2-22 見える声を見まいとして
「『
覚えてない。
ROM専、なのか……?
ただ、一つだけ言えることがあるとすれば。
あたしのことを、助けてくれたってこと。
「……よく分からねぇけど……」
あたしは、『silver』を置いて先へ進んだ。
後ろから、あたしを邪魔しようとしたリスナーが追ってくる。
だけど、アイテムはしばらく出てこない。
あたしをコースアウトさせようと狙っているような動きも見せていたが。
「そう何度も、受けるかよ……!」
小声で呟きつつ、ゲームのキャラを操作する。
あたしにぶつかろうとしてきたそいつは、狙いを外れて自らコースアウトしていった。
虹で出来た道から落ちて、星になる。
その間にも、あたしは前へと進んだ。
だが、また別のキャラがあたしを邪魔しにやって来た。身体をぶつけられ、今度こそコースから落ちてしまう。
「この……っ」
邪魔してくるのは、一人じゃなかったんだ。
ヤエのリスナー、本気出しすぎだろ……!
あたしがコースへ戻ってくると、さっき落ちていたキャラが後ろにいた。
また落とされる――そう、覚悟したが。
「っ! また『silver』……!」
ぶつかりそうになったところで、『silver』が間に挟まって身代わりになってくれた。
あたしの代わりに、宇宙の藻屑と化して落ちていく『silver』。
偶然なんかじゃない。
こいつは、あたしを勝たせようとしているんだ。
このまま、邪魔されて負けちまうかと思っていたけど、その後も何度も彼は助けてくれた。
邪魔さえなくなれば、凜々花に勝つことも余裕で出来る。
このコースは、吟と一緒に何度もやりつくした場所だから。どこでショートカットをすればいいかも、頭の中にある!
「勝てる……っ」
そのまま、三ラップ目に突入した。
凜々花は相変わらずの最後尾だ。
たまに強いアイテムを引いて順位を上げてくるけれど、それも一瞬でしかない。
このままいけば、あたしが勝つのは決まっているようなもの。
だけど、どうしてあたしなんかを守ろうとしてくれるんだ?
あたしなんて、努力も全然できずにファンも少ないVtuberなのに……。
このまま、消えてもおかしくないのに。
どうして、ここまでして助けてくれるんだ。
理由が分からなかった。
だけど、その時。
ふと、あたしは自分の配信画面に目が映った。
「あっ…………」
……そうだ。
あたしは、配信をしているんだった。
なのに、一度も見ていなかった。
あたしの配信に流れる、コメントたちを。
リスナーの言葉を。
あたしは、この配信中、ずっと……。
『ナルちゃん頑張れ~!』
『妨害に負けるな!』
『ナルちゃんならきっと、勝てるから!』
「……みんな……」
あたしは、ずっと目を逸らしていたんだ。
たとえ少ないファンだとしても。
大半のやつらが、ヤエを応援していてもずっとあたしを見てくれるファンのみんなを。
自分の悪いところばかりに意識を向けて、目を逸らして――自分の首を絞めていた。
でも、違うんだ。
少なくても、応援してくれる。
コメントだって少ない。
それでも、並ぶ言葉たちの想いは一つだった。
『俺たちは、ナルちゃんを応援してるから!』
リスナーの言葉に、ぐっと唇を噛んだ。
凜々花に偉そうなことを言っていたくせに、自分は何も出来てなかった。
頑張り屋じゃない自分には、価値なんてなって思い込んでいたから。
それでも、こんなあたしを応援してくれる奴らがいる。
Vtuberを始めた頃は違った。
チャンネル登録者なんて気にしなかった。
ただ、ゲームを楽しんでいたんだ。
リスナーと一緒に楽しめればそれでいいんだって、思ってやってきた!
なのに、ヤエのチャンネル登録者が増えてきたころから、あたしはずっと数字ばかり目で追うようになった。
相方が、どんどん遠くへと行ってしまう。
自分はずっと地面を這っているような者なのに。
その焦りが、目を曇らせた。
ちゃんと、見ていなかった。
ちゃんと、聞いていなかった。
応援してくれる声。
リスナーの姿。
そして――
「……ありがとうな……みんな……『ナルとも』の、みんな……ッ」
小さく呟いた。
マイクに乗ったかは分からない。
目を開く。
最終のゴールは、目の前だった。
あたしが操作するキャラの左右から、ずっと粘着質に邪魔してくる奴らが現れる。
アイテムを投げられる。
これを受ければ、あたしはヤエに追い抜かれてしまう。
だけどな……!
「ここまでされて、負けられるかよ……!」
レース序盤からずっと温存していた無敵効果のあるアイテムを使い、近づいてきた奴らを跳ねのけた。
「っ……!」
妨害が無くなる。
しかし、奴らの後ろからヤエが加速アイテムで迫って来た。
――負けられない。
――負けたくない!
チャンネル登録者数で勝てなくても。
得意なゲームだけは……!
「悪いけどヤエ、あたしも負けられねぇから……!」
『わ、私だって……負けないもんッ』
そこで、あたしが使ったアイテムの効果が切れる。
加速の効果が無くなり、減速してしまう。
だが、ヤエのアイテムはまだ残っていた。
カート三台分の距離を、アイテムを使ってぐんぐん縮めてくる!
あと少しで追いつかれる!
でも、ゴールも目前――。
『ナルちゃんに、罰ゲームをさせてあげるんだから……ッ!』
ヤエのキャラの加速が終わる。
あたしのキャラと、ほとんど変わらない速さ。
最終的な順位が分からなくなるよう、右下に表示されていた順位の表示が消える。
これで、追い抜かれたとしてもあたしたちには互いの順位が分からない。
だけど――。
『ナルちゃんよりも先に……ッ!』
「ヤエよりも、速く……ッ!」
熱意が思考を溶かし、ゲームへと注がれていく。
心臓が熱く震え、目の前の光景がスローになっていく錯覚を覚えた。
手にジワリと汗が浮く。
ベタベタして気持ち悪い。
それでも、目だけはゲームの画面へと集中させていた。
ゲームの音が鳴り響く。
目を見開き、肩に力が入ったまま――。
あたしたちは、ほぼ同時にゴールした。
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