第11話 やっぱり、顔面偏差値えげつない!
しばらくして、ライラがムギの元に駆けつける。
「ムギ! 何された! 洗脳か!?」
ムギは頭を抱えてブツブツ言ってるだけで、ライラの声には答えない。
ライラはことの深刻さを一瞬にして悟る。
ライラがムギの頭を抱えるように、抱きしめる。ライラの目から涙が溢れてくる。
ムギの頭を抱えたまま、ライラが涙目で、洗脳をかけた人間、もしくは解除できる人間を探すため、辺りを見回す。
人工精霊が暴れまわり、とても探せそうにない。
ーーー
ムギは、心をベッタリとした苔のようなものが侵食していくような不安にさらされていた。
辛い……。
何とかしてこの場を抜け出したい。
そのためなら、死さえ選べる。
いてもたってもいられない、苦しい。
そんなムギに自分の声が聞こえる。
「ちょっと、人に認められていい気になって、安い人間だな」
自分が問いかけてるのか。
そうだ、その通りだ。
それを失ったら、もう何もない。
自分だけじゃ、自分自身でさえ肯定できない。
「あげく、人には説教みたいなことを言って何様だよ」
分かった気になってただけだ。
「お前は何か一つでもしてきたのか? 今も、昔もただの無能力者。今、たまたま周りに恵まれてるだけだ」
そうだ、所詮、何一つできない。少し認められて、浮かれただけだ。
「何かをしてきたのは周りだろう?」
いざとなればライラがなんとかしてくれて……、
村長やペットが優しいから、構ってくれて……、
ヒロちゃんも子供の頃みたいに接してくれて……、
弱虫な王女も戦場にいるのに、僕や村長のことを心配してくれて……。
僕自身は何一つ……、結局……、何にもできない。
「そうだ、お前は無能だ。生きてる価値もない」
それなのに人に偉そうなこと言って。最悪だ。
ただの無能だ。
何一つ何もできない。
もう死んでしまいたい。
死にたい。生きていけない。
ーーー
ムギを背負ったライラが、マドレーヌ王国に戻り、ラルフの元に助けを求める。
「おっさん! ムギがッ!」
廊下を大臣と従者数人と歩いていたラルフが、ただならぬ様子に振り返る。
「帝国の野営に潜入してやられた。すまない……、守りきれなかった!」
ライラが、ボロボロと涙を流している。
その様子に、ラルフの表情が変わる。
「無茶なことを!」
ラルフがムギとライラの元に駆け寄る。
ペットもどこからともなく、飛んでくる。
ライラが涙を拭いながら、なんとか説明する。
「帝国軍の洗脳だ。情報を読み取るためにやったんだろう。そんじょそこらの能力で解除できるもんじゃない。このままじゃ、ムギは…」
ライラの背から下ろされたムギが、頭を抱えながら、うずくまってブツブツ言っている。
そんなムギにラルフが、話しかける。
「ムギ君! しっかりするんだ」
ラルフの声はムギには届かない。
ムギは同じ言葉を、何度も繰り返すだけ。
「もう、僕なんて、いても仕方ない。何もできない、ただの無能力者だ。分かってた振りしただけ。ちょっと満たされて、それで浮かれただけだ。人にばっかり偉そうなこと言って。僕なんて、いない方がいい。死んだ方がいい。無能なんだ。死にたい」
もう一度、ラルフがムギに声を掛ける。
「ムギ君ッ!」
ムギの肩を激しくゆする。しかしムギはずっと、ブツブツ繰り返すのみだ。
「僕なんていない方がいい。死んだ方がいい。いない方がいい。死にたい」
もう一度ラルフが、大きく声をかける。
「ムギッ!!!」
それでも、ムギに変化はない。そんなムギの様子をラルフが見つめる。
そして何か意を決したような表情をして、深呼吸する。
そしてラルフが叫ぶ。
「中2病かッ! コノヤロウッ!!!」
ラルフが、思いっきりムギをビンタする。
ムギが吹っ飛ぶ。
「また、やさぐれムギに逆もどりか!」
ラルフが、ムギの目を真っ直ぐ見て、ゆっくり語りかける。
「ムギ君、君はすばらしい子だ。頭の回転の早さなんかじゃない。辛い思いをした分、なんとか人の心を汲み取ろうとする」
ムギに、どうにか、どうにか、どうにか、届くように、大きな声を出す。
「どれだけ救われた人がいると思ってるんだ…………。それを、ありふれた、こんな、つまらない自己否定で失うなんて!」
そうして、もう1回、思いっきりビンタをする。
「このバカチンが!」
また、ビンタされたムギが自分の頬をさする。
ムギの様子が変わり、怒ったような、ふてくされたような表情だ。
「バカチンって、なんだそれ……」
ずっと俯いていたムギが、顔を上げラルフを見る。
ムギの知っているオミソ村にいるラルフ、オミソ村の村長が、ムギの目の前にいる。
ラルフの顔をみて、ムギがボソッと呟く。
「村長……」
ムギが自分の声に反応したことで、ラルフが涙目になる。
ラルフが何度も、何度も頷く。
そして答える。
「なんだい? ムギ君」
ムギが無表情で問いかける。
「軍服…………、似合いますね……」
ラルフが少し、呆気にとられる。
なぜか、ラルフが怒り、大声を出す。
「当たり前だッ! 私に着こなせないものなどないだろう!!!」
ムギがまた無表情で言う。
「あと、2回目のビンタは必要ありませんでした。虐待です。すごい、痛かった……。まだ痛い」
ムギが、むくれる。
「虐待!? え? あ? ご、ごめんね…」
ラルフが、おどおど、焦る。
考えを巡らせているのか、腕をくむ。
そして、人差し指を掲げて、「ひらめいた!」と、言わんばかりな顔をする。
「爆睡してる時にさ、叩かれて起こされると、めちゃくちゃ痛いもんね。 洗脳から叩かれて、覚めるってそういう感じ!?」
ムギがまだ、むくれている。
「近からず、遠からず……」
ペットが目を丸くする。
「ラルフが……………」
そして呟く。
「アホだ!!!」
ペットがムギとラルフを見てポロポロと涙を流す。
「二人とも元に戻ってる」
ライラも、ホッとした様子で、滲む涙を腕で拭う。
そして険しい顔付きになる。
「おっさん、潜入の報告がある!」
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