2-18 太陽に焼き焦がされるみたい

 心臓をドクドクと鳴らしながら、あたしは苦いつばを飲み込んだ。


 配信前の緊張を感じながら、あたしはパソコン上のチャットツールで、凜々花と通話を繋いだ。


 結局、あたしは凜々花と最後のコラボ配信をすることに決めた。


 人の頼みを断れないこの歪んだ正確に、自分自身で苦笑してしまう。


 通話越しの凜々花は、危ないものを扱っているかのように、ビクビクとした雰囲気を声に滲ませていた。


『……な、なゆちゃん、ありがとうね。コラボしてくれて……』


「……いや、別に」


『あのね、最後になるかもって言ったけど、私はやっぱり、まだ納得していないから。なゆちゃんが、Vtuberを辞めちゃうこと』


「そんなこと言われても……」


「だから、賭けをしよう」


「はぁ?」


 賭けなんて聞いていない。

 なのに、凜々花はこう続けた。


『今日のコラボ配信の内容、分かってるよね?』


「あ、ああ……リスナーの参加型で、一緒にレースゲームするって……」


 凜々花からコラボの誘いがあったのは、つい昨日の出来事だ。

 あれから少しだけ話し合い、凜々花から『視聴者参加型にしたい』という話になったのだ。


 凜々花から企画の提案があったし、何か考えているのかもと思っていたんだけど……。


『今日のゲームでね、負けた方が罰ゲームをしようってことにしたいの』


「罰ゲーム……?」


 反芻すると、通話の向こうで凜々花が頷くのが分かった。

 そして、凜々花の芯のある声が、告げる。


『なゆちゃんが勝ったら、Vtuberを辞めるのも私は止めない。でも、私が勝ったら、このままVtuberを続けて』


「っ……」


 まさか、そんな提案をされるとは思わなかった。

 だって、凜々花は……。


「……ゲーム、弱いくせにそんなこと言っていいのか?」


『うん。たぶん……いや、絶対に私が負けると思う。私、ゲームとか本当に弱いからね……』


 通話の向こうで、凜々花が困ったように笑っている表情が目に浮かんだ。


 凜々花は、マジでゲームが弱い。


 RPGだとすぐに迷子になるし、FPSなんて敵を見つける前に倒されてしまう。

 今日やるレースゲームだって、意味の分からないところでダートに入ったり、逆走してるのに気づかないこともザラだ。


 そんな凜々花に対して、あたしはゲームだけは上手い。

 昔から、吟と一緒によくゲームをしていたからな。

 自然と、ゲームも上手くなったんだ。


 まあ、あたしはあいつに勝ったことないんだけどな……。


 それでも、ゲーム初心者の凜々花よりは、確実に上手いはずだ。

 何なら、片手でも倒せると思う。


 無謀な戦いだ。

 賭けにすらなってない。


 そのはずなのに。


「――でも、私は諦めないから」


「ッ……」


 意思のある、強い言葉。

 凜々花らしいな、本当に。


 自分の弱さをすぐに認められて、自分の力で何とかしようと頑張れる。

 凜々花はいつだって眩しくて、あたしには太陽みたいだった。


 近づけば、身を焦がされる。


 頑張れない自分が、まるで悪者みたいに思えて。


 だから、少しだけ。

 凜々花と一緒にいるのが、辛いなって思うこともあった。


 こういう前向きで、ひたむきで、一生懸命に努力できる凜々花のことが。

 あたしは、少しだけ苦手だったのかもしれない。


「……分かった」


 でも、それも最後になる。

 凜々花さえ倒せば、あたしたちは……。


 夢を失って、普通の友達になれるはずだ。


 凜々花に身を焦がされなくて、済む。

 恨むことも、悔しいって胸を掻き毟りたくなることも無くなる。


 普通の友達でいる方が、なにより幸せだ。

 だから……あたしは凜々花の誘いに乗ることにした。


 どうせ勝つんだ。

 ここで、背中を向けるはずがない。



 ――それが、最後に自分を苦しめることも知らずに。

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