告知

平 一

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「悪魔よ、退け!」と聖人が叫ぶと、

今にも襲いかかりそうだった魔物は消えせ、

垂れこめていた恐ろしい黒雲も引いていきました。

物陰に隠れていた人々はただ感心して、

その光景を見守るばかりでした。


かつて私は各所で、そんな舞台を演じていたのです。

しかし、心の中ではこう思っていました。

「この銀河系には、

皆さんより進歩した種族が数多くいます。

私は彼女達を統治する星間帝国のために、

貴方達の文明発展を助ける仕事をしています。

でも、ご免なさい。 

今はまだ、それを言うことができないのです……」と。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330656213709795


文明とは、高度な技術を伴う生活様式です。

技術は私達に大きな力を与えますが、

それは両刃もろはつるぎでもあります。

それまで、先進種族と接触した発展途上種族は、

遥かに進んだ文明を前にして、

過剰依存や意気阻喪いきそそうから衰退したり、

突然得られた高度な技術の悪用・誤用や副作用から

自滅したりすることが多かったのです。


そこで私は、貴方達の目から私達の存在を隠して、

秘密裏に観察・支援する方式を考えました。

特に「全能なる神は善き人々を救う」という神話は、

人々の心を癒し、救いを与える文化活動であると共に、

社会を健全に保つ政策を助ける、優れた社会技術でした。

それは知的種族がいだく限りない想像力や欲求を満たしつつ、

それらが行きすぎないよう社会のために制御して、

初期文明の発展を支援するのに大きく貢献したのです。


何しろ帝国の最先進段階にある種族達は、

全ての人口を量子頭脳網に人格転移マインドアップロードしています。

彼女達は膨大ぼうだいな演算能力や共有人格形成能力を得て、

種族全体が、帝国の様々な役職を務められます。

また、人々の人格が量子頭脳に宿って母星外におもむき、

様々な生物・機械工学的身体に人格を再転移ダウンロードして、

自由自在に活動することもできるのです。

様々な星で神話を広めるために神や天使、

悪魔や怪物を演じるのは容易たやすいことでした。


私は将来、途上種族が帝国と公式に接触した時、

敬愛する皇帝種族が支持を得やすいよう、

悪役を演じる種族が不利益を受けぬよう配慮しました。

そのため、偉大な皇帝種族に性格が似た神と、

私自身に似た姿の悪魔が対立する神話を作り、

それを用いて星々の発展を助けてきました。


皇帝種族は峻厳しゅんげんながらも慈愛じあいあふれ、

見識の高い種族でした。

その昔、近隣恒星の新星化により滅びかけた

私の種族を救ったのは、

すでに複数の種族を率いて星間帝国を建設しつつある、

彼女だったのです。


彼女はまた、国家統一後の平和社会建設を念頭に、

肉体も性格も戦士には不向きな私達を助けました。

そして帝国の公用語で〝逆境に抗う者〟

〝滅びを拒む者〟という意味の名称さえ与えて、

私達の生存と帝国への加盟を祝福してくれたのです。


私の種族はその恩義に報いるべく、

民生分野での貢献を希望し、

発展途上種族の文明開発支援に力を尽くしました。


しかし、そんな帝国にも問題はありました。

国家建設に功績のあった軍事種族の増加が止まらず、

特にその指導種族達からなる皇帝種族の側近団が、

領土拡大の停止と共に、腐敗や抗争に陥ったのです。


帝国政府は軍事技術による銀河統一に専心する余り、

経済・社会活動を健全に保つための利害調整や、

それに必要な人々の向上、政府組織の改革といった、

新政策の導入に失敗してしまったのです。


彼女達は新興の産業・技術種族に不当な要求を行い、

発展途上の種族達を自らの傘下さんかに収めようと、

私達の支援計画に非人道的な干渉を加え、

銀河系外周の種族からも資源を奪い続けました。


側近の一部はさらに、皇帝種族を傀儡かいらい化して、

帝国の実権を掌握しょうあくするまでにいたります。

そしてついには相互の内戦を引き起こし、

皇帝種族を初め多くの種族を滅ぼして、

帝国を崩壊させてしまったのです。


そこでこのたび、私達文官種族の有志ゆうしは、

多数の有能な産業種族・技術種族や、

良識ある穏健な軍事種族、

銀河系外周の非酸素系種族と協力して、

平和回復と国家復興を図ることを決めました。


幸いにも内戦以前の段階で、私達のもとには、

〝先帝〟種族から多数の避難者達が帰化しており、

その指導をあおぐこともできました。

私達の願いは〝先帝〟の遺志でもある、

〝全種族のための文明発展〟です。


途上種族が帝国に加入できる条件は、

統一政府や恒星間航行技術を持つことですが、

今回の内戦の勃発ぼっぱつにより、

貴方達との接触は予定より早まりました。

戦いのすえも、今はまだ予断を許しません。


しかしこれまで貴方達は、

神話の中の倫理や道徳を会得えとくして、

時にあやまちを犯しながらも自らをたゆまず向上させ、

規則ルール自体も社会の変化に応じて見直し続けることにより、

めざましい文明発展をげるまでに至っています。


貴方達は今回の不幸な内戦にあっても、

必ずやきっと私達の誠意と熱情を信じ、

側近種族達の政治宣伝プロパガンダに惑わされることなく、

自世界の平穏と繁栄を保ってくれることでしょう。


私達の新国家は、国家政策が文明の発展に伴い、

人々の向上を前提として、広域化すると共に

分権化するという理念に立っています。


それゆえに私達は、将来の民主化を目指して、

様々な種族の向上と協力を図りながら、

旧帝国の専制的な種族達と戦っています。


しかし、偉大な文明を築きつつある貴方達は、

いずれの陣営が勝利しようとも、

新たなる銀河秩序の中核を担うまでに

発展できるものと、私は期待しています。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330656530149947


だから私は今、このように真実を語れることを

とても嬉しく思うのです。


「……以上の経緯けいいからここに私、

旧帝国文明開発長官にして新帝国皇帝種族たるサタンは、

帝国の慣習法にのっとり、

母星の量子頭脳網と当分離個体と派遣頭脳の名において、

この太陽系第三惑星〝地球〟を含む、

銀河系内の実効的支配領域における統治を宣言する……」

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