1-8 クラスメイトの前で自分のアーカイブ見るのって罰ゲームに近いものがあるんじゃないかな!

「何か問題でもあるでござるか?」


 問題大ありだよ!!


 と、言いたいところだったが、私がヤエだって気づかれる訳には行かない。


「ああいや! 何でもないです! あ、あはは……」


 手を振り、誤魔化そうとする。


 うぅ、だけど、このままじゃ私の前でみんながアーカイブを見ることになっちゃう!

 アーカイブの中には、自分が何を話したか分からないものもある。

 もし、恥ずかしいことをしていたり、うっかり変なことを話していたらどうしよう。


 みんなの前で恥部を晒すような行為。

 公開処刑も同然だ。


 止めたいけど、言い訳が思いつかない。


 その間に、主催者さんはバッグをプロジェクターに近づいた。

 バッグからコードを取り出し、スマホと接続。


 どうやら、最初からこのお店にプロジェクターがあることを知っていた様子。

 コードを持ってきたのも、最初からみんなでアーカイブを見るためだったのかもしれない。


 どの道、逃れられない運命だったってこと!?


 ここからだと少し離れているから、何をしているかは分からないけど、接続に手慣れていることだけは分かった。


 やがて、スクリーンに主催者さんのスマホの画面が映し出された。

 主催者さんがスマホを操作して、Youtubeを起動。


 スクリーンにいっぱいに、ヤエのチャンネル画面が映し出された。


「はうぅ……」

「どうしたの、弓削さん? 何だか様子が変だけど……」

「ああ、いえ! み、みんなとアーカイブを見るのに緊張してしまって!」

「なるほどね。確かに、みんなの前でヤエ様を見ていると、つい出ちゃうよね~」


 何が?


「……でゅふっ。こ、これで準備できたでござる」


 主催者さんがマイクを手に話す。


「で、では、今からヤエ様のアーカイブ視聴会をするでござる! あ、ポチっとな」


 と、主催者さんが動画を再生する。

 動画が再生され、天井から吊るされたカラオケ用のスピーカーから、私の声が響く。


『こんヤエ~! ヤエらーのみんな、今日も食べちゃうぞ~!』


 ……うわぁ。

 何、このイタい挨拶。

 誰がこんなこと言ってるんだろ……。


 ――私だッ!!!!


「くぅぅ…………ッ!」


 自分の声が聞こえた瞬間、一気に燃え上がるような熱が体の内側から吹きあがってきた。


 ……自分の声を録音して聞くと、どうしても違和感を覚えてしまうものらしい。

 それがスピーカーに乗せられて、大音量で響いているので、余計に聞くに堪えないものになっている。


 さらに。


「うぉおおお!!」


 隣から聞こえてきたのはアキ君の声。

 振り返ってみれば彼は床に寝転がって悶絶していた。


 アキ君、オタクが出ちゃってるよ!!


 てか、クラスメイトの男子が私の動画を観て悶絶してるんだけど!?

 死ぬ! 恥ずか死ぬ!! 私が!!


「はぁ、はぁ……やっぱり、ヤエ様は可愛い。最高だよね……」


 今、挨拶しただけだよね?

 しかも、ちょっと痛々しい感じの。


 アキ君の反応に、身体が火照るのを感じている間にも、動画は続いていく。


 主催者さんが再生した動画は、どうやら歌枠だったよう。

 カラオケのスピーカーで私の歌が流れると、自分の未熟な部分を尚更に感じられてしまう。


 音が外れた。

 リズムが早い。

 声が綺麗じゃない。


 胸が、グッと痛んだ。


 こんな歌声をみんなに聞かせるべきじゃない。

 もっとうまい人はたくさんいる。

 私なんかよりも、ずっと上手い人なんていくらでもいる。


 ちゃんと練習してるのに、どうしてこんなに下手なんだろう……。


 中途半端なものを見せたくない。


 もっと練習しなきゃ。

 もっと頑張らなきゃ。


 みんなに飽きられないように。

 みんなに見捨てられないように。


 もっと、もっともっと――。


「「「――うぉおおおおっ!!」」」


「え……」


 考えている間に、一曲終わったみたいだ。


 会場は、大歓声に包まれる。

 私の歌で、みんなが喜んでくれる。


 満足していないのは、私一人だけ。


「どう、して……」


 分からない。


 こんな中途半端な歌のどこがいいの?

 ヤエのどこが好きなの?


「むふっ! や、やはり、ヤエ様の歌はとてもいいものでござるね~!」


 主催者さんが、言った。

 みんなが、彼の言葉に頷いて返す。


「普段はロリっぽい声だけど、歌うとカッコよくなるもんね!」

「いやぁ、この歌声なら甘可愛い系の歌もいけるだろ~」

「俺さ、ヤエ様に歌ってほしい曲があるんだけどね……」


 部屋中で、口々にヤエわたしの歌の良さを語る。話して、共感する。


 その瞬間、私が抱いた感情は――。


「……ダメだよ」


 悔しさだった。


「こんなんじゃ、やっぱりダメだよ……」


 みんなは納得してくれる。

 笑顔になって、喜んでくれる。


 だけど、それはみんなが


 私の歌の良し悪しじゃなくて、私が好きだから応援して、満足して、笑顔になってくれる。


 こんなのの、どこが『歌が上手い』って言えるんだ……!


「弓削さん?」

「……ごめんなさい。すこし、お手洗いに行ってきますね」


 私はアキ君にそう言って、部屋を出た。

 廊下を歩いて、お手洗いへと向かう。

 黒塗りの扉を開き、照明で明るく照らされたトイレの個室に入った。


 急に帰るとおかしいって思われちゃうから、歌が終わるまで待っていよう。


 息をはいて、扉にもたれかかる。

 その時、スマホが震えた。


「……っ!」


 なゆちゃんからの電話だった。

 

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