第15話 少年の見せ場

 翌朝、1の鐘で目を覚ました香澄と英太が身嗜みを整えて広間に行くと、既に起きていたらしい伊織はアルバとのんびりとお茶を楽しんでいた。

「おう、起きたか」

「「おはようございます」」

 片手を上げて挨拶する伊織に目礼しつつアルバと朝の挨拶を交わす。

 そうしていると、アルバの奥さんが2人の分もお茶を淹れてくれたのでしばし朝のティータイムとなる。

 

 大陸西部では一般的に食事は2回という場合がほとんどだ。

 バーラでいうと、3の鐘頃と6の鐘の後というのが多いらしい。

 地球でも3食食べるのは近代に入ってから、しかも多くの国はやはり2食というのが多い。まぁ、インドでは4食、タイでは5食なんてのもあるので一概には言えないが、食糧事情が万全とはいえない地域では食事の回数も多くできるわけもない。

 そもそも食事の回数などというものは何回が正しいというものでもない。

 

 アルバは食事を一緒にと誘ってくれたが、その時間まで出発を遅らせるのももったいない。そう断ってベンを離れることにした。

「美味い食事にワイン、寝床、世話になったな。お返しに、っていうのもアレだが、礼代わりだ」

 そう言って伊織は地図をアルバに手渡す。

「こ、これは、ありがたいのですが、よろしいのですか? お招きしたのはお礼のつもりだったのに、これでは私ばかりが得をすることになってしまいます」

 アルバはそう言って遠慮しようとするが、それもある意味当然の反応である。

 近代に入るまでは地図というのはある種の戦略物資だった。

 住民が書いた大雑把で適当な地図ですら時代や場所によっては重要な情報だったのだ。まして、伊織が航空写真を基に作成した地図など、測量技術が発達していないこの異世界ではどれほどの価値があるかなど考えるまでもない。

 

「ギルドの爺さんにも渡したんだから気にすんな。簡単にだが等高線も入れておいたから行商で動き回るにゃ役に立つだろ?」

 大きさはA2の用紙で、地形だけでなく街や村落の表示はもちろん、海や河川、森、湿地と見られる場所に色づけがされており、高低を示す等高線が薄い茶色の線で描かれている。

 現代の地球で売られている地図と比べても遜色ない代物である。

 範囲はバーラを中心とした部分だけであるが、オルストの国土もある程度入っており、ベンを拠点に考えるには十分すぎるほどだ。

 広範囲を行商で回るアルバにとって地図は欠かせない。自分でも作ってはいるもののそれとは比較にならない精度のそれは、かなり商売の助けになるだろうし、それだけでなく安全性も相当高まるのは間違いない。

 

「っつーか、いつの間に作ったんだろ、アレ」

 英太がぼそっと呟くが、それに答える声はない。

「命を救っていただいたばかりかこのようなものまで。何とお礼を言えばいいのかわかりません。またベンに立ち寄ることがあれば是非声を掛けて下さい。何かお役に立てることがあればできる限りのことは致します」

 放っておくといつまでもお礼を言い続けそうなアルバを宥め、荷物、といっても小ぶりなバッグだが、それを持って奥さんにお礼を言い、階段を降りる。

 

「失礼する! 昨日商工ギルドへ訪問した外国人とはお前達か?」

 アルバの商会を出て裏手への路地の鎧戸を開けていると数人の軽甲冑姿の男が走り寄って来てそう聞いてきた。

「な、何事ですか? この方達は私の客人です」

 アルバが慌てて男達の前に立ちふさがるように両手を広げる。

 伊織達も顔を見合わせるが、男達には今のところ特に不穏と呼べるような雰囲気はない。

「アルバ、この人達はなんだ?」

「い、イオリさん、この方達は警衛兵です。街の警備や犯罪者の捕縛などを担当している兵士なんですが」

 アルバが困惑を露わに伊織に耳打ちする。

 昨日聞いた話ではベンは比較的治安が良く、街に常駐している兵も横暴なことをしたりしないと言っていた。

 

「ふ~ん? で? 俺達に何か?」

 警衛兵と聞いても伊織の態度は特に変わらず飄々としたものだ。

「この街の代官であるハンエルゼン殿がお前達に聞くことがあるそうだ。一緒に代官の執務室まで来てもらいたい」

 この警衛兵は実直な性格らしい。

 官吏として職務を遂行しつつもあまり高圧的にならないギリギリのラインで要求している。聞きようによっては充分威圧的だが。

「ん~、まぁいいか。英太と香澄ちゃんは出発の準備ヨロシク。車とキャンパーのこと頼むな・・・

「イオリさん?! わ、わかりました私も一緒に行きます!」

 少し考える素振りを見せただけであっさりと同意した伊織にアルバは驚き、慌てて同行を申し出る。

 

「義理堅いのは嬉しいが、すぐに別の場所に行く俺達と違ってアルバはこれからもこの街を拠点に商売するんだろ? それに家族もいる。無理すんなって」

 そう断ったもののアルバの意思は変わらない。

 真面目というか義理堅いというか、ちょっと助けられただけの、それも割と、いや結構、得体の知れない自分達の事をここまで心配するアルバに伊織はちょっと心配になる。

 これから先、大丈夫か? コイツ、と。

 人が良すぎて騙されるんじゃないか?

 

「はぁ、んじゃ、案内兼見届け人として、ってことで。一応言っておくが、危なくなったら容赦なく見捨てるぞ。一宿一飯の恩義があるとはいえ自分達の安全には代えられないからな」

 これぐらいは言っておいた方が良いだろうと伊織はわざと聞こえるように大きな声で宣言しておく。

 どれほど効果があるかはわからないが、多少は巻き込まずに済む可能性が高くなるかもしれない。

 傍若無人なようでいて気に入った人間相手にはそれなり気を使うらしい。

 

 代官の執務室は街の中心街に程近い領主の屋敷の側だ。

 それほど大きな街ではないとはいえ、アルバの商会は港の外れにあるのでそれなりの距離がある。

 警衛兵達もさすがに歩いていくとは言わず、通りに出たところに待機させていた馬車に乗り移動する。

 6人乗りくらいの馬車の中では伊織とアルバが並んで座り、対面に警衛兵が2人。

 まさしく連行されている図なのだが、緊張して顔を強張らせたアルバに対し伊織は持っていたバッグから何やら取り出し、アルバに使い方を説明していた。

 

「んで、これを相手に向けて、このボタンを押す。離したら止まるから押しっぱなしでいい」

「は、はい、わ、わかりました。し、しかし、これはいったい……」

 目の前に警衛兵がいようとお構いなしである。

 警衛兵の方も興味深げな視線を投げるも特に何か言ってくることはなかった。

 目茶苦茶ガン見してたけども。

 

 

 

 

 一方、残された英太と香澄は伊織に言われたとおり出発の準備を進める。

 車両を覆っていたシートを取り、各種センサー類なども撤去。それからランドクルーザーの後部にキャンピングトレーラーを繋ぎ、防犯装置系はキャンパーの、手荷物はランクルのカーゴスペースに積む。

 ゴードンが手伝ってくれたのだがそれほど荷物があるわけではないのであっという間に終わってしまう。

 準備が終われば後はやることが無くヒマだ。

 ゴードンは建物の中で待つことを勧めてくれていたが、防犯装置を外してしまっているので念のため車の側で待機することにした。

 

「いったい何なんだろうな、代官の呼び出しって」

 キャンパーの冷蔵庫からペットボトルのお茶を持ち出してランクルにもたれ掛かりながら英太が香澄に問いかける。

 ちなみに冷蔵庫の中身は伊織から好きに飲み食いして良いと言われている。

「わからないけど、あまり良い予感はしないわね」

「まぁ、テンプレ通りなら悪代官が悪巧み、って、言ったそばからお客さんみたいだ」

 英太は車から身を離し、通りに視線を向ける。

 香澄との雑談を楽しみながらも周囲の警戒は怠っていない。

 

 英太の視線の先からこちらに向かってくるのは10数人の軽甲冑を着た男達だ。

 伊織を連れて行った警衛兵とは服装や甲冑のデザインが異なる。というよりも軽甲冑自体は揃いのものを身につけているが中の服は統一感がない。傭兵か私兵といった雰囲気だ。

 男達はそのまま英太達のいる路地の前を、立ちふさがるように広がって止まる。

 そしておもむろに英太達に向かって一方的に告げた。

 

「この街の代官、ハンエルゼン様の命令だ。そこにある荷車とそれに付随する全ての物品を接収する! 大人しく引き渡せ! 抵抗は許さん! 異議があるなら後で申し立てをするがいい!」

 権力者の横暴ここに極まれり、である。

 あと、声が無駄にでかい。

 商会の中で待機していたらしいゴードンが慌てて飛び出してきたくらいである。

 

「え? ど、どうしたんですかい? 代官様の私兵が、なんで?」

 出てきたはいいが、予想外の事態にゴードンは固まってしまった。

 が、やはり予想通り男達は正規の兵ではなく代官が私的に使っている傭兵らしい。

 何故代官という地位にありながら傭兵を使っているのかといえば、領地の正規兵を使う場合は代官といえどきちんとした手続きを踏まなければならないからだろう。

 呼びつけることくらいなら職務の一部として公職である警衛兵を使えるのだろうが、他人の持ち物を強引に取りあげるにはそれなりの法的根拠と手続きが必要ということか。

 

「接収、と言ったわね。理由を説明してもらえるかしら。それと、何故警衛兵とかの正規兵じゃなくてあなた方が来たのかしら」

 香澄が男達に問いただす。

 まぁ、理由なんかは簡単に想像がつくのだが一応聞いておかないわけにいかない。

「貴様達が遺跡からの貴重な物品を不正に取得した疑いがある。そのためにそれらを接収するのだ! わかったら早く引き渡せ!」

 早い話が珍しい物を持ってるから難癖つけて取りあげてしまおうと、実にわかりやすい動機である。おまけに私兵が来た理由は言わない。

 

「なぁ香澄、こういったとき伊織さんならどうすると思う?」

 英太が香澄に顔を寄せて小声で聞く。

 答えは想像できるのだが念のために確認しておかないと勘違いだったら困る。

「これまでの伊織さんの言動を考えれば良いんじゃない? あの人が大人しく車を渡すと思う?」

 香澄の答えも英太と同じらしい。

「だよな。車とキャンパーを頼むって言ってたし」

「万が一違ってたら私も謝るから一緒に怒られましょう。でも、問題が大きくなったら困るかもしれないから念のため殺しちゃ駄目よ」

「ん、了解」

 

「何をコソコソ話している! 引き渡さないなら力ずくで持っていくぞ!!」

 英太と香澄が顔を寄せて話しているのに焦れたのか、男の1人が前に出る。

 香澄はそれを見ると、肩を竦めてランクルの後部を開ける。

 そして荷物の中から大ぶりのケースを引っ張り出し、開ける。

「えっと、弾はコレが良いかな? でも本当にこんなのがあるんだ……」

 ケースの中身を弄りながらブツブツと呟いている香澄に、何か勘違いをしているのか男達は大人しく待っている。

 

「ところで、ひとつ聞きたいんだけど、どうやってコレを持っていくつもり? 動かし方わかるのか?」

 英太も後部座席から現代地球謹製の超鋼合金製日本刀を取り出しつつ聞いてみる。幸い、というか今のところは車のドアに隠れて刀は男達から見えていない。

「?! そんなもの乗れば動くのではないのか?」

 んなわきゃない。

「くっ! ならば貴様達が動かせ! 一緒に来てもらおう!」

 どうやら何も考えていなかったらしい。

 おおかた伊織達が動かせるのなら誰でも動かせると安直に思っていたのだろう。ドゥルゥの荷車や馬車ですらそれなりの練習をしなければまともに動かせないのに見たこともない物を簡単に動かせるわけがない。

 そういった当たり前の事すら予測できないのだから命令を出す方も受ける方も頭の中身はかなり残念である。

 

 そして、英太の返答といえば当然、

「だが断る!」

 である。

 多分、一度言ってみたかった台詞なのだろう、腹が立つほどのドヤ顔だ。

 その一言と、後部座席のドアをバタンと閉めたために露わになった英太の手にする日本刀に男達が色めき立つ。

 そしてもう一方の香澄も準備が整ったようで、ランクルのトランクを閉めて手にした物を構える。

 ジャキン!!

 以前アルバ達を助けるときに伊織が使ったM16よりも小ぶりながら全体にずんぐりとしたフォルムの長銃、海外ドラマ、特にアメリカの刑事物でお馴染みのショットガン、米国レミントンアームズ社製M870だ。

 

「き、貴様等、抵抗する気か?! 代官であるハンエルゼン様に逆らってただで済むとでも思っているのか!」

 私兵達が喚き立てるが英太も香澄もどこ吹く風だ。その様子はとある不良中年そっくりである。

「ただで済むも何も、抵抗する前からただで済んでないじゃない。だったら抵抗しても同じでしょ? それが嫌ならさっさと帰ってお代官様とやらに泣き付いてきたら?」

「力ずくでっていうならそれでもいいよ。最近伊織さんに見せ場を盗られっぱなしだし。まぁ、できるだけ殺さないようにはするつもりだけど、保証はできないかな?」

 煽る煽る。

 香澄はもともとこういった会話が成り立たない人間が大嫌いだし、英太のほうはどうやら伊織に負けっぱなしなのをちょっと気にしているらしい。まぁ、好きな女の子の前でカッコ良いところを別の男に持っていかれているとなれば仕方がないのだろう。

 なので、本心では男達が大人しく帰っちゃったりしたら困る。

 

「き、貴様等!! おい、どちらか一方が生きてさえいれば構わ…うぎゃん!!」

 2人の態度に激高して剣を抜き放つ私兵。

 先程から英太達に高圧的な言葉を投げていたリーダーっぽい男が他の私兵に命令を下している最中、ズバンッという銃声と共に香澄がショットガンをぶっ放し、男はその場に崩れ落ちて悶え始めた。

「か、香澄? 殺しちゃ駄目なんじゃ?」

「あ、大丈夫。この弾は岩塩でできてるんだって。だから当たっても死んだりしないから。まぁ、一応目に当たると危ないから、一発おきに別の、(ズバンッ!)ビーンバッグ弾っていうのも入れてるけど」

 何が起こったのかわからず固まる私兵の1人の顔面にもう一発ぶち込む香澄。

 非殺傷系のショットシェルとはいえ、容赦なさ過ぎである。

 

 香澄が携帯しているファイブセブンではなく、車からショットガンを出したのは非殺系弾薬のためだ。

 ショットガンは用途別に様々な弾薬が存在している。

 複数の鉛玉(鉄や銅の場合もある)を装弾ショットシェルに詰め込んだ一般的にイメージするとおりの散弾やスラッグショットと呼ばれる単粒弾、ゴムやプラスティック製のスタン弾や小さなお手玉を詰めたビーンバッグ弾、岩塩や圧縮したコルクを使ったもの、中には催涙ガスを閉じ込めたガス弾や超小型のスタンガンを撃ち出すXREPなんてものまである。

 香澄は対人で拳銃を使った経験が少ないし、ここは商会や倉庫が建ち並ぶ通りに面した場所だ。今も遠巻きに足を止める通行人がチラホラ見えている。通常の拳銃では無関係な人を傷つけかねない。

 その点、ショットガンの非殺装弾なら10メートルも離れれば当たっても怪我すらしない。そして岩塩は撒き散らしても環境に優しいのである。

 

 香澄の行動に慌てた私兵達、と、英太。

 私兵は想定していた抵抗ではあるものの、予想もしていなかった攻撃にパニック状態。

 英太の方は、せっかく良いところを見せようとしていたのにこのままでは香澄が全部片付けてしまいそうで焦る。

 実際にはM870の装弾数は7発なので香澄1人で無双するのは難しいのだが、英太はそこまで頭が回っていない。

「えっと、俺の方も始めるぞっと!」

 そう言うと、英太はおもむろに手にした日本刀|(もどき)を抜くと刃を返し、私兵の1人に対して一気に間を詰めると胴を薙ぎ払った。

「ふぐぇ!」

 香澄に注目していた私兵は受けることもできずに轟沈する。

 

「峰打ちだ、って、慰めになるのか?」

 腹部を刀の背でぶん殴る。要するに平べったくて重量のある鉄の塊である。どう考えても肋骨の数本くらいは折れてるだろうし、場合によっては内臓損傷もあり得る。

「く、くそっ!」

 ようやくやる気になった私兵が英太に向かい袈裟懸けに剣を振る。

 が、1ヶ月もの間伊織にしごかれた英太から見れば隙だらけである。

 伊織の無駄が無く、予備動作すらほとんど読むことのできない攻めに比べれば普通の傭兵の剣技など児戯にも等しい。

 英太は振り下ろす私兵の剣の鍔元近くを刀で跳ね上げ、そのまま軌道を反転させて剣を持つ腕を打つ。

 

 ベキャッ!

「うぎゃぁ!」

「うっわ、峰打ちでもこんなんなるのか…」

 打たれた私兵の上腕が見事にへし折れ、逆側から骨が飛び出している。確かに斬れてはいないが怪我の程度でいえばどっこいどっこいのような気がする。

 時代劇なら悪役は峰打ちで倒れるだけだが、実際にやるとなると充分エグい。

 思わず呟たのを隙だと思ったのか英太に向けて左右から剣が鋭く突き出される。

「っ!!」

 銃器による先制と英太の鋭い太刀筋に後手に回った私兵達ではあったが、それなりに場数は踏んでいるのだろう。

 剣筋が重ならないよう、別々の場所を時間差で狙う。

 

「ふっ!」

 英太はわずかに速いほうの剣を刀で払うと、身を屈めてもう一方の突きをかわす。と同時に払った方の私兵の太股に刀の背を叩き込む。

 伝わってくる骨が折れる感触と鈍い音にわずかに顔を歪めたものの、その動きは止まらない。

 もう1人の突いた腕が引き戻されるのに合わせて間合いを詰めると、顎に掌底を叩き込み、グラついたところを足払いでひっくり返し、トドメに顔面を蹴り飛ばした。

 

「クソッ! 囲め!」

 どうやら私兵達は得体の知れない攻撃をする香澄ではなく、もっとわかりやすくて馴染みのある武器に似た物を持つ英太に標的を絞ったらしい。

 数人が香澄を牽制し、残りが英太を囲むように広がる。

 腕の立つ少数を相手にするには正しい選択である。

 だが、英太も並の力量ではない。

 元々運動神経が良いし、この世界に来てからは必死になって戦いを学びグローバニエ王国有数の力量を持つに到った。さらに伊織からしごかれたのだからこの程度の相手に遅れはとらない。

 

 英太を5人の私兵が囲む寸前、一番遅れていた男に向かって英太は踏み込むと上段から刀を振り下ろす。

 慌てて剣で受ける私兵。だが、刀を受けた瞬間、甲高い金属音と共に剣がへし折れ、ほとんど勢いを減らさぬまま肩を打ちつけられた男が崩れ落ちる。

 その隙に包囲を突破した英太は今度は外側から左の男の腹を打つ。

 後はもう英太の独壇場である。

 結局数分と経たずにほとんどの私兵が打ちすえられ、残りは逃げていってしまった。

 

「おつかれさま。怪我は、してないわよね?」

「あ、香澄。うん、大丈夫。そこまで強い相手もいなかったしね」

 結局最初の2発以外は手を出さなかった香澄が英太を労う。

 英太はというと、やりきった感丸出しの笑顔である。

 少しは良いところ見せられたかな? なんて考えながら香澄の表情をチラチラと伺う。

「まぁ、あれだけ伊織さんに鍛えられたんだから大丈夫よね……どうかした?」

 あんまり評価されなかったという結果にしょぼんとする英太。

 罪な女である。

 

「あ、あの、大丈夫、ですかい?」

 成り行きについていけずに影に隠れるしかなかったゴードンがおずおずと出てくる。

 気まずそうな表情だが、元々巻き込むつもりのなかった2人は気にしていない。むしろ自分達のせいでアルバやゴードンに迷惑を掛けることになったことが申し訳ない。

「はい。巻き込んでしまってごめんなさい。とにかくアルバさんの事も心配だからどうにかしないとね」

「そうだよな。早いとこ伊織さんに合流した方が良いんじゃない? ここにいるとまたあの連中が仲間を連れて戻ってくるかもしれないし」

「そ、それじゃぁ儂が代官のところに案内します。旦那もそこにいるはずですから」

 香澄は少し考えてからゴードンの申し出を受ける事にする。

 英太が運転席に乗り込み、香澄とゴードンもそれに続くとランクルを発進させた。

「英太、先に商工ギルドに寄って。ちょっと確認したいことがあるから」

 香澄の言葉に英太は頷いて進路をギルドに向けた。

 





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