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「殿下がそれを断固拒否して、陛下と真っ向から対立しまして。最後はそれこそ、殴り合いの大喧嘩です。めちゃくちゃ見ものでしたよ!」
イザークがものすごい笑顔で、とんでもないことを言う。
レティーツィアはあっけにとられて、リヒトに視線を戻した。
「嘘ですよね……?」
「危うく殺してしまうところだった」
リヒトが真面目な顔でのたまう。
「え……? じょ、冗談ですよね……? 殿下……」
「…………」
オロオロするレティーツィアを尻目に、リヒトは平然とした顔で紅茶に手を伸ばす。
「そして、リヒト殿下が学園に戻られるなり、入れ替わるように『六聖が失われた』との報が各国へと伝えられたわけですから――まぁ、陛下は青ざめますよね。さすがに、タイミングがタイミングですから。リヒト殿下が何かやらかしたのではないかと」
「そ、それで……親書が……」
「リヒト殿下の判断で、元・六聖の乙女とセルヴァ殿下――そしてヴェテルの体裁を考えて、今のところヴェテル以外の王には詳細を秘していますからね」
そう――。マリナがセルヴァを使って起こしたことは、極秘裏にヴェテル王へ伝えられたが、まだほかの国には伏せてある。
本来、一国の皇子が他国の皇子の持ちものに手をつけるなど、あってはならない重罪だ。
六元素の力を一つずつ司る世界六国は、ともに歩むべき存在。
平和を崩す争いの火種を作ることは、何よりも重い咎なのだ。
しかし、今回は予言の者――六聖の乙女が現れたことで、世界は混乱していた。
その上で、首謀者は六聖の乙女自身。基本的に、セルヴァに拒否権はなかったということを考慮して、リヒトはヴェテル王にのみ、ことの顛末を伝えるという判断を下した。
『六聖を手に入れよという方針自体は、何も間違っていないと思います。むしろ、国を預かる身としては当然の判断でしょう。しかし、六聖を手に入れるためならば何をしてもいいというわけではない。非道・外道を許して作り上げる国は、はたして民を幸せにできるでしょうか。私は、そうは思いません』
すべてを明らかにしたあと、リヒトはヴェテル王にそう語ったのだという。
『先の王が――そして陛下が守り、作り上げてきた国を、汚すような真似を許してはいけない。ですが、彼に選択肢がなかったのも、また事実。今回のことは私の胸に秘め、処罰については陛下にお任せしましょう』
リヒトの言葉に、ヴェテル王は深く感謝し――そして陳謝したのだそうだ。
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