26

「やめろっ!」


 いち早く、レティーツィアの狙いに気づいたセルヴァが叫ぶ。


 だが――もう遅い。


 聖剣は、主人公が持つことを前提にデザインされている。ゆえに、細身で美しい。その上で、剣は日本刀ほどではないけれど、やはり横からの力には弱い。


 リヒトが渾身の力で振り下ろした切っ先を、剣の腹で受け止めればどうなるか――。


「ッ……!」


 激しい音を立てて、聖剣とリヒトの剣がぶつかり合う。


 微塵の手加減もない――レティーツィアを信じて振り下ろされた剣。普通ならば、女の力で耐えられるものではない。


 でも――骨が折れても離すものか!


「う、あ、あぁぁあぁあっ!」


 ビリビリとした重たい衝撃を必死に受け止め、そのまま聖剣を振り抜く。

 キンと甲高い音がして、銀色に光る何かが風を切って宙を舞った。


「――よく押し負けず、耐えた。それでこそ俺の女だ」


 すれ違う瞬間、リヒトが満足げに言う。

 レティーツィアは唇の端を持ち上げた。


 ――誇ろう。これこそ、弛まぬ努力の果てに得たものだ。


 聖なる力など宿っていなくても、これまで生きてきた軌跡が――積み上げてきたものこそが、レティーツィアの剣であり、盾だ。


 これに、勝るものなどあるものか!


 聖剣の折れた切っ先が、煉瓦の床に当たって乾いた音を立てる。

 その音を追いかけるように――聖剣は六色に輝く光となり、そのまま砕け散った。


「きゃあぁっ!」


 マリナの身体から六色の光が溢れ、そのまま霧散する。


 六聖の力が、消えてゆく。


「う、嘘……嘘! 嘘よ! こんな……! いやぁああっ!」


 絶望に満ちた悲鳴が、室内に響き渡った。


「っ……なんて……ことだ……」


 セルヴァがブルブルと身を震わせる。


「よくも聖剣を! 六元素が宿る宝を!」


「――それがどうした」


 リヒトはそんなセルヴァを冷たく見下ろしたまま、剣を腰の鞘に納めた。


「平和のためではなく他国を侵して潰すために使うのならば、それを聖なる物とは認めない」

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