第6話 村長、王位継承1位の上から感あります
ムギ達が生物の叫び声がするドリル部隊のもとに辿り着く。
すると、爬虫類と哺乳類をごちゃまぜにしたような巨大生物が今にもドリル部隊に喰らいつこうとしている。アレクサンドロスが巨大生物を洗脳の能力で操っているようだ。ムギは見ていられなくて、目を背けようとする。
そこへ高所からライラが現れ、巨大生物の頭上に膝蹴りをし、地面に着地。巨大生物の動きが止まる。ライラの活躍にムギが叫ぶ。
「ライラ、超カッコイイ!」
マルコとアレクサンドロスもその場に着く。
「あの小娘。アレクサンドロスが洗脳したはずなのに」
ライラが答える。
「私があの程度の能力にやられると思うか。洗脳されたふりしただけだ」
ライラが、今度はドリルに聞く。
「おい、おっさん。これ壊していいのか」
「あの時のお嬢ちゃん! 本当に助かった。一応生け捕りの方向で」
ドリルの部下がライラの存在に驚きを隠せない。
「隊長! あの勇敢な女の子は!?」
「勇敢とも、女の子って感じとも違うが。もう、大丈夫だ」
巨大生物が腕で攻撃しようとしたため宙返りで避けると、尻尾で攻撃されライラが木に打ち付けられる。ドリルが叫ぶ。
「お嬢ちゃん! 大丈夫か!?」
起き上がり口から垂れる血を手の甲で拭う。昔のライラの目になり、笑みを浮かべる。
「燃やす」
その目にゾッとするドリル部隊。ドリルが呟く。
「うん。生け捕りはないな」
ライラが両手を地面についたかと思うと、ライラの周りに強い風が起こり、髪が逆立つ。巨大生物の周りを円を描くように火が起こり、一周した瞬間に一気に巨大な焔が上がる。その光景をライラが満足そうに眺める。
「すごいっすね。隊長」
「な、さっき言ったこと分かるだろ?」
しかし、火が燃え尽きた後でも、巨大生物は無傷だ。ドリルが嘆く。
「マジか」
冷静なライラが、巨大生物を観察しながらドリルに聞く。
「おっさん、あれの急所とか分かるか」
「あ、頭かな?」
「まあ、いいだろう。とりあえず、試してみる価値はある。さっき膝蹴りが効いたようだった。同時に蹴りいれるぞ」
「分かった」
部下達が感心する。
「隊長とそっくりなマッチョ精神だ…」
ライラと、ドリルが同時に飛び上がり、巨大生物の攻撃をよけ、そして頭を挟み撃ちするように回し蹴りをする。巨大生物が失神し、着地したライラの方に首がたれさがる。
ドリル部隊の歓喜の声が上がる。
「やった!」
ライラが剣でとどめを刺そうとするが、さっきの衝撃で落としたのか、剣がない。
剣はムギの近くにある。ライラが叫ぶ。
「ムギ! こっちに投げろ!」
慌てるムギだが、近くにあった剣を、なんとか拾いライラの方へ投げる。
「ライラッ!」
勢いよく剣が飛んでいった!!……と、思ったのはムギの感覚でしかなく、剣はライラの場所までは遠くおよばない所で、むなしくポトリと落ちる。沈黙が流れる。
ライラが唖然とする。
「お前……。なめてんのかッ!」
ムギが頭を抱える。
「どうしよう!めちゃくちゃ恥ずかしい!」
ラルフとペットがそんなムギを気遣う。
「大丈夫だ。ムギ君。私もこんなものだ」
「俺もだぞ、ムギ」
「お気遣い感謝しますけど、そっとしておいてください!」
本当にこの上なく恥ずかしい。その間にまた巨大生物が意識を取り戻してしまう。ライラが好機を逃したことで焦る。
「このクソガキ」
ムギは半泣きだ。
「同い年だ!バカ」
「逆ギレかよ」
ドリルが仲裁にはいる。
「ケンカしてる場合じゃない! みんな、俺が力を貯める間、時間稼ぎをして欲しい」
ライラが巨大生物の動きに注意しながら聞く。
「私がすぐ散らしたあれか」
「違うんだ。もっと時間があればもっと強力になるんだ」
「あれ、私もできるぞ」
「え」
「もっと貯まるし、早い」
一瞬悔しそうな顔をするドリルだがライラを、見て頷く。
「任せた。みんな、お嬢ちゃんが力を貯めるまで時間稼ぎだ」
ラルフの部下が一斉に声をあげる。
「了解です」
ライラの手にみるみる、光が集まっていく。マルコがその様子を見てあざ笑う。
「ドリル部隊を潰すのが先か、その小娘と時間勝負か。行け、アレクサンドロス」
ドリルの部隊が、巨大生物になぎ倒される。血を流し負傷している者もいる。その惨状を見てムギがマルコを説得する。
「もう、やめて! マルコさん! 同じ国の人なんでしょ? あなたの気持ち実は結構わかる! 村長、顔面偏差値高いし、村の人達もすぐ虜だし、なんか分かる。最初僕もいけすかなかった。あんた悪くない! むしろ普通の感覚!」
「ムギ君、ひどくないッ!?」
マルコが頭を振る。
「子供が知ったような口を聞くな! アレクサンドロス!」
また、アレクサンドロスが巨大生物を操り、ドリル部隊を攻撃する。ペットが、つらそうに言う。
「アレクサンドロス、いい奴なんだが。生真面目なんだ。本来、こんなことする奴じゃない」
その言葉を聞き、今度はアレクサンドロスをムギが説得する。
「アレクサンドロス! 言うことを聞いちゃダメだ! このまんまじゃマルコさんが、どうなっちゃうか分かってんでしょ。言われたまんま動いて、それで納得いく結末があるの? マルコさんを守れるのはアレクサンドロス、君だけだ。マルコさんの命令じゃなくて、君の君自身の行動じゃないと助けられいんだ」
大きな声でムギが叫ぶ。
「動け! アレクサンドロスッ!」
巨大生物が途端にアレクサンドロスの方を向く。ペットが叫ぶ。
「バカ! アレクサンドロス! だからって、急に洗脳を解くな」
巨大生物がアレクサンドロスを喰らおうとするところで、ライラが叫ぶ。
「全員、ふせろ!」
ライラが放つ閃光があたりを包む。閃光が消えると巨大生物がパタリと倒れる。
喰われそうになったアレクサンドロスが心配で不安で、ムギは光で眩む目で懸命に辺りを見回す。
その先には、マルコがアレクサンドロスを包み込むように守っていた。
二人とも無事だ。
「お前がいなくなったら、私は……」
マルコがポロポロ涙を流す。
「マルコ様、なんてご無理を。マルコ様はアレクサンドロスにとって、ずっと昔から王も同然です。それも、とっても、とっても優しく慈悲深い王様です」
「あいつにも勝るものが私には、ずっとあったな。力なんかじゃない、ずっとあったんだ」
マルコと、アレクサンドロスが抱きしめ合う。感動する面々。
そこへラルフがスタスタ、マルコの方へ歩いていき、マルコ肩に手をポンッとおく。
「マルコ様、改心したな」
ラルフの言葉に、あたりが冷める。
「村長、なんか違うと思います」
「え? そうかな?」
ムギが、コクリと頷く。
「王位継承1位の上からな感じあるし。名前に様って付けてる割にタメ口だし」
とんだ流れにラルフが、嘆く。
「えっ……。なぜか、私が損な役回りに…」
<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡
全員で動かなくなった巨大生物を眺める。ムギは悲しい。
「何年も閉じ込められて、最後がこんなだなんて、可哀想ですね」
ラルフがぶっきらぼうに、マルコに言う。
「マルコ様、この巨大生物の後始末っていうか、お墓立ててあげて」
「え…」
「まさか、このまま、とんずらとかないでしょ。私はチクるよ」
アレクサンドロスが、マルコの顔をしっかり見る。
「マルコ様、お言葉ではございますが、そうしましょう。アレクサンドロスも全力を尽くします」
マルコがうなずく。
「そうだね、アレクサンドロス」
「あと、ドリル部隊の冤罪もちゃんとね」
涙目で怒りながら、マルコが言う。
「分かってる!」
ドリルがライラの活躍に感動し声を掛ける。
「お嬢ちゃん、感謝する本当にありがとう」
ドリルの部隊も敬礼する。負傷したものの手当ては済んでいるようで、包帯などをまいているが、元気そうだ。
「ありがとうございます! 隊長との共闘カッコよかったです」
ライラがドリル部隊を見下げる。
「お前らが弱すぎるだけだ」
「え」
と、少し残念そうな顔をするドリル部隊。
そんなライラをムギが指差す。
「てーれーやー」
ムギのその言葉を聞いてドリル部隊がホッとした顔を浮かべ、ライラが恥ずかしさで、厶ッとする。
「うるさい。ポンコツ」
ムギがまた半泣き状態だ。
「ひどいよ! もうお願いだから忘れて!」
<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡
マルコや、ドリル部隊と分かれ、ムギ達は、村の人達を誘導するために、建物に戻るため林の中を歩く。
「マルコさんは、どうなるんですか」
「お咎めなしって訳にはいかないだろうけど……。アレクサンドロス殴っちゃったし、そこはなんとか私からもフォローしておくよ」
「なんだ、やっぱり優しいですね」
「めちゃくちゃ気は進まないけど、いがみ合い続けても仕方ないしね」
「大人になったなラルフ」
ラルフが急にポンッと手を打つ。
「あっ! あの生き物さ、剥製にして村で博物館とか作ったらよかったかな?」
「いや、今、生き物の命を尊ぼうみたいな、流れだったじゃないですか」
ライラがラルフに冷たい目を向ける。
「第一、あんなもの気持ち悪いだろ」
「そっか……。女子受け悪いんじゃダメだね」
女子受けも何もダメだろ。この村長は大丈夫なんだろうかと、いぶかしく思いながら、ムギとペットとライラは歩く。
第3章 デメキン様を狙う謎の宗教集団現る 終わり
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