第73話 光神教騒動の着地点

 帝都の中心にある王宮。そのまた中心にある帝王の執務室でカタールが手にした書類に署名し国璽を押す。

 現在カタールは帝王の代行として全ての執務をおこなっている。

 カタールとオッセル、ウイールの3王子による会談によって実質的に今後の帝国の政治体制が決定され、それに伴って帝王は『病によって君主としての務めを果たせなくなった』と布告された。

 そこで他の帝位継承権者全員の承認を経た上で正式にカタールが王太子の地位に就き、現在準備が進められている戴冠式の後に帝王として即位することになる。

 同時に帝位継承権第2位のオッセルは帝国軍元帥に、同7位だったウイールは宰相としてそれぞれ軍権と行政権を担うことも公表された。

 

 そして現在、この場所にはオッセルとウイールの姿もあり、カタールのデスクの対面にあるソファーに一組のまだ年端のいかない男女が緊張した面持ちで浅く腰掛けていた。その後ろには生成りの法衣に身を包んだ老人が目を瞑って立っていた。

 それを見つめるオッセルは厳しい顔を崩さず、ウイールは複雑そうな表情でカタールと少年達を見守っている。

 やがてカタールが書面の内容に不備がないか確認を終えるとそれをウイールに手渡した。

 ウイールもそれに素早く目を通すと少年の前に歩み出る。

 

「ホルカリウス・ド・ミンレム」

「は、はい!」

 少年、キーヤ大公領の公王であったホルカリウスがソファーから立ち上がり床に片膝を付く。

「帝国の名においてキーヤ大公領の帝室への返還と大公位の返上を承認する。

 そしてホルカリウス・ド・ミンレムを新たに侯爵に任じ、旧キーヤ大公領を領地として与える。

 ホルカリウスが成人を迎えるまでの後見人として光神教大主教セジューを指名し、帝室から補佐官を派遣する。

 当面の間、領主としての決定には両者の書面による同意が必要なものとする。

 その他侯爵領の権限に関しては貴族法に定められた範囲において認める。

 以上だ。

 異議は無いか?」

 

 ウイールが宰相として書面を読み上げ最後に意思を確認する。

「はひっ! は、拝命いたします!」

 噛んだ。が、大公の後継者だったとはいえ、つい先日まで監禁状態にあった少年である。

 帝国の重鎮に囲まれているような状態で、しかも和やかな雰囲気とはとても言えない中で緊張するなというほうが無理だろう。

 ホルカリウスが任命書を受け取ると、次にカタールが背後に立つセジューに視線を移す。

 

「キーヤ光神教大主教セジュー。

 実質的に教会を支配していた首謀者カリファネスが死んだとはいえ、今回明らかになった長年にわたる非道な研究と組織的な多数に及ぶ信徒の拉致及び殺害は看過できるものではない。

 先の内乱未遂事件と併せて教会の責任は重い。

 しかしながら教会が大陸西部において民衆の精神的支柱となっているのも事実であり、光神教の教義そのものは大道に反するものではない。故に教会の存続及び布教活動は今後も認める。

 但し、教会及び現在司祭以上の地位にある聖職者が持つ資産は教会の運営と生活に必要な最低限のものを除き全て没収することとする。

 そして今後傷病者の治癒及び公益性の高い魔法以外の研究と修練は禁止とし、魔法及び古代遺跡に関する資料を保持することは認めない。

 貴殿はミンレム侯爵の後見人として侯爵の補佐をすると共に、旧公国の民衆の動揺を抑え、教会の責任者として綱紀粛正を図り組織の正しい姿を取り戻せ。

 同時に帝都から派遣する監査団と協力し教会の実情を調査し、その犯罪行為をつまびらかにせよ」

 

 カタールがそう命じると、セジューは深々と頭を下げた。

「承知致しました。

 教会の不祥事は例外なく全ての聖職者の責任でございます。私自身もそれは同じ。

 老骨の身ではありますが残りの生を全てなげうって教会を建て直していきたいと存じます。

 そして前大公の遺児であるホルカリウス様を救ってくださり、心よりお礼申し上げます」

 セジューがそう言うとカタールは小さく頷いた。

 これでこの度の会談は終了となる。

 公的には、だが。

 

 一同は執務室から隣接する別の部屋へ移動する。

 十数人程度が座ることのできる椅子が用意された会議室である。会社の小会議室やミーティングルームといった感じの部屋だ。

 全員が席に着き、ウイールが侍女を呼ぶとすぐに彼女たちはお茶の用意を調える。

 ここからは非公式の場だ。

 

「さて、まずはミンレム侯爵。よくぞ大公領の返上を決断してくれたな。貴公がそうしなければ帝国としてはかなり強引な手段を執らざるを得なかったかも知れん」

 カタールは言葉の内容とは裏腹に、その口調と視線は先程までとは違い柔らかいものになっていた。

「い、いえ、その、わ、私には力がありません。だからカリファネス大主教を止めることができませんでしたし、私の父があの者に害されたのだと知ったのも後になってからのことです。

 信頼できる人もアリアしかいませんでしたから、ただの子供でしかない私では公国を治めることなんてできません。

 なにより、公国で教会がおこなってきた犯罪は大公家の責任です。大公は教会のトップでもあったのですから。ですが、本当に良いのでしょうか」

 

 未だせいぜい十代前半の少年とは思えないほどしっかりとした口調だ。

 よほど前大公が生前しっかりと教育を施していたのだろう。そしてホルカリウスもあのような人格と感情を破壊された人形のような人間に囲まれた監禁生活でよくまともな精神を維持できたものである。

「貴公自身に非がないことはさすがに承知している。救出された状況も報告を受けているしな。

 とはいえ、前大公が死去してすぐにカリファネスによって監禁されたとはいえ名目上の後継者は貴公だからな。何の責任も問わないというわけにもいかなかった」

「まぁ、イオリ殿に釘を刺されましたからね。それに敬虔な信徒がほとんどを占める旧公国を帝都が派遣した代官が上手く治めるのが難しいのは確かですし」

 カタールの後にウイールが言葉を継いだ。

 

 ここにこうして帝国の重鎮と公都の地下から救出されたホルカリウスが集まっているのは他でもない、伊織が連れてきたからだ。

 公都の大聖堂地下でカリファネス大主教を激闘、いや傍から見たら単なるリンチだったが、の末、見事に倒すことができた伊織達はリゼロッドと香澄、セッタにホルカリウスとアリアの保護を任せ、英太とルアエタムを伴って隅々まで地下施設を捜索し残っていた改造人間達を殲滅して危険物と資料を封印して回った。

 ついでに行政府にいた高官達を問答無用で捕縛。その後、大型輸送ヘリCH-47チヌークでホルカリウス達と一緒に帝都まで移送してカタールに経緯を報告した。

 当然のことながらあまりの事態にカタールはすぐさまウイールとオッセルを招集して対応を協議。

 とにかく詳しい調査を、ということで調査団と護衛部隊を編制してそれを伊織が公都までまたまた移送した。

 

 その際に焦点となったのが光神教の扱いと公国を支配する立場であったミンレム大公家の責任に関してだ。

 高度な自治権を有するとはいえ、公国はあくまで帝国の属領である。

 帝国にとって不利益となることは許されないしその領民は同時に帝国の国民でもある。

 その公国が帝国の帝位継承に関連して内戦を企図したり、帝国の法はおろか明らかに人道に反した研究や実験をおこなっていたとなればその責任を追及する立場に帝国はある。

 それを考えれば公国と光神教の起こした一連の事件は到底看過できるものではなく、公国の君主である大公の責任も追及しないわけにはいかない。

 たとえそれが年端のいかない子供であろうと大公位の正当な後継者であれば逃れることなど許されないのだ。

 

 幼いながらもその自覚をもっていたホルカリウスは、伊織に連れられて王太子であるカタールと会ったときに自身と公国に対する処罰を申し出た。

 つまり公国の自治権の放棄と領地の返上、それから大公位の返上である。

 その上でホルカリウスは従者として身の回りの世話をしてくれていた乳姉弟であるアリアと犯罪に加担していない信徒達の助命を願った。

 自分自身と、逆らえなかったとはいえカリファネスに従って研究などに加担していた者やそれらを知りながら行動を起こさなかった行政府の役人達に関しては死をもって償うべきとも付け加える。

 カタールとしても公国の存在は帝国の未来を考える上で懸念材料として頭にあったためウイールやオッセルと協議した上でその申し出を受けることにしたのだ。

 帝国の庶民の暮らしを維持するために光神教の存続は認めなければならなかったが、問題のあるサティアス派はほぼ壊滅状態であり首領であるカリファネスも死んでいる。

 長年帝国の干渉をほとんど受け付けなかった分統治には苦労するだろうが内政も落ち着いてきている状況なのでなんとかなると考えていた。

 

 そこに伊織からの横槍が入った。

 曰く、『ガキに責任を被せてんじゃねぇよ。元はといえばこれまでの帝王が無能だったからあんなマッドサイエンティストが好き勝手できたんだろうが。そもそも今回はオマエらは大したことしてないし解決したのは俺達だ。だいいちホルカリウスを処刑したら統治どうやってやるんだ?」と言って大まかな草案をカタールに押し付けたというわけだ。

 伊織の言葉にも一理あるし、なによりたった数日で教会を実質的に壊滅させるような人物を敵に回したくない。

 

 そんなわけで冒頭の書面の通り、大公領は自治権を放棄して侯爵領として帝国に改めて組み込まれることになった。

 そしてホルカリウスは教会の暴走を止められなかったことを大公家の後継者として責任を取るという名目で侯爵に降爵し、同時に定期的な領地の査察と監査官の常駐がおこなわれることになった。

 心配なのはホルカリウスが一度も公の場に姿を現したことがなく領民に顔を認識されていないことだ。前大公の時代から仕えてきた者達は全てカリファネスの手によって所在がわからなくなっており、唯一アリアのみがホルカリウスが前大公の嫡子であり正当な後継者であることを証言している。

 だがアリア自身も共に監禁されていたためにその存在を知っている者は居ないため証言に意味が無いのだ。

 しかしそこも非常識なオッサンがいつの間にやら英太や香澄の装備に仕込んでいた小型カメラによって撮影された映像と音声を公都で公開することで解決の目処がついている。

 

 一連の出来事を思い出したのか、カタールが頭痛を堪えるかのようにこめかみを押さえて盛大な溜息を吐いた。

 第3王子らの企てたクーデターも今回の公都の大主教による非道な研究も、どれも国家を揺るがす大問題である。

 にもかかわらず、異国の、それも帝国の干渉を一切受け付けないような非常識な者達が、引っかき回した挙げ句にカタール達になにもする隙を与えず解決してしまったのだ。

 為政者としては問題が解決して良かったね、とはとても言えないわけで、さらにその後始末だけはしっかりと押し付けられている。

 帝国自身が問題に取り組んだとしても同様の、いやそれ以上の苦労があったであろうことは間違いないのだが、散々暴れ回った挙げ句に『後はヨロシク』とぶん投げられれば文句も言いたくなるというものである。

 

「とにかく、できるだけ早急にセジュー大主教には教会の建て直しをお願いする。これ以上の混乱は御免だからな」

「承知しております。侯爵閣下と共に粉骨砕身取り組むことにいたします。

 幸い抵抗する勢力は今回の騒動で一掃されましたから人手不足を除けば問題ないでしょうな。

 しかし……まさかあの化け物となったカリファネスをも歯牙にも掛けないとは」

 セジューが苦笑気味にこぼす。

「不老不死の化け物か。愚かな権力者が望みそうなことだが。まさかそんな魔法が実在したとはな」

「魔法というよりは人体の改造という感じでしょうか。神にでもなるつもりだってのでしょうか。もっとも完璧ではなかったようですが」

 カタールとウイールも顔を見合わせて肩を竦める。

 

「あの連中がそれ以上の化け物だったってことだろうよ。もしかしたら本当にキーヤ神が遣わしてくれたのかもしれねぇが、俺としては二度と関わりたくねぇよ。

 それより、良かったのか?

 教会が持っていた古代魔法の文献や研究資料を奴等に全部渡して。

 カリファネスがやってた物騒な魔法も含まれるんだろ?」

「帝国に有用な魔法資料は写しを提供してもらえることになっている。しかしそれ以外は将来の禍根を絶つためにも破棄するべきだ。

 元々の約定で彼等に内容を閲覧させなければならないのは変わりないし、そもそも彼等の目的はそれらの資料だ。である以上全部引き渡してしまっても構わないだろう。むしろ下手に帝国内に保管すれば我々の代はともかくいずれ悪用しようとする者は必ず出てくる。

 それくらいなら彼等の手で管理してもらったほうが安全だろうさ。カリファネスがしていた悪趣味な研究資料はすぐさま廃棄してくれるらしいからな」

 帝国の舵取りという重責を担うことになったカタールの出した結論は、徹底して伊織達を距離を取ることだ。

 ある意味それが一番利口な選択と言えるのかもしれない。

 

 

 

 

「よし! これでめぼしい資料は粗方回収できたな」

「そうね。これを全部これから精査することを考えるとちょっと途方に暮れるけどね」

「残すのは一次資料だけで良いのよね? 教会の研究結果とかの資料は全部焼却処分ってことで」

 帝国の王太子に後始末を全て押し付けた伊織達は再び公都の大聖堂地下に来ていた。

 伊織が魔法道具による結界で封印した古代魔法王国時代の資料を回収するためである。

 それが終わったら再びこの遺跡が悪用されることのないように魔法増幅など様々に施された古代の魔法を全て解除する予定となっている。

 

 資料の保管庫には膨大な量の発掘された魔法道具や古文書、魔導書などが保管されており、伊織達は異空間倉庫から一辺2メートルほどのコンテナを出して、それらを段ボールに詰め込んでから中に運び入れていった。

 当然コンテナひとつでは到底間に合わず、結局4つのコンテナを一杯にしてようやく終了した。

 資料の分類と整理は改めてリゼロッド主導でおこなわれることになっている。

 地下施設に残っているのは後は教会が研究していた魔法の実験結果や研究資料などだが、それらは一次資料が紛れ込んでいないかどうかだけ確認してからすべて焼却することにした。

 

「一応、感謝しておいた方が良いのでしょうね」

 皮肉気にそう言うのは辺境の聖人と呼ばれ、帝都の教会で大主教の地位に就くことが決定しているルアエタムだ。その傍らにはセッタともうひとり、辺境のカリツの街でルアエタムに付き従っていた猟犬を思わせる容貌をしたパタロである。

 もちろん彼等がここにいるのにも理由がある。

「別に感謝する必要なんざないけど? 俺達は俺達の目的を果たすためにやってるだけだしな。逆に遺跡を探してあちこち探し回る手間が省けて感謝してるくらいだぞ?」

 ルアエタムの皮肉をそのまま返したような伊織の態度にパタロの視線が鋭くなる。

 どうにも人をくったような態度の伊織と生真面目でルアエタムに心酔しているパタロは相性が悪いらしく、特にパタロの方は伊織を毛嫌いしているようだ。

 最初に伊織とルアエタムが会ったときに歯に衣着せぬ言葉でルアエタムやセジュー派を批判したのを根に持っているのかも知れない。

 

 とはいえそんなパタロの態度も伊織にとってはどこ吹く風。

 睨み付ける視線には変顔で応じてさらに怒らせるという悪循環をわざわざ生み出している。

 一層鋭くする視線に対し、ギンッと音がするほど睨み返したのは伊織ではなく伊織にコアラのようにしがみついているルアだったりする。

 幼子の純粋且つ全身全霊のメンチに怯むパタロ。

 見ちゃいけないものを見たかのようにそっと視線を外してそっぽを向いた。子供を侮っちゃいけません。

 特に今はたった一日に満たない時間とはいえ不安な気持ちを抑え込んでのお留守番から解放され、反動からか一瞬たりとも伊織から離れようとしていないのだから、至福の時間を不躾な視線で邪魔をするパタロは完全にルアに敵認定されているようだ。

 

「まぁ心配しなくても悪用なんざしないさ。面倒臭いしそもそも必要無いからな。

 特に危険な魔法に繋がるような資料は目的を果たしたら確実に廃棄するぞ。だからわざわざこうして監視も許してるんだ。あの爺さんにもそう言っとけ」

「そうねぇ。それにそもそもこれまでなにもしてこなかったのに諸悪の根源が居なくなった途端に注文付けるってのが筋違いじゃないかしら?」

「……わかっていますよ。今更文句を言うつもりはありません。心配なのは確かですがね」

 リゼロッドにまで皮肉を返され、結局引き下がったのはルアエタムの方である。

 セッタはというと、困ったような顔で一歩退いていた。

 

 ルアエタムとパタロがここにいる理由。

 それは教会が保有している魔法資料を二度と悪用させないため、セジュー大主教の要請で公都に潜り込んでいたからだ。

 といってもルアエタムもパタロも人外と化したカリファネスやその側近達に対抗できるほどの武力など持ち合わせていない。

 もちろん布教のために少人数で辺境を旅する必要もあるためそれなりに腕に覚えもあるし、戦闘に有用な魔法も取得している。

 だがそれは所詮護身術程度のものでしかなく、特殊能力を得て戦闘や暗殺に特化した私兵達や得体の知れない回復力を持つカリファネスと戦えるほどのものではない。

 なのでルアエタム達は公都に潜り込んだ後は機会を窺い、伊織達が侵入した混乱に乗じてセッタは外部から地下に増援がくるのを妨害することになりルアエタムは単独で大聖堂の地下に潜入したのだった。

 

 予想した通り、伊織達(実際には英太達)は一切隠れることなく堂々と侵入していたために私兵達はほとんどそちらに向かっており、ルアエタムはできるだけ気配を殺すといった程度にもかかわらず見つかることなく奥まで進むことができていた。

 そして慎重に資料の保管庫に近づいたところで見張りをしていた異形の私兵に出くわした。

 逃げる振りをして保管庫の中に油を撒こうとしたところで伊織が私兵を瞬殺し、油壺も取りあげた。当然である。

 火を着けられてでもすればなんのために公都まで来たのかわからなくなってしまう。

 とりあえず伊織はルアエタムをぶん殴って気絶させ、数分後に目が覚めた時には入ることのできない結界で保管庫を覆われていた。

 ついでに伊織がとてもイイ笑顔でルアエタムを見ていた。

 

 というような経緯で余計な真似をしないように伊織が監視しつつ英太達に合流したというわけだ。

 ルアエタムの要求としては教会が保有する全ての資料の破棄だったが、それは伊織が当然拒否。

 結局王太子であるカタールとの協議で人道に反せず有用な魔法の資料は複写を帝国に提供し、それ以外はリゼロッドの研究資料以外に使用せず、他者に譲渡しないという条件で全て伊織達が保有することが認められた。

 教会が研究していた魔法や魔法道具にかんする資料は伊織もリゼロッドも『悪趣味』と吐き捨て焼却することに。

 ルアエタムも渋々ではあったが同意した。

 ちなみにジーヴェトはルアの面倒をきちんと見ていたということで臨時報酬を渡したので今頃は街で呑んだくれていることだろう。

 

 それともう一つ。

 地下施設の一番西側にあった比較的大きな部屋を調べたところ、部屋からは夥しい数の人骨が発見された。

 おそらくは数千名に及ぶ魔法実験と魔力強奪の犠牲者たちの遺骨だ。

 それを見た伊織は完全に表情を消し、英太を伴って一度地上に戻った。

 そして、行政官に指示を出して、成人している公都の住民を、妊婦や幼子を抱えた母親を除いてその場所まで連れて行き、住民自らの手で運び出させた。

 

「これが、私達の罪、ですか……」

 沈痛な表情でひとつずつ素手で遺骨を運び出す住民達の列。中には涙や吐瀉物で服を汚している者も少なくない。

 その人々を見ながらルアエタムが呟いた。

「言い訳なんぞに意味はないからな。セジューの爺もお前さんも俺からすれば他の連中と大して変わらん。後は自分で考えな」

 突き放すような伊織の言葉が永くルアエタムの耳に残った。

 

 

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