第3話 村長助けに来てくれたけどビミョウ

 ムギ達は目的の村に着く。オミソ村と同じような規模の、こじんまりした村だ。


 すると、さっそくライラが村の中を警備している自警団の少女に声をかける。

「おい、お前、能力者だろ? 私と勝負しろ。私に負けたらオミソ村にこい」

 何が何だか分からず驚く少女。驚いたのは声をかけられた少女だけではない、もちろんムギとペットもだ。何から何までムチャクチャだ。

 

 ムギがライラから目を離さないようにして、ペットに話しかける。

「ねえ、能力者をスカウトしてこいって言われて、道場破りしろなんていわれてないよね」

 ペットも困惑している。

「俺の能力じゃ、とうてい止められないし」

「さっきのバレても困るしね。ここは会話で穏便に、何とかしてみよう」

 ムギが少女とライラの間に入り、精一杯ご機嫌を伺うようにライラに提案を試みる。

「あのさ、とりあえず役場に行かない? そこで、ここの村の自警団の様子を聞いてみようよ。ほら彼女もビックリしてるし」

 ライラはムギの方を見ようともしない。

「私に命令するな」

 

 するとライラの手のひらから、雷の能力が発動しだす。それを見て少女が身構える。

「え? あの私、最近入ったばっかりで、警備だけを担当していて、勝負とかそんな」

 あきらかに怯えてる。

「大丈夫だ。私は勝てばスッキリするから。しびれる程度にしてやる」

 怖いとかを通り越して、もう意味不明だ。ライラと言う未知なる存在を何とかしなくては。焦りながら、辺りを見回す。

 

 少女に手をかざすライラ。目をつぶる少女。ライラが少女に、攻撃する寸前で、ムギがどこから見つけてきたのか、ライラの手にバケツで水をかける。

 あたりに沈黙が走る。そしてライラには、特に何も変化がない。ライラが聞く。

「何してんだ? お前?」

 

 もっともな質問をされる。思い切り選択を間違えたのだろう。ムギの心の中に、プラス思考をすべて奪い、体調まで悪くなってしまいそうな、あの不安感が、じわり、じわりと歩み寄ってくる。

「やっぱり、自分自身が感電するとかないよね、さすがに」

 

 ムギが少しずつ、少しずつ、後ずさりする。これは本格的にまずい。

「おい、女。この村に巨大な火災旋風を起こす能力者はいるか?」

 怯えきった少女が、なんとか答える。

「い、いません。そんなすごい人見たこともありません」

 

 ライラがムギをデメキン様強奪の時のような目で睨みつける。ムギにあの時の記憶が蘇り、恐怖でゾッとする。

「やっぱり、お前がなんか小細工したんだろう」

 

 何か、何か、この窮地を逃れる術はないかと、考えるがまったく思いつかない。ライラへの恐怖で心はいっぱいだ。

「いやー、僕は、えーっと。待って、ちょっと落ち着いて話そうか」

 ライラの周りに風が巻き起こり、髪が逆立っている。オミソ村での怒りを超える異常な雰囲気がある。

「やっぱり、お前だったんだな!」

 爆発するように、更に風が巻き起こる。

「もう、許さない」

 

 ライラの両手の手のひらから、巨大な炎がおこりムギにぶつける。ペットがギリギリで能力による透明な防衛壁をムギとペット自身に張る。

「ペット!さすが!」

 ペットが汚名挽回とばかりに、短く叫ぶ。

「危機一髪!」

 暴走しているのか、ムギだけでなく辺り一体に火の能力を使う。炎の玉が当たった木が倒れる。ペットが防御壁を張ったまま、ムギに言う。

「キレたぞ! あたり構わずだな」

「ペット、村全体に防御壁とか!?」

「そんな万能にみえるか!?」

 ムギが、自警団の少女に叫びながら言う。

「ゴメン、そこの人! 村の人に避難するように伝えください!」

「わ、分かりました」

 少女が迅速に立ち上がって走っていく。さすが自警団、村の人の避難は大丈夫そうだ。


「僕が狙いなのはあきらかだから、とりあえず、被害がでなさそうな方に行こう」

「分かった。任せろ」

 ペットがムギに防御壁を張った状態で、二人で逃げる。村の広場の物陰に隠れ、ペットが辺りを確認する。

「って、言っても、広場だと見通しよすぎるな」

「でも関係ない村の人達に迷惑かけるわけにはいかないよ」

 炎の玉をとばしながら、ライラが夢遊病のように歩いてくる。その様子にペットが怯える。

「もう目がいっちゃってるぞ。デメキン様強奪の時の敗北と、今度のでプライドがズタボロで耐えきれないんだろうな」

「どうしよう」

「なんか、トンチないのかトンチ」

 

 そこへ、ムギとペットの背後の草むらの中からラルフが現れる。

「ムギ君! 助けにきたよ」

 そのまま、一緒にラルフが物陰に隠れる。小さく体育座りをしている。

「村長なんで!? どっから出てきてるんですか。助けに!? てことは村長、実は能力者だったてことですか!? カッコよすぎる」

 ラルフが手を左右にヒラヒラさせながら、否定する。

「違う、違う、話し進めない。能力者じゃないけど、君のトンチで私を使ってくれ!」

 

 ラルフが両手を広げて、ムギの指示を待つ。一瞬言葉を失ってしまうムギだが、何とか答える。

「無能力者をどうやって。村長が身を呈して戦って死んじゃうルートしか思い浮かびません」

「十代の君には分からないかもしれないけど、私だって世間的にはまだまだ若いからね。それはナシの方向で」

「じゃあ、何しにきたんすか!!」

 ムギが焦りで、つい大きな声を出してしまう。


「まあ、まあ、落ち着いて。私も村長だよ。せめて情報提供をね。実はスカウト計画は口実で、彼女が問題あるの知ってたんだ。ムギ君と、ライラ君が友達になれば問題行動も収まるかなって。それをヒロ君に話したら、すごい怒られてね。胸ぐら掴まれちゃた『そんなの危険すぎるだろう』って。で、反省して来たわけ」

「情報提供というかカミングアウトじゃないですか!? えーっとペットも知ってたの?」

 そっぽを向いて口笛を吹くペット。

「村長とペットを怒りたい気持ちはやまやまなんですけど、彼女の問題って」

 

 ラルフが真剣な表情で語りだす。

「彼女、生まれた時から、秀でた能力者の才能があったみたいでね。帝国軍学校に入ったそうなんだけど、その異質な才能ゆえに、ひどいイジメにあったそうなんだよ。精神的に不安定になってしまって軍学校開設以来、主席で軍人にならなかったのは彼女一人。能力の抑えが効かないらしいんだ。ここ数ヶ月は色んな町とか村の自警団をしてるんだけど、どれも長く続かないらしい…」

 ライラの素性を知ってムギは息を呑む。ライラのここまでの強さに納得できる話だ。しかし、納得いかないことがある。


「そこまで知ってて、ゴマ村の申し入れを受けたんですか」

「ゴマ村は腹いせのつもりだろうね。でもさ、彼女一人のお給料で100人分はくだらない、いや、もっとそれ以上じゃない!?」

ムギが飽きれた調子でラルフを見る。

「そういう浅はかな考えでゴマ村も他の村も受け入れてきて痛い目に合ってきたんでしょーねー」

 

 面目を回復しようと、ラルフが慌てて言う。

「待って、待って、ごめん! あと、もう一つ手を打ってきたから!」

 そこへ茂みからライラの顔が現れる。ライラが不気味な笑顔を向ける。

「みーつけた」

 炎の攻撃をムギ達にあびせる。ペットが突き飛ばしてくれたおかげで、ムギは攻撃をもろには食らわなかったものの、背後に転ぶ。傍らにはペットがいる。大丈夫そうだ。ラルフの姿が見当たらない。大丈夫だろうかと、不安で力いっぱい叫ぶ。

「村長!」

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