マルコの休日

第1話 村長と、マルコさん人間じゃないんですか!?

 マルコがオミソ村の村長室にいる。王位継承10位たる自分がこんなところに。


 ラルフが村長席で頬杖をついている。その横には、ペットが浮いていて、マルコに対して心配そうな様子だ。


 精霊はみんな優しい。人もそうだったいいのに。そう思いながら、マルコは、話し出す。


「オミソ村で、しばし世話になる」

 そんな風に言いたくないのに、また偉そうな感じになってしまった。


 そしてラルフは表情一つ変えないで、ぶっきらぼうに言い放つ。

「やだよ」


 何の迷いもなく、即座に答えるラルフにマルコから声が漏れる。

「え」


 そんなマルコをペットは気遣い、助け舟を出してくれる。

「おい、ラルフ。もうちょっと優しくしてやれって。どうしたんだ、マルコ様」


 王国でも散々絞られたため、なんとか事実関係だけを、たんたんと話す。

「被害も少なかったから謹慎ですんだ。それで謹慎期間中に、オミソ村で慈善活動をするように言われた。閣議で決まった」


 ラルフは前回の件があったため、一向に調子を変える様子はない。

「なぜ、棒読み、片言で話す」


 まずい……。このままでは、受け入れてもらえない。マルコは気を取り直し、親しい感じで話しかけてみる。

「ラルフが掛け合ったんだろ? よろしくな」


 ラルフが、深くため息をつく。

「掛け合ったが、激甘だろう。そして、なんの嫌がらせだ。マドレーヌ王国め」


 アレクサンドロスなしで、こんなに人に対して下手に出るのは初めてだ。ラルフの態度にとうとう怒り出してしまう。

「お前、私にだけ態度違うからな!」

 

 その態度に、ラルフがマルコに食ってかかる。

「そりゃそうだろう! あれだけの大掛かりな嫌がらせされれば。デッカイ教団まで作って引くわ」


 大丈夫だ。王国サイドはこんなこともあろうかと、エサを用意してくれている。無事にこの謹慎を終えなければ自分の立場はどうなってしまうか分からない。


「いいのか? 私を受け入れれば、オミソ村への観光の斡旋に力をいれるそうだ」


 やれやれという感じで、ラルフが手をヒラヒラさせる。

「まったく、こんな王子様一人に行政が動くってどうなんだ」

 

 マルコは、うなだれる。そうだラルフはこんなことで動くような人間ではなかった。


「流石はラルフらしいな。やはり、なびかないというわけか」

 しかしラルフは快活に答える。

「いいだろう!」

 マルコは驚く。

「いいのか!」

 

 安上がりなのか、結局は誰でも受け入れてくれてしまうお人好しなのか、両方なのか。

「そういうことであれば仕方がない。でも、本当、迷惑かけないでね。アレクサンドロスは?」


 アレクサンドロスのことを思い出して、マルコは悲しみが込み上げる。

「ああ。アレクサンドロスが何でもやっちゃうだろうから、連れて行っちゃダメって」


 ラルフが悔しそうにする。

「くそっ。なんでそんなところはキチッとしているんだ」


<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡


 役場を出ると、ムギがちょうど通りかかったので、声をかける。ムギは自分のことを少し理解してくれている気がした。

「少年!」

「あ、マルコさん。王国の方の処分とか大丈夫だったんですか」


 やはり、気軽に答えてくれる。

「ああ、謹慎ですんだんだ。その間オミソ村で仕事をするよ。ラルフが嫌そうだったけど……。やっぱりラルフに嫌われてるのかな」

 

 マルコの寂しそうな顔を見て、ムギが穏やかに話す。

「村長は僕たちの前では、あれでも大人をやらなくちゃいけないと思うんです。でもマルコさんの前では、そのまんまでいられるんじゃないかな」


「少年……」

 ムギの優しい言葉に、マルコは心が温まる。そんな思いもつかの間、ラルフが現れる。


「ムギ君。断じて違うぞ。ムギ君ともあろう人がとんだ読み違いだ」

 

 マルコが、ムギに救いを求めるように聞いてしまう。

「少年、あれも、そうなのか!? そのまんまのやつなのか」

 

 ラルフのすごく嫌そうな顔を見て、ムギが困ったように言う。

「うーん。どうでしょう」

 

 ラルフが続ける。

「ムギ君は分かっていない。王族っていっても10位以内の奴らは特にヤバイ。特権階級意識とか、本当にヤバイ。101位から下くらいからマシになってくる」

「ちゃっかり自分を含めるんですね」

 

 そりゃいつだって、兄弟、従兄弟でいがみ合ってはいるが、そんな言われ方をするのは心外だ。

「とんだ偏見だ!」


 そんな話をしていると、ヒョイッとムギが手を上げる。

「せっかくだから、この機会に素朴な質問いいですか?」

「なんだい? ムギくん」

「なんでマドレーヌ王国の王族の人って精霊と契約できるんですか?」


 また、いつものラルフらしい軽い調子でサラッと言う。

「ああ、なんか精霊の血が混じってるらしーよ」


 案の定、ムギが驚愕する。

「え!! 村長と、マルコさん人間じゃないんですか!? ボツボツ精霊なんですか?」

 

 引いてしまっているムギに、マルコが声を上げてしまう。

「少年! バケモノみたいに言わないでくれたまえ。ボツボツ精霊? そういわれればそうなのか? いや、ほぼほぼ人間。いや、人間だ!」

 

 そこでラルフも説明を加える。

「ずーっと、ずーっと、本当に前のご先祖様の話だよ。混じってるって言ってもどんなもんなのか。精霊と人間が争ってたらしいんだけど、人間側の王子様と、精霊側のお姫様が恋に落ちてなんとか、かんとか」

「ずいぶんメルヘンかつロマンチックですね」


 確かに、そんな話も聞いたことがあるが、そうだったろうか。マルコもきちんと把握していない。


「もっと生臭いのもなかったか?それ子供向けのだろ?」

「まー諸説あるみたい。その後に精霊が数を減らしていって、契約って形で、共存をはかってるらしい?」


「なるほど、すごい納得しました! 精霊の子孫だからペットも、アレクサンドロスも、厄介かつ面倒な王子様達のお世話を一生懸命してるわけですね」

「この少年、結構言うな!」

 ムギが穏やかで、優しい一辺倒だと思っていたのでマルコは驚いてしまう。


 ラルフが時計を見る。

「あ、時間だから行かなくちゃ。村の人達に謝りにいくよ」


 村人達に謝る場をラルフがセッティングした。マルコは正直気がすすまない。


<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡


 役場の壇上にマルコが立つ。

「この度は本当にすまなかった。私が間違っていた。許してくれ……」


 マルコが両手を広げる。

「下々のもの達よ!!!」


 マルコの頭をスパンと、ラルフが叩く。マルコが前のめりになり、驚愕してラルフの方へ振り返る。


 今までの人生において誰にも叩かれたことなどない。こんなに人と距離が近かったことはない。怒りと驚きで大きな声を出す。


「おい! 私の頭を叩くとは何事だ。いい加減にしろ! お前だって本来、私に口など聞けない身分!」


 ラルフはマルコの様子にまったく屈することなく言う。

「マルコ様、ここは、あんたの国じゃないんだから。バカなんじゃない!」


 気をとりなおしてラルフが、村人たちへ向けて、拳を上げる。

「みなさん! こんないけ好かない奴ですが、面倒を見れば、マドレーヌ王国から観光客がいっぱい来ます!」


 うおーっと村人達の雄叫びがする。マルコは現金なラルフと村人たちに怒りも収まってしまう。

「商魂たくましい村だな……」


<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡


 マルコとラルフが歩きながら話す。

「ちなみにマルコ様は働いたことは?」

「あるわけないだろう。101位のお前と一緒にするな。城の外に出たことすら、滅多にない。何かあったら大変だろ」

 

 ラルフがため息混じりにいう。

「セレブな引きこもりだな」


 しかし、すぐにラルフが満面の笑みをマルコに向ける。


「でも大丈夫! きっと、すぐなれるよ。なんやかんや、人出が足りてない店はたくさんあるんだ!」


 マルコは乗る気になってきたラルフに、どれだけ働かされるのだろうと不安が大きくなってくる。

「お前の笑顔、何気に怖いよな」


 その言葉にラルフが、笑顔のまま、きょとんとしている。

「ん? なんで?」


 自覚症状がないところが、やっぱり怖いとマルコは思うのだった……。


 つづくッ!!

 次回は青春恋模様!

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