第3話 熱狂と影1
深い森に包まれ、精霊の加護を受けるマドレーヌ王国。森に隔たれていて他国からの侵入は少ない。それでいて国自体の規模が大きく経済を自国のみで、まかなえるため、本来は豊かで平和な国だ。
大きな城の前に立つムギとライラ。ムギが手をかざして城を見上げて言う。
「なんか、僕ら場違い感ハンパないね」
「お前だけだ。私を含めるな」
「え。ひどいよ。こんなところの王子様って、村長とマルコさん、すごいね……」
「お前、そういうの気にしないタイプだろ」
「いや、そこまで無邪気ではないよね」
ライラが、腹を立ててくる。
「ほら、さっさと行くぞ」
「ごめん、ごめん、待って」
ムギが警備にペットの手紙に同封されていた紋章付の書面を見せると、警備が不審がる。
「申し訳ありません。少しお待ち頂けますか」
ムギが恐縮する。
「ああ、大丈夫です。よろしくお願いします」
ライラが、警備を睨みつける。
「お前、なんの文句があるんだよ」
「うん、ライラお馴染みのやめようか。警備さんとしては当然の反応だと思うよ。むしろ警備体制がきちんとしているというか」
そこへ、ムギを見つけたペットが飛んでくる。
「ムギーーー!」
ペットがムギに飛びつく。
「ペット!」
ペットがムギの顔を手でペタペタ触る。
「お前、ちょっと背が伸びたんじゃないか!?」
「数ヶ月でそんなに変わらないよ」
ライラが自慢げにペットの前に出る。
「私は伸びたぞ」
ペットがライラに満面の笑顔を向ける。
「ライラまで来てくれて、本当にありがとう……」
ペットが涙ぐむ。そんなペットにムギが笑う。
「やだな、ちょっと会わなかっただけで」
警備がペットに頭をさげる。
「ペット様のお知り合いでしたか。失礼致しました」
城の中を歩く、ムギとライラとペット。ムギがペットに話しかける。
「ペット様だなんて、すごいね」
「精霊に様なんてつけないでいいって、言ってるんだけどな」
そんな風に城内を歩いていると、ムギが軍服を着たラルフを見つける。周囲には従者を数人連れている。思慮深さが取り柄のムギだが、久しぶりにラルフを目にしたことで、嬉しくて、つい大声で声をかけてしまう。
「村長!」
ラルフが振り向く。そして驚きで呟く。
「なんで、こんなところに」
早足で、血相を変えて、ぐんぐんムギのところに歩いてくる。ラルフの緊迫感がムギには、まったく伝わっておらず、ムギは珍しく能天気だ。
「村長!わー、軍服も似合いますねー」
ラルフがムギの両肩をガシッとつかみ、怒った調子で言う。
「ここは危ない。早く村に帰りなさい。分かったね」
まったく余裕のないラルフに、ムギがようやく驚く。
「いや、ペットに呼ばれて」
今度はラルフはペットの方に大声を上げる。
「ペット!!!」
ラルフの大きな声にムギとペットが怯える。ラルフが、ライラの方を見る。
「ライラ君、すまないが、よろしく頼む」
さすがのライラもラルフの変わりように驚き、あっけにとられてしまう。
ラルフが去っていく。その背中をムギが弱々しく指差す。
「え、今の誰?」
そこへムギを目にしたマルコが、手を振ってやってくる。
「少年! 久しぶりだな」
ムギがマルコにすがるように言う。
「マルコさん! 今、村長に会ったんですけど。まるで別人っていうか」
「そうなんだ、見違えるだろ。ラルフの統率力、戦略、人望、すべてにおいて目を見張るものがあるよ。張り合ってたのが、ばからしい程だ。やはり王はラルフしかいない」
そう笑ってマルコはムギ達のもとを去っていく。
「マルコさんまで、別人みたい。あんなに王位には、最後まで拘ってたのに」
ペットが暗い表情を浮かべる。
「みんなラルフに心酔しちまってる。一部の敵対してた王族まであの調子だ。嫉妬で狂ってる奴も多いが。この国で冷静な奴が誰もいない」
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