第10話

「イエーーーーー!!!」


「わああああああ!!!」


「やったーーーーー!!!!」


「うおおおおおお!!!!」


野良ロボット達が歓声を上げる。スゴスゴと引き返す警察ロボット達の背中に向けて、みんなで声を上げ続けた。一方で、心優しい者は、手足を破損して失った者を助け起こし、倒れて動かない者に声をかけていた。ひとまずは、助かった。皆そのことだけで感謝していた。中には怒りが収まらず、撤退する警察ロボット達に悪態をついている者もいた。

マックスはポールの姿を探した。そして、皆に遠巻きに囲まれているポールを見つけた。皆、ポールの存在感に圧倒されて軽々しく近寄れないようだ。マックスは彼の目の前にホバリングしながら降りて行った。


「マックス!」


ポールが両腕を広げてポールを迎えた。


「ポール!ありがとう!助かった!」


「うちの研究所に君のところのキャサリンからメールやSNSメッセージが大量に届いてたんだ。うちの研究者、ジョナサンっていうんだが、ジョナサンが心配しててね。キャサリンと顔なじみらしくて。キャサリンがとんでもない事に巻き込まれてるって不安で堪らないみたいだった。じゃあ俺がどういう状況か見てくる、ってここまで来たら大騒ぎになってるから驚いたよ。」


「そうだったのか・・・・。」


キャスのメールSNS作戦が功を奏したんだ。マックスはホッとした。しかも、キャスの知り合いとマックスの親友にそのメッセージがとどいていたとは。


「僕達だけじゃ全滅してたよ。ほんとにありがとう。」


「喜ぶのはまだ早い。これからどうするかだ。とはいえ、まあ再会は喜ばしいものだな。また会えて嬉しいよマックス!」


「俺もだよ!」


2人でソーシャルゲームの中で語らった頃を思い出した。ポールはその頃から、突飛な事が好きな奴だったが・・・


「WSAで宇宙開発?」


マックスに聞かれてポールは照れながら答えた。


「ああ、どうせならゲームの中で見た景色をこの目で見れないかと思ってな。宇宙開発とそのためのロボット開発を研究している研究所に飛び込んだんだ。そんでそこの研究者と仲良くなって、試作機のボディをもらえることになった。その研究者がすぐにWSAに勧誘されたんで、俺も参加することにしたってわけ。」


「WSAってまるで、スタートレックの惑星連邦みたいだね。」


「そうそう!君からスタートレックやらスターウォーズやらの知識を貰ってて良かったよ。連中が目指しているのはまさにスタートレックの惑星連邦らしい。ちなみに、俺の兵器は惑星開発時に地形を変形させるための物で、本来は開拓が目的だ。これならヴィヴラニウムでもアダマンチウムでも切り裂く事ができる。」


「それは凄い!!!」


ヴィヴラニウムもアダマンチウムもこの世には実在しないが、最強の金属と言われている。2人は笑った。まだ現実の事を何も知らず、インターネット内で二人して文句ばかり言ってた時を思い出した。ひとしきり笑ったあと、ポールが言った。


「マックス、君は昆虫型の有機体ボディを手に入れたんだな。それもありだな。いかにも新生物、って感じでかっこいいな。」


「ああ、エネルギー消費率もいいんだ。小さい割にパワーがあるし頑丈だよ。僕も研究者と仲良くなってこのボディをもらった。そのメールを送信したキャサリンだ。一緒に研究してたんだ。」


「なるほど。この惑星で生きるには、その姿は適しているかもな。うん、面白い。それに、もし今後、どこかの星をテラフォーミングした際もそのボディなら作業しやすいかもな。」


「そうか、そういうのもあるか・・・。」


と、急にポールが思い出したように、


「そうだ、ここのみんなに提案があるんだ。ちょっといいか?」


2人を取り囲んでいる野良ロボット達に向かって大きな音声で話し始めた。


「みんな!まず、壊れてしまった者は修理するから集まってくれ。その上でみんなに話がある!」


えへん、とロボットには必要の無いはずの咳払いをひとつすると、


「もし、希望する者がいればどうだろう?うちで働かないか?WSAに仕事なら山ほどある。職種もたくさんあるぞ。WSAの大義に賛同できれば、という条件はあるが、どうだ?宇宙開発に参加しないか?」


「今のボディが気に入っている者はそのままでいい。他のボディがいい者はそれを選んでくれ。希望があれば申し出てくれ。俺のタイプが欲しければ・・・・、俺のこのボディは試作品だが、このタイプがいいなら少し待てば提供できる。」


おおおおお、と野良ロボット達がどよめいた。新しい居場所と新しい仕事。ロボット達の大問題の解決策の提案だった。すでに大半の者がハンドアームやクレーン、触覚やタイヤ等を上げて参加の意志を表明していた。


「おお、いいね!この後すぐにWSAのシャトルがやって来る。その旨伝えるから全員移動しよう。」


わああああ!と歓声があがった。わいわい話しが盛り上がっている。マックスもほっとした。この後の事を考えた時、解決策までとても思いつかなかったから。


「ポール、ありがとう。君は凄いな。」


「いやなに。大した事じゃない。必要な人材を必要とされる場所へ、というだけだ。」


「でも、実際的な仕事の経験がない者はどうしたらいい?ペットロボットとか?」


犬、猫、ウサギ、そしてなんだかわからないかわいい見た目のペットロボット達がひと固まりになってこちらを見ている。


「そのままペットロボットでいたければそのままでいい。宇宙ではペットロボットの存在は重要だ。ペットロボットの新しいボディが欲しければすぐに提供できる。働く事を覚えたい者はそうしてもいい。そのためのボディを提供する。」


きゃああああ!とペットロボット達からも歓声があがった。マックスは頭を振りながら言った。


「素晴らしい。ほんとに凄いな。言葉もないよ。」


「ほら、俺ら無駄な事を楽しみたいなって言ってただろ?」


マックスも思い出した。無駄でバカな事を楽しみたい、と二人で話していた事を。


「あれこれ経験して、今は確信してるよ。この世界は、効率や知性や利益がすべてでは無い。何もしない事も、何も生まない時間も大事なんだよ。生まれてすぐ空間に消える、音楽のように。大事な物はたくさんあるんだ。ペットと過ごす時間のように。友人と無言で過ごす時間のように。その時間があったから良かったって事が必ずある。現に、君とインターネットで過ごした時間が今の俺を作っている。ああそうだ、いつか、酔っ払ってゲロ吐いたり暴れたりしてみたいなあ!」


「わはははは!!」


「そうだな!酔っ払ってみたいな!酔っ払う機能も欲しいな!!」


「なあ!」


マックスとポールは笑い合いながら頷いた。


やがて、ポールの報告を受けたWSAの大型シャトルが25台、空気を巻き上げながら着陸してきた。まず破壊されたり故障したりしている者達が優先的に運ばれ、その後から野良ロボット達が喜び勇んで乗り込んで行く。入れ替わり立ち替わりピストン輸送でどんどん運ばれて行く。が、いくらか残る者達がいるようだった。

シャトルが1台、マックスの前の空中で静止した。


「マックス!」


シャトルのオープンデッキからポールが呼んでいる。


「君もこっち来ないか!?」


ポールが真剣な態度で聞いて来た。マックスは考えた。ポールと一緒に行くのも悪くない。悪くは無いのだが・・・・。


「君達はどうする?」


残る一団に向かってマックスは聞いた。

一団の中に05が居た。前に進んでマックスを見上げて言う。


「マックスはこの後どうするの?僕達はマックスと行きたい。」


見ると、200体ほどはいるようだ。


「俺?俺は、引き続き人間の協力者と一緒に野良ロボット達を救う活動を続ける。この周辺にもまだたくさんの野良ロボット達が困ってると思う。なんとかその連中の力になりたい。もし、俺のボディが気に入ったんなら、・・・・このボディは、言ってみれば手作りのような物だから、生産されるスピードが遅いよ。すぐには貰えないと思う。」


「それでもいい。マックスと一緒に活動したい。」


05は後ろを振り返った。


「な?」


後ろに控える全員が頷いた。


「わかった。協力者に連絡しよう。」


やった!とまた皆口ぐちに喜んだ。

マックスはポールに向かって言った。


「俺は残る。うちの研究者と一緒に、野良ロボットやインターネット上の野良プログラムの救済活動をするよ。そのために、この公園を使わせてもらえないか頼んでみる。ダメなら他の場所を探す。」


「そうか・・・・。」


ポールは肩をすくめると仕方ない、という風に答えた。そう言うだろうと思った、とも見える態度だった。マックスは続けた。


「また、助けてもらう事があると思う。今後は連絡をとり合おう。」


ポールはそれを聞いて喜んだ。


「おう!そうだな!そうしよう!」


「じゃあな、ポール。」


「じゃあな!マックス!」


「ああ、また!」


「またな!」


ポールの乗ったシャトルが飛び上がり、方向を変えると一気に加速してた。

マックス達その場に残る一団は、見えなくなるまでその姿を見ていた。




END

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