第4話 村長への想いは病の域 王国の軍人現る

 見ると、ラルフにはしっかり防御壁が張られている。その防御壁を張った者は、ラルフの背後に立ち軍服を着た、服の上からも筋骨が目立つ、40代半ばの屈強な大男だ。

 

 ムギは状況が理解できず、声を漏らす。

「え…?」

 男性がライラに立ちはだかる。ライラが、ニヤリと笑う。

「また無能が一人増えたか?」

 男性が手から閃光を放ち、ライラに目くらませをする。その光にライラが、顔をしかめたところで、ラルフを、宝物でも扱うように誘導する。

「さっ、ラルフ様、今のうちにこちらへ」

 そして、ラルフとはまったく違う態度で、ムギとペットに言い放つ。

「お前らも来い!」


 男性に導かれて、ライラに見つからないよう、また物陰に隠れる。そして男性がラルフに膝まずく。

「ラルフ様、遅くなって申し訳ありません」

「いやいや、こちらこそ仕事中に申し訳ない。来てくれて助かったよ。本当にありがとう」

 

 そしてラルフがムギの方を向く。

「ムギくん、こちらマドレーヌ王国の軍人ドリルさん。ちょっと助っ人に来てもらったんだ。やっぱ実家は頼りになるよね!」

 ムギはもう、怒涛の展開で頭もついていけず、言い放つ。

「ダメ息子!」

 

 ラルフは、その言葉に何故か少し照れくさそうに笑ったあと、ドリルに頼む。

「ドリルさん、ムギ君とペットも守ってあげて欲しいんだ」

 一瞬すごくラルフの身を心配したこともあって、ムギが恨みがましい表情をする。

「さっき防御壁が、思いっきり村長だけでしたもんね」

 

 ドリルが、ムギとペットの方を軽蔑した目で見る。もちろん、ムギはショックだ。

「王族でも、貴族でもない、こやつらを」

 ラルフがドリルの目を見て、もうひと押しする。

「お願いだよ」

 ドリルは感嘆して、溜息をつく。そして、また、ひざまずいてラルフの手を握る。

「ラルフ様は本当に、何てお優しい!!!」

 ムギがつい、的確に突っ込んでしまう。

「なんだそりゃ!」

 

 ドリルは本当に感動しているようだ。ムギが完全に冷めた目で、ラルフとドリルを見る。また心のままを言ってしまう。

「なんか、また凄いの出てきたな」

 ペットも冷めた様子だ。ペットにとってはお馴染みの光景なのだろう。ペットがムギに言う。

「ごめんな、ムギ。ドリルはそういう世界しか知らなくてな。ていうか王国でも珍しい。ドリルのラルフへの想いは病の域だ」

 

 力なくムギから声が、もれる。

「ああ。そうなんだ…」

 ペットが続けて言う。

「なんか変なやつばっかりで、ムギに会って初めて話しの合う友達が出来た気がするわ」

「ペット……僕もだよ!」

 ムギとペット、人と精霊、というか彼らの周りでは実に珍しい常識人同士の友情がここに生まれる。


「よし! 彼女の狙いは僕みたいなんで、村長は隠れてください。ドリルさんとペットは力を貸して」

 快活にラルフが答える。

「分かった!」

 ドリルがラルフの身を案じて、この世の終わりのように心配をしている。

「ラルフ様、お気を付けて!」

 ラルフが素早い身のこなしで逃げていく。 

 ムギは自分で隠れてくれといったものの、あまりに軽快な身のこなしに、なんだか納得がいかず、呟く。

「速いな」


<゜)))彡 <゜)))彡 <゜)))彡


 ラルフの後ろ姿を見送った後に、ドリルがペットに言う。

「ペット、お前がついていながら、ラルフ様をこんな危険な目に合わせて」

 ペットは不服そうだ。

「いや、あいつが全部、元凶だよ」

 ため息をついて、ムギに話しかける。

「あの能力者は坊主を狙ってるのか。坊主、オトリになれるか」

 

 もう何とかするしかないと、腹をくくりムギは答える。

「何か僕が怒らせちゃったんで、頑張ります」

 ドリルがムギの決意を確認して、うなずく。

「よし! 分かった、狭い路地裏におびき寄せて、一気に叩く」

 王国の能力者を前にして、ムギは高揚する。

「カッコイイ!」

 ペットがムギの様子を、見て言う。

「そうか、お前、憧れてたんだもんな」

 ムギのキラキラした目を見て、ドリルもまんざらではないようだ。

「坊主、マドレーヌ王国の軍人の力みせてやる」

「はい!」


 村の中をフラフラ歩くライラの前にに、ムギがさっと現れ、ライラの方へ腕でを振る。

「おーい!」

 ムギを見つけて、ライラが向かってくる。

「いたなクズ。鬼ごっこはもう終わりだ」

 ムギを襲おうとするライラから逃げ、走りこんで路地裏に走り込む。

「ドリルさん!」

 ムギが物陰に隠れてる。

「よくやったぞ、坊主!」

 

 今度はドリルがさっと、ライラの前に現れる。

「お嬢ちゃん、俺は能力を貯めることができ、この力は帝国軍にも劣らないと言われている。これが坊主に時間稼ぎしてもらって貯めたものだ」

 手には巨大な光の球体がある。

「食らえ! これが王国に仕える能力者の力だ!」

 巨大な光のエネルギーがライラに飛んでいくが、ハエでも止まったかのように一瞬でドリルの力を散す。ドリルは言葉が出ない。


「……」

 

 ドリルが走って、ペットとムギがいる物陰に戻ってくる。

「ダメだったわ」

 昔馴染みのためか、ペットが容赦なくドリルに言う。

「おい! カッコイイ、セリフ吐いただけじゃねーか」

 ドリルが感心したように腕を組みながら、ライラの方を見る。

「アレは稀にみる能力者だ、格違い。惚れ惚れするわ。でも怒りで制御できないみたいだし、この村やばいな」

「おい、じゃあどうすんだよ」

 

 ムギの方へ巨大な炎の能力を、またライラが使う。ペットとドリルが咄嗟に、ムギを守るため防御壁を張る。ペットがライラの力に耐えながら、呟く。

「ホント、やっばいな」

 ライラは怒りで制御できていない力のためか、髪は逆立ち、眼はギラつき、ライラの周りで強い風が起きいてる。その様子を見て、ムギがボソッと言う。

「苦しそうだな」

 ペットが聞き返す。

「え? 何か言ったか?」

 

 怒りでいっぱいのライラの目、そしてラルフから聞いたライラの話。ムギが何かを決した表情をする。

「ペット、ドリルさん! 次の攻撃が止んだら、防御壁を外して」

「は? お前、正気か?」

「そうだ。何考えてんだ」

「攻撃じゃダメだ。たぶん僕と同じなんだ。村長が僕に任せてくれた時、ヒロちゃんが、かばってくれた時、さっきペットが友達だって言ってくれた時、なんかトゲがとれたっていうか」

「何言ってるか、分かんないぞ」

 ムギが叫ぶ。

「大丈夫だから! お願い!」

「分かった。ドリル! 次でやめるぞ」

「いいんだな!」

「はいっ」


 ライラの方へ、ムギが歩いていく。ライラが怪訝そうな顔をムギに向ける。

「丸腰? 防御壁もなしに無能力者がどうする。また小細工か?」

 ライラがムギに軽く光の鞭のような攻撃をする。ムギが倒れてしまう。ペットが言う。

「ほら、言ったこっちゃない!」

 ペットとドリルが助けようとするが、ムギが二人を手で制する。何とか立ち上がり、ライラに歩みよっていく。

「おい、ペット、あの坊主を止めなくていいのか」

「あいつ、頭は働くんだ。なんか考えが」

 言った先からまたムギがまた攻撃を受ける。

「あるのか?」

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