第9話 集結

 ライラには、ああ言ったが、ムギはいてもたってもいられない。こっそりライラに付いていく。


 帝国軍の野営の手前で、どこから潜入するか迷っているライラに声を掛ける。

「どっから入る?」


 いるはずのないムギの声がしたため、ライラが驚いて振り返る。

「ムギ!」

 ムギが肩をすくめて可愛い素振りをする。

「付いてきちゃった」

「女子か!」

 ムギがむくれて、ライラに頼む。

「文献わかんなかったし、いてもたっても、いられないよ。このまんまじゃ村長が。なんとかしなくちゃ」

 真面目な顔をするムギに、ライラがため息を付いて答える。

「私の側から離れるなよ」

「了解!」


 ムギとライラが、野営になんとか潜入すると、そこには大きな黒い機械のような装置がある。ムギがその装置を仰ぎ見ながら言う。

「あれ、あきらかに怪しいよね」

「見てくる」

 すぐさま、動きだそうとするライラをムギが止める。

「いや、ライラ。いくらライラでも正面はやめよう」


「誰だお前ら」


 背後から声がする。帝国兵に見つかったらしい。ムギが後悔する。

「もう、見つかった。さすがに無策すぎたか」

「ムギ隠れてろ!」

 ライラがムギを守るため、帝国兵の前へ勢いよく飛び出す。


 帝国兵数人がライラを囲む。帝国軍兵の一人が言う。


「こいつ知ってるぞ。主席なのに、軍人になれなかった奴じゃないか。帝国軍の人間じゃない事は確かだ」


 数人が一斉に、ライラに炎の能力を使う。ライラが同じく炎の能力で反撃するが、押し負け後ろに転げる。


 ギリギリまで耐えたため、ライラに怪我はなさそうだが、ムギは帝国兵の強さに青ざめる。


「すごい……。ライラが押し負けるなんてことが……。なんとか、しなくちゃ」


 ムギは、ライラを助けるため、その場を離れる。


 女性の帝国軍兵が、ふらつきながらも立ち上がろうとしているライラの元に行き、顔を近づけて自慢気に言う。

「主席だといっても、所詮学生の話。私たちは軍の中でも選ばれた人間。それに加えて特殊訓練を積んでる。お前とは格が違う」

 ライラは無言で相手を睨み付ける。


ーーーー 


 ノアが野営に辿り着くと、辺りをキョロキョロしているムギを見つける。


「ムギちゃん! なんでこんなところに!」

 ムギはノアの姿を見ると、矢継ぎ早に状況を説明しようとするが、さすがに上手くいかない。

「王女! ライラが! あと村長もこのままだと死んじゃうかもなんですけど」

「え!? マドレーヌ王国の王が? え??連合国になってるのに?? とっちらかってて分からねー!」

 パニックになっているノアの気持ちが今度ばかりは、もっともだとムギは思う。


「ですよね!!! とりあえず、あっちでライラがとにかく大変なんです!!」

 ノアが勢いよく頷く。

「分かりました!」


 ノアがライラの方へ向かおうとするが、足を止めムギのもとに、走って戻ってくる 。


「あの、とっちらかってて分からないんですけど、伝えたいことが」


 いつもと違い、落ち着いたノアにムギは、かしこまる。

「はい」


 ノアがムギの両手を包むように、ギュッと握る。

「以前、お話しましたが、私と姉は一緒にいることができませんでした」


 あらゆるものを、いろんな人の想いを背負ってこの場にいるノアは涙で滲んだ目でムギを見つめる。


 ノアの目をしっかり見て、ムギは返事をする。

「はい」


 ノアは涙がこぼれそうなのを耐え、震える声でムギに笑顔で話す。

「ムギちゃんと村長さんは、どうかずっと、ずっと一緒に。ムギちゃんなら、きっと村長さんを守れます」


 ムギは、怖がりなノアがこの場にいることがどれだけの決意が必要か、帝国の王女という立場がどういうものか、抱えているものの大きさを察する。


 そんなノアが伝えてくれた言葉の重要さをしっかり受け止めようと、ムギも、めいいっぱいの笑顔をノアに返す。

「はい! 分かりました! ライラをお願いします」

「いや、でも、そういえばムギちゃんを置いていってしまったら……」

「僕は大丈夫です! 早くライラの方へ」

 ムギの笑顔に、ノアが頷いて、走っていく。



 ノアが帝国軍兵に囲まれているライラを見つけ、駆け寄る。

「ライラちゃん!」

 ライラが帝国兵から目をそらさないようにしたまま、ノアに答える。

「ちゃん付される覚えねーぞ」


 ライラと友達になっていたと思ていた、ノアがパニックになってしまう。

「え!!! アンと心温まる話をしてきたんだけど! 人が友好的に声掛けたのに、相変わらずだよ、この人!! 人間不信だよ! もう、次なんて声かけていいか分からないよ!」

「お前も相変わらずだよ。落ち着け!」


 ライラの大声に、ノアが我に返る。

「アンに充分すぎる時間を作ってもらって、この場に、今、私はいる」

 

 ノアが短剣を抜き胸の前で掲げ、帝国軍兵に紋章を見せ、命令する。


「この者への攻撃および人工精霊の発動を禁ずる」


 周囲にいる帝国軍兵全員が一斉に片膝をつく。そして、手を胸にあててノアに対し敬礼する。


 ライラがその兵士達の様子、そしてノアが手にしている短剣をみる。


「指揮官の証の短剣か。ゼキ様の」

「ご存知なんですか?」

「生れも帝国だ」


 しかし、一人の兵が駆けつけ、隊長らしき者に耳打ちすると、またライラとノアに、一斉に剣先を向ける。

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