第6話 それは、その少年に出会うため

 ムギはペットと、ライラがいる部屋に戻る。


 ムギは、あまりの急展開に、黙り込んでしまう。ペットが申し訳なさそうにする。


「ごめんな、巻き込んで」


 ムギは頭を横に激しくふる。


「むしろ、こんなの呼んでくれなきゃ困る」


 ペットがムギを悲しそうな、嬉しそうな顔で見る。

 

 こんなに心配しているペットにラルフは、なぜ気づかないのだろうかと、ムギはだんだんと腹を立ててくる。


「なんか別人みたいだった。真面目かッ! 祖国とか、全権とかなんとか。真面目かッ! 誰だッ!? 全然ッ、村長じゃない!!!」


「ムギにもか。ごめんな」


 またムギが首をふる。


「でも、このままじゃ村長が。……というか、真面目だと逆に、冷静じゃないっていうか。いつもの抜けてる感じの方が冷静感あるっていうか」


 ペットが少し元気になる。


「さすがムギ! 分かってくれるか!」

「なにか出来ることあるかな。そうだ、村長が言ってた精霊に関する文献だ。僕も見せてもらえないかな」


「さすがトンチ少年! 分かった。頼んでくる」


 しばらくして、何冊かの本のように作られている文献をペットが持ってくる。


「ムギ! 文献手配してきたぞ。何がきっかけになるか分からないから原本だ」

「ありがとう!」


 ペラペラと、文献をムギがめくる。めくり終わる。


「どうだ? ムギ」

「うん、昔の言葉で全然読めない」


 ずっと、黙って聞いていたライラが口を開く。


「お前、そいうところ、あいつに似てきてるからな!」

 ペットが思い出したように言う。

「そういや、ラルフ、専門家呼んでたわ」

「幼稚すぎて、自分が情けない。ごめん」


「いいんだ、ムギ。ありがとう。もう、オミソ村での時間で救われてんだ」

 ムギが首を傾げる。

「どういうこと?」


「5年前に王位の話が出てから、あいつの環境は激変した。どこかで、こうなることがラルフも俺も分かってたんだ。オミソ村で過ごしたことは、あのまま、ずっとこの国いるのとは天と地との程の差だ。オミソ村の選挙の情報が入ったとき、もう救われたんだ。ムギが提案したな」

 

「え……」

 自分の名前が出てきてムギは少し驚く。


「だいたいの集落が封建制度のようなもんだろ? そんな中で選挙制って発想をする奴に会ってみたかったんだ。ラルフは置かれた状況を年長者に相談するつもりだったのかもしれない」


 ペットがニカッとムギに向かって笑う。


「そうしたら16才のお前だって聞いて驚いたぜ?」 

「……。僕に会いに来たってこと?」


「そうだ! ムギ! お前に会うためにオミソ村に来たんだよ! 大分、想像と違ったけどな。やさぐれてるし、態度悪いし。でも、そんなお前にラルフも、俺も本当に救われたんだ」


 ペットが、ムギの両の頬を、両手で挟んで、また笑う。


「あの時間だけ、あいつは、あいつに戻れたんだ。いや、今まで一番生き生きしてたかな。マルコ様程じゃないが、血筋がものを言う世界で生きてきたから……。本当にありがとう……」


 ムギが怒って、ムペットの手を振り解く。


「何言ってるの!」


 ムギが怒ったことにペットが驚く。


「社会で疲れた青年が田舎で癒やされるみたいな、そんな、生半可な気持ちでオミソ村に来たんじゃないでしょ? じゃなきゃ、あんなに一生懸命やるわけない。じゃなきゃ、あんなに村は豊かにならない。村長はオミソ村を町にするんだから」


 ペットがもうすべて終わりのような言い方をしたことが、ムギは耐えきれず、また目から涙が溢れてくる。


 そんなムギを見て、ペットもまた、嬉しさと悲しさで目もとが潤んでくる。


「そうだな……。ムギ、ごめんな」


 ムギが首をかしげ、ペットの顔を覗き込み、ペットを励ます。


「村長も、ペットもオミソ村に帰るんだよ。そのために、僕もライラもここにいるんだ。そう言って、村の人達に送り出してもらったんだから」


 ペット目から、涙が溢れ落ちそうになる。


「そうだ、まだ、なんとかなるよな。本当にありがとう、ムギ」


 泣き顔見られることを避けるためか、ペットが寂しそうに、嬉しそうに、そう言って部屋を出ていく。


 そんなペットの後ろ姿を見て、またムギも悲しくなる。ムギは自分の髪をワシャワシャとかき乱する。


「あー!どうしたら、打開できるんだ」


 ライラが口を開く。


「帝国軍の様子を見てきてやる。古巣だ。強行突破する」


 ライラの言葉にムギが振り返る。


「強行突破……。もうマドレーヌ王国でも、できる限りのことはしてるかもしれないけど……ライラなら、もっと詳しく知れるかもしれない!」


 ライラがムギを睨み付ける。


「お前はついてくるなよ。正直足手まといだ」

「そりゃそうだろうけど。ライラを一人でいかせるなんて」


「帝国軍なめるな、私みたいのがゴロゴロいる。お前は無理だ」


 ムギはライラの真剣な表情に観念する。

「分かった。無理はしないでね」

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