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 その言葉に、ハッとする。レティーツィアは慌てて頬を引き締めた。


(ああ、感動なんてしている場合じゃない……!)


 そうは言ってくれたけれど、実際に世界を混乱に陥れ、自国を揺るがし、民を犠牲にして、リヒトが苦しまないわけはない。


 レティーツィアは知っている。リヒトこそ努力の人だ。その尊き血筋に、王の第一子という生まれに、あぐらをかいたことなど一度もない。常に国のため、民のために自分を磨いてきた。


 レティーツィアが常にリヒトのために在ったように、リヒトもまた常に国の――民のために在った。


 リヒトは、自分が誰よりも幸せにしてみせる。


 そう豪語した――舌の根も乾かぬうちに、自分のために国や民を捨てさせてはいけない。


 今、リヒトのためにできることは――!


「殿下! 聖剣を!」


 レティーツィアが鋭く叫ぶ。

 それに素早く反応したリヒトが、マリナの持つ聖剣に自らの剣を打ち下ろす。


「きゃあっ!」


 その衝撃で、マリナの手からいとも簡単に聖剣が零れ落ちる。

 床とぶつかってガランと音を立てたそれに、レティーツィアは飛びついた。


「痛っ……! な、何を……!」


「わたくしは知っているわ! 封印を解いて聖剣を目覚めさせたからこそ、あなたは六元素の力を手に入れた! 六聖となりえたのよ!」


 マリナは、いい意味でも悪い意味でも――ゲームの設定やシナリオに従って行動していた。ということは、六聖覚醒イベントも、シナリオをほぼ忠実になぞって起こしたはずだ。


 それなら――間違いない。六聖を六聖たらしめているのは、この聖剣だ


「殿下っ!」


 両手でしっかりと持ち、地に足を踏ん張って――リヒトに向かってそれを振りかぶる。

 淑女としてはひどくはしたない――しかし戦士のように勇ましい姿に、リヒトがハッとして手にしていた剣を振り上げた。


「六元素を司る聖剣だろうと、世界に混乱をもたらすのなら、そんなものは必要ないわ!」


 ゲームの設定? シナリオ? そんなものはもう知らない。関係ない。


 この世界が完成してないなんて、何をもってそんなことを言うのか。


 戦争のない世界。


 元素の力が息づく世界。


 世界六国が力を合わせてともに歩む――穏やかで美しい世界。


 これ以上に尊いものが、どこにあると言うのだ。

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