第二話 死んだあとの世界、入り口

 小鳥遊賢治18歳。

 どこかでそう言うのが聞こえる。呼ばれているわけではなく確認されているようだ。ここは……病院?

「あ、いや俺死んだんじゃ」

パチっと目を開けて呟く。つぶやきは少しエコーした。助かった?

 ここは……どこ?

 賢治は見たことのない部屋(部屋だった)を見渡した。自分はベッドの上に寝ていた。とするとここは病院か? しかし服は白い浴衣のようなもの。足には時代劇でもあんまり見ないような草鞋。四角い袋が首から下がっている。

 部屋自体は病院の個室くらいでまっしろ。窓はない。天井に何故か明かりのたぐいがなかったが、部屋はほんのりと明るい。ベッドの足元にはモニター?テレビ?とにかく大きなそのたぐいのもの。

 ドアは一つ。

 そこから出ればいいのかな、とベッドから降りようとしたとき、ドアが開いた。

 ヒョコッと黒人のガタイのいいお姉さんが顔を出す。

「ありゃ、もう起きた?

 最近は早いなあ」

 流暢な日本語にホッとして賢治はあのう、と彼女に声をかけた。

「お医者さんですか?」

「違います。

 ごめんね、あなたは亡くなられたの、わたしはここの係員です」

 賢治は自分が死んだということをすんなり受け入れる自分が不思議だったが係員を名乗るドレッドヘアの黒人女性の方も不思議だったらしい。

「取り乱さないコ初めてだ」

 呟いてなにかのタブレットを賢治の目の前に差し出す。

「これが死因。詳しく知りたかったら申請してもらう必要があるんだけど」

「あ、ダイジョブです。

 それより、死んだってことは転生ってできるんすか?」

「えーと全部終わって希望があれば」

「……ぜんぶ? 終わって?」

「あ、これ見といて、一応決まりだから」

とモニターを指差す係員に言われるままに見ると、鯨幕の張られたどこかの……近所の寺が映っている。

「なにこれ」

「君のお通夜かな。

 仏教徒ね、ハイハイこのあたりはそうだった」

ほとんど独り言に彼女はタブレットに何かを入れていく。近所のオジサンもとい坊さんが木魚を叩いている。その横に、母が泣いているのを見つける。

「あ」

と、それしか口から音は出なかった。

 映像に音はなかったが母はどうも泣き叫んでいる。そして鯨幕にぐるりと囲まれた中の後ろのほうで

「聡一」

 親友と言える。彼はクラスが違ったが賢治とよく遊び話した。コイバナもしたし嫌いな教師の悪口にどこの牛丼が美味いかや部活に入らなかった二人はよくゲームを互いの家に持ち寄って遊んだ。それから好きな本の趣味が合った。そうだ、転生というワードも、聡一の貸してくれたラノベで知った。

 聡一は目の周りを真っ赤にして両のこぶしを握りしめてただ立っている。


 通夜が終わりモニターの電源が落ちる。


「まあそう落ち込むな、いい式だった。

 これから先長いんだ」

「これから」

 ぼんやりと賢治が言うと、係員は立ち上がりドアを開けた。

「ようこそ、冥府へ」

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転生する前に何か忘れちゃいませんか きゅうご @Qgo

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