第5話 王位継承10位! マルコ様現る

 ムギが袋から出されると、そこは建物の中だった。建物の窓の外から風景を見ると、オミソ村の林だと言うことがわかる。

 そこで一晩を明かすと、教団の一人に声をかけられ、部屋に案内される。部屋には教祖らしき白頭巾を被った者がおり、その横には白い布を被ったものが浮遊している。

 教祖がムギの手を縛っていた縄をはずす。

「ごめんね、縄なんか。君とはちゃんと話しがしたくてね」

 友好的に接してくることの意味がわからず、ムギは気のない返事をする。

「はあ」


 そして教祖らしき者が続ける。

「あんな小さな村ではなく、この教団のナンバーツーにならないか?」

 話の流れが、まったく分からないがムギはありのままを答える。

「いや、別に興味ないです」

「君の頭脳が必要なんだよ」

 

 口説き落としてこようとする教祖の真意がまったく理解できない。警戒心まるだしにムギが言う。

「え? なんで、そんな持ち上げてくるんですか?」

「洗脳の能力が効かなかっただけあるな」

 教祖がボソッといった後にさらに続ける。

「私も君と同じ、何も持ってないんだ。でも人が何を欲してるのかは、分かる。だから、くだらない人間を従えることで神になるんだ。君なら分かるだろう? 実質的に頭の回る人間がトップになるんだよ。現に今の君がそうじゃないか」

 

 トップだとかなんとか、この教祖は何かコンプレックスでも持っているのだろうかと、ムギはそう言ったことをすぐに察してしまう。なにより自分がそうだったから。

「別に全然トップじゃないし。もう、そういうの止めたんだ。別にいらない」

「そうかな? 本当はその力に慢心しているんじゃないのかな? 評価されるって気持ちいいだろ? 元の君に戻ってるんじゃないか? 地位が欲しいだろ? 私も君を評価している。あんな落ちぶれた王子のもとじゃなくて、私と一緒にこの教団を大きくしよう」

 

 ラルフのことを「王子」と呼ぶ。ラルフのこを知っているのだろうか。いや、知らない。知っているのだとしても存在や立場のことであって「知っている」ではない。

「村長はオミソ村を町にしたいっていったんだ。疲れちゃうからそれでいいって」

 教祖がうんざりしたようい言う。

「あの腑抜けがいいそうなことだ」

「僕も初めは物足りないと思ったけど、それでいいと思う」

「お前も腑抜けか」

 

 いよいよ、教祖がイライラしてきたようだ。そうなることが予想できたが、ムギは今までの発言を後悔することはない。そして言う。

「とにかくお前にはついて行かない。……だって教団名がダセえ」

「オミソ村に言われたくないわ……」

 

 教祖の様子がおかしい。うつむいて震えている。

「この頭のいい私の誘いを断るなんて許さない。あいつの方に肩入れするなんて許さない。始末しろ」

 教祖の側で浮遊していた者の白い布がとれて、ペットにそっくりな精霊が火の能力で攻撃してくる。ムギがとっさに物陰に隠れる。

「本当に、みんなキレやすくない!?」

 またペットにそっくりな精霊が、ムギを攻撃する。


「あの精霊なんでペットにそっくりなんだろう」


 そこへラルフとペットが部屋に入ってきて、ラルフが精霊に思いっきりパンチする。

「私の有権者になにしやがる!」

 精霊の動きが止まる。ラルフが物陰に隠れているムギに手を貸し、ムギがその手を取る。


「精霊は王族には攻撃できないんだ」

「王族、便利ですね」


 ペットがなにやら、怒っている。

「お前、デメキン様クッキー鳥がくってたぞ。バカなのか」

「真っ赤だし、あんまり美味しくないから、鳥も食べないかなと思って。あと、そのまま捕まった方が、みんなの失踪の原因つかめるし」

「お前、行動派だよな」

 ムギが嬉しそうに言う。

「それに来てくれたじゃん?」


 精霊がまた攻撃する。ペットが防御壁を張る。そして精霊に話しかける。


「アレクサンドロス、久しぶりだな。なんか相変わらず名前言うのが大変だぜ」


 似てるとは思ったが、まさか知り合いだとは思わなかったムギが聞く。

「え? 知ってるの? どうりでそっくり」


 返事をしないアレクサンドロス。今度はラルフが教祖に向かって話しかける。

「久しぶり。マルコ様。その布切れとったら? もう必要ないでしょ?」

 教祖が白頭巾をとると、ラルフと同じ金髪で、青い瞳のすこし、ふっくらした顔の青年が現れる。教祖がラルフのことを知っているようだったが、ラルフの方も知っているのだろうか。


「え? そっちも知り合いですか?」

「マドレーヌ王国、王位継承10位のマルコ様だ」

「え? てことは兄弟?」

「私は血筋的に言えば101位だから、遠い親戚?」

「ああ、そうだった村長101位だった。ああ、だから精霊もあっちの方が、すごい強いのか」

 ペットがすかさずに言う。

「おい。まーそういうことなんだけど」

 マルコが怒りに震えている。

「そう、101位のくせに、お前はいつも、いつも、私の邪魔をする」

 ラルフが飄々と答える。

「そんなつもりはないんだけど」

 マルコがラルフを睨みつけて言う。


「なにが101位だ。本当に感じが悪い。もともとは101位なんだ。だけど統率力があるとか何とかで、結局1位になったくせにな!」


 ムギが突然の真実に声を上げる。

「村長スゲー!」

「なのにアッサリ捨てて。しかも、こんな小さな村の村長になって。嫌味か!? だから今度は私がお前の邪魔をする」

 ラルフがうんざりした様子だ。

「だから、こういう輩に、こういうことされるから、嫌になっちゃうんだよ」

 マルコが怒りが収まらないのか、まだ続ける。

「国民も、従者や、軍人もみんなお前のこと持ち上げて」

 ムギが納得する。

「ドリルさんとかね」

 ムギの言葉にマルコがイラっとする。

「王位継承に急にお前の名前が出てきて、誰だよって話しだよ! 兄弟、従兄弟でいがみ合ってたのがバカみたいじゃないか。なんでも要領よくこなして。顔だってお前の方がいい。何もかもお前の方が」

 考えこむようにラルフが言う。

「うーん。顔は否定できないが」

 マルコの怒りが爆発する。

「死ね!!」

 ムギに強力な火の能力を使うアレクサンドロス。ギリギリ、ペットがムギに防御壁を張る。

「村長ッ!? さっき、自分で精霊は王族に攻撃できないっていいましたよね? 火に油を注がないでください」

 ラルフが恐縮していう。

「ああ、ごめんね!」


 すると、ドリルの部下へ指示を出すための大声と、生き物の叫ぶ声がする。

 ラルフがマルコを、静かに見つめる。

「やっぱり、生物兵器もマルコ様なの」

 いつも飄々とヘラヘラしているラルフから想像もできない表情に、マルコがたじろぐ。

「私だってやるんだ! 奥の手だ、ラルフ、ラルフ、うるさいドリルを血祭りだ」

 表情ひとつ変えずにラルフが言う。

「やりすぎだよ。いくら、王族っていってもマルコ様自身ただじゃすまない」

「なんだ? 余裕ある人間は、私の心配もしてくれるのか? アレクサンドロス、ドリル部隊を粉々にしてやれ!」


 その言葉にペットが焦る。

「ひとまず、ドリル部隊のところに行こう」

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