15

 理性ではわかっているのに――怒りで身体が震える。


「ああ、よかった。セルヴァさまに、リヒトさまとあなたを引き離すようお願いして。世界を狂わせても平気な人が、リヒトさまの傍にいるなんて……ゾッとする」


 マリナが、まるで汚いものを見るような目でレティーツィアをねめつけ――吐き捨てる。


「リヒトさまと私が幸せになるルートが『正しい』んですから、もう邪魔しないでください。


「ッ……!」


 刹那――頭の中が真っ白に染まる。


 お前が、それを語るな!


 プツンと何かが切れたような音を、耳にした気がする。

 レティーツィアは縛られた両手を振り上げ、渾身の力でマリナの手を払った。


「っ……!?」


 マリナが驚いたように目を見開く。

 レティーツィアは苦労しながら立ち上がって、激しくマリナをねめつけた。


「ゾッとする――ですって? それはわたくしの台詞だわ」


 もう、表面上ですら、平静を保ってはいられなかった。

 冷静さを欠くのは自分の首を絞めるだけだとわかっていても、止まらない。


 感情が――爆発する。


「あなた、自分が何を言っているのか、本当にわかっているの!? リヒト殿下を!? 殿下の意思を無視して、よくもそんなことが言えるわね!」


 身の内を焼く怒りに、自分で自分をコントロールできない。

 わなわなと全身を震わせながら、さらに叫ぶ。


「殿下の幸せのためですって!? ご本人の意思も確認せず、同意も得ず、将来を勝手に決めて、そんな横暴――許されると思って!? それは立派な暴力だわ!」


「は? 何を言ってるんですか? 私は六聖ですよ? この世で最上の存在の伴侶となれるんですよ? この世界では、それ以上に喜ばしいことなんてないでしょう?」


 激昂するレティーツィアを小馬鹿にするように嗤って、マリナが自分の胸を叩く。


「だってこの世界は、主人公わたしのためにあるんですから」


「だったらどうして、真っ向から勝負しないの?」


 そんな言葉に惑わされたりはしない。


 本当に、心からそう思っているのだとしたら――こんな真似は逆にしないだろう。


「リヒト殿下に、『六聖として、あなたを伴侶に選びます』と言えばよかったのではなくて?こんな小細工などせず」


「っ……」


 マリナがグッと言葉を詰まらせる。

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