マリナにも、設定やらシナリオやらに縛られることなく幸せになってほしいと願うことは、傲慢だろうか?


「あの、ずっと聞きたかったんですけど、聖剣を破壊したことでリヒト殿下がお咎めを受けるなんてこと……ありませんよね?」


 エリザベートが心配そうに言う。


 一番最初に異変に気づいて、泣きながらサロンに走ってくれたのはエリザベートだ。

 彼女がいなかったら、レティーツィアはどうなっていたかわからない。


 感謝してもし切れないからこそ、嘘をつきたくなかった。リヒトもそれを許してくれたため、彼女にはレティーツィアからすべてを話していた。


「今のところ、詳細は秘されているのでその心配はありませんけど、しかしすべてを公にしたところで、リヒト殿下が咎められることはないでしょう。世界六国の王は、みなさま内心では安堵してらっしゃると思いますよ」


「そう……でしょうか」


「ええ。世界の統一――聞こえはいいですが、どのような方法で統一がなされるかなど、一切不明でしたからね。世界六国の王にとっては、ある種自国の滅亡を突きつけられたようなものだったでしょう」


 イザークが「現行の国や制度を一切壊すことなく成し遂げられる世界統一なんて、それこそ夢物語です。それは国を背負う王こそが、一番よくおわかりのはずです」と言う。


「だからこそ、『六聖を手に入れる』という選択をした王が多かったんです。不透明なことが多すぎる中で、それが一番国や民にとってリスクが低かったから」


「……! じゃあ、ほかの国を侵略したかったわけではなくて……」


「自分の国だけでも、なんとか守らなくてはならない。その一心だったんだと思いますよ」


 おそらくは、イザークの言うとおりなのだと思う。


 大それた野望を抱いた王は、誰一人いなかった。

 ただ、守るべきものを優先しただけ――。


「それを聞いて、安心しました……」


 心底ホッとした様子で、エリザベートが微笑む。


 リヒトは目もとを優しくして、「お前は本当にいいヤツだな。褒美をとらせよう」と言って、エリザベートの皿にカップケーキをちょんと置いた。


「咎められたって構わんさ。世界中を敵に回す大悪党になったら――イザークが喜びそうだ。なぁ?」


「そうですね。それほど面白いことはないでしょうね。そうなったら、一生ついていきます」


 リヒトの言葉に、イザークが大きく頷く。

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