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 努力をし尽くしても、それだけではどうにもならないのが、人の心だ。


 だからこそ、相手に想いを受け入れてもらえるのは――それだけで奇跡だと思う。  


 身体が、心が、魂までもが、歓喜に打ち震える。


「対して、お前ときたらどうだ」


 リヒトがマリナに視線を戻し、一転――冷たく吐き捨てる。


「一度道案内をしただけで、なぜ仲良くなれたと思える? 礼儀に反した振る舞いをしても、なぜ許されると思える? なんの努力もせずに、なぜ好いてもらえると――選んでもらえると思えるんだ」


 金の双眸が、苛烈な怒りに燃え上がる。


「そう定められている? 冗談だろう! そんな都合のいい話があるか! 現実を見ろ!」


「っ……それは……! だって、ここは……!」


「シナリオだと? いったいなんの話だ! そんなご都合主義のシナリオとやらは知らん! そんなもののために、お前はレティーツィアを傷つけたのか!」


 その鮮やかな激情は、彼をさらに輝かせる。自分を真っ直ぐに見据える凶暴な金色の瞳に、マリナが怯えたように身をすくめてあとずさる。レティーツィアは見惚れて、ブルリと身体を震わせた。


 まだ皇太子という立場でありながら、その見る者を圧倒する――支配者たる絶対的な威厳。


 これを目の前にして、口にできることなど何があろうか。


(ああ……!)


 断罪シーンのリヒトだと思う。


 烈しく、美しい――金色の炎。


「だいたい――誰かが敷いたレールをなんの疑問も持たずにただなぞることを、『運命』とは言わん!」


 リヒトが叫ぶ。


 その怒りでもって、一片の容赦もなく、マリナが口にしたすべてを否定する。


「それは、おのが力で切り開くものだ!」


 人生をかけて恋をした輝きに、うっとりと見惚れてしまう。


 焦がれに焦がれた――シュトラールのリヒト


 その眩しさにめまいがしそうだ。


「世界がお前を認めても、俺にお前は必要ない。本当に、俺とお前が結ばれるなどという――あらかじめ定められた道があったのだとしても、関係ない。それでも、俺はレティーツィアを選ぶ。六聖ごときの玩具になる気は毛頭ない」


「ッ……!」

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