2-2 ウチの相方がギャップ萌えな件について
余談だけど、私たちの学校には二人のヤンキーがいる。
片方は、アキ君と話していた獄堂寺吟。
そして、もう一人は……。
「――お前、那由多に何ちょっかい掛けてんの? あたしの友達に軽々しく話しかけてんじゃねえよ」
「アァ? 何で俺がお前の言うことを聞かねぇといけないんだよ?」
吟君が睨みつけた相手は、金髪の女子生徒。吟君と同じように、制服を着崩していて、目つきの悪い子だ。
彼女の名前は
私の唯一の友達であり。
Vtuberの相方でもある少女だ。
「ち、ちょっと待ってくださいよ!」
今まさに爆発しそうになる二人の間に入り、仲裁しようとする。
「「あぁ?」」
けれど、両サイドから睨みつけられて私のリスよりも小さな心臓は停止した。きゅぅ……。
「てか、何で俺の会話に那由多が入ってくるんだよ? お前は関係ねぇんだから、どっか行ってろ!」
「凜々花はあたしの友達だ! お前みたいなやつに関わってたら、悪い子になっちまうだろうが!」
「ならねぇよ! てか、凜々花はその……お、俺の友達でもあるし……ふへっ」
「うーっわ、何その反応……マジキモいんだけど……」
「う、うるせぇよ! べ、別に、今日になって急に友達が二人もできて嬉しいとかじゃねえんだからなっ……えへへ……」
何て言ってるけど、めちゃくちゃニヤニヤしてるじゃん!?
「ふっ……。友達ができたくらいで喜ぶとか、相変わらず見かけによらずボッチなのね」
「ぼ、ボッチで何が悪いんだ! 俺は誤解されやすいだけなんだよッ!」
「はいはい。こんな奴放っといて行こう、凜々花」
「え? ちょ……」
有無を言う間もなく、なゆちゃんに腕を掴まれてしまい、私たちは教室を出た。
後ろから吟君の恨みがましい視線を感じたけれど、なゆちゃんは一切振り向こうともしなかった。
なゆちゃんに連れていかれた先は、屋上に繋がる扉の前だ。そこは少し広めの踊り場になっている。
ここはひと気があまりなく、秘密事を話すにはうってつけの場所だ。間違えてここに来てしまうと、よくカップルが話している声を耳にしてしまう。だから、私は普段からあまり近づかないようにしている場所でもあった。
そんなひと気のない踊り場で、私はなゆちゃんの正面に立っていた。
肩を掴まれ、背中を壁に押し付けられながら――。
「って、どういう状況⁉」
「……凜々花、あいつと何を話してたんだ?」
「え、ええと……吟君もヤエらーだったみたいで、その話を少々……」
「はぁッ⁉」
わぁ! 急に大声を出されたら心臓が口から飛び出ちゃうよ!
ビクッ、と肩を震わせるが、なゆちゃんはお構いなく私の目をギッと睨んできた。
なゆちゃんとは友達だけど、こうして睨まれるのは怖い。
「り、凜々花……あいつはその……話してたか?」
「え? 何を?」
「だ、だから……ナルのこと、話してたのかって、聞いてんだよ……ッ」
なゆちゃんは顔を真っ赤にしながら、私にそう訊ねてきた。
『ナル』と言うのは、なゆちゃんが魂として活動をしている『夜桜ナル』のことだ。
ナルは私こと『夜色ヤエ』とユニットを組んで音楽面で活動をしている。
元々、私となゆちゃんには接点がなかった。
それが、同じ声優事務所でVtuberを生み出すという企画が発表された際に、初めて顔を合わせたのだった。
最初はすごく驚いた。
だって、同じクラスの不良だと思っていた女子が、私と同じ声優を志して、しかもVtuberとしてユニットを組むというんだからね。
初めはなゆちゃんのことも怖かったけれど、今はそんな風には思えない。
こう見えて、なゆちゃんは几帳面で、世話好きで、少しヤンチャな女の子なのだ。
でも、どうして吟君がナルの話をしているかなんて気になるんだろう?
疑問に思いつつも、私はさっきまでの会話を思い出すことに。ええと……。
「……ナルの話は、してなかったかな……?」
「そん、な……ッ」
愕然と。
なゆちゃんは膝を床に落とし、深く沈みこんだ。
「ど、どうしたの⁉」
「うぅ……だって、あたしの話はしてなかったんだろ? あいつ、幼馴染みのくせにあたしのことなんてどうでもいいんだ……ぐすっ」
「お、幼馴染みだったの……?」
なゆちゃんは、赤くなった目を擦りながら小さく頷いた。
「そうなんだよぉ! Vtuberに興味があるなら、真っ先にあたしのことを見つけろよ! ずっと姉弟みたいに育ってきたじゃねえかよぉ! 何であたしのことを見つけねぇんだよ!」
「ええと……もしかして、嫉妬してる?」
「嫉妬じゃないもんっ」
ぷくぅ、と頬を膨らませて、なゆちゃんは不満を露わにする。
それは、まるで好きな子に相手をされずに拗ねている幼女みたいで……。
え、何この子……。
ちょっと可愛い。
「へぇ……なゆちゃんって、ああいう人が好きなんだぁ……」
「好きじゃないってば! ただ……一緒にいる時間が長かったせいか、少しだけ気になってるだけだし。つい目で追ったりするだけだし……だ、だから、別に好きとかじゃないからッ」
あぁ~……尊いなぁ……。
「な、何だよ、その目は……ッ」
「何でもないよ? けど、確かにナルのことは話してなかったけど、他にも色々とVtuberに興味があるみたいだったよ?」
「……本当か?」
「うん。たまたま、アキ君とヤエ推しが被ってて話が盛り上がってたみたい。だから、もしかするとナルのことも観てるかもしれないよ?」
私がそう話すと、なゆちゃんの顔がパァ、と明るくなった。子犬だったら、垂れ下がっていた尻尾がぶんぶんと振られていることだっただろう。
「そ、そうか! へ、へへっ……ま、まあ、あたしにはどうでもいいことだけどなッ!」
「そうだねぇ~。でも、どうしてさっきはあんな喧嘩腰だったの?」
「うっ……だ、だって……」
なゆちゃんは金色の髪を指先で弄びながら、ふいと視線を逸らして答えた。
「……あいつを前にすると、緊張して……つい、本音じゃないことまで言っちまうんだよ……」
あらぁ~?
あらあらぁ~?
「それってもしかして……」
「べ、別に、あいつのことを気にしてるとかじゃねえからな⁉」
「うんうん。青春っていいよね」
「……おい。何か勘違いしてないか?」
「してないよ~。でも、バレないようにしないとダメだよ?」
「やっぱ勘違いしてるだろ!」
なゆちゃんは顔を真っ赤にしながら否定してくる。
はぁ、私の友達可愛いな~。
にまにましていると、なゆちゃんは真っ赤な顔をしたまま呻いた。
そして、私の肩を掴むとにやりと笑う。
「じゃあ、凜々花はどうなんだよ?」
「へ……?」
ぽかんとする私に、なゆちゃんは決定的な一言を落としたのだった。
「隣の席のアキのことは、どう思ってるかって聞いてるんだよッ」
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