第5話 きらめく花びらと、マルコのプライド

 ムギがマルコの報告に村長室を訪れている。


「昨日、マルコ様とレストランを手伝ったんですけど、すごい一生懸命でした。大丈夫でした」


 ペットが喜んで言う。

「すごいじゃないか、マルコ様!」

「ただ、まかないとか美味しくてビックリしてるくせに、庶民の食べ物って言ったり、褒めても、愚民が私を褒めるなど100年早いって言ったりは、してました」


 ラルフが聞く。

「それは、大丈夫なの!?」


「いや、あまりにあからさまなんで、みんなも楽しんでるっていうか。まあ、驚いてる人もいますけど。だいたいの人は仕事ぶりみれば、いやな感じはそんなにしないかと」

「じゃあ勝手に思い込んで。言ってみればヒロ君みたいにツンデレ状態になっているのか」


 ペットがマルコに同情してしまう。

「あの王位継承争いを、子供の頃からずっとじゃ、こじれるのかもな」

「うーん。でも本人が気付くしかないよね。とりあえず大丈夫なら」

「やっぱりマルコさんのことも、気に掛けてるんですね」

「嫌だけどさ、観光客の斡旋もかかってるし」


<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡


 夕暮れ、花屋で仕事をしているマルコが主人に言う。

「愚民は、こんな花でも買うものだな。ほぼ売り切れだ」

「じゃあ、役場へ報告があるので」


 苦笑いして、花屋の主人が去っていってしまう。マルコは悲しくなる。なんで、いつも、こんな言い方になってしまうのだろう。


 マルコが、片付けをしていると、ヒロとぶつかる。



 倒れた二人は向かい合い、お互いを見る。



 マルコは相手の少年の顔色が悪いことに気付く。

「どうした、少年。元気ないな」


 今度はヒロがマルコの顔を伺う。

「おじさんこそ…」

「おじ…」


 ヒロが語りだす。

「好きな子がいるんですけど、つい意地を張ってしまって、全然したくない行動をしてしまうんです」


 なんだか、この少年は自分に似ている気がする。


 マルコが花束をヒロの前に、バサッと付き出す。

「少年、持っていけ。代金は私が払っておく。数日はもつだろう」


「え? なんで?」

「少なくとも、これで好意ぐらいは伝わるだろう」

「いいんですか? ……おじさん、ありがとうございます」

 それだけ渡して、マルコはトボトボと歩いていく。


<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡


 翌日、マルコがデメキン様お守りの売り子を広場でしていると、花束を手にしたヒロが現れる。

「昨日の少年」

 そう呟き、足がヒロの方へ向かっていく。


 ヒロがライラに花束を渡そうとする。

「あの……、ライラ?」


 すると、ここ最近のヒロの振る舞いから、ライラは攻撃されるのかと思う。


 ライラは、差し出された花束をすばやく剣で刺し、空中に放り投げ、それに合わせて高く飛び上がったと思うと、花束を華麗に切り刻み、宙返りして地面に着地する。


 その花びらが、キラキラと、マルコの目の前で舞い散る。


 マルコの目の前が美しい花びらでいっぱいになる。


 いや、美しいはずのものが、マルコの前で粉々に舞い散っていく。


「これは、私のプライドか。私はまるで、この少年のようだ。まるで伝わってない。本当は兄上達と子供の頃のように仲良くしたい。王位継承でいがみ合いたくなんてない。ラルフや村人達とも……。下々だなんて本当は思ってもいない……」


 ライラが地面に落ちた花びらを確認し、ヒロを睨みつける。

「仕掛けはないようだな。なんの真似だ?」

 

 花束を渡そうとして、こんなことになるなんて、想像もしなかったヒロが叫ぶ。

「花束もらって『なんの真似』って。どういう育ち方したら、そんな反応になるんだよ!」


 ライラの異変に気付き、駆けつけたムギが叫ぶ。

「ヒロちゃん! それライラの地雷」


 ムギの静止も虚しく、ヒロはライラにあっという間に攻撃されてしまう。


 村人がざわつく。その場にいる女性の一人が言う。

「ウチの子、自警団なんだけど、ここのところ、ヒロがライラちゃんに、意地悪するっていってたわ」

 その隣の女性がその発言を聞いて納得する。

「ライラちゃんが来る前までは、ヒロがオミソ村じゃ一番だったから……。そんな子じゃないと思ってたのに……」


 黒焦げになったヒロのところへ、ムギが駆けつける。

「ヒロちゃん! 大丈夫!?」

「ムギ……、今ので、なんか目が覚めたわ。やっぱ俺じゃ手に負えないわ。胸の痛みは動悸息切れの動悸だ!」

「ヒロちゃん……」



 マルコが意を決する。

「この少年のようになってはいけない。ちゃんと伝えなくては」



「聞いてくれ村人達よ。すまない。本当は感謝しているんだ。まかないも、美味しかった。親切にしてれるのも嬉しかった。つい、嫌われてるのが怖くて、先に嫌われようとしてしまうんだ」


 あっけにとられた後に、村人の一人が笑っていう。

「何いってんだい、マルコさん。みんな、そんなの初めから分かってるよ。不器用ながら、頑張ってくれてるからな」


 他の村人も、またマルコに優しく話しかける。

「下々とか言ってた時は、驚いたけど、本当によくやってくれてるよ。こっちだって感謝してる」

 

 涙を流すマルコ。村人達も感動している。


 ラルフが、スタスタ歩いて、マルコの肩にポンっと、手を置く。

「改心したな、マルコ様」


 ポカンとラルフを見る、マルコと、村人達。


 ムギがすかさず、突っ込む。

「村長、違うと思います」

 ラルフが二の舞いを踏んでしまったことに、ようやく気付く。

「あ、しまった!また損な役回りにっ!!!」


 そのやりとりに、マルコは少し笑みを浮かべる。

「少年、ペット、ありがとう。心配してくれて」

「いやいや、僕は別に」

 ペットも首を横にふる。そしてマルコがラルフの目を見て言う。

「ラルフも、ありがとう。あんなことしたのに受け入れてくれて」


「え……気持ち悪いな」


 ムギがラルフを諭す。

「村長も素直じゃないですよ」


 すっかり元気をとりもどしたマルコが、ラルフにビシッと指をさし、快活に言い放つ。


「でも、王位は私だ! それは変わらないからな!」

 

 すこし驚いたものの、ラルフもまた笑顔だ。

「元に戻っちゃたよ。まー、その方が、マルコ様らしいよ」


<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡


 アレクサンドロスがマルコを迎えにオミソ村にやって来た。マルコを見つけるとスピードを上げて、ものすごい勢いで飛んでくる。


「マルコ様ッ! お痩せになったのでは!?」

 今にも泣き出してしまいそうなアレクサンドロス。


 そんなアレクサンドロスの感性が分からなくて、ラルフが無表情で呟く。


「いや、一回り大きくなったよね。まかないの食べ過ぎで」


 アレクサンドロスが、マルコの顔をさすりながら、この世の終わりのように心配する。

「こんなに痩せてしまわれて……。城できちんとした食事を、しっかりして頂かなくては!」


 いよいよ、ラルフは理解ができない。

「アレクサンドロスもよくないよねッ!?」


 ラルフとペットとムギに、丁寧に頭を下げるアレクサンドロス。

「皆様、大変お世話になりました。村の人達にもよろしくお伝えください」


 元気よく腕を振って、マルコがオミソ村を去っていく。


 ラルフが思いっきり背伸びをする。

「あー、どっと疲れたねー」


 ペットがラルフをねぎらう。

「でも、これで、もう変なことはしてこないんじゃないか?」


 ラルフとペットが安心しきっている。しかし、ムギは二人が忘れている事実を伝えなければならない。


「それより、二人とも忘れてない? 傷心のヒロちゃんの、なぐさめ方を教えてください」


 ラルフとペットがハッとする。

「ああ……そうだった」


 三人が、疲れた表情で空を見上げる。オミソ村は今日も、いい天気だ。




第四章 マルコの休日 おしまい


次章は新たなるヒロインが登場!

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