第4話 消えたムギ。村人達がモチモチ教徒に

 ある一件の家に村人達が集まっている。それに気づき、ムギもその家に行く。何事だろうと、近くにいる男性に尋ねる。

「どうしたんですか?」

「おお、ムギ。この家の住人が夜逃げ状態でどっかに行っちまったらしいんだ」

「え! 夜逃げ」

「ああ、しかも『モチモチ教に入信します』って置き手紙があったらしい。しかも、この家だけじゃないんだ。何件かあるらしい」

「そのモチモチ教って、この間デメキン様を奪いに来た集団ですよね」

「ああ」

 ムギはその不気味な情報に不安になる。


 先日の家のような家庭がどんどん増えていっている状況を話し合うために、ムギが村長室を訪れている。ラルフもペットも深刻な表情だ。

「これは自警団でも、どうしようもない事態だね」

「モチモチ教って何なんですか」


 ペットが説明する。

「それが、なかなか大きい宗教団体らしい。ゴマ村とは比べものにならない」

 ラルフが続ける。

「村の人が本当に心から入信したのらなら、いいんだけど、恐らく違うだろう。いざとなれば、デメキン様を渡そうと思う」

「そんな! それじゃあ、オミソ村が前みたいに」

 そのラルフの言葉にムギが大きな声を出してしまう。せっかく村がここまで豊かになったのに。ムギは当然、受け入れられない。

 ムギの反応が最もだと感じているのか、ラルフは落ち着いてムギに説明する。

「そもそも資源は大切だけど、そればかりに頼っちゃいけないんだ。オミソ村、独自の産業を見つけないと。ただ、もう数年はデメキン様で持ちこたえたかったんだけど。こうなっては仕方ない。村の人を危険にさらしてまで続けるものじゃない」

 

 ラルフが丁寧に落ち着いて説明してくれたため、もちろんムギは理解できる。でも、寂しさ、悲しさが上回ってしまう。

「だけど……」

 そんなペットがムギを気遣って、ムギの肩に手を置く。

「また次を見つけよう」

 そしてラルフが、おもむろに天井を見上げる。

「でも、実は他に思いあたることがあるんだ。村人達の入信、それに加えてマドレーヌ王国の生物兵器の略奪……、思いあたるんだー」

 ラルフがサラサラの金髪を自分でワシャワシャかき乱す。

「村長! 大丈夫ですか!」

 ペットがラルフの代わりに答える。

「まー、もうちょっと詳しく分かったら、ムギにも必ず共有するから」

「う、うん」


 ライラが警備をしているところに、白頭巾が現れる。

「お嬢さん」

 すぐさま攻撃しよとするライラ。白頭巾が慌てる。

「ちょっと待って、話を聞いて!」

 ライラが、一応攻撃する手を止める。

「あなたは、すごい強い能力者ですね」

 

 ライラが見定めるように、相手を睨む。

「ただ、能力者は使われる存在だ。よく考えてもみてごらん? 帝国の王だって別に能力者じゃないだろ? この村でいえば村長についている、あの少年だ。ああいう頭の回る人間が結局は上にたつんだよ」


 ライラがまた攻撃しようとする。

「ムギはそんな人間じゃない。上に立つとか、そんな安っぽいもんじゃない」

 ライラの手から能力が発動する。また白頭巾が慌てて言う。

「待て、待て。モチモチ教では能力者は神の使いだ。神の力を使う神聖な存在だ。さあ、私達と一緒に行こう」

 白頭巾の近くで浮遊している物が光る。ライラが無言でその光に付いていく。


 デメキン様クッキーを売り終わったムギが、デメキン様を見上げる。

「もともとは、ただの銅像だったんだもんな。それが急に価値を持っちゃって不思議っていえば、不思議だよな」


 ムギがデメキン様クッキーを倉庫にしまおうとするが、どの辺にしまえばいいものかと、おやっさんに声を掛ける。

「おやっさんー、クッキーは倉庫のどの辺に置きますか?」

 

 すると後ろから大きな袋が、デメキン様クッキーごとムギに被さる。そのまま大きな袋が巾着状になり数人に担がれて運ばれていく。すばやく袋の下の方から小さな穴があき、ポツポツと何かを落としていく。


<゜)))彡<゜)))彡<゜)))彡


 翌朝、ラルフとペットが村を歩き回りながら、各家庭に村のお知らせを配っている。そこへ、おやっさんがやってくる。

「おーい、村長。ムギがいないんだが」

 ラルフが不思議に思って答える。

「え? 知らないですよ。今日、何も頼んでないですし」

 ペットが地面に目を落とす。

「おい、みろ。なんかパンくずいっぱい落ちてるぞ」

 おやっさんは、それがパンくずでないことに、すぐさま気づく。

「これはパンくずじゃない。ムギに倉庫にしまっとけって頼んだ、あんまり売れないデメキン様クッキーの欠片」

 ペットがそのデメキン様クッキーの欠片を目で追う。クッキーが真っ赤な色をしているため、比較的よく見える。

「なんか、ずっと村の外まで落ちてるぞ」

 ラルフがまさかと思って言う。

「え! あの童話的な!? さらわれたってこと!?」

 ペットも驚く。

「マジか! ホントにそんなことする奴がいるんだな。そしてお約束だ! 鳥が食ってる! あいつ、ちゃんと童話読んでるのか!? バカだな」

 ラルフはムギの普段の機転を思う。

「それしかなかったんだよ、きっと。急がなくちゃ。すみません、おやっさん、今日は一人で人形売りを」

 事情を理解した、おやっさんが答える。

「わ、分かった」

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