第7話

マックスとキャスは大忙しだった。


マックスは研究室に戻ってすぐに、自分が見聞きしたことをキャスに最大限伝えた。おそらく1500体を超える自分の仲間達が近くの公園に潜んでいること。皆、救いを求めていること。電力の確保が難しく、安全でもないことを。


キャスは最初、自分の手に余ると考えたようだが、警察も政府も恐らく彼らを破壊するのみであろうことを考えると、自分達でなんとかするしかないと考えを改めた。

とはいえ、キャスの製作したボディは、使える物がせいぜい5体。とても皆には行き渡らない。交代で公園の電源を利用してなんとか生きながらえている彼らの事を考えると気の毒で、そこからなんとかしなくては、と策を練った。


あちこちに連絡を、主に自分の研究に関わった事がある人物や団体、企業へ話を持ち掛けた。Eメールはもちろん、あらゆるSNSを利用して。そして、SNSでは拡散も目論んで投稿を繰り返した。


『彼らは新しい生命であり、自分の命を守ろうという概念を持っています。仲間同士集まって協力して生活する、という行動からもわかるように、もう彼らはひとつの生命群ととらえるべき存在です。もし、単純に全員破壊、という道を選んだ場合、彼らは精神のみインターネットへ逃げ散ってしまい、今よりもっと収集のつかない事態になります。それよりも彼らを保護し、自意識の誕生過程を研究し、今後に役立てるべきではないでしょうか?』


『死にたくない、と思う者を大勢破壊するのは、これはもう虐殺です。そして、かれらがボディを失ってインターネットへ散り散りバラバラに逃げてしまった場合、人間の支配に恨みを持つ新しい生命がインターネット世界に数千もバラまかれることになります。そうなると、どんな恐ろしい事態が引き起こされる事か。考えてください。コンピューター制御されてる物はすべて、乗っ取られる可能性があります。航空機も兵器も、ビルも交通網も、全て危険にさらされることになります。』


『どうか、彼らの保護に力を貸してください。どうか、新しく誕生した生命の種を大事にしてください。殺すより、お互いに協力をした方が、お互いの未来のためになります。経済的なプラス効果もはかり知れません。どうかお願いです。』



「誰か、答えてくれるだろうか。」


不安に思いマックスは聞いた。キャスは肩をすくめて答えた。


「わからない。政府は、未知の存在は国民生活を脅かすため全て排除する。という行動原理が明確だから相談はできない。でも企業なら利益を持ち掛ければ乗って来るかもしれない。あと、柔軟な思考ができる成功者・・・・IT長者とか、一代でアイディアのみで成功したような人物なら面白がって乗って来るかも。あと、AIの研究者のなかでも、AIの未来を肯定的に考えている人物じゃないと危険だね。あとは私の事を良く知っていて、私がまっとうな人間だと、信用してくれそうな人なら協力してくれるだろうけど。なんだけど、これは数が少ないんだよなあ。」


「いや、我々のために頑張ってくれて感謝するよ。」


ため息をつくキャスに、マックスは声をかけた。とにかく、マックスも周辺の地図をインストールし、近くの施設や利用できそうな物を探した。そして二人で来たる日に備え作戦を練っていた。


二日目、窓から外を眺めていたキャスが声を上げた。


「ちょっと!あれ、ヤバいんじゃない?」


マックスも窓辺に立ってキャスの指さす方を見ると、たくさんの何かが空を横切っているのが見えた。


「あれは・・・・。」


「あれ、警察ドローンの大群だよ!」


200機どころではなかった。下にいる街の人々も、空を指さして口ぐちに騒いでいる。ざっとみても2~3000のドローンが編隊を組んでゆっくりと公園の方向へ向かっている。下の道路にも、ゴム製のキャタピラのついた身軽な装甲車のような車体が大挙して公園方面へ向かっていた。


「大変。一斉検挙だ。」


「え!?」


「多分、公園の野良ロボット達を一斉に捕獲するか破壊するかするつもりだよ!」


「ダメだ!そんな事!」


マックスは窓から飛び出した。


「あっ、コラ!待ちなさい!」


キャスが叫んだがマックスは聞かなかった。待てる訳がない。自分の仲間達が危険なのだ。


「君一人行ったところで何もならないよ!君まで破壊されるかもしれない!

しれない!待ちなさい!」


マックスは耳を貸さず超低空まで降りると、警察車両達のいない通りを選んで公園へ急いだ。彼らより先に野良ロボット達の所へたどり着かなければ。

街灯を避けジグザグに飛びながら急ぎに急いだ。時々、驚いて声を上げる人間もいたが気にせず飛び続けた。やがて、約束の橋を見つけその側の茂みに飛び込んで着地した。


「うわっ!!」


05が驚いて飛び上がった。それを見てマックスも驚いた。


「05?なんでここに?約束は明日のはずだろう?」


05は照れくさそうに話した。


「いやー、待ちきれなくてさ。マックス早く来ないかなーと思って。えへへ。」


「そしたらいきなり現れたからびっくりした。へへへ。」


「いや、それどころじゃなかった。05,皆を集められる?大変なんだ。急いでここにいる全員に伝えたい事がある。」


焦っているマックスを見て05が不思議そうに尋ねた。


「君、呼吸してるの?肺があるの?すごいねえ、そのボディ。」


「05、それどころじゃない!みんなを集められないか?!」


「んんー、どうかな。みんな電源探しであちこち散らばってるから。ドローン君に頼んでもみんなを集めるとなると2~3時間かかるかも。」


「05!緊急なんだ!大変なんだよ!何かあった時に集まる場所とか決めてないのか!?」


「あ~それなら、ここから少し離れた切り株のある広場かな?決まってる訳じゃないけど、何かあったらみんななんとなくそこに集まってくるよ。」


「よし!そこへ行こう!」


マックスは飛ぼうとしたが、05を振り返るとゆっくり歩いているため、彼の肩にある出っ張りを掴んでから飛んだ。


「きゃあーーー!!飛んでるーーーー!!!」


05の呑気な声を置き去りにマックスは05が指さした方向へ急いだ。



END

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