第82話 ドゲルゼイ王国滅亡

 時間はしばし遡る。

 ドルヴァンが王位を簒奪して15年。

 その間にドゲルゼイによって侵略され占領された国は6カ国にも及ぶ。

 その版図は同じく旺盛な領土欲によって周辺諸国に侵攻した歴史を持つアガルタ帝国をも超え、大陸北部随一を誇るまでになっている。

 兵力でいえばアガルタやオルスト、グローバニエを遥かに凌駕するほどであり、その武威をもって恐怖政治を敷いていた。

 

 そんな被占領国のひとつ、かつてのフォアリセ王国の王都だった街。

 国土全域で人口100万を擁した中堅国家であり、大陸北部地域の流通の要として栄えた国はドゲルゼイの侵略によって国民は奴隷同然の扱いを受け、富は全て奪われて今やかつての栄華は見る影もないほど荒れ果てていた。

 立派な石造りの街を歩く人の姿は疎らで、その少ない者達の表情は暗く生気に欠けている。

 そんなどんよりと打ち沈んだ街中を5~6人が一組となって武装した兵士が巡回していた。

 彼等はこの国を占領したドゲルゼイ王国の兵士であり、この街において絶対的な権力をもった集団だ。

 

「チッ! どいつもこいつも辛気くせぇツラしやがって」

「部隊が軒並み招集されちまったから仕方ねぇさ。人が少ないから家畜どもが目立つんだろうよ」

「あ~ぁ、俺も遠征部隊のほうに行きたかったぜ。そうすりゃあシャルールとかいう国の連中を好きにできたのによぉ」

 やる気のなさそうにダラダラと歩くドゲルゼイ兵が、それでも周囲の様子だけは見ながら愚痴をこぼす。

 彼等の言葉通り、元一国の王都だっただけあって普段は万を超える部隊が駐屯しているこの街だが、一月ほど前に突然本国から出兵命令があり最低限の治安維持部隊を残して全てシャルール王国へと向かってしまったのだ。

 それまでなら街は我が物顔で闊歩する兵士達と、彼等を相手に商売に励むドゲルゼイ人が経営する商会や飲食店で賑わっていたが、兵士のほとんどが街から離れてしまえば残されたのは自由も金も残らず奪われた被占領国民ばかりであり、活気などあるわけがない。

 そしてそれはこの街に限らず、フォアリセ領内の主要都市や他の国の街に展開している部隊も例外ではなく、この時点でシャルール王国への遠征軍を除き、ドゲルゼイの版図全域のドゲルゼイ兵の総数は2万を割り込むほどしか残っていない。

 

 圧倒的な殺傷力を持つ銃火器のないこの世界で平和的でない手段で占領した国を維持しようと思ったら本来相当な数の兵士を治安維持のために駐屯させなければならない。

 だがドゲルゼイは体力のある若い男を別の場所で苦役に従事させ、残りの者達を徹底的に虐げることで反抗する気力を奪うという手法で統治していた。

 当然最初の頃は反発も大きく支配層のほとんどが捕らえられても尚各地で反乱が頻発していた。

 それを力尽くで蹴散らし、武器になりそうなものは徹底的に取りあげ、さらに抑えつけることを続けているうちに次第に民衆も諦めてドゲルゼイの支配を受け入れていったのだ。

 

 だからこそ、ドルヴァンはすでに占領した国々はもはや逆らう気力も戦力もないと判断し、それでも最低限の警備兵だけは残す程度の用心はしたようだがこの街に残っているドゲルゼイ兵はわずか3000に過ぎない。

 元とはいえ一国の王都。それも今ですら10万を超える人口を抱える街を維持することはおろか目を行き届かせることすらできるとは思えない。

 これまでなら他国へ侵攻するときの兵力は多くても今回の半数程度であり、それでも充分にその国を圧倒することができていた。

 今回もそうしていれば征服した国に残る兵力は3倍以上となっていたはずだ。

 そうであれば、もしかしたら、ほんのちょっとだけ、違う未来が男達には訪れていた可能性が、あったかもしれない、ような気がしないでもない。

 もっとも、あの人の悪いオッサンがそれを見過ごすとも思えないが。

 

 カツン!

「痛っ! なんだぁ?」

 兵士の一人が不意に顔に当たった小石に顔を顰める。

 カツン! ガッ!

「くっ?! だ、誰だ!」

 一人だけでなく別の兵士にも小石、いや子供の拳くらいの石まで飛んできたことで偶発的な事故ではなく意図的に投げつけられたものであることがわかり、巡回の兵士達が色めき立つ。

 兵士達はすぐに周囲を見回し、そして通りの少し先、建物の辻のところで小石を玩びながら兵士達を睨んでいる12、3歳位の少年を見つけた。

「このガキ、テメェか!」

 男が怒鳴り声を上げると、少年は建物の角に姿を消す。

 

「逃がすか! ぶっ殺してや、ギャァッ!」

 最初に小石をぶつけられた男が逃げた少年を追って走り出そうとしたその瞬間、再び顔面を襲った痛みに、今度はもんどり打って転げ回る。

 新たに飛んできた石は大人の握り拳ほどであり、当然そんなものをぶつけられた兵士の顔からは血が流れ、痛みのあまり立つことすらままならない。

「くそっ! 今度はどこか……グゥッ!」

 これまで苛烈な扱いで絶望のあまり魂が抜けたような表情しかしていなかった住民達の突然の反抗に戸惑う兵士達。

 だが考えている間もなく、飛んでくる大小様々な石は次第に数を増してくる。

 男達は腕で顔を庇いながら犯人を探し、今もまた石を手に投げつけようとしている初老の男に目を付ける。

 そして飛来する石を無視してその男に走り寄ろうとするが、一瞬早く初老の男は建物の中に逃げ込んでしまった。

 

 兵士が扉に手を掛けるも、閂でもされたのか開くことができない。

「チィッ! おい、手伝え! 引きづり出してやる」

 大声で他の兵士を呼ぶ。

 その声に、顔を庇いながら集まる兵士達。

 甲冑に覆われた身体は剥き出しの顔さえ守れば投石程度は多少痛い程度だ。

 男達は腰の剣を抜き、扉の隙間に差し込む。

 と、

 ゴスッ。

「あ? え?」

 背中に何かが当たる感触と、鈍い音。

 そして、突然胸から生えてきた棒状のナニかを見て兵士の一人が間の抜けた声を出した。

 何が起きたのかわからず、さりとて身体に力が入らず崩れ落ちる男。

 

 ピュン、ビュ。

「な?! ウグォ」

「な、何故だ? いったいどこで……」

 いきなり倒れた男の姿に驚いて動きを止めた兵士達に、続けざまに矢が射掛けられる。

 咄嗟に避けた兵士達だったが、一人が肩に矢を受けて呻き声をあげた。

「くそったれ! 武器は全部取りあげたはずなのに、どこかに隠してやがったのか! 一旦戻って応援を呼ぶぞ」

 射掛けた相手を探すために振り返った男の目に入ったのは、顔に投石をくらって蹲っていた男の背中から生える数本の矢だ。

 遠距離から矢で攻撃されるのは不利と考えた兵士は、武器をどうやって手に入れたのかという疑問をとりあえず抑え込み撤退を選択する。

 だが、そんな彼等の前に、今度は20人ほどの男達が立ち塞がった。

 全員が手に長剣や槍を持っている。

 いくら実戦経験が豊富なドゲルゼイ兵といえど、多勢を相手にできるわけもなくほどなく街の石畳に骸を転がすことになった。

 これまで買った恨みが影響しているのか、顔の判別すらできないほど無残な姿となり果てて。

 

 旧王都のあちこちで同様の事件が同時多発的に起こる。

 そして日暮れを待つこともなく、この場所のドゲルゼイ兵はひとりとして逃げることはできなかった。

 誰ひとりドゲルゼイ兵を助けようとするものはおらず、降伏した者もその日のうちに壮絶な拷問の末にその報いを受けた。

 わずか3000の兵はどこからともなく現れた完全武装の男達の手で全滅し、それはドゲルゼイ兵のいる全ての街で同じことが起こっていた。他国でも。

 

 

 

「ば、馬鹿な……ありえない……こんなことが……」

 ドゲルゼイ王国の王都ドルビス。

 大陸北部に一大勢力を作った大国の中心たる王都、栄華を極めたとドルヴァンが思っていたその壮麗な都。

 その王都の城門を前に、この地の主であるドルヴァンは呆然と立ち尽くしていた。

 広大な都をぐるりと囲む大門は、本来ならば日暮れと共に固く閉ざされ、近寄る者は屈強な精鋭達が鋭く誰何し不審者をけっして通すことはない。

 無理に通ろうとしても数百の部隊が瞬く間に制圧するはず、であった。

 だがいまは大門は大きく開け放たれており、守る衛兵はひとりも居ない。

 

 その門の向こうに見える景色はさらに信じられないものだ。

 王都の街並みのあちこちから黒煙と共に炎が上がり、大門から真っ直ぐに王宮まで続いている通りのいたるところに人の亡骸が転がっている。

 身につけている仕立ての良さそうな服装は明らかにドゲルゼイの民、王都の住民であろう。

 数多くいたはずの他国から連れて来た2等国民や3等国民は、視界に入る範囲では一人たりとも見あたらない。

 通りに面して立ち並んでいた商店は略奪にでもあったのか軒並み荒らされていて商品は何も残っていないようだ。

 そして、ドルヴァンの居城であった王宮は、まだまだ距離があるはずの大門まで熱が伝わってくるほど激しく燃え上がっていた。

 どれもこれもドルヴァンには信じられない、とても受け入れることができない光景だった。

 

「お、王都が、そんな……」

 帯同している兵士達にとってもそれは同じ。

 絶対の自信を持っていたシャルール王国への侵攻が失敗し這々の体で逃げ出したことも信じがたい事態ではあるが、帰ってみれば王都が炎上していることなどそれ以上に現実感が無い。

 ただただ呆然と燃え上がる王都を見つめるだけ、それだけしかできなかった。

 

「へぇ~、まさかとは思ったが本当にドゲルゼイの軍勢が惨敗して逃げ帰ってくるとはなぁ。

 何から何まであの胡散臭い男の言葉通りだってのは面白くないがな」

 不意にドルヴァン達の頭上から嘲るような声が投げかけられる。

「っ?! 誰だ!」

 その声で我に返ったドルヴァンが誰何の声をあげる。

 皮肉なことに、闇に閉ざされる時間でありながらあちこちで燃え上がる炎によって空が照らされ、街壁の上の人影にすぐ気がつくことができた。

 声の主も姿を隠すつもりはないらしく、灯りの魔法具を灯してその顔を晒す。

 とはいえ、煙を吸わないようにか、口元が布で覆われていて人相ははっきりとしない。だが声と雰囲気から女性であることだけはわかった。

 

「貴様は何者だ! 俺をドゲルゼイの王と知ってのことか!」

「おいおい、こっちは貴様の顔を忘れた日なんて一度たりとも無いってのに、貴様は私の顔を忘れたのか?」

 そう言って口元の布をむしり取り、目元に掛かっていた前髪をかき上げる。

 現れたのは顔の右半分が焼けただれ、右目も塞がった醜い火傷痕と憎しみの籠もった眼差しに凄惨な笑みを浮かべた口元だ。

「貴様に捕らえられ拷問に掛けられた王女の顔なんて憶えてないんだろうが、別に構わないさ。

 見ての通り、貴様の帰る場所は滅んだ。

 もう逃がしゃしねぇ」

 

 滅んだという断定的な言葉に気色ばむドルヴァン。

「滅んだだと? 馬鹿な事を! 王都には1万5千の兵がいたはずだ。貴様等程度が全て倒したとでも言うつもりか?

 それに間もなくドゲルゼイ軍の精鋭が戻ってくるぞ。そうなれば逆に貴様の故国をひとり残らず滅ぼしてやる」

 全軍をあげてシャルールに攻め入ったとはいっても、さすがに王都にはそれなりの数を残していた。

 歩兵を中心に1万5千名。中には騎竜兵の中隊や騎獣部隊も含まれており、仮に眼前の王女の国の軍が健在だったとしてもそうそう全滅などするはずがない。

 そう考えたドルヴァンだったが、それは頭上の女の哄笑によって崩れ去る。

 

「くはははは、この期に及んでまだそんな儚い希望に縋っていやがるのかよ。

 この街にいたドゲルゼイの人間は誰ひとり残っちゃいないさ。

 全員殺したというわけじゃないが、少なくとも今は誰もいない。

 兵士は皆殺しにしたし、抵抗した奴もその場で切り捨てた。残りは本国にいる我が民への土産として連れていったぞ。

 まぁ、生きてここに戻ってこられる奴は一人もいないだろうがな。

 良いことを教えてやろう。

 ドゲルゼイが占領していた国は、私の国も含めてすでに解放されている。

 もちろんそこにいたドゲルゼイの連中と貴様等に協力していた奴等もひとり残らず処刑した。

 遠征軍もほとんどがシャルール軍に殺されるか捕らえられるかしたらしいぞ。もはや貴様を助ける兵は誰もいない。そこにいる連中以外はな」

 

 その言葉に愕然とするドルヴァン。

 その場に居たドゲルゼイ兵も動揺を隠せず騒然となる。

「ふざ、けるな! 儚いだと? 良いだろう、俺を怒らせたことを必ず後悔させてやる! 今は退いてやる。だが、必ずドゲルゼイを復興させて再び貴様等を屈服させてみせるぞ!」

 腐っても身ひとつで王にまで成り上がった男だ。

 屈辱に打ち震えながらも今ここにいる800名では何もできないと冷静に判断してこの場を脱出することに意識を切り替えていた。

 幸いなことに戦場を離脱するために足の遅い歩兵は連れず、共に居るのは全てが騎兵だ。突破力では他の追随を許さない騎竜も30頭いる。

 騎竜を先頭にして南に抜ければどこの国にも属さない森林地帯に入ることができる。

 そこに隠れ里を築いてシャルールからの残存兵を掻き集めればそれなりの勢力を保つことが出来るはず。

 後は辺境の村や街を襲いながら物資を確保し再び攻勢に出ることもできる。

 ドルヴァンは瞬時にそう考え、大声で女を牽制すると同時に動揺している兵達を鼓舞して次にするべきことを示唆する。

 ほとんどの兵はドルヴァンの意図を察し、素早く周囲に合図を送ると騎獣や騎竜の背に飛び乗った。

 

 だが、結局彼等がその場を後にすることはついに叶わなかった。

 ドルヴァンの意図を察したのはドゲルゼイ兵だけではない。

 大門の上で言葉を交わしていた元王女もまたドルヴァンが何をしようとしているのか理解すると、手に持っていた灯りの魔法具を円を描くように大きく振る。

 その直後、ドゲルゼイ兵を囲むように多数の人影が姿を現し、同時に幾本もの矢が兵達に向けて放たれた。

 幾人もの騎兵が矢を受けて騎獣から転がり落ちる。

 身につけた甲冑をものともせずに貫くその威力は通常の弓ではなく、遠距離から容赦なく浴びせてきたシャルールの弓と同じものだろう。

 

「くっ! 構うな! 騎竜で突破せよ! 騎獣は後に続け!!」

 ドルヴァンが声を張り上げ、先陣を切って騎竜を突進させる。

 走り出した騎竜を止めることなど、それこそシャルールがしたように穴などの罠を仕掛けるか、あの常識外れの威力を持つ武器でも無ければ不可能だ。

 そう考えたドルヴァンだったが、今のこの状況を作り出した黒髪黒目の男がそれを把握していないはずがない。

 ドルヴァンが駆る騎竜の鼻先に打ち込まれた1本の矢。

 その先端が騎竜の顔を覆う甲冑にあたった瞬間、大きな爆発音が響き、騎竜はつんのめるような姿勢で転ぶ。

「うおぉ?!」

 空中に投げ出されるドルヴァン。

 辛うじて地面に叩き付けられることなく受け身を取ることができたらしく、二度三度地面を転がってからすぐに立ち上がる。

 

「何が起こった?」

 動揺しつつも後続の騎竜に引き上げさせようと振り返ったドルヴァンだったが、彼の見ている前で再び騎竜に矢が打ち込まれた。

 その矢は甲冑の隙間から騎竜の身体に突き刺さると、同じように爆音と共に破裂する。

 そのたった1本の矢で騎竜はその場に倒れ込み、もがき暴れる。

 残りの騎竜にも当然のように次々にその矢が打ち込まれ、わずか数十秒で30頭全ての騎竜が地に転がることとなった。

 

 ドルヴァンも見たことのない矢。

 だがアガルタ帝国の光神教騒動を知っているものならば、その矢が光神教が秘匿していた“爆裂矢”であることをすぐに理解しただろう。

 光神教が独自武力を持つことを禁じられ、教会が所有する過剰な武器類は帝国に接収されることになった。

 その際、この爆裂矢も当然回収されたのだが、伊織はこれを遺跡の資料を基に作った危険な代物としてカタール新帝王に報告した上でかっぱら、回収していたのだ。

 ただそのままでは複製される可能性があったため、術式を複雑に弄って威力を増すと共に複製困難にしたものをドゲルゼイの侵攻後も抵抗を続けていた各国のレジスタンスに提供したのだ。

 その際に、シャルールで生産した複合弓も製法などの技術は伝えずに現物のみを渡している。

 同時にアガルタ帝国やオルスト、グローバニエから余剰となっている武器甲冑を買い取って、それも一緒に引き渡していた。

 だからこそ武器を持っていないはずの被占領国の民衆が、少数とはいえ職業軍人からなる残存部隊を相手に反乱を成功させることができたのだ。

 

 騎竜が全滅してからも周囲を囲む者達からの攻撃は止むことはなく、むしろさらに激しく矢が降り注ぐ。

 あまりの勢いに騎獣を走らせるどころではなく、一部の騎兵が騎獣を降りてその身体を盾にして身を屈めることができたくらいでしかない。

 不思議なことにドルヴァンに矢が降ることは無かったものの、十数人が弓につがえた矢を向けておりドルヴァンは反撃の糸口を掴むことはできなかった。

 結局四半刻も掛からず、ドルヴァン以外ドゲルゼイ兵は一人も逃げることができず、半数が死に、残りは武器を捨てて降伏した。

 

「待たせたな。

 さて、どうする? 大人しく投降するか、それとも抵抗して手足を切り取られた上で捕縛されるか?」

 いつの間に降りてきたのか、大門の上にいた元王女が剥き身の剣を手に鋭くドルヴァンを睨んでいた。

「降伏など、するかぁ!!」

 ドルヴァンはそう叫ぶように吐き捨てると、最期の抵抗とばかりに大剣を振る。

 もとより武名で成り上がった男だ。

 王という立場からは考えられないほど素早く周囲を囲む弓兵に突っ込み、瞬く間に二人を切り捨てる。

 だが次の瞬間にはドルヴァンの太腿と肩を矢が貫き、一瞬動きが止まった隙を見逃さず元王女の剣がドルヴァンの右手、剣を持つ腕の肘から先を斬り飛ばした。

「ぐおぁぁぁぁ!!」

 多勢に囲まれ、剣を失い、利き腕までも無くしたドルヴァンにそれ以上の抵抗はできるはずが無く、あっさりと囚われの身となったのだった。

 

 

 

 バララララララ……

 シャルール王国の王城に大型輸送ヘリCH-47チヌークが着陸する。

 これまでに幾度も繰り返された光景なだけに、練兵場に整列しているシャルール兵の表情にも動揺の色はない。

 ヘリのローターが止まり、機体後部のハッチが開かれる。

「……なんてこった。本当にたった一刻で着きやがった」

「間違いなくシャルールの至宝、シュヴェール城ですな。いやはや、もはや笑うしかありませんぞ」

 ハッチから降りてきた顔を布で隠した女と厳つい大柄な男がそんな言葉を交わす。

 

「フォアリセ王国のクリーナ殿下、それからコッホグ将軍でお間違えありませんか?」

 出迎えたのはシャルール王国の宰相オリーベンだ。

「うむ。お招きに預かり光栄だ。

 そして、貴国の支援に心から感謝している」

「は。女王陛下にそのお言葉を伝えさせていただきます。

 他の方もすでに到着されておられます。

 慌ただしくて申し訳ありませんが、会議の場にご案内させていただきます」

 オリーベンはそう言うと先に立って王宮の中に二人を導いた。

 

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