第2話 全軍で迎え撃つ!
数日後、マドレーヌ王国の会議室でラルフと大臣達十数名が話している。大臣が報告する。
「帝国からの開戦の申し込み後、どれだけの兵力が送り込まれるのかが危惧されていましたが、進軍してきている兵の数は極めて少ないとの情報が入りました」
大臣達から胸をなでおろすような、安堵の声が上がる。
その安心感を冷ましてしまうように、ラルフが言葉を発する。
「全軍で迎え撃つ」
大臣達がざわつく。一人の大臣が進言する。
「全軍ですか!? その必要はないのでは。帝国と戦う上で兵力は貴重です。帝国が少数の兵力であるということは撃退したとして、次が来るということ。長期化することを考えると資金面から考えても全軍というのは」
大臣の言葉を受けてラルフが説明を加える。
「帝国軍は精鋭揃いだ。たとえ少数だとしても決して侮ってはいけない。状況を打開するには多くの兵を投入する必要がある。その方が兵の被害も抑えさられよう。そして出来るならば国内の士気を上げるため、単なる撃退ではなく圧勝したい。そうすれば局面は変えられるはずだ」
一人の大臣が声を上げる。
「全軍だなんて! 長期化した場合のリスクを考えるべきかと。ただ1回圧勝してどうするのです。次がくるのですよ。資金や兵力が底を付いたらどうするのですか」
ラルフが反論する。
「出し惜しみをして戦況が悪化することは多い。後から継ぎ足しても泥沼化するだけだ」
先の大臣が更に反論する。
「お言葉ですが、将軍は王位継承101位だった方、統治などに関しては素人同然。到底聞き入れることはできません」
少し黙った後、ラルフが言う。
「私が全権を握ることに、この中でも不満のある者もいるだろう。しかし、私は先王より託された。この身がどうなろうとも、後に悪名をとどろかせようとも、我が国をこの危機から守り抜く覚悟だ。私を王と思えるものだけ、この部屋に残ってくれ」
しばらく、沈黙が流れる。一人、二人と三人程が部屋を出ていく。その後に出ていくものはいない。
「君たちは、いいのか」
大臣の一人が言う。
「ドリル隊長の進言の件や、ラルフ様の数々の誠実な行動を存じています。その行動は順位などで語れるものではありません」
ラルフが深く頭を下げる。そんな振舞いをする王族をみて大臣達は驚きを隠せない。
「ありがとう。私は王位から程遠かったため、不慣れな上に知らないことが多い。知っている限りの帝国の情報、戦略を共有して欲しい。どうか君たちの力を貸して欲しい」
大臣の一人が声を上げる。
「先程の将軍の戦略に、私は賛成です」
他の大臣も声を上げる。
「我が軍の今の状況を報告させてください」
突然、扉を叩く音がし、従者の声がする。
「ガレット王国の軍部の方が、将軍に会合を申し出でおりまして、今、この場にいらっしゃっています」
大臣の一人が不思議がり、ラルフを伺う。
「ガレット王国? 今? 随分急な話ですね」
ラルフが大臣に頷き、大臣が従者に言う。
「お通ししてください」
扉が開くと、オミソ村でラルフが助けた軍部の者たちがいる。軍部の者達が頭を下げ、申し出る。
「我が国との同盟を申し込みに参りました。急な申し出をお許しください。帝国の進軍の情報を手にし一刻を争うと考えました」
大臣達がざわつく。大臣の一人がガレット王国の軍部に問いかける。
「窮地に追い込まれていらっしゃるのは耳にしています。しかし我が国のように開戦を申し込まれた訳ではない。同盟を結ぶということは、帝国に歯向かうことを意味します。……よいのですか」
「どの道、我が国の領土は前々から、帝国に狙われています。今が戦わねばならぬ時と判断しました」
ラルフがガレット王国の軍部達のもとに駆け寄る。驚きでラルフは声が出ず、軍部の者の顔をただ見る。軍部のものがラルフに話しかける。
「マドレーヌ王国の方だという調べはついたのですが、まさか、将軍だとまでは思いませんでした。今、腰を抜かしそうです」
ガレット王国の軍部が笑顔を見せる。その笑顔にラルフが頭を下げる。
「腰を抜かしそうなのは、こちらです。本当によいのですか」
「今私達がこの場にいること、そしてガレット王国がまだ存在するのは、あなたのおかげです。兵力は微々たるものですが、力になれれば」
ラルフが大きく頭を振る。
「同盟国として勝つことができれば、局面は大きく、いや、劇的に変わる……。あなた方の覚悟を決して無駄にはしません」
ガレット王国の軍部と、ラルフが手を取り合う。
一気に部屋の士気が上がっていく。
ーーー
数ヶ月後、ムギの元にペットから手紙が送られてくる。
マドレーヌ王国に来て欲しいという内容が書かれている。
この言葉をずっと待っていたのだと、ムギは気付く。力になれるかもしれないと、鼓動が高鳴る。手紙を握りしめ広場にいる、おやっさんのところへ走る。
「おやっさん! ペットがマドレーヌ王国に来て欲しいって。行っていいですか?」
ずっと気にかけていた様子のムギを心配していたため、当たり前というように、おやっさんが大きな声がで言う。
「行ってこいチビ村長! チビ村長がいなくても、全然大丈夫だ!」
「え……。それはそれで複雑なんですけど」
話を聞いていた他の村人も賛成してくれる。
「ラルフ村長がいなくても、回るんだぞ。チビ村長がいなくても大丈夫。あの人がそうやって、細かく規則から何から何までを作ってくれたんだ」
おやっさんが続ける。
「この村で村長に感謝してない人間なんていない。それに早く帰ってきてもらわなくちゃいけないだろ。あの人はマドレーヌ王国の人じゃなくて、オミソ村の村長なんだから」
広場の警備をしていたライラが、話を聞きつけやってくる。
「私も行くぞ。あいつには、この村に受け入れてもらった借りがあるしな」
「いや、でも、ライラには村にいてもらわないと。村の防衛が」
他の村人が、胸を張る。
「村も豊かになって、自警団の数も増やして、この辺りじゃ一番だ。ライラと行ってこい!」
そばで聞いていたヒロが不安そうにぼやく。
「ムギも、ライラも行っちゃうのか……。じゃあ、俺も」
おやっさんが、ヒロの背中を叩く。
「能力者で、かつ頭の冴える村のエースには、残ってもらわないと!」
おやっさんの言葉に、ヒロが目を輝かす。
「なんか、久しぶりに誰かに褒めてもらった気がする!」
「まあ、器用貧乏ともいうけどな!」
ヒロが、うなだれる。
「やっぱり、そんな感じ!?」
周りの人々がそんなヒロを見て笑う。
おやっさんが今度は、ムギの背中を思いっきり強く叩く。
「行ってこいムギ! 今度はこっちが村長を助けるんた。ムギとライラがオミソ村代表だ」
「痛いーーーッ!けど、分かりました!」
ムギが笑顔で答える。背中の痛みが、おやっさんの想いそのもののようで、ムギは嬉しい。
一刻も早く、マドレーヌ王国に向かわなくは!
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