第59話 歓迎の顛末と次の戦闘準備

「うぅ……」

(ここは、どこだ? 俺はいったい)

 うっすらとした意識でぼんやりとそんなことを考える。

(客室に忍び込んで、そこに……)

 そこまで思い至って男の意識が一気に覚醒する。

(そうだ! そこに奴が、ウイール殿下が連れてきたという異国人の男が居た。それから……短剣を抜いて奴に向かって……どうなったんだ?)

 

 男はウイールの居室となっている第4帝室宮南側2階に忍び込んできた影達のひとりである。

 侵入した途端に鍵を掛けられて閉じ込められたが任務を優先して伊織達が滞在している可能性の高い客室に入り込んだものの、何故かあっさりと気付かれてしまった。

 だが気付かれるのもある程度は想定していた。

 そのために今回選抜された者達は侵入や暗殺の能力だけでなく戦闘能力も非常に高い。実際に経験があるわけではないが騎士団の中で剣技に優れた者と戦っても圧倒できるだけの実力があると目されていたのだ。

 

 だから、突然明るくなった部屋に標的である異国人伊織が居ると認識するとすぐに排除すべく動いた。

 毒の塗られた短剣を抜き、退路を確保している2名を除いて3人で一斉に伊織に飛びかかる。

 毒の武器を持っていることを考えれば非常に危険な手段だが彼等自身は毒の耐性が高いし解毒剤も所持している。なにより確実に任務を果たすために手段を選ぶことなどあり得ない。

 だがその後の記憶は途切れている。

 身体ごとぶつかるように短剣を突き出した。が、貫いたのはソファーの背もたれで、そこに伊織の姿が無い。そう認識したところまでは覚えているのだが。

 

 そこまで思い出したことで男の喉に苦いものがこみ上げてくる気がした。

 任務に失敗した、ということだ。

 ウイールの下に得体の知れない異国人がやってきてから内部の状況が分からないという不安要素の多い任務だったとはいえ、何一つできないまま、それも何をされたのかすら分からないというのは男のこれまで築き上げてきた自信を跡形もなく壊してしまうほどの衝撃を与えた。

 だがそれでも男は国家の暗部として厳しい訓練を重ねてきた。

 すぐに意識を切り替えて今の状況を確認するために自分と周囲を探る。

 ちなみにここまで男の身体は微かに身動ぎしただけで目を開けてすらいない。これも男が並外れた間諜或いは暗殺者としての実力を持っているという証左である。

 

(横にさせられている? だが身体は、よし、動く)

 男としては意外なことに拘束されているわけでなく、少しずつ身体に力を入れていっても痛みも違和感も無い。

 床は石造りや木板のような堅さはなく、かといって絨毯のような柔らかさもない、奇妙な弾力のある感触が触れた手から伝わっている。

 目を閉じたまま気配を探っても人がいないようなのでゆっくりとまぶたを開ける。が、目に映るのは同じ暗闇だった。

 身体を探るとさすがに武器の類は取りあげられたらしく、刃物や薬品もわずかな針すら残されてはいない。

(閉じ込められているのか)

 そう思い、身体を起こした男は周囲に顔を巡らせ、それまで背中側になっていたであろう方向を向いた瞬間、驚愕で思考が停止する。

 

 そこにあったのは火の灯った蝋燭。

 どこにでもある、なんの変哲もない燭台に刺さった物だが、逆にそのことが男の消し去ったはずの恐怖心を呼び起こした。

(火が?! な、ど、どういうことだ?)

 男の頭は混乱の極地にあった。

 男は間諜であり暗殺者だ。

 深夜にこの第4帝室宮に迷い無く忍び込める程度に夜目が利く。

 それこそわずかな光があれば常人では一歩踏み出すことすらできないほどの暗闇でも昼間と変わらないほどに行動することができるほどだ。

 その自分がすぐ背後に火の着いた蝋燭があったのにも関わらず周囲を暗闇だと認識していた。

 目がおかしくなったわけではない。

 その証拠に火の灯りに浮かび上がる蝋燭も、自分の身体を照らす光もはっきり見ることができている。

 なのに。

 

(影が、ない?)

 床には光も映し出す影もできていない。

 蝋燭の影も自分自身の影も。

 そして、灯りがあるにも関わらず周囲を見通すことができない。

 男は震える手でそっと蝋燭を片手で持ち上げ、もう片方の手で床に触れる。そこには確かに奇妙ではあるが確かな感触がある。

 だが火を近づけてもまるで漆黒の闇に呑み込まれたかのように光は溶けてその存在を照らし出すことはなかった。

 

 火の着いた蝋燭の脇に同じ太さの蝋燭が3本置いてあることに気付く。

 比べれば火の着いた方は半分ほど短くなっているようで、試しに新しい1本に火を移すがそこから生まれた灯りも影を作ることはなかった。

 ブゥン……

『あ~あ~、気がついたようで何よりだ。歓迎の印としてこれまでにしたことはないだろう体験をしてもらおうと思ってその場所に招待させてもらった』

 微かに空気が震えるかのような奇妙な音の後に声が聞こえてくる。

 だが音の聞こえ方もおかしい。

 籠もったような、どこから聞こえてくるかも判然としない、違和感だらけの声。

「ここはどこだ! いったい何をするつもりだ?!」

 反射的に男が叫ぶも、その声ですら普段の自分の声とは思えない奇妙な響き方がして尚更混乱する。

 

『普通のパーティーで歓迎しても大人しく聞きたいことが聞けるとは思えなかったんでな。色々と教えてほしいんで素直に喋ってもらいたいんだが無理だろ?

 だから喋りたくなるまでそこにいてくれ。

 あ、そうそう、蝋燭はそこにあるので全部だから、燃え尽きる直前に移し替えれば多分一刻くらいは保つと思うぞ? んじゃな』

 男の質問に答えることなく一方的にそれだけ言ってそれ以上声が聞こえてくることはなくなった。

(なんなんだ? なんのつもりだ?)

 男は内心でそう叫びながらも表面上は平静を装い、それでも急いで一方の蝋燭を吹き消す。

 このような異常な空間では蝋燭が1本であろうが2本であろうが大して違いはない。それよりも灯りが無くなることの方が不安で少しでも長く保たせるためにそうしたのだ。

 

 そうしてたったひとつの頼りない灯りを手にすると、男は慎重に立ち上がる。

 風で吹き消されたり何かにぶつかって火が消えてしまわないように、予備の蝋燭も持ちながらゆっくりと歩き出す。

 しかし十数歩歩いただけで闇を探っていた片手が壁のような物に当たる。

 次にその壁に触れながら壁伝いに移動する。

 結果分かったことは、ここが小部屋ほどの何も無い空間であることだけだった。

 全体が床と同じような奇妙な感触の素材で囲まれ、光は呑み込まれ、音も響くことなく消えてしまう。

 まるで何も存在しない虚無の空間にたったひとり迷い込んでしまったかのような場所。

 

 そこまで認識したところで、男の奥底から止めようもなく恐怖の感情が溢れてくる。

 苦痛に耐える訓練はこなしている。

 いざとなれば自らの命を絶つことも躊躇いはしない。

 だが、生物の持つ根源的な恐怖感を無理矢理呼び起こされた男の心は立ち直る切っ掛けを掴めない。

 ジジッ…

 呆然としているといつしか手にした蝋燭は今にも手の上で燃え尽きそうなほど頼りなくなっており、男は慌てて新しい方に火を移し、殊更ゆっくりと腰を下ろしながら床に燭台ごと蝋燭を立てる。

 

(今は何もできることがない)

 内心でそう言い訳するが、実際にはそうでないことは男自身も自覚している。

 それどころか止めどなく溢れる恐怖でどうにかなりそうな感情をなんとか堪えるのに精一杯で冷静な判断など出来そうにない。

 言ってみれば単なる暗闇であり、音が反射しないだけの空間である。

 生来目が見えない者や耳が聞こえない者であれば当たり前のように身を置いている環境に過ぎない。

 実際に男も何らかの事故や病で目や耳の機能が失われたとしてもこれほど動揺することは無いだろう。

 だがそういうことではないのだ。

 目は見えている。耳も聞こえている。

 なのに蝋燭自体と自分の身体以外に影は映し出されず、声は耳を強く塞いだときのようにしか聞こえてこない。

 知っているようでいて知らない、理解不能な空間。

 それは理性を超えた本能的な恐怖。

 もはや男は蝋燭が少しずつ残り少なくなっていくごとに増え続ける不安に押しつぶされ、自らの命を絶つことすら脳裏に浮かばないほど混乱するだけだった。

 

 

 

 宮殿の最奥にある帝宮に隣接する太子宮。

 本来帝王位を継承する事が確定している王太子が住むことになっているこの建物には、現在第1帝位継承権者であり後継者最有力候補とされているカタール・セラ・ド・アガルタが暮らしている。

 帝王の正妃の長子であり、年齢は30代の半ば。

 帝王が『後継者は……』云々と言い出すまで周囲から当然のように後継者として見なされ、実際に太子宮に居室を移すことも帝王から許可を得ているため事実上の王太子として扱われてきた。

 加えて王族としての公務も王太子として過不足無くこなしており、最高位の貴族たる公爵家からの後ろ盾もある。

 本来ならば押しも押されもしない後継者であるはずであった。

 

 そんなカタール王子は太子宮の執務室で執事からの報告を受けていた。

「どうやら宰相府はウイール王子の責任を追及したいようですが行政府はこのまま黙殺したいと考えているようです」

「リーハイト公も短慮なことをしたものだ。レヴィンが唆したとはいえレビテンスに甘すぎるな。だがそれは放置しておいて構わない。どちらに転んだところでこちらには影響がない。

 それよりも、ウイールが連れてきたという傭兵のことは何か分かったか?」

「はい。

 ですが、どう報告して良いものか」

 いつになく歯切れの悪い執事の言葉に眉を顰めるカタール。

 

 眼前の初老の男は執事という立場ではあるが、実質的にはカタールの副官的な立ち位置であり、その能力はカタールも高く評価している。

 出自が爵位の低い家であったためにカタールの私的使用人という地位でしかないが、長年カタールに仕えている信頼する部下である。

「まず、ウイール殿下が行政府に報告したとおり、かの者達は大陸南部の大国オルスト王国から来たというのは間違いないようです。それもかなりの高位の地位にあるとか。

 そして、先日報告したカタラ王国から光神教会の聖騎士が追放された件とカタラ王国が主導する治癒師及び魔法具製造者育成のために大陸南部の国から技術者を招聘したという件でも中心的な役割を果たした者と同一であるようです」

 

 その言葉にカタールの目が鋭くなる。

「ほう、あの教会が神敵認定したというのがウイールの連れてきた異国人だと?」

「そのようです。カタラ王国に派遣していた者がつい先日報告に戻ったのですが、その時に確認させました。

 報告ではあの者達が提供したという医学書と魔法具の資料の内容をほんの少し見ることができ、それは驚くほど高度なものだったと」

「……俄には信じがたいが、事実だとすると腑に落ちる、か。

 それで? その者達は教会と敵対していながら教会の総本山たる帝国にやってきた目的はなんだ?」

「そこまでは分かりかねます。ただ、その異国人達が連れている者にセジュー派の騎士とサティアス派の騎士が居るようですが」

 

 報告にカタールの顔がますます難しいものになる。

「教会の弱体化は望むところだが、なんのつもりだ?

 セジュー派を取り込んで何かを企んでいるのか、それとも別の目的か。

 こうなるとウイールの情報が入らなくなっているのは不安要素が大きいが、さりとて異国人達の手の内が知れぬうちは迂闊に手を出すのは悪手か。

 とにかくウイールに近づく人の動きとアルグラッド子爵家を探らせろ。だが手は出すな。

 それから、ウイールと異国人が教会と接触するようならすぐに報告させろ」

「承知致しました」

「できればその異国人達の為人や目的を探りたいところだが」

「そうですな、来月御母君、シメーナ様の誕生を祝う晩餐会がございます。その時にウイール殿下に帯同されるよう要請されてはいかがでしょう」

 執事のその提案にしばし考えた上で頷いたカタールは調整をするように指示し、部屋を出ていく執事の背中を見ながら呟いた。

 

「異国人、一筋縄では行きそうにないが、帝国で好き勝手させる気は無いぞ」

 

 

 

 帝都内にあるアルグラッド子爵家の屋敷。

 帝国では下位貴族に分類される子爵家であるため大きさとしては裕福な商人と同じ程度でしかないが、そもそも本邸は領地にありあくまで帝都での仕事などの間滞在するための家であるのでそれほど不都合はない。

 ただし、それは普段ならということであり、王族のひとりで今や帝位継承の有力候補のひとりに祭り上げられてしまったウイールが訪問するとなればそうもいかない。

 屋敷の大きさなどは今更どうしようもないのだが、前日から使用人総出で隅々まで磨き上げて迎える準備はできるだけしっかりと行った。

 ましてやウイールは地位だけでなくアルグラッド子爵家にとっての大恩人でもある。ということで当主に代わって帝都の屋敷を切り盛りしている家宰や諸事情により帝都に滞在したままだったカレリア嬢の気合いは少々空回り気味だったとはいえ無事に屋敷はウイールと伊織、ルア、英太、香澄、リゼロッドを迎えていた。

 

「それじゃぁ結局捕まえた連中は解放したんですか?」

「ああ、本来宮殿内への侵入者の取り調べや処罰は近衛騎士団の管轄だから私が勝手に処断するわけにはいかないし、必要な情報は聞き出せたからな」

 案内された応接室で、別行動となっている女性陣を待ちながら英太とウイール王子が先日の第4帝室宮へ忍び込んできた者達の処遇を聞く。

「事前に説明を受けていてもいまだにああまであっさりと帝国が誇る暗部の工作員が捕まったのが信じられないよ」

 そういってウイールが複雑そうな顔で肩を竦める。

 

 あの時、3人の侵入者に襲いかかられた伊織は、攻撃を躱しざま至極あっさりと3人を叩きのめした。それも各一撃で意識を刈り取って。

 退路を確保しようとしていた残りの2名は英太と香澄によって同じくあっさりと捕らえられたのだが、ウイールが驚いたのはそのこと自体ではなく、侵入者が第4帝室宮に近づいて来た時点ですぐに伊織達にその存在が捕捉され、その後もずっと監視していたという事実だ。

 用意周到な伊織だ。

 宮殿内に戻ってきたことで危険は少なくなったとはいえ油断することなどあり得ない。

 帝室宮周囲と建物内にいくつものセンサーと隠しカメラを取り付けて常に監視していた。

 ウイールはいくつものモニターが外や居室内部のいくつもの場所をリアルタイムで映し出すのをもはや何度目かも分からない驚きを持って確認している。

 あの日も深夜に接近する男達の存在は早くからセンサーからの警告音で気付き、手ぐすね引いて待っていたというわけである。

 

 無論、開けたはずの扉が開かなくなってしまったのも伊織が別口で取り付けた電子錠の仕業である。

 無線で遠隔操作でき、解錠鍵を持っていなければ開けることができないという優れものだが、現代日本ではそれほど珍しいわけではないのはご承知の通り。

 後は伊織達が待ち受ける客室に誘導するだけだったのだが、運の良いことに(侵入者達にとっては運の悪いことに)真っ先に入ろうとしたのがその部屋であり、全員が客室に入ったのを見計らって気配を殺していた英太がリモコンで照明を点灯させたのである。

 その常識の遥か上空をぶっ飛んでいく状況に、ウイールと護衛隊長のヴェルフェンは別室のモニターでその様子を見つつ、背中に流れる冷や汗を止めることはできなかったらしい。

 

「それにしても、あの部屋、闇そのものを持ってきたかのような部屋にも驚いたな。ヴェルフェンもあまりの恐ろしさで足が震えたと言っていたぞ。

 あれもイオリ殿達の国にありふれているのだろう?」

 これはもちろん捕らえられた男が放り込まれた漆黒の部屋のことだ。

 あれも伊織が使用人用の部屋のひとつを借りて用意したもので、特殊な塗料で塗られた吸音素材のパネルを床や壁、天井などに隙間無く張った。

 当然特殊なカメラやマイク、スピーカーなども設置されている。

 

「あれは確か光を99%以上吸収する塗料で、そこまで一般的じゃなかったような気がするけど、まぁそうですね。

 ただ、訓練受けた暗殺者が自白しまくるとは思わなかったですけど」

 英太はそう答えるが、実際の効果は現代日本人からは想像できないほどのものだ。

 サリーナノシステム社が製造するベンタブラックはカーボンナノチューブで構成された可視光線の99.965%を吸収する特殊な塗料で、これを塗布された物質は光を当ててもほとんど反射することがない。

 伊織はこれを吸音材として特殊な環境で使用される繊維系吸音材に蒸着させてボードを作り、それを全面に貼り付けてあの空間を作り出したのである。

 

 現代知識を持っている者からすれば単に気色の悪い空間で済むのであろうが、そのような物質の存在どころか光の性質や音の性質、視覚聴覚に関する知識が乏しい中近世然とした異世界の住人からすればお伽噺に出てくるような地獄や魔界にも等しい空間と言えるだろう。

 そんな場所に事前の説明もなしに放り込まれれば理性など吹き飛んで原始的な感情が優先されてしまうのも無理はないのだ。

 おかげで全ての蝋燭が燃え尽きる前には恐怖で半ばパニックになった暗殺者たちは知っている事の全てをベラベラと聞きもしないことまで喋りまくっていたのだから恐ろしい。

 誰も行政長官が庭師の頭領(52歳男性)と深い仲だとか、第3王子の住む第1帝室宮の侍女長(48歳女性)が騎士団の騎士見習いの10代半ばの少年達にセクハラ三昧だとかを知りたいわけではないのだが。

 

「まぁその辺は気にすんな。俺達としてはダラダラと時間を掛ける気は無いし、かといっていつまでもこの国に居られるわけでもないから、できるだけ効率的に進めなきゃならないからな。

 もう少ししたら教会からも茶々が入ってくるだろうし、それまでにはある程度足場を固めておかなきゃならないぞ」

 英太とウイールのやり取りを缶コーヒー飲みながら聞いていた伊織が口を挟む。

「足場か。私も決めた以上は精一杯やるさ。そうでなければ部下やアルグラッド子爵達が安心して暮らす事ができないのだからな」

 前回、伊織に現状を指摘され決断を促されたウイールだったが、躊躇いを残しつつも後継者、少なくとも帝王であっても簡単に手を出せない程度の確固たる地位と権力を手に入れると決めた。

 でなければ残る道は亡命しかないのだから帝国に生まれ育ったウイールとしては他に選択肢はない。

 

「しかし、これでイオリ殿達も表舞台に立たされることになるのだが、今更だが良いのか?」

「どっちにしろこっちの目的のためにもある程度大きな動きをする必要が出てくるだろうからな。思ったよりも早いが、まぁ仕方ないさ」

「いや、俺はマジで嫌っすけど」

 ウイールが心配そうにそう訊ねると、伊織はどうでもよさそうに、英太は心底嫌そうに返した。

 そんなやり取りをしているうちに時間になったようだ。

 子爵家の執事に案内されて別の部屋に移動するウイール達3人。

 

 といっても行った先は二部屋挟んだ向こう側に過ぎず、そしてノックもしないで開け放ってラッキースケベ的なイベントが待っているわけでもない。

 実際に突入するように英太を唆していた伊織に、ラノベに精通しているDKは断固拒否した。

 ラッキースケベがどういうわけか好感度上昇に繋がるのはゲームやラノベの世界だけなことは言われなくたって分かりきっているのである。

 というわけで、普通に執事さんが扉をノックし、返事を聞いてから扉が開かれた。

 そうして促されて部屋に入った男性陣であったが、ウイールはすぐに感嘆の声を上げ、英太は絶句し、オッサンはニヤリと口元を綻ばせた。

 

 そこには姫君もかくやといわんばかりに着飾った女性陣が誇らしげに立っていたのだった。

 

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