27

「君の意見など関係ない! あれは世界の宝なんだぞ!」


「――もう一度言う。レティーツィアの言うとおりだ。そんなもの世界には必要ない」


 それだけ言い捨てて、さっさと背を向ける。


 もう、貴様に興味はないと言わんばかりに。


「リヒト!」


「覇王となりたいのなら、小さい策を巡らすのはやめるんだな。セルヴァ。か弱い女を攫って、監禁して、それで得られる覇者の座とはどんなものだ」


 レティーツィアの前に立ち、肩越しに振り返って、セルヴァを見る。


 冷たい瞳が、鮮やかな侮蔑の色に染まった。


「そんな安いもの――俺ならいらん」


「っ……!」


 セルヴァが奥歯を噛み締め、リヒトをねめつける。


 しかし、聖剣が失われてしまった今、彼にはもう何をどうすることもできない。

 セルヴァは絶望に顔を歪めて、ガックリと床に膝をついた。


「一国の皇子の伴侶となるべき女に手を出したんだ。ただで済むとは思っていまい。ただちに主従ともに国へ戻り、謹慎していろ。追って、沙汰が下るだろう」


「…………」


 セルヴァはもう動かない。

 主の戦意喪失に、ノクスもまた目を伏せることしかできなかった。


「……さて、と」


 リヒトがレティーツィアに向き直り、その手を取る。

 ようやく拘束が解かれて、レティーツィアはホッと安堵の息をついた。


「助けていただき、ありがとうございます。リヒト殿下」


 深々と頭を下げると、リヒトもまた安堵したように――そしてどこか満足げに微笑んだ。


「では、どうする? 助けに来た正義の味方皇子さまらしく、抱き上げて連れ出してやってもいいが、この建物の周りを取り囲んでいたセルヴァの私兵を片づけたあとで、正直俺は疲れている」


「は、い……?」


 そのヒーローらしからぬ言葉に、思わず目をぱちくりさせる。


 レティーツィアは、悪戯っぽく笑うリヒトをまじまじと見つめて――破顔した。


「もちろん、自分の足で歩きますわ」


 クスクスと笑いながら、きっぱりと告げる。


 自分は、リヒトに守られるためにここにいるのではない。


「わたくしは、殿下の隣に立つ者ですもの」



 

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