18

 だからこそ――マリナは駄目だ。絶対に。

 自分のことしか考えていないマリナに、リヒトを幸せにできるはずがないから。


「あなたでは、リヒト殿下は幸せになれない。だから――わたくしは決して、殿下の妃の座を明け渡したりはしないわ!」


 すべては、リヒトのために。


「リヒト殿下は、わたくしが誰よりも幸せにしてみせる!」


 それこそ――レティーツィアの大義。


 世界も六聖も、リヒトに勝るものではない。


「六聖ごときに、邪魔はさせないわ!」


 苛烈な怒りを瞳に宿し、レティーツィアが叫んだ――その時だった。

 ガアンッとすさまじい音が室内に響き渡る。


「ッ……!?」


 セルヴァとノクスがビクッと身を震わせ、身構える。

 レティーツィアとマリナもまた息を呑み、視線を巡らせた。


 さらに、音が続く。二度。三度。


「ドアが……!?」


 誰かが、ドアを破ろうとしている――!?


 ノクスがセルヴァを背に庇って臨戦態勢に入ったのと同時に、ドアが蹴破られる。

 外へと繋がるドアが、さらに激しい物音を立てて、内側に倒れた。


「ッ……!」


 瞬間、心臓が歓喜に震える。


「――まったく。お前はかっこいいな」


 黒いインバネスコートを翻し――白銀に輝く剣を手にした最愛の人が言う。


 レティーツィアを映した金色の瞳が、甘やかに煌めいた。


「さすがは、俺の女だ。――誉めてやろう」




          ―*◆*―




「リヒト……! どうしてここに……!」


 呆然とした様子で、セルヴァが呟く。


「どうして?」


 ヒュンと音を立てて剣を露払いし、リヒトが眉を寄せる。


「俺の女を攫っておいて、『どうして』だと? 頭は大丈夫か? セルヴァ」


「っ……!」

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