なんかもう、つらい

譚月遊生季

小説が書けないけど文章は書きたかった

 夜闇に意識を漂わせながら、漠然と死を思う。

 部屋を変えれば合わなかった薬の飲み残しがあり、歩けば酒を売っているコンビニがあるけれど、動くこともできずに死を願っている。


 苦痛に耐えかねた精神は既に摩耗し、潰れた心は虚構を描く力を失った。

 帰宅直後に気絶した際の夢を思う。食事に経血を混ぜて食わせる旅館、出ようとすればお岩さんのような顔で追いかけてくる巨大な女、尿と血液が混ざったプールでウォータースライダー、ボートに乗っていた一人がいつの間にか消えている。不快極まりないのになぜか楽しくもあり、居心地は悪くない地獄。私は緩やかに狂っているのかもしれない。いや、狂えないから苦痛で削れているのかもしれない。


 職は決まらない。決まったとして、この疲弊した心身で勤続できるのかに自信はない。

 父と母はもうすぐ定年だ。祖母にも釘を刺された。ブラックな職場も経験しているから、社会への恐怖は膨れ上がっていく。働かずに生きていく方法は思いつかない。預金はカツカツだ。クレジットカードのキャッシングもいくらか使っている。食い扶持に宛はない。親のスネを齧って仕送りしてもらって生きながらえている。家賃はルームシェアをやめてしまったので月に6万以上かかる。地味にきつい。


 妹が今就職活動中だ。彼女はそこそこ有名な大学の院で研究をしている。私の小説は多少は金銭に替わるけれど、生きていくだけにはならない。最近、祖父の葬儀で会った。相変わらず私を呼び捨てにし、面倒くさいと言っていた。いつものこと。

 親族に結婚しないのかと聞かれた。相手はいないし、そもそも結婚できる気がしない。家事もろくにできずに汚部屋に転がってる人間だし、パーソナルスペースはなるべく広く持っていたい。一人になる時間がないのはつらい。妹は親族に褒められて誇らしげにしていた。両親も鼻が高そうだった。妬んでいる自分がまた嫌いになった。


 部屋が散らかっている。頭も散らかっている。片付けるだけの気力も体力もない。

 最近よく手を見る。手鏡は死の予兆らしい。自殺するのは怖いので、突然死を期待している自分がいる。酒に弱いけどたまにはがぶ飲みしようかと思った日もあった。思っただけだった。

 勝手に泣けてくる時と、笑えてくる時が増えた。完全に狂ってしまえば楽かな、とも思う。狂ったら頭の中のネタが書けなくなるからかろうじて抗っている。


 旅に出ようかと思ったが、おみくじの旅立ちの欄が良くないのでずっとやめている。ちなみに旅に出るだけの予算は元からない。就職活動が長引けば長引くほど消えていく。

 やることもないので、ネットの海の中で人生の希望を探してみた。死にたい人の呟きを見ると、安心する自分がいる。

 私の死を望まない人達への罪悪感を抱えながら、それでも死による終焉が待ち遠しい。死んでも救われない可能性が一番の恐怖なので、積極的な死はなかなか選べずにいる。でも地獄がさっき夢で見たぐらいの居心地なら、この世とあんまり変わんないかもしれない。むしろこの世よりちょっとマシかもしれない。いや、でも住んだら住んだで嫌なところがたくさん見えてくるかも。まだ生きよう。


 でも、肉体が死ぬのと精神が壊れるのと、どっちが先だろうか。

 どっちでも結果は同じ。苦痛も享楽も全て終わる。

 それは最悪の結末だけど、最高かもなんて思う私の意識は今、苦痛に食い潰されています。


 どうか、私の苦痛が誰かを傷つける前に、私に救いをください。それがどんな形でも、もう贅沢は言わない。この苦痛から逃れられるなら、破滅の形であろうと魅力的な救済になる。本当は生きて幸せになりたかったけど、難しいのなら、残念だけど仕方ない。来世があるなら期待しよう。人間に生まれ変わるなら超能力を持った富豪くらいでないともう嫌です。虫でいい。理想を言うなら動物園のナマケモノが一番いい。


 どうか、私の愛した人達の未来には、たくさんの幸福がありますように。

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なんかもう、つらい 譚月遊生季 @under_moon

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