでに時刻は正午を過ぎているが、周囲を回ったことで中心までの距離はおおよそ測れている。
そしてその予想に反せずほどなくCV90とパトリアは遺跡の中心区画に辿り着くことができた。ただ、予想に反したのは都市の中心、そのすぐ側。
王城と思われる大きな建物の敷地1/3ほどを飲み込んだ形でそびえるモノだった。
「……なんすか? これ」
「伊織さんが持ってたベンタブラックの壁みたい」
先にパトリアを降りた伊織の姿を見てCV90から英太と香澄も出てくる。
だが安全が確認されたわけではないのでその他で車内から出ているのはリゼロッドだけた。他の者達には絶対に車内からでないように言ってある。
そして伊織の隣に立った英太と香澄が目の前の光景に唖然とした様子で呟いた。
そこにあったモノ。
漆黒よりもさらに黒く、凹凸も光沢もない、ただ真っ黒な闇。
香澄が溢したように、以前伊織が暗殺者の尋問に使った可視光の最大99.965%を吸収する物質ベンタブラックでコーティングした壁のようなものが幅数十mにわたってそびえていた。
伊織がナイフを抜いて壁に突きたてたり、つま先で軽く蹴ってみたりしたが刺さることはなく、音すらしない。
「まさか、な……」
「伊織さん?」
いつになく厳しい顔の伊織に、英太も香澄も戸惑ったような表情で顔を見合わせた。
「香澄ちゃん、CVの機関砲でこの壁を撃ってみてくれ。弾頭はAPFSDS弾(装弾筒付翼安定徹甲弾)で」
壁を睨み付けたままの指示に香澄が慌ててCV90に戻る。英太もそれに続き機関砲の砲弾の交換を行う。
40mm機関砲のAPFSDS弾は1000mの距離から135mmの装甲を貫く性能を持っている。正面装甲以外であれば戦車の装甲すら無意味なものとしてしまうほどだ。
その機関砲が黒い壁に向けられる。
伊織もパトリアに戻って距離を取ったことを確認すると、香澄はAPFSDS弾を発射する。
砲口から飛び出した弾頭は装弾筒を分離させ、秒速1500mで黒い壁に激突する。
タングステン合金の弾頭が音速の4倍超という速度で壁に衝突し、そして潰れた。
結果としてはただそれだけ。
衝突音もしなければ貫通もしない。それどころか壁に傷すら付いているように見えない。
それなのに弾頭の侵徹体は破砕し、周囲にその破片を撒き散らして威力のほどを見せつけている。
再び壁に近づいた伊織が、破損した弾頭と壁を見比べ、着弾した場所を手で触る。
そして何も言わずに首を振る。
「とにかく城の中に入ってみよう。この壁については思い当たるものがないわけじゃないが確証はない。城の中に何か手がかりがあるかもしれないからな」
歯切れの悪い伊織に困惑しながらも頷く英太達。魔法に精通しているリゼロッドでさえ伊織の考えがわからないようで、似たような表情のまま肩を竦めた。
王城の門は開け放ってあり、伊織達は車両のまま中に入る。
城はそれほど広いという印象は受けない。
門を入った中庭は奥行きが200mほどで、その奥に建物がそびえているものの大きさはオルストやアガルタ帝国の王城と比べると半分以下程度だった。
建物の前に車両を停め、装備を調える。
今回は伊織やリゼロッドだけでなく、ルアやサリア達も含めた全員で中に入ることになった。
そのためいつものメンバーだけでなくジュバ族のふたりにも防弾防刃服やボディーアーマー、ヘルメットなどの装備一式が渡された。
遺跡の中は周辺よりも気温が低いとはいえさすがに暑いが、何があるかわからない場所なので我慢するしかない。
武装は伊織がドラゴンと戦ったときと同じ、香澄はファイブセブンとP320-X5をホルスターで左腋と右腰に差し、肩にミニミ軽機関銃を引っかけて手に持つのはM870ショットガン。英太は二本差しに刃長3尺3寸の大太刀を手に持っている。
どこからどう見てもどこぞの軍施設を襲撃するようなスタイルである。
残りのメンバーはというと、異世界風の普通の武器に、手には強化ポリカーボネート製の透明なライオットシールドだ。
もはやファンタジーなんだかSFなんだか……。
先頭は伊織、そのすぐ後ろを子ガモのようにルアが続き、リゼロッド、サリア、ラウラ、ジーヴェト、香澄、殿は英太が務める。
「近づく生き物が居たら躊躇せずに排除を優先。それから建物の崩落にも気をつけてくれ。サリア達は絶対に勝手な行動はするなよ。最悪の場合は見捨てるからな」
短く伊織が指示を出す。
いつものような軽口は挟まず、要点だけの簡潔なものだ。
特にサリアとラウラに対しては釘を刺した。厳しい言い方だったが、自分達の先祖が暮らしていた街に複雑な思いを抱えているだろう彼等がこの先見るであろう事柄に動揺されても困る。
これまで大人しくしていたので大丈夫だろうが、念のために脅したのだろう。
城はところどころ崩れたり壁に穴が開いたりしていたものの、2千年近く経過しているとは思えないほど原形を保っていた。
さすがに装飾品などは微かに痕跡を残すだけで何が置いてあったのか判別することはできそうになかったが、それでも建物がすぐにでも崩れるといった危険はなさそうだ。
おそらくこの砂漠の中心部はほとんど風が吹いておらず、風化が最小限に抑えられていたからだろう。
それに城内に蜘蛛人間も砂竜などの生き物も居ないらしく、警戒が拍子抜けするくらい淡々と探索が進んでいった。
「これは……」
いくつもある部屋の一つ。
談話室のように見えるその部屋は、建物の奥まったところにあり、また窓などもなかったせいか内部はほぼ完全な状態で遺されていた。
多少色あせた感はあるが壁や家具、装飾品がまるで数年程度しか経っていないかのように見える。
他の部屋がほとんどの物が朽ちていたことを考えると奇跡的と言えるだろう。
広さ20畳ほどで、いくつかの丸テーブルに椅子、ソファー、カウンターのような物が備えられている。
「凄いわね。何千年も経っているなんて信じられない」
香澄が感嘆の声を上げるが、さすがに原形を保つのが精一杯なのか、ソファーのクッションは弾力性が失われて触れただけでボロボロと崩れてしまい、木製の家具も少し力を込めただけでシロアリに食い尽くされた木材のように脆くなっている。
英太が興味半分で丸テーブルに手を着くとあっさりと砕けて倒れてしまった。
「す、すいません!」
慌てて謝る英太だったが、伊織もリゼロッドも英太の方を振り返ることなく別の場所を見ていた。香澄には脇腹を突かれたが。ショットガンで。
ふたりが見ている先にあった物。
それはカウンターに置かれた料理のようなモノ。
チーズだろうか、親指大に四角く切られたものが数個とサラダのような野菜、骨付きの肉らしき物。
だがしかし、年数を考えれば残っている方が不思議なソレは、形を保ったままでありながら全ての色彩は無く、まるで石膏で作られたイミテーションのようだった。
「以前話したことがあったわよね? 発掘された遺跡の中で見つかった石化した食べ物」
「……これがそうか」
「現物を見たことは無いけど、研究者の記した資料で見たのとまったく同じね」
リセロッドの言葉を聞いて伊織がその石化した料理らしき物を手に取る。
載せられていた皿はなんの変哲もない普通のものだったが、料理の方は形を変えることなく持ち上げられ、伊織が少し力を入れるとあっさりと割れる。
「魔法的な痕跡もあるけど、これ自体にじゃないわ。多分一定の範囲に効果を及ぼす魔法を掛けて、一度変化した物はそのままってことだと思うけど」
「家具とか他の物は……どうやらそっちも同じ魔法の影響があるようだな。となると有機物に作用する魔法か」
遺跡を進むにつれ、様々なことがわかるにつれ伊織の表情が厳しくなってきているようだ。
リゼロッドとの会話でもいつもの笑みを口元に浮かべることなく口調も重くなっていく。
一通り部屋の中を調べ終えると、そのまま何も言わずに部屋を後にする伊織の様子をルアが不安そうに様子を窺い、リゼロッドや英太達も困惑したまま慌てて後を追う。
そして無言のままいくつかの部屋を探索し、辿り着いたのは城の一番奥まった場所。
他の部屋よりも重厚な扉は朽ちることなくその形を保ち、その奥を隔離している。
魔法の痕跡はなく、鍵なども掛かっていない様ではあったが、ドアノブを掴むとそのまま取れてしまった。朽ち果ててはいなくともさすがに脆くはなっていたようだ。
伊織は英太から大太刀を借り、扉に向かって振るう。
「うっわ、凄ぇ」
以前豚王子を救出する時に英太も扉をぶった斬ろうとしたが、今回の伊織は斬るのではなく扉を破壊するように振るったらしく、ほんの一撃で扉が内側に吹き飛んでしまった。
英太がその破壊力に呆れているうちに伊織がさっさと中に入っていってしまったので他のメンバーもそれに続いた。
部屋の中は真っ暗で、外から一切の光が入っていないようだ。
広さはそれほどでもなく、手前側には応接セットのような家具類と、執務室として使われていたのだろうか、左側に書庫とデスクのようなものもある。
そして一番奥に大きく一際豪奢な椅子が置かれている。
直後、伊織はルアを両手で抱き上げた。
「ふぇ?! パ、パパ?」
「ルアにはちょっと刺激が強いからな。見ない方がいい」
遺跡の中心部に入ってからずっと不機嫌そうな様子の伊織だったがルアにだけはやっぱり優しいパパのようで、いわれたルアは嬉しそうにはにかみながらギュッと伊織の首にしがみついた。
抱きついているルアの頭を一撫でしてから伊織はタクティカルライトを取り出して部屋の奥を照らす。
「?!」
「ひ、人?」
照らし出された部屋を見てサリア達が息を呑む。
対照的に英太と香澄はそれぞれ武器を構えた。
「……ミイラ化してるわね。魔法の痕跡は無いわ」
奥の椅子に座っていたのはこれまた豪奢な衣装に身を包んだ男性らしき人間だった。
その姿は完全にミイラ化しており、外にひしめいている蜘蛛人間のような特徴はない。
男の表情に苦しんだような形跡は無く、死後に置かれたのか、それとも覚悟の自死だったのかはわからないが見える範囲では外傷は無いようだった。
保存状態はかなり良く、装飾品などもまだ色を保っている。
身につけている物や部屋の場所から相当高い地位、おそらくはこの都市の領主あるいは王だったと考えられた。
「手に何か持ってるわね。書物、のようね。もしかしたら日記とかかしら」
近くで観察を始めたリゼロッドがミイラが膝に乗せて大切そうに手を添えている書物を見つける。
そして横からそっと引き抜いて破損しないように気をつけながらその場で開いてみた。
「手書きのようだし、日記か、それとも仕事上の備忘録のようなものかもしれないわね」
「読めるか?」
「う~ん、すぐには無理そう。大陸西部の遺跡にあった書体とは全然違うみたいだし、ジュバ族の使う文字と似てるようにも思うけど……」
なにしろ2千年近く前の文明だ。
解読するにはそれなりに骨が折れるだろう。
リゼロッドがそう言うと、これまで黙ってついてきただけだったサリアが声を上げた。
「良かったら俺にも見せてもらえないか? 俺達コーリン一族には古くから伝わっている書物があるんだ。俺も子供の頃からそれを読み聞かせられてるから、もしかしたら少しくらいは読めるかもしれない」
「そうねぇ」
「良いんじゃないか? 今のジュバ族の文字に置き換えられるだけでも解読しやすくなるだろうし」
リゼロッドは迷ったものの、伊織の賛成もあったので本を抱えたまま一旦部屋の外に出て明るいところでサリアに見せることにした。
建物の壁に空いた穴から外に出て、テーブル状になった瓦礫に本を置く。
それを注意深く開きながらサリアが書かれている文字に目を落とす。
「やっぱり。昔読んだ書物の字と同じだ。これなら読める」
無理を言ってついてきたのになんの役にも立っていないことが気に掛かっていたのか、ほんの少し誇らしげに伊織達を見回してから書物を読み上げ始めた。
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