2-20 最初から決まっているのに…

 ゲームが始まっても、予想通りの展開が繰り広げられることになった。


 ヤエは信じられないところでコースアウトするし、加速アイテムを使っても壁にぶつかったりして、逆に自分を追い込んでいた。


『いやぁあ! 何でそこにいっちゃうの~!』


「……」


 やっぱ下手だな。

 あっ、周回遅れで追い抜いた……。


「お先に~」


『あぁ! ま、待ってよ、ナルちゃ~ん!!』


 誰が待つもんか。


 それにしても、あたしの引退がかかったゲームとは思えないくらいに、ヤエは明るくゲームをしている。


 何か、勝つための策でもあったんじゃないのか?


 そんな疑問が浮かんできて、余計に不信感が増した。


 結局、ヤエは一度もあたしに追いつけず、一ゲーム目が終わってしまった。


 最初の待機画面に戻り、リスナーは一旦抜けた。

 あたしとヤエだけが残っていたけれど、すぐに次のリスナーが入ってくる。


『よし、今度こそは勝つからね?』


「……そう言ってるわりに、最下位だけどな」


『つ、次は絶対に一位獲るもん!』


 ヤエが反論してきて、あたしは思わず笑ってしまう。


 二人で話している間にも、リスナーが集まった。

 コースが選ばれ、次のレースが始まる。


 けれど、やっぱりヤエは最下位に終わった。


 その後も何度もレースを続けたが、ヤエはあたしに勝つどころか最下位からすらも抜け出せない。


 下手くそすぎるだろ。

 なのに、なんであたしに勝負を挑んできたんだよ……。


 分からない。

 ただ……。


『うぅ……負けたくない! ナルちゃんに、絶対に勝つんだもんっ!』


 普段は見せないくらいに、ヤエは感情をむき出しにしていた。


 配信なのを忘れているみたいに。

 レース中、何度も叫ぶんだ。


『ナルちゃんに勝ちたいの! 下手でも、どうしても……今日だけは!』


「……ヤエ、夢中になりすぎだろ」


『だ、だって……罰ゲームを賭けてるんだもん! 私、負けたくないんだもんっ!』


 ヤエの気持ちが、ゲームを通して伝わってくる。

 どうしても、私に辞めてほしくないっていう気持ちが。


 そんなことされても、あたしの気持ちは変わらないのに。


『ナルちゃんとこれからもゲームしたいもん……もっとたくさん、コラボだってしたい……夢を、もっと追いかけたいよ!』


「……」


『だから、勝ちたい! ナルちゃんに、絶対に罰ゲームさせてあげるから!』


「……ははっ」


 何だよ、それ。

 あたしがVtuberを続けるのが『罰』だっていうなら、放っておいてくれよ。


 ゲームのキャラクターを操作しながら、あたしは心の中で呟いた。


 その時だった。


「あっ……」


 いつもはミスしないところでコースアウトしてしまった。

 あたしが使っていたキャラクターがつり上げられ、元の位置に戻る。


 ただ、ここから再スタートしても、凜々花には到底追って来られない距離だ。


 大丈夫だ。

 心配しなくても、あたしは勝てる。


 いったん息を吐いて、落ち着いてから再スタートする。


 だが――。


「うわぁっ!」


 後ろから走って来たリスナーにぶつけられ、またコースから落とされてしまう。

 その間にも、次々と抜かされて行って順位が下がっていく。


 い、いや、今のは偶然のはず。

 ヤエとの距離も縮まったけど、まだ大丈夫のはず……。


 ……だったのに。


 あたしは、その後も何度も妨害された。


 妨害してくるのは、一部のヤエらーだけだと思う。

 けれど、レース中の出来事だし、やっている本人とあたし以外はきっと気づいていない。


 何度も妨害をされるウチに、あたしは凜々花に追いつかれてしまった。


「あっ……」


 しかも、ゴール手前だった。

 そのまま、あたしは一レースだけ負けてしまうことに。


『やっと勝てた! ナルちゃん、今のコース、苦手だったのかな?』


「あ、ああ……まあ、そんなところ」


 本当のことを指摘しても『負け惜しみだ』って思われるだけだ。

 あたしは言葉を濁すことにした。

 本当のことなんて、言えなかった。


 だから、その後も妨害されたとしても、文句の一つも言えなかった。

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