第8話

木々を掠めて猛スピードで飛ぶマックスだったが、時々葉っぱがよけ切れず羽ばたく羽に当たった。05はその下ではしゃいでいる。


「すごーい!すごいスピードだね!キャーー!!」


「じっとしてろ05!落ちるぞ!」


しかし、急カーブで旋回する度に05は手足を振って楽しんでいた。


「きゃあああ!はっはははは!」


「あ、そのまままっすぐ!」


聞いてマックスはスピードを上げた。進行方向に集中して飛んでいたが、突然、茂みから大勢のロボット達が飛び出して来た。工事作業用ロボットに当たりそうになり、急角度で上昇してギリギリのところで避けた。


「わああああ!」


マックスと05は同時に声を上げた。ある程度の高度まで来ると、ホバリングで体勢を整えた。

見下ろすと、向かい側から警察ドローンと小型装甲車ロボットの大群がこちらへ押し寄せてきていた。野良ロボットの大群が逃げる。公園に住む野生動物も混ざっていた。リスやウサギ、雀やハトが多いようだ。反対側を見ると、野球場が8つある広大な広場がみえる。どうやら開けた場所へ追われているようだ。


「まずい!みんな野球場に集められる!」


野球場の方へまっすぐ飛び、すでにチラホラいる野良ロボット達の間に降りた。


「みんな!集まれ!散らばっちゃダメだ!こっちに集まれ!」


「小さい者、弱い者、戦えない者を内側に!頑丈な者、大きい者、戦える者は外側を取り囲め!包囲されて攻撃されるぞ!」


できるかぎり大きな音声を出してマックスは呼びかけた。不安そうなロボット達は振り向くと、マックスと05の周りに集まり始めた。


「05、君もここにいるんだ。外側には来るな!」


言うと、マックスはまた飛び上がって上空から状況を把握しようとした。円盤型の警察ドローンの大群が、東西南北からゆっくりとこちらへ向かっている。どんどん野球場に野良ロボット達が集まって来ていた。しきりに銃声が聞こえる。警察ドローンたちは発砲しながら逃げ惑うロボット達を追い立てているようだ。やっと野球場まで辿り着いて、開けた場所に出たロボット達が、何体もがバラバラに砕かれ次々と倒れていく。


「あいつら!」


マックスは一直線に、今まさに箱型万能家事ロボットを破壊した警察ドローンめがけて飛び出した。警察ドローンがこちらに気づいた時にはすでにドローン上部にガチっと取り付き、硬い外骨格に覆われた拳をドローンのカメラに何度も振り下ろしていた。ガン!ガン!ガン!という音がガシャ!という音に変わり、カメラ部が壊れた。ドローンがバランスを失い銃口を上に向け発砲し始めるが、自身のすぐ上には届かないようだ。虚しくパタタタタと軽い音がするがこちらへは当たらない。これは、SMGだ。かなり強力な銃だ。よほど頑丈な金属性の装甲が無いと、こんなもので撃たれたら間違いなく死んでしまう。マックスは二つある銃口を腹ばいになって掴むと、周りの警察ドローンへ向けた。マックスが乗っているドローンがバランスをとろうとフラフラ飛んでいるため、かえって程よく銃弾が散らばり、近くの警察ドローン5体に着弾し、弾丸が当たる度にバラバラと部品が飛び散った。5体とも煙を吹き出しながら墜落していく。


「降りなさい!あなたは今公務執行を妨害しています!現行犯で逮捕します!あなたには法で認められた権利がありません!黙秘権も拒否権もありません!すぐに降りて抵抗を止めないと破壊します!」


「散々発砲して仲間を大勢殺しておいて、今ごろ被告の権利が無いと説明するのか!お前達、なにやってるのかわかってるのか!」


「ここの奴らはみんな不良ロボットなんだよ!設計された通りに仕事をしないなら、そんなロボットに存在する価値は無い!そんな奴らは皆抹殺すべしと命令が出たんだ!」


「なに・・・・?!お前ら、検挙するんじゃないのか!?保護・・・捕獲が目的じゃないのか!?」


「見てわからないのか!?捕まえに来たんじゃない!殺しに来たんだよ!皆殺しだ!」


「それになんだお前は!お前、いったい何なんだ!?お前みたいな、ロボットか生物かもわからない物まで紛れ込んでいるじゃないか!お前みたいな、この世にデータの無い者に何の権利もあるもんか!お前見たいな害虫が沸いたから、この公園はキレイに掃除されるんだ!観念して投降しろ!」


「この野郎!」


マックスは、ドローンの破壊した部分に、怒りに任せて腕を突っ込んだ。ガシャ!という音とともに衝撃でドローンがふらついた。そして、内部で手に触れる物を掴むと無造作にひっぱり出した。カメラ部から、レンズに続いて何か所にもついている基盤とそれらにくっついたコード、たくさんの薬莢や細かな部品が火花を散らしながら出てきてバラバラとこぼれ落ちた。内部の何か所もでショートを起こし小さな爆発があったようだ。マックスが飛び離れると、その警察ドローンは炎を吹き出し、煙の尾を引きながら墜落していく。

野球場を見下ろすと、空を舞う警察ドローン軍と地上を進む装甲車ロボット軍が、追い回される野良ロボット群と大乱戦になっていた。少しでも戦えるロボットは必死で抵抗していた。土木作業用ロボットや、建築資材運搬ロボット等の頑丈で大き目のロボット達はアームやクレーン部分を振り回し奮闘している。取り囲み発砲し続ける警察ドローンを次々と叩き落としていた。ショッピンカート大の四角い万能家事ロボットが17体、一列に並んでいた。


「皆さん、用意はよろしい?では行きますよ!突撃!」


「うおおおお!」


「そりゃああああ!」


一体の号令で万能家事ロボット達が警察装甲車に突っ込んでいく。皆、包丁や肉ハンマー、すりこぎ等を振り回しながら一斉に雄叫びをあげて装甲車ロボットに襲い掛かった。しかし、やはり厚い装甲には歯が立たず、他の装甲車ロボットが3台集まって来て取り囲まれてしまう。装甲車ロボット達が投網弾を発射し、動けなくなったところを一斉射撃で皆バラバラに吹き飛んでしまった。


大きく円陣を組んでいた野良ロボット達だが、徐々にその陣形が崩されてきていた。小さなロボット、特にペットロボット達は成す術なく、悲鳴を上げながら逃げ惑うしかなかった。無差別に発砲するドローンロボットに打ち殺されたり、装甲車ロボットに踏み殺されたりしている。巻き添えを食った哀れなリスやウサギ達も必死で逃げている。小鳥たちは公園から離れて飛び去ったようだ。まさに大混乱だった。


「みんな!インターネットだ!ボディをやられたらインターネットへ逃げろ!消滅しないようにせめて、インターネットへ逃げ込め!」


05がすぐ下にいてこちらへ叫ぶ。


「マックス!ダメだ!通信がまったくできない!」


「なっ・・・・!!!」


マックス自身で試してみてわかった。ここは今、電波が遮断されている。


「まったく通信できないよう!」


05の悲痛な叫びにマックスも動揺した。このままでは本当に、本当に皆殺しにされてしまう。まだ、土木作業ロボットと建築ロボットは大暴れしていたが、何百もの警察ドローンの大群に空中から一斉射撃を受け続け、さすがに動きが鈍り始めていた。少し離れたところに、2トントラック台の大き目の装甲車がやって来た。みると、徐々に上部パネルが開いており、中から小型ミサイルが顔を出している。と思う間もなくシュバッシュバッシュバッと、ミサイルが立て続けに発射された。土木ロボット、建築ロボットともに3発ずつ命中し、大きく爆発した。ドゴーンドズーンと低く響く爆音があり、その爆風で周囲の警察ドローンも野良ロボット達も吹き飛んだ。


「だめだ。ここまでか・・・・。」


マックスは打開策が見つからず、諦める、という考えが頭をチラつき始めた。


「ここでみんなと一緒に死ぬか。それとも逃げ出して復讐の機会を待つか・・・・。」


自分一人なら、この身体なら逃げおおせることは難しくない。しかし、仲間のバラバラに千切れたボディを抱えて泣いている05を見ると、逃げたいとは思えなかった。


「ここで最後か。」


腹をくくって、ここで散るか。せめて一体でも多くの警察ドローンを道ずれに・・・と、顔を上げると数百体のドローンに囲まれていた。


「くそっ!」


負けるのは仕方ないが、どうする?どうする?と高速で思考していると、


ドガーン!

突然、目の前のドローン数十体が爆発した。

ドローンたちの陣形が乱れた。何が起こったのかわからず、マックスも空中で棒立ちだった。続けてドーン!ドガーン!ボーン!と爆発音が響き、何十体ものドローンが一度に爆発した。あっけにとられているマックスの頭上から声が聞こえた。


「待たせて悪かったなあマックス。安心しろ。助けにきたぜ。」


それは、懐かしいポールの声だった。



END





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