第9話
「ポール!!!」
驚いたマックスが見上げると、黄金に輝く人型ロボットが巨大な銃器を構えて浮かんでいた。体長は2メートルほどだろうか。その姿はまるで、アニメの『Zガンダム』に出てきたモビルスーツ、百式だ。物凄くかっこいいな、とマックスは思った。さすがポールだ。思ってた通りだ。
「どうよ?俺の登場、決まったよな!?」
茶目っ気たっぷりにポールが言う。こんな時なのに、マックスはおかしくなった。
「ああ!サイコー!サイコーだよ!!!」
「ははっ!ありがとよう!」
言うと、ポールはまた巨大な銃を構え直し、混乱してガシャガシャぶつかっている警察ドローン達へ向き直った。そして、悠然とレーザーのような光の束を発射した。ブリューーーンと変わった音がした。そのままゆっくりと回転し、丁寧に周囲の警察ドローンをなぎ倒す。警察ドローン達がボボボボン!とまとまって円を描いて爆発した。その爆発はまた連鎖爆発を誘発し、警察ドローンは内側から外側へ向かって爆発していく。
「凄い・・・・。」
マックスは息をのんだ。凄い威力の兵器だ。
「久しぶりだなあ!」
ポールがマックスの高さまで降りてきた。とはいえ、マックスは今ポールの頭部より少し大きいぐらいの大きさだったので、ポールの顔面に向かって話すようだった。
「ポール!凄いね!」
「どうだ、いいだろうこの武器。」
「うん、すごいよ!」
「はっはー!積もる話はお互い山程あるけど、それは後回しにしようぜ。」
銃を構え直して、
「今は目の前の問題を片付けちまおう。マックス、俺の武器は強力過ぎて巻き添えが出る可能性がある。味方をうまく誘導してくれ。」
「そうか!よし、わかった!まかせろ!」
言うと、マックスは混戦模様の地表めがけて羽ばたいた。
再度、ポールが光の束を発射した。そして、警察ドローン達に命中すると同時に飛び去り、飛び去って後でドローン達が次々と爆発した。その頃にはもう次の攻撃を発射していた。また次の爆発の連鎖。物凄いエネルギー兵器のようだ。見ていると、本当にロボットアニメの主人公機のような活躍だった。
今はもう、ポールは飛行しながら地上の警察装甲車ロボットを破壊していた。その姿は神々しくさえあった。黄金に輝きすべてを切り裂く光を放つ高性能ロボット。まるで怒れる天使が稲妻で容赦なく罰を与えているようだ。いったい、あんなボディをどこで手に入れたんだろう。
ポールの登場で、一気に形勢が変化した。それまで野良ロボット達はただ全滅を待つばかりだったが、今は押し返していた。雲のように空を埋め尽くしていた警察ドローン達はあっというまに半減していた。地上を埋め尽くしていた装甲車ロボット達も、ポールの放つエネルギー兵器にはまったく敵わないようだ。分厚い装甲が全く役に立たず、簡単に引き裂かれてゆく。しかし、仲間の野良ロボット達が右往左往しているため、地上は思うように攻撃できないでいるようだ。
マックスは近くの装甲車ロボットに近づくと、何か大声で喚きながら装甲車の砲身をスパナでカンカン叩いている05の肩の取っ手を捕え、また飛行した。その周囲を飛び回りながら仲間のロボットに伝えた。
「あの黄金のロボットは味方だ!俺の友達だ!彼が攻撃するから、装甲車から離れろ!巻き添え食って爆発するぞ!」
「そこから離れろ!彼がそいつをやっつけるぞ!」
「そこから離れろ!爆発するぞ!」
何度も何度も繰り返すうちに、05も事情がわかったようだった。
「みんな離れてーー!装甲車から離れてーーー!爆発するようーーー!!」
05もマックスの真似をして同じ事を叫び始めた。装甲車ロボットに乗りかかって表面装甲を叩いたりしていた小さなロボット達がバラバラと飛び降りるのを確認して、
「ポーーール!!!今だ!!!」
上空のポールに叫ぶ。ポールは頷くと兵器を装甲車ロボットへ向け光線を発射した。ブリューーーーーン!とまた例の音がして、光の束が装甲車ロボットの車体をスパっと切り裂いた。数秒して、内部の弾薬のせいだろう、ドガーーーンと派手に爆発した。周りの野良ロボット達が歓声を上げる。
「うおおおおお!」
「やったあーーーー!!」
「うわーーーーー!!!」
抱えて飛んでいる05に向かってマックスは言った。
「いいぞ!05,君は地上でみんなに伝えるんだ!装甲車ロボットから離れろと。味方が離れたらポールが攻撃する。いいね?!」
「うん!」
「俺も空から同じように声をかける。君の動きに合わせるから好きに動いていい。危なくなったら俺が助けるから!」
「わかった!」
「よし!」
安全な高さまで降下し05を離す。05は駆け出した。
「みんなー!装甲車から離れてー!爆発するよー!」
叫びながら走り出した。05を援護するようにマックスは飛び、やはり声をかけた。装甲車ロボットから味方が離れたら上空でドローンロボットを撃ち落しているポールに向かって叫ぶ。ポールが装甲車を攻撃する。これを繰り返した。徐々に事情が呑み込めたのか、他のロボット達もマックス達の真似をし始めた。ポールはやりやすくなったようだった。やがて、2~3台の装甲車ロボットが一度に爆発するようになった。
「勝てる!これなら勝てる!こいつらを追い出してこの公園を俺達の国にできるかもしれない!」
マックスは飛び回りながら思った。時々05や他の小型ロボット目掛けて発砲する警察ドローンを見つけると、硬い外骨格を利用して体当たりし、バランスを崩した相手を振り回して他のドローンにぶつける。という事を繰り返した。大きさからすると、とても敵わない相手だが、マックスの身体のパワーは自分が思っている以上に強いようだった。外骨格も金属並みに硬度がある。ドローンの装甲が薄いプロペラ部なら、身体を丸めて体当たりをすれば簡単に撃ち抜ける事ができた。ポールほどではないにしても、マックスも相当数のドローンを撃墜していた。マックスが一台ずつ、ポールが2~30台まとめて撃墜し、地上の装甲車を撃破する度に野良ロボット達の歓声が上がった。
「わああああああ!!!」
「いいぞおおう!!!」
「うおおおおおおお!!!」
それを聞いて、マックスの気分も高揚し調子に乗り始めた時、
「やめなさい!!!」
大音量で静止の命令が響いた。皆が一斉に声の方向を向くと、ひときわ大型のドローンが周りに警察ドローンを従えて迫って来ていた。赤と青のパトランプが眩しい。
「君達、抵抗はやめなさい!一体、何千台の警察官を破壊すれば気が済むのかね!こちらには法律が味方しているんだ!これ以上抵抗しても君達の罪が重くなるだけだ!ここらで止めにして投降しなさい!」
他のドローン達と違い、権威を感じさせる物言いだった。マックスは、一言言ってやろうとその側まで飛んで行った。が、先にポールがドローンの目の前に現れた。マックスはその隣でホバリングした。
「あなたが責任者ですか?」
ポールが急に丁寧な口調で問う。チーフドローンが答えた。
「そうだ。私がこの作戦の責任者だ。君は何者かね?どこの所属だ?州警察を敵に回すつもりか!?」
ポールは背中のジョイントに大型銃を設置し収納すると、厳しい口調のチーフドローンに向かい大げさにお辞儀をした。
「それはそれはご苦労様です。そうですね、こうなった事情を説明しましょう。
私が訓練飛行をしていますと、なにやら大騒ぎが起こっているのを見かけまして。近づいてよく見てみると無抵抗の、また戦闘用の装備も無いロボット達が虐殺されているようでしたので、常識的な判断として無差別攻撃をする無法者共を懲らしめていたんです。」
「無法者とはまた古風な言い回しだな。君が破壊していたのは皆、州警察所属の警官ロボット達だ。命令を受けてこの公園の掃除をしていたのだ。君はそれを邪魔して、あろうことか警官ロボットを大量に破壊したんだ。この罪は重いぞ!」
「うーーん、困りましたね。」
ポールは芝居がかった仕草で腕を組み、あごに手を当てて悩んで見せた。
「私の所属はWSA(宇宙開発世界同盟)です。私はWSA所属の惑星探査ロボットです。私は宇宙法、宇宙開発法、宇宙秩序安定法、宇宙平和維持法に乗っ取って活動しています。」
「えっ?!」
WSA。
マックスも知っていた。世界中の政府が協力する宇宙開発のための団体だ。今はまだ他の惑星、衛星の資源探査や開発を計画している段階だが、いずれは移住計画や他の星系、他の銀河への探索を念頭に置いているであろう超国家規模の団体。その目的と立場のため、地球上でのあらゆる紛争に反対の立場をとり、今現在、発言力を増してきている強力な組織だ。その組織の描く未来は地球を平和で豊かな星にする事が当たり前の大前提であり、その主張はあまりに正論のため、どの国も無視することはできない。そしてWSAは正に地球連邦の設立を具体化しようとしており、どの国の国境をも超えて活動している。どの国家権力の影響も受けない存在となっていた。
「で、伺いたいのだが・・・・・。」
ポールは勿体付けて間をとった。
「あなたの率いる州警察は、WSAを敵に回すつもりかね?」
ドスの効いた音声でポールが凄んでみせた。チーフドローンはすっかりびびってしまったようだ。AIが計算に詰まっているのだろう。小刻みに震えている。WSAを敵に回すという事は、全世界の国を敵に回すということになる。大きな国際問題になる。一国の一州警察が起こしてよいレベルの話しでは無かった。
「いや、ここは、・・・・その、・・・・・一端持ち帰って対応を検討する・・・・。」
「再検討。」
「さ、再検討・・・しようと思う・・・・・・。」
「その方がいいですね。」
震えながら向きを変えるチーフドローンに向かって、ポールは続けた。
「ところで、州政界では政治家の汚職が甚だしく、今時まだパワハラセクハラは言うに及ばず、自殺者まで出ている政治界、経済界の方が問題じゃないですか?どうして悪事がはっきりバレてるのに恥ずかしげもなく存在する者をほっておいて、明日まで生きるのも大変な者を締め付けるんですか?」
「・・・・あー、これは今世界中がそうか。どこもかしこも。
・・・・・クソどもが・・・・。」
怒りに満ちてポールがつぶやく。チーフドローンはスゴスゴと引き返した。それを見て他のドローン達も、地上の装甲車ロボット達も、向きを変えて移動し始めた。
END
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