2-19 現実は目に見える形で

『こんヤエ~! 今日は、ナルちゃんとゲームやってくよ~!』


 配信が始まり、凜々花――いや、今はヤエか――が言った。


 今日はオフコラボの時とは違い、お互いの家で配信をしている。

 顔は見えないが、声だけはチャットツールを通して聞こえる。


 配信をしているときのヤエは、本当に楽しそうだ。

 普段の地味で大人しい姿から解放されて、ありのままの自分をさらけ出している。


 前向きで明るいヤエに、みんな惹かれているんだろうな。


 やっぱり、ヤエは太陽だ。

 見た目は、ダークチックな吸血鬼だけどな。


 そんなヤエは、至って変わらない様子で進行を続ける。


『今日のゲームだけど、私とナルちゃんで対決して、負けた方が罰ゲームだからね! 罰ゲームに何をやるかは、お楽しみに~!』


 楽しみに、って……。

 あたしがやろうとしていることを知っているくせに、よくそんなことが言えるよな……。


 すこしだけ、関心。

 その図太さに。


『それじゃあ、待機場所作るね~』


 ヤエは一度配信画面からゲーム画面を消すと、視聴者も参加できるように準備を始めた。

 ゲームが苦手なのに、自分で待機場所を作れるようになっているみたいで、さらに感心する。


 ヤエは日々成長しているみたいだ。

 この調子なら、あたしが居なくても……。


『ね、ねえ、ナルちゃん……待機場所って、どうやって作るの?』


「…………」


 こんな時にも、なかなか締まらないヤエに思わずため息が零れそうになる。

 配信に乗ったら、さらにあたしへの悪印象が付きそうだ。

 ため息を飲み込んだ。


 その代わりに苦笑した。

 ネガティブなところを見せるよりはマシだろう。


「仕方ねぇな。あたしが準備してやるから、ちょっと待ってろ」


『うんっ。やっぱり、ナルちゃんは頼れるね~! ママって呼んでもいい?』


「呼んだら、ヤエの秘密を暴露してやる」


 文句を言いつつも、あたしは待機場所を作る。

 そして、ゲームに参加するための数字が並んだコードを、チャットツールでヤエと共有する。


 お互いの配信画面にそのコードを表示させれば、準備完了だ。


『お、お待たせ! ほらみんな、参加して~』


 鶴の一斉で、リスナーがあっという間に集まった。

 宇宙を背景に、リスナーたちの二等身のアバターが走ってくる。

 その頭上にアカウント名が浮いていて、さらにコメントが表示される。


 コメントは固定された文章から選んで、その場に表示される仕様だ。

 並ぶコメントも、どれも似たようなもの。


 しかし、それ以外でも似ている部分を見つけてしまった。


 集まったリスナーの大半が、ヤエらーだったのだ。


「……」


 ほぼ、全員だ。


 チャンネル登録者数の違いをはっきりと目に見える形で突きつけられている気がして、ちくりと胸の辺りが痛んだ。


 ヤエは、きっとその違いを気にしていない。 

 気づいていないかもしれない。


 こんな細かいところまで気にするなんて、あたし、神経質すぎるだろ……。


『それじゃ、みんな集まったみたいだし始めるよ~』


 ヤエの声にはっと意識をゲームに戻してみれば、カウントダウンが始まっていた。

 ゲームの上の方に、参加者が選んだコースが表示されている。


 カウントダウンが終われば、ランダムでコースが選ばれ、対戦が始まる。


 あたしの行く末を懸けたゲームが。


「……」


 これで、終わることができる。


 夢への残滓を振り払い、熱意をこのゲームに溶かしてしまおう。


 あたしは前のめりになり、手にしたゲーム機に集中。


 カウントダウンが終わり、選ばれたコースが画面に映し出された。


 選ばれたのは、普通のサーキットを思わせるコース。

 ただ、ゲームらしくファンタジックな建造物が立っていたり、障害物があったりする。


 道路の左右に色彩豊かな街並みが広がり、街の向こうには大きく聳え立つ城も見える。

 コースの外では、二等身のキャラクターが応援している姿があった。


 やがて、頭上から信号機のようなものを持ったキャラクターがやって来る

 信号機で、三秒のカウントダウンが行われるのだ。


 赤が二つ点灯。

 そして、最後の一つに青色が灯ると共に。


 レースが始まった。

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