23
刹那――心が熱く震える。
レティーツィアは縛られた両手で口もとを覆った。
「……っ……」
胸を突き上げる想いに、言葉が出ない。
記憶が戻る前から、リヒトがすべてだった。
『推し』である前から、『最愛の人』だった。
レティーツィアにとって、リヒトこそが『世界』だった。
だからこそ、常に必死だった。
リヒトとともにあるために。
リヒトを幸せにするために。
(……ああ、リヒト殿下……)
泣いては駄目だ。今は、そんな状況じゃない。
わかっていても、涙が溢れそうになってしまう。嬉しくて、嬉しくて――たまらなくて。
今日まで重ねてきた努力は、一つも無駄になってはいなかった。
それはちゃんと、リヒトに届いていた。
(今なら、わかる……。私もマリナと同じ……。ここがゲームの世界だということに、ひどく囚われてしまっていた……)
マリナと結ばれることこそが、リヒトの幸せなのだと――レティーツィアもまた決めつけてしまっていた。
相手の本質を見定めることも、リヒトの意思を確認することもせず、ただ身を引こうとしてしまっていた。
これまで積み重ねてきたものを、自分で汚してしまうところだった――。
「勘違いしてもらっては困るが、レティーツィアは特別もの覚えがいいわけでも、できがいいわけでもない。今のレティーツィアは、俺のために一心に、持てる力のすべてを使って自分を磨き上げてきたからこそ得られた『結果』だ。努力のたまものだ。それを――」
金色に輝く双眸が、真っ直ぐにレティーツィアを捕らえる。
その視線に愛しさが溢れて――リヒトが優しく微笑んだ。
「可愛く思わない男はいないだろうよ」
「ッ……!」
言葉が出ない。
それは、慈しみに満ちた笑みだった。
蕩けるように、甘い。
魂が抜けるほどに、美しい。
そして――涙が出るほどに、愛しい。
(リヒト殿下……!)
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