第7話 力という脆弱さ

 ラルフを上座にすえ、大臣達、十数名が座っている。大臣の一人が報告する。


「帝国側の兵器が人工の精霊であるとの情報を手に入れることができました。能力者の力を奪い無効化し、その力で成長。能力者を戦闘不能に陥れるまで攻撃する力があるとのこと。能力者がいなくなった後は、力尽きるまで動くものを攻撃し続けるそうです」


 大臣達の表情から不安が色濃く現れる。そのうちの一人が質問する。


「では能力を使わないで、成長させる前、つまり初期段階で能力を使わずに戦えば対処の可能性はあるだろうか」


 先程の大臣が答える。

「残念ながら、初期段階であっても能力以外で対処できる代物ではありません。帝国は我が国の精霊に対して『不安要素』という位置付けのようでしたが、実在していた場合を考え兵器を確保しての開戦だったのかと」


「さすが帝国というべきか。会談の時の余裕が思い出される。能力も能力以外も通用しないとあっては……」


 大臣達の話しを聞き、ラルフが口を開く。

「我が連合国に対抗すべく野営にいるのは帝国軍の兵力のほぼすべて。引き付けるだけ引き付けることに成功した。計画どおりだ。今、使うしかない」


 大臣達が戸惑いをみせる。

「しかし、それではラルフ様が。ここまでの戦略や、統率力を持つ王族は他に考えられません。ラルフ様なしでこの国はどうすれば」


 ラルフが静かに大臣をさとす。

「結局は血筋的に王位に近い者の方が、城内の者も国民も納得するだろう。だからこそ今、私は全権を握っている」


 大臣達が黙る。ラルフが続ける。

「この国の永きに渡る歴史は、こうして守られてきたのだろう。かつても誰かが担い、守り抜いた役割。その役割を果たすことができて本望だ」


 少しの沈黙の後、大臣の一人が発言する。

「出過ぎたことを申し上げます。先王はそれだけでラルフ様を王位に付けようと思ったわけではないはずです。その強い意志や、覚悟、それらを見て、この王国の窮地を救えるのはラルフ様しかいないと判断し、託されたのだと。そして我ら一同、先王は正しかったと思っています」


 ラルフが頷く。

「ありがとう。私亡き後の帝国との交渉はしっかり決めていく。有能と名高い先王でさえ、まとめることが出来なかった王族だ。私の遺志を君たちで実行してくれ。よろしく頼む」

 大臣達がラルフに頭を下げる。


 ラルフが数人の従者を連れ、森の中の石碑を訪れる。人の膝丈程の、四角中の石碑には文字が刻まれている。そこへラルフが、自分の手をナイフで切り、血を垂らす。ラルフの体を緑の光が包む。巨大な緑色の女神を模した精霊がマドレーヌ王国の城の背後に現れる。その精霊の姿を、ラルフは真剣な表情で仰ぎ見る。


ーーーー


 帝国の会議室で、大臣と、その大臣を守るための近衛兵数人がいる。剣を腰に身につけ軍服を着たノアが、たった一人その場で大臣達に対峙している。

 ゆっくり深呼吸した後、意を決したように話し出す。


「和解を申し出ましょう。このままでは帝国は負けます」

「いえ、まだ兵力においては同等です」

「あちらには威力の知れない精霊がいるのに? こちらの兵器は未完成だというのに?」


 大臣がため息をつく。

「こそこそ、かぎまわっているとか」

「まだ制御機能などが完成していないそうですね。まだ未完成なものを発動させてどうするのです。兵が全員犠牲になります。和解を申し出ましょう」


「この不利な状況で和解など申し出れば、どんな条約を結ばされるか。すべてが国民に及びます。我が国民がそんな目に合う姿など見たくない。そんなことになるくらいなら、城を枕に討ち死にもいいでしょう。マドレーヌ王国を道連れに」


 ノアが大きな声をあげ、大臣を説得する。

「しっかりしてください! まだカードは残されているはずです」

 大臣がうんざりしたように答える。

「なんのカードが」


「賠償金を払うとか、いくらでもあるはずです」

「この状況で賠償金ですか。どれだけ要求されるか。国の経済は成り立たなくなるでしょう。そうなれば国防もままならない。だから子供なんです。浅はかな教科書のような理想論ばかり。お姉様に似てきましたね」


「姉も生きていたら、同じ考えを持ったはずです。こんな自暴自棄な考えはしない。あなたも姉には一目置いていたじゃないですか」

「ゼキ様は本当にお優しく有能で、国民からの信頼も厚かった。しかし、お優しすぎて、我が帝国のやり方を見直そうとおっしゃるんです。ここまでの強国になったやり方を変えようと。小娘が分かったような口をきくんです。邪魔だったので、病になって死んでもらいました」


 その言葉に衝撃を受け、ノアの目つきが険しいものに変わる。

 ノアは思わず大臣に斬りかかる。それを大臣を取り囲んでいた近衛兵が弾きとばす。

 王女はしっかり受け身をとり、大臣を睨みつける。

「本当に随分、勇ましくなりましたね。前の遠足気分の子供の方がよかったのに。都合が良くて」


 さらに、王女が斬りかかろうとするが、今度は近衛兵が王女を取り押さえる。大臣が叫ぶ。

「強国にならねば、潰されるのです! 強国にならねば侵略され、国民は守り抜けません! 綺麗事ではすまないのです」

ノアが叫ぶ。

「もう強国じゃない!」


 大臣が腹を立て、近衛兵に命じる。

「自室にお連れしろ。部屋から出さないように。身分が王女なことに感謝してくださいね。じゃなきゃ監獄だ」


 連れて行かれる王女の背中を見ながら、大臣が呟く。

「ただ国民の安全を、国の繁栄を、それだけを考えてきたんだ……。ゼキ様がご存命だったなら別の結末があったのだろうか」

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