第4話 熱狂と影2

 ペットに部屋に案内される、ムギとライラ。そこでペットが深刻な表情で語りだす。

「機密もあって、手紙には書けなかったことを、今から説明するな」


 大きな城や、ラルフとペットに会って、浮かれていたムギもようやく、いつもの調子に戻っている。ムギが、うなずく。

「分かった」


 ペットが続ける。

「王国に戻ってから、なんとかラルフが開戦を避けようと尽力したんだが、先王の死に乗じて攻めることは向こうとしては決定事項だ。理由なんて端から、こじつけるつもりだから、それは叶わなかった。だが、ラルフが将軍って地位で、進軍してきた帝国軍を撃退、圧勝した」

「え! 村長スゴ」


「帝国側は当初、ラルフをかなりなめてかかったらしい。ガレット王国との同盟国として、帝国に圧勝したことで状況が一変した。帝国からの圧力に苦しんでた周辺諸国が同盟を申し込んできてあっという間に連合国になっちまった。兵力が倍以上に膨れ上がって、今じゃ帝国に並ぶ程だ。帝国も予想していない事態で焦ってるたろう。今じゃ、ラルフは連合国の総司令みたいになっちまってる」


「連合国の総司令……」

 ムギが話の壮大さにポカンとしてしまう。

「凄い話しすぎて、ついていけないかも」

「ああ、俺だってそうだ。その実、ラルフ自身も、おそらくな」


「そもそもなんで帝国は開戦を?」

「マドレーヌ王国は大分歴史が古いし、属国という立場をとってはいるが帝国にも劣らない強国だ。先王の死に乗じて脅威をなんとかしたかったんだろう」


 しかし、ムギは不思議に思う。帝国の軍事力は最大のはずで、だからこそ、すべてを統治しているのは帝国なのだ。

「でも、連合国になる前は軍事力じゃ帝国が大分上でしょ? 脅威に感じる必要はなかったんじゃ」

「それが王族は精霊と契約できるだろ? その力が知れなくて昔から脅威に感じているんだ」

「精霊? それはペットとか?」

「俺やアレクサンドロスみたいのじゃない。もっと強力な精霊だ。その精霊自体は意思をもたず、王族が操る形らしい」

「らしい? ペットも知らないの?」

「ああ。最後に契約したのは300年以上前って話しだ」


「300年前!」

「帝国も実際に把握できているわけじゃないから、不安要素という位置付けだ。でも確かに存在していて代々王族に伝えられている。威力は一国を火の海に追いやる程だそうだ。ラルフと俺が知ったのも王位の話しが出てからだが、文献でしっかり残されていた」

「じゃあマドレーヌ王国はもともと無敵レベルじゃん」


「いや、帝国もそれに匹敵する兵器を開発していて、マドレーヌ王国側もその力は知れない。それに精霊との契約は契約者に負担が大きくてな、命と引き換えらしいから、そうやすやすは使えるもんじゃない」

 ペットがとたんに、悲しそうな顔をする。

「は? え? 何それ?」


 ペットが、不安そうなムギの表情を見て、申し訳なさそうな、悲しい笑顔を向ける。

「少しラルフの話し相手になってやってくれないか。他の奴らは見込みどおりだとか、おだてるが、俺にはそうは見えないんだ」


ーーー


 ペットに教えてもらった、ラルフの部屋に向かうと、部屋の前で、周辺国の王らしき人物がラルフにすがりついている。

「将軍殿! 我が国は不作が続いているのに、帝国に収める税は変わらない。国民はもう限界です。もうマドレーヌ王国の精霊の力にたよるしかない」


 周辺国の王が泣き崩れる。


「このままマドレーヌ王国が力をなくすようなことがあれば、侵略さえされかねない。今こそ精霊の力を。我が国はもう時間がありません」

 

 その王にラルフが答える。

「大丈夫です。精霊との契約について文献を確認しているところです」


 王の顔が晴れる。

「ありがとうございます」


 ラルフが王の背中をさすり、近くにいる従者に引き渡す。


 部屋に入ろうとするラルフに、ムギがすかさず声をかける。

「村長!」

 ラルフがため息をつき、険しい目をムギに向ける。

 「まだいたのかい? 早く村に帰り…」

 ラルフの言葉を遮り、ムギが大きな声を出す。

「村長! ちょっと話がしたいんです」

 強い眼差しでムギがラルフを、じっと見つめる。

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