5
「……従者なら、まず大悪党になることを止めるべきではなくて?」
レティーツィアのため息に、イザークが「嫌だな。僕がそんなことするとお思いですか? 繰り返しますけど、この僕が!?」などと言う。思わないからこそ、従者として間違っていると言ったのだけれど。
「……使えるからといって、あまり甘やかしてはいけませんわ。リヒト殿下」
「甘やかしているつもりはないが、今さらあれに常識やら良識やら倫理やらを説いたところで、時間と労力を無駄にするだけだぞ? そんなものは、イザークには露ほども響きはしない」
「それは……そうですけれど……」
それでも、主が大悪党になるのを歓迎する従者はどうかと思う。
再度ため息をついたレティーツィアに、リヒトは悪戯っぽく目を細める。
そして――手を伸ばして、レティーツィアの髪をひとすじ、すくい取った。
「繰り返すが――構わんさ。そんなことは些細なことだ。なにせ、大悪党になろうと、世界を敵に回そうと、俺は間違いなく幸せになれるからな。そうだろう? レティーツィア」
「……!」
その髪に、甘やかな唇を押しつけて、リヒトが微笑む。
レティーツィアを映した金色の双眸が、妖しく煌めいて――心臓が跳ねた。
「お前が絶対に、俺を幸せにしてくれるらしいからな」
「っ……!」
ずるい、と思う。
リヒトはずるい。たったこれだけのことで、レティーツィアを幸せにしてしまうのだから。
「ええ……」
体温が上がる。鼓動がどんどん早くなってゆく。
レティーツィアは両手で胸もとを押さえて、ふわりと微笑んだ。
「ええ、もちろんですわ……!」
設定なんて知らない。
シナリオなんて関係ない。
乙女ゲームの世界だから――なんて、もう決して考えない。
主人公とか、攻略対象とか、脇役の悪役令嬢だとか、そんなことももう二度と気にしない。
これまで、自分の信じる道をひたすらに走ってきた。
そして、これからもそうする。
それだけだ。
レティーツィアの大義は、今も昔も一つだけ。
『推し』であり『最愛の人』であるリヒトを、誰よりも幸せにすることだけだ。
そのためならば、どんなことでもしてみせる。
努力に努力を重ねて、努力し尽くす。
『推し』であり『最愛の人』のため、尽くして、尽くして、尽くし尽くす。
それこそが――レティーツィアの至上の喜び。
「嫌だと仰っても、わたくしは殿下を誰よりも幸せにしてみせますわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます